「お、おーいアンバー……一緒に神殿に行かないか~?」
「わたしと組むの? 先に言っておくけど、初心者に合わせてペースを落とすようなことはしないよ?」
今日はいつにも増してパイモンがベストな行動しかしない。神殿の場所は地図で見ただけだと分からないから騎士団の誰かと一緒に行くことになるんだけど、ここは正直アンバー一択しかない。年の近い女の子で、昨日から一緒で、素直な良い子だから。
逆に今日初めて会った人と行くのは、私が怪しい人物として見張られていることもあってなるべく遠慮したいところ。アンバーが優しい子なのは知ってるし、もし本当に仕事に関しては厳しかったとしてもペアを組む人選として大正解だ。
「ほう、そうだな。旅人はまずアンバーと一緒に行くといい。ここから一番近い『鷹の神殿』ならば今日中に仕事を終わらせられるかもしれないな」
「おう、分かったぜ! ……ん? 『まずは』?」
「聞き間違いじゃないぜ。明日は俺と組もうじゃないか。
「いや、私たちは別に――」
「あら、じゃあわたくしとは明日の午後に付き合ってもらおうかしら?」
「えっ! リサさんも!?」
「不満かしら」
「いやいやそんなことないぞ!」
――やっぱりリサさんも怪しんでいる説が濃厚だ。まぁ半ばそうだろうと考えていたし、大きな支障にはならないんだけども。それにしても厄介そうな人たちに目をつけられたなぁ……。ジンさんの素直さ具合に困惑していたけど、部下の人たちが優秀だから問題なく組織が機能しているんだろう。やっぱりトップは「この人に付いていきたい」「この人を支えたい」と思える人がいいからね。
そんなジンさんは――
「私たちの誘いを受け入れてくれたことを感謝する、旅人」
――あまりに人を疑わなさすぎる。まっすぐな目で見つめてくる。
「もちろんです。というか、私たちの方から願い出たことですし」
「ありがたい。風魔龍の体や力の異変に関しておかしな点がたくさんあるが、しかし騎士団にとって、今回の襲撃による余波を落ち着かせることが最優先だ。団長から騎士団を預かっている身として、私は団長、そしてモンドの人々の期待を裏切ることはできない」
そういえば「代理」団長なのかこの人は。
この短い時間のやりとりだけで解る。ジンさんは非常にまっすぐで、正義を体現していて、そのための努力を惜しまない人だ。私も善人ではありたいと思っているけど――ここまで高潔な人にはなれないなぁ。
「君は風の元素力を扱えると聞いている。外部の人間に協力を願い出る身で申し訳ないが、本当に希少な戦力だ。ぜひその力で騎士団のサポートをしてやってほしい」
「元素力――」
「ほら蛍、早く行くよ! 早く出発しないと日が暮れちゃう!」
「あ、おい待てって――」
考えている内にアンバーが先に部屋から出て行ってしまった。パイモンも後に続いて行ったから、見失うとひとりぼっちになってしまう。――いや、ひとりぼっちならまだいい。リサさんやガイアと二人になる方が個人的には身の危険を感じる。
「すみません、私ももう出ますね」
「アンバーが君のことで誤解したと聞いた。彼女は騎士としての責任を果たそうとしただけだ、どうか許してほしい」
「はいもちろん……?」
むしろ騎士団としての見解は、今のところ誤解ではない方で固まりつつありますよ? とは流石に言えないけども……。
「今回の仕事であんなに張り切っているのも、きっと挽回して君たちにかっこいい騎士の姿を見せたいと考えている現れだろう。決して悪い子じゃないんだ。時間があったらアンバーと話してみるといい。彼女から元気をもらえるぞ」
「ええ、それはもう」
実はこの1時間くらいでかなり精神的に消耗してしまった。それもあなたの部下とのやりとりで――だなんて口が裂けても言えないけれど、そんな中アンバーは貴重な癒やし枠だ。明日もかなりハードな一日になりそうだから、今日のうちに元気をもらっておかないと。
「あっ、やっと出てきた!」
「遅いよ! もうちょっとで出発するところだった」
騎士団本部を出ると、入り口近くでアンバーとパイモンが待ってくれていた。
あちこちと探して回る羽目にならずにすんだ……ありがたい。
――さっきの話を聞いてから周囲を見渡すと、確かにモンド城の城壁の外をぐるりと囲うように暴風の壁ができていた。竜巻などと同じ厚い風の塊だから、本来は見えるであろう城壁向こうの景色が見えなくなっている。高い城壁よりもさらに高いから、圧迫感も大きい。
確かに今は風の強い日、くらいの印象だけど、この暴風がいつ城内の街に牙をむくか分からないから対策は早くしたいな……。いつ大事に発展するか分からない漠然とした大きな不安が一番精神衛生上良くない。
「さっきまでと違って、街の人たちが随分いないな……」
「危ないから、騎士団が建物の中に避難するように呼びかけているからね。自分の家とか、大聖堂のような大きな建物に」
「なるほどな! それもそうか」
「あの龍はいつ戻ってもおかしくありません!」
「異常気象です! 外は危険ですので、安全な場所に避難してください!」
「
――アンバーの言う通り、モンド城を出るまでに何人もの騎士とすれ違って、その全員がこのように叫んで回っていた。この広い都市でなるべく人的被害を出さないための人海戦術。これもまた、騎士団だから可能なことだ。
「
「もちろん! 街の人々の安全を守ってこその騎士団でしょ? こういう時こそわたしたちが踏ん張らなくちゃ」
騎士団の一員としてのアンバーはとても輝いていて、自身の所属する組織のことをとても誇らしく思っているみたい。緊急事態ながらその目からは輝きがまだ失われていない。そういえば、昨日モンドに着いたばかりの頃も、ジンさんのことをとても信頼しているようだった。
――旅人になって久しく、帰属意識が私は薄いから少し羨ましいかも。旅先で出会ったある特定の人のことを信頼するとかはもちろんある。
入るときに利用した唯一(?)の大きな城門をくぐり、小島のモンド城と本土とをつなぐ石橋を渡りきる頃には、もう暴風の範囲から外れて、午前中のような穏やかな天気に戻っていた。日差しは暖かく、風も穏やかで、何も不安なんてないかのような安心できる気候に。
「神殿はここからそう離れてないの。だから早めに着くとは思うけど、中に入った後気をつけてね」
「入った後? あ、ヒルチャールがいるかもってことか?」
「それもあるけどね。実は残りの2つもそうなんだけど、これから行く『鷹の神殿』って『秘境』でね。2人は今まで『秘境』に入ったことある?」
「秘境――まだ誰にも知られてないような秘密の場所、みたいなこと? でもそれだと神殿にはならないか……」
「そう。この世界にはいくつか『秘境』って呼ばれる場所があってね。正確な定義は忘れちゃったんだけど……確か、『この世界とは隔絶した場所』だったかな」
『この世界とは隔絶した場所』? それって相当ヤバい場所なのでは……?
だってその中で遭難したら、絶対に誰にも見つけてもらえないのでは。
「秘境にはいくつか共通した特徴があるみたいでね。わたしもリサさんにいくつか教えてもらっただけなんだけど――えっと、『入り口は1つだけど、出口はいくつもある場合もある』『様々な条件により、内部の構造が変化している場合もある』『入り口はワープゲートのようになっていて、昔の人が門の形に建て直したものもある』……とかだったかな」
「おい! 全部『こんな場合もある』とかそんなのばっかりじゃないか!」
「ごめんごめん――秘境ってまだまだ謎に包まれてて、学者の人たちでもまだよく分かってないことが多いらしいの」
まとめると――『鷹の神殿』は「秘境」であり、この世界とは隔絶した場所なので特定の入り口からしか入れない。出口は複数あるかもしれないけど、入り口はそこの一箇所だけ。神殿として信仰されていたから、昔の人によって門の形になっていて判りやすい。今回は風魔龍が暴風を起こす源にしているという異常事態だから、内部の構造が平時とは違う可能性がある。――こんなところか。
……いや、相当危険じゃない? 私とアンバーと、あとパイモンと。たかだか3人で行くような場所じゃなくて、もっと大勢の部隊のようなものを編成して攻略すべきでは?
「ねぇアンバー。こんなに少人数で行ってもいいの? 他の人に協力してもらったりとかは……」
「うーんと……今は色々事情があってね……。まず、大団長が大勢の
「へぇ……あ! それでジン団長は『代理団長』ってことなのか!」
「パイモンちゃん正解。それに、さっきも言ったけど秘境は危険でね……少なくともモンドでは、元素力を使える人しか入っちゃダメっていう決まりがあるの」
「えぇっ! お、オイラ元素の力なんて使えないぞ……!」
「パイモンちゃんは特別。蛍とセットだろうし、自由に飛ぶことだって出来るしね」
実は私、元素の力を使えるようになったのは本当に最近で、全然元素初心者なんだけど……不安にさせるようなことは言わないでおこう。それだけ私の実力を買ってくれているってことだし。アンバーも、私の同行を許可してくれたジンさんも。
「――あ、話しているうちに着いたよ! 見えるかな……遠くに見える大きな門。あれが、『鷹の神殿』の入り口だよ!」
秘境の入り口は、話に聞いていた通り大きな石造りの門だった。高さは5メートルは優に超えていて、かなり立派に造られているのでちょっとやそっとじゃ壊せないようになっている。門の上部には菱形の飾りがあり、その中には一筆書きした花のような模様が大きく描かれている――何か意味のあるマークなんだろうか。
扉の部分は閉ざされていて、金の縁取りがされている。中央には複雑な形状をしたピラミッド型のマークが大きく彫られている。それぞれのマークは淡い水色に発光していて――いや、近づいたら判ったけども、石であるはずの秘境の門全体が水色の光をうっすらと放っている。一目で特殊な場所だと理解できるな……。
「な、なんか威圧感があるな」
「神殿で、信仰の対象でもあったからね。でも、この神殿が放棄されたのは何年も前でね。今ではモンドの人でも滅多にここには来ないの。だから、さっきも言ったとおり、中は獣やヒルチャールの巣窟になってるかもしれないね」
「お、オイラは覚悟を決めたぞ! スライムでもヒルチャールでも、どんと来いだ!」
「ふふ、やる気満々だね」
――ほほえましいはずの会話だけど……アンバーがちょっと浮かない顔をしてるのが気になるな。まだ夕方と言うには早いけど、やっぱり時間のことを気にしてるんだろうか。終わったら絶対に報告書を書くという仕事が発生するみたいだし、気は進まないのかも。
「何か気になることがあるの?」
「え、あ、ううん! なんでもないの。ただ、風魔龍ですら自分の神殿を捨てたほどだけど、こんな放置されたような神殿だと、信仰も薄れちゃうから仕方ないのかなって……」
「風魔龍の神殿……?」
「あっ……えっと、実はね……。わたしもショックなんだけど、風魔龍はかつて『四風守護』の1つとして数えられていたの」
「えっ?」
「昔はモンドを守っていた存在が、今はモンドを襲う側になっているってこと?」
「そうみたいなの」
それは……確かに悩ましい存在かも。だって神殿が用意されていたくらいには、少なくとも昔は人々に信仰されていて、良好な関係を築けていたはずだもの。
そんな存在が今モンドを襲っているという事実も、最悪戦って殺さないといけないかもという状況も、決して好ましいものじゃないはず。というか、部外者の私たちはともかく、モンド人であるアンバーやジンさんたちはより申告にこの事態を重く受け止めているに違いない……。
「この話は一旦ここで終わり! さあ、中に入ってみよう、2人とも。気をつけて、風魔龍の力が影響を及ぼしているはずだから」
「お、オイラやっぱりもうちょっと待ってほしいかも……」
「モンドの人々はまだ風災で困っている……1秒たりとも待たせたくないの」
「そ、そ~だな! うん! やっぱりオイラ、さっき覚悟を決めたはずだったぞ!」
「大丈夫? もし怖いなら外で待っててくれてもいいんだよ」
「そっちの方が怖いぞ! 外で一人で待ってる間に襲われたらどうするんだ! オイラを1人にしないでくれよ……」
鷹の神殿に入る:風魔龍による災いを止めるために、騎士団メンバーは各地で行動を展開した。偵察騎士アンバーと共に西風の鷹の神殿に行き、風魔龍が神殿の力を獲得することを阻止せよ。