「ここもすごいでっかい建物だなぁ!」
「騎士団の本部だからな。大聖堂にも引けを取らないだろう? 大きさだとあっちの方が上だろうが、お飾りの部分が多いからな。こっちは実用性重視の無骨な造りだが、機能性ならこっちのが上だ」
騎士団本部は石造りの堅牢な大きな建物で、見える部分では広く三階まであり、高い物見台も併設されている。ガイアの言うとおり実用性重視の無骨な造りではあるものの、周囲には花壇や植木もあって市民に馴染みやすいような工夫もされている。……まぁ今は竜巻の被害で植木は荒らされていてガラスなどもあちこちに散乱しているから、その美麗さは発揮されていないけど。それでも、窓ガラス意外に目立った被害が見えないのは流石の堅牢さと言える。城塞都市の中の要塞だ。
重厚な両開きの入り口の両脇には、騎士団のシンボルであろう鷹の彫刻が掲げられている。同じく両脇には鷹のマークを金色であしらった赤い垂れ幕があり、ここが権威ある騎士団であることを一目で理解させるものとなっている。ただ、モンドの気風の表れか、そこまで威圧的な印象は受けない。
「ほら、入るぞ。目的の部屋は入ってすぐだ」
建物内部もデザインはかなりシンプルだ。白とグレーのチェックの床に、白を基調とした壁。絵画や花瓶といった調度品も少なく、機能美を追求しているようだ。エントランスの床の中心に大きく描かれているマークは騎士団の証で、翼を広げたような模様が合わさり盾のような形になっており、それを一対の剣が交差するように貫いている。
見ると壁に飾られた豪奢な盾や剣にも同様のマークが施されているし、そういえばアンバーの肩やお腹にあるマークもとても似たようなものだ。入り口のところにあった鷹ともどことなく類似しているようにも思えるし、ここの騎士団らしさを象徴している感じなんだろう。
「代理団長様、連れてきたぞ」
「ちょ、おい! ノックもしないでいいのかよ! おまえの上司なんだろ!?」
「気にしないで……ガイア先輩はいつもこんなだから……」
「怖い物知らずだな……」
仕方なくアンバーと一緒に開けられた部屋の中に入る。中では二人の女性が神妙な顔をして話し合っていた。気まずい……。お取り込み中失礼します……うちのガイア先輩がすみません……という気持ちになる。
「この二人が、今回風魔龍の撃退に成功した功労者の旅人だ」
「なるほど。モンドへようこそ、風と共に訪れし旅人よ。私は代理団長のジン。そしてこちらはリサ、騎士団の図書館司書だ」
……まさかアンバーから聞いていた「ジンさん」が女性の方だとは思っていませんでした。
ジンさんは色白の長身の女性で、肩にかかるくらいの長さの金髪を黒いリボンで高い位置にポニーテールに結んでいる。耳につけた金の十字のピアスが時折きらりと光っている。
ぴっちりとした身体のラインが出る白いスーツを着ていて、腹部にはアンバー同様に騎士団のマークが金であしらわれている。大きな襟付きの、肩甲骨あたりまでの長さのマントを着用していることもあり、公務用の服であることが理解できる。側面に菱形模様のある白いタイツに白いロングブーツを履いていて、全体的に清楚な雰囲気だ。
アンバーやガイアと違って胸元もちゃんと隠している服だが、スーツの内に着ている黒いシャツは大きく自己主張しており、肌色がないだけマシだけどもかなり危ない。ぴっちりとした服にタイツという服なこともあって、肌の露出がほとんどないにもかかわらずかなり扇情的な印象を受ける。
「あら、人手不足を手伝いに来た良い子ちゃんかしら? かわいいわね。ただ、タイミングがあまり良くないわ……。風魔龍が目覚めてからずっと、このモンド周辺をうろついていて、ここ一帯に大きな混乱をもたらしているの」
そしてこの人がリサさん……。なんというか――凄い格好してるな。
ジンさん同様に色白で長身の女性で、紫色の大きな魔女の帽子を被っているのが特徴。ウェーブのかかった明るい茶髪で、紫のバラの髪留めでゆるいサイドポニーにしている。
紫を基調とした身体のラインが出るドレスで、両脇には腰ほどまで大胆に開けられたスリットが入っている。ジンさんと同じく豊満なバストで、かつモンドで出会った誰よりも胸元が開いているから、見る人の視線を一身に集めている。……私の服装もこの人のことをとやかく言えないようなデザインをしているな。ドレスの腹部にはアンバーやジンさんと同じような模様が入っているけど、特徴的なのは右腰に着けている同じく金色の大きなバラのアクセサリー。
胸元には大きな紫の宝石をはめ込んだネックレス、手には黒い手袋、脚には黒レースのストッキングでハイヒールの靴――。うん。ジンさんが清楚なお姉さんならば、リサさんはえっちなお姉さんだ、間違いない。初対面の私のことを「良い子ちゃん」と呼んでくるし、多分何人もの純粋な人たちをたらし込んできたのだろう……罪な人だ。
「おまけに今のモンドは、元素の流れと地脈の循環が、子猫ちゃんが遊んだ後の毛糸玉みたいになっていてね。魔法使いにとっては最悪な状況よ……肌も気分も調子悪いわ……」
「それがなければ、尋ね人の張り紙を出すよりも、騎士団がもっと効率のいい方法で君たちを助けられるのだが」
「気にしないで。個人的な問題だし、自分でなんとかするから」
それよりも今は二人のキャラクターが強すぎて調子を崩されてる方が問題かも……。リサさんとジンさんは本当に真逆と言っていいほど性格が違うから、どっちに合わせて話すか決めるのが難しい。リサさんは人たらしで、ジンさんは真面目タイプだから……。
「そういうわけにもいかない。もうしばらくモンドに留まっていてくれ。
「探している人がモンドにいるとは限らないし、地道に自分たちで色々探し回った方が早いから」
「そうそう。……ってあれ、オイラたち、ジン団長にお兄さんを探してるってこと話したっけ?」
「『代理団長がお前たちに興味がある』って話をしただろ? それに、昨日の偵察騎士からの報告書で俺たちは事前にお前たちのことを知っていたのさ」
「あぁなるほど――って情報が早いぞ!」
「ふふ、情報は時に何者にも勝る武器になるからね。騎士団が報告書の作成を徹底しているのもそのためよ精霊ちゃん」
風魔龍を撃退した後、すぐにガイアのような人が私たちに接触してきて、とても自然な流れで騎士団のトップの人と会うことになった時点で、ある程度予想はできていたことだ。――やっぱり改めて口に出されると怖いものはあるけど、街の治安維持を一手に引き受ける騎士団ならこのくらいは当然なんだろうと受け入れることにした。そうでないとこういった身分や立場のある人と付き合っていくことはできない。
「――ただ、風魔龍の件は別。もう関わってしまったし、騎士団に丸投げするわけにはいかない」
「そうそう! オイラも手伝うぞ!」
「いやしかし、モンドに来たばかりの旅人にそこまでしてもらうわけには……」
「ありがたい申し出じゃない。ぜひお願いしたいわ」
「じゃあ、作戦を練るとするか」
本心から風魔龍の件を解決したい、平和な街に早く戻ってほしいという思いから。また、どうせ騎士団にこの件を丸投げしても騎士団からのマークが外れることはないだろうし、普通に生活しているところを見張られる方が余程嫌だからいっそのこと自分から騎士団の側にいてしまえ、という考えからの申し出だったんだけど――もしかしてジンさんは私たちのことを不審に思っていない? まさか?
ガイアは絶対に不審に思っているし、それが正しい反応のはず。リサさんは……分からない。もしかしたら怪しい人物だと思っているのかもしれないし、単純にしんどいから人手がほしいだけなのかもしれない。アンバーは真剣な表情で黙っているから分からないけど、疑いは払拭できた――と信じている。けれど、今のジンさんの反応は……?
「風魔龍がモンドに攻めてきたことで、逆に災いを終結させるきっかけを与えてくれた」
ジンさんの号令のもと、部屋に集まっている私たち5人は、部屋――ジンさんの執務室? にある机を取り囲むように立って対策の話し合いが始まった。机の上には大きな地図が広げられていて、冒険者協会でキャサリンにもらったものとほぼ同じ、モンド全域を示す地図のようだ。そこには赤や黒のペンでいくつも書き込みがしてあり、部外者の私たちが見ていいものなのか不安にさせられる。――というか多分普通に部外秘の情報だと思う。あとで口封じされないか普通に心配。
どうして誰も言ってあげないんだろう? そして本当にジンさんが私たちのことを善意の第三者だと考えている説が濃厚になってきたな……私が言う立場じゃないと思うけど、それでいいのか騎士団。
「――それとリサの魔法で探査したところ、モンドを包む暴風の源が分かったんだ」
「ほぅ? どこなんだ……?」
「放棄された『四風守護』の神殿よ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今モンドって、暴風に包まれてるのか!?」
あ、パイモンナイス。騎士団の真面目な話し合いを遮る勇気はなかったから質問しなかったけど、それは私も気になった。
「ええ。空を見上げると青空だけど、でも今も曇りのように薄暗いでしょう? モンド城が大きな暴風の渦に包まれているからなの。大きな竜巻の中に入っていると思ってちょうだい。今は少し風が強い程度だけど……いつこの暴風の範囲が狭くなって甚大な被害を出すようになるか分からないわ」
「逆に、モンド城から出ると天気は平常のはずだ。これは風魔龍の魔法であり、安定してこれほどの暴風を維持できているのはどこかにエネルギー源があるからだと考えてリサに探査を頼んだんだ」
「なるほどな……これも情報の速さってやつか。もうそこまで対策できてるなんて……」
リサさんの「情報は時に何者にも勝る武器になる」という言葉をより実感する。ここまでスピーディーに対策できるのであれば、被害を最小限に抑えられるだろう。それにこれが対人であれば、相手に対策される前に仕掛けることだって出来る。
これはやはり騎士団という組織、人数の力か……。1人――いやパイモンとの2人行動の限界を思い知らされているような気がする。私が仮にメインで風魔龍の対策をすることになったとして、こんなに早く原因の究明やその対策を練るなどを出来るとは思えない。
「さて、すまない。暴風の源が四風守護の神殿だという話だったな」
「え、あぁごめん……話をさえぎっちゃって……」
「問題ないわ。――風魔龍がこの暴風を引き起こせているのは、神殿に残った力のせいなの」
「私たちの目標は、放棄された4つの神殿のうち、この3つだ」
そう言って、ジンさんは地図の3点を順に指さしていく。それぞれ赤い字で「鷹の神殿」「狼の神殿」「獅子の神殿」と書かれており、何が祀られていたのか瞭然な名前となっている。
「3つだけの理由については……みんなも分かっていると思うが」
「分からないんだけど……」
さっきので反省したのか、今度は私に耳打ちしてきた。もちろんこそっと聞かれても私だって分からない。「モンド人だけが分かる暗黙の了解かもしれないから、あとでまた誰かに聞こう」と私もまた小さな声で返す。特別重要な情報でもないんだろうし、今もジンさんの説明は続いているから途切れさせるのもやっぱりためらわれる。
「――
「おう」「ええ」「はいっ!」
「んぇっ、あ、今団長の呼びかけに応えるタイミングだったのか」
「気にしなくていいと思うよ」
だって私たち
もちろん蚊帳の外な感じがするのは少し寂しいけど、私たちはあくまで協力する部外者なんだから仕方ない。
西風騎士団:モンドの秩序とモンドの「自由」を守る組織。騎士だと言われているが、誰かに命じられたわけではない――高い責任を背負っている西風騎士団は自慢できる肩書きである。