原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:アンバーと鷹の神殿を攻略した翌日、蛍たちはガイアと共に狼の神殿の攻略をすることに。集合場所に向かう途中、植物学者のクロリスとも出会った。


騎士の現場教習II

 神殿――秘境の中は、まるで夜のように薄暗い。外の世界とは隔絶した場所だからか、天気はおろか時間の感覚まで違うみたいだ。

 崩れているところも多々あるけれど、全体的に『鷹の神殿』よりもしっかりと建物の形が残っている印象。3階――4階分くらいある建物もちらほら見える。けど材質は同じ質感の石だし文様の雰囲気も似通ったものではある。

 

 「もうすぐ、初めての共同作戦だ。俺とお前……いいコンビになれるといいな?」

 

 秘境初心者らしくきょろきょろと見回していたらこんな声かけが。……悪い人じゃない、でいいんだよね? ガイアのことは本当に分からないな……。とりあえずうなずき返しはしておいた。別に角を立てたいわけでもないし。

 

 「俺の推測が正しければ、神殿の突き当たりはそこだ」

 

 秘境に入ってすぐの門をくぐった直後、遠くに見える高い建物を指さしてガイアはそう言い出した。ちなみに鷹の神殿同様、目に見える建物は全て土台から浮いているし、きっと今立っている場所もそう。そしてガイアが指さしたのは3階分くらいの高さの建物だけど、ここからよく見えるのは根元が見えるくらい高いところに浮いているから。

 

 「なんでわかるんだ?」

 「経験だ。……長年、『後片付け』をしてきた経験だよ」

 「ふーん……」

 

 ガイアは時々こういう意味深な、私たちに意味を正しく伝える気のないことを言うから苦手だ。モヤモヤする。「お前たちは知る必要のない情報だ」とでも言いたいのかもしれないけど、なら意味深なことすら言わずに黙っていてほしい。

 

 「――下の部屋にはヒルチャールが何体かいるな」

 「いち、にい……5体だ。多いな」

 「さてと、俺が騎士団の戦い方を見せてやるぜ」

 

 そう言うなりガイアは飛び降りてヒルチャールの群れに飛び込んでいった。「わ、私も手伝う!」と言って私も加勢したけど、4体のヒルチャールは素早くガイアによって倒され、私はその手柄を横取りしたような形になった。

 ――ガイアは剣だけでなく氷を生成して戦う戦闘スタイルだけど、あまりに便利に、そして的確に攻撃や防御をするから鮮やかとしか表現しようのない立ち回りだった。目の前の敵に集中していたからあまりよく見えていなかったけど、死角からの攻撃は氷の壁を作って防いでいたような……?

 

 「進むぞ」

 

 くそう……中々強くてかっこいいじゃないか。私が活躍する機会が一切無いくらいには。

 

 

 

 「うわ、なんだこれ!」

 「炎を噴出する機械……?」

 

 道中、道を塞ぐように炎の柱がいくつもあり、私たちの行く手を阻んでいた。その炎は道の端に置かれた丸っこい機械のようで、機械の口が開いて噴出していた。

 とはいえあくまで炎の柱。頑張れば飛び越せるくらいの高さではあるし、炎の上じゃなく機械の上を通れば――。

 

 「おいおいやめとけ。そいつは『噴火装置』ってやつで、金属だから当然触ったら火傷するぞ?」

 「――ですよね」

 「こういうのは装置内部にあるコアを冷やしてやればいいんだよ。こういう風に、な」

 

 こぶし大の氷の塊を作り、機械の隙間から器用に中にぶつけることでダウンさせる。氷塊を発射するやり方だから、遠くの装置までわざわざ近づかずとも簡単に停止させていく。

 

 「こんなもので俺たちを止められると思っているのかね。――行くぞ」

 

 

 

 「この秘境はなんか水辺が多いよな――ほらまた」

 「足下が濡れるくらいの深さしかないし、何でなんだろうね。泳げない人を溺れさせるようなものでもなさそうだし」

 「待て」

 「え?」

 「その水路をよく見ろ」

 

 ……覗いてみると、鋭いトゲが床一面ところ狭しと敷き詰められていて、一歩でも踏み出したら最後、足裏は使い物にならないくらい深刻なダメージを受けるようになるトラップだった。少し水面がさざ波立つだけで簡単にトゲは見えなくなるし、そもそもかなり意識していないと見えてもいなかっただろう……。のんきな私たちと違ってガイアの注意力には本当に助けられている。

 ――というかここまで何の変哲も無い水路をいくつも用意してからこれ? 悪意が高すぎない?

 

 「ひえっ――おっかないなぁ!」

 「ここからの水路は全て水面を凍らせて、その上を歩く。お前たち……旅人は俺の後ろを付いてくるんだ。いいな?」

 

 

 

 「――ここまでの仕掛けも魔物も、全部ガイア1人いれば十分じゃない!?」

 「ど、どうしたよ急に……」

 

 ガイアの氷スキルが便利すぎる――というか、それがなければ先に進めないところがあった。けれど、私の力がないと厳しい場面なんて1つもなかった。ガイアの力で私はこの短時間で何度も助けられた。けれど、空を自由に飛べるパイモンはガイアが助けずとも何の支障もなくここまでやって来れた。

 ――私、この秘境において本当に足を引っ張ってるお荷物なのでは……?

 

 「ふむ……何か悩んでいるようだな。俺にはよく分からないが、恐らく次が最後の部屋だ」

 「気にすんなって。オイラだってコイツとそれなりに長いこと一緒にいるけど、完全に理解し合えてなんかないからな。それよりも――もう最後の部屋なのか」

 「『やっと』最後の部屋と言った方が正しいかもな。……この秘境は風魔龍の影響を受けているからか訪問者への悪意が見える。きっと最後の部屋も悪質なものだろう。気を引き締めろよ?」

 

 下から吹き上げる突風――「風域」に乗って上の階へ。風の翼でまさか真上に上がることができるとは思ってなかったけど、それ以上にガイアにただ付いていくだけの現状に不甲斐なさを感じる方が強い。

 きっとこの風域がなかったとしてもパイモンは問題なく上に飛んで行けるし、ガイアも氷で足場を作って上がることが出来るんだろうなとか、そういった益体もないことばかり考えてしまう。

 

 「まったく、いつまでしょぼくれてんだよ!」

 「その通りだ――見ろ。『噴火装置』が多数設置されている部屋に炎スライムが何体も。あいつらは炎でダメージを受けないし順当な配置だな」

 「感心してる場合か! おい! 回転してる装置もあるぞ!」

 「落下の心配がほとんどないとはいえ、大怪我に繋がりかねないな。――旅人、俺は装置の機能を一時停止させることに専念する。お前はスライムたちを倒していってくれ」

 

 それがガイアのお願いなら……。

 正直、ガイア1人でどうとでもしてしまえるんじゃないかとも思ってしまうけど、それは一旦頭の片隅にしまっておく。仮に慈悲だったとしても、せっかく活躍する機会をくれたんだ。しっかり応えないと――!

 

 

 

 「や、やっと終わった……」

 「ん、ご苦労さん。装置が再起動する前にさっさと先に進もうぜ。スライムがみんな消えたことで扉も開いたしな」

 

 ――スライムは元素生命体。元素生命体だから、濃縮された元素エネルギーが体の大部分を占め、そこの元素濃度が高いほどより多くの強いスライムが発生しやすい。いつか誰かにそういった話を聞いた気がする。誰かというか、恐らくパイモンにだろうけど。

 この部屋はずっと噴火装置が作動していたからか炎の元素濃度が非常に高く、風元素の力で外に散らしたりガイアの氷元素の力で相殺してもらったりしながら戦ったけども……倒しても倒してもキリがなかった。炎スライムは倒した際にその身を爆散させて炎元素をまき散らす性質がある。そのこともあって、無限に湧くんじゃないかと考えてしまうほどの激戦となってしまった。

 

 「良い動きするじゃないか、まさか有能な戦士だったとはな。さっきの戦いは勉強になったぜ」

 「褒めすぎだよ……」

 

 こっちはこの数時間でかなり自信をなくしてしまったというのに……。

 

 「はははっ、騎士の『謙虚さ』も兼ね備えてるとはな! この神殿でのことは気にするな。たまたま俺と相性が良すぎただけさ」

 「そうそう、もっとこいつの自己肯定感を戻してやってくれ。じゃないと、午後からのリサさんとの秘境が不安でしょうがないぞ……」

 「お前がモンドを救う雄姿、きっと自由の都の新たな伝説になる。俺は騎士団本部にいるから、暇な時いつでも来てくれ。そうだ……いい酒場を知ってるから、そこでもいいぞ?」

 「もういいもういいもういい」

 

 やめて。逆に居たたまれなくなる。確かアンバーから「騎兵隊長」って紹介されたような気もするし、そんな公的身分の高い人にこんなに気を遣われて持ち上げられても困るばかりだ。

 ……いやまぁ、意外とノリがいい性格なんだとか、ここまでずっと警戒し続けたり胡散臭いとか考えてたりして申し訳ないなとか、そういう気持ちにはなったけど。すごいいい人じゃん。

 

 「――お、あったな。あれか、『風龍水晶』」

 「『風龍水晶』? なんだそのかっこいい名前のやつは……って、あの石か」

 「そうだ。名前があった方が理解しやすいということに、昨日なってな」

 「誰が考えた名前だ? そいつはセンスあるぞ!」

 「ははっ――秘密だ」

 

 ガイアが提案したのに1票。本命ガイア、対抗ジン団長、大穴アンバーかな。そういった話し合いの場に、なんとなくリサさんは参加してなさそう。仮に参加してても「何でもいいわよ」とか言いながら一歩引いた位置にいそう。

 

 「風魔龍は、それで力を吸い寄せてるのか?」

 「可能性はある。早速破壊するぞ」

 

 昨日と同じく、いとも簡単に壊れる「風龍水晶」。石に元素の力が纏っているというよりも、元素の力の塊が石のようになっていると言うべきか。破壊されると光の粒子となってすうっと消えていった。

 きれいなんだけどな。これがモンド城を覆っているあの暴風の源だと考えると素直にきれいだとも思えない。

 

 「少々危ない場面もあったが、何とか収穫はあった、だろ?」

 「風魔龍から遺跡を1つ奪うことに成功したな。風魔流の拠点を奪って、暴風も弱まったはず。順調だな!」

 「ここからは俺の後片付けの時間だ。午後から用があるんだろ? 先に戻っていいぞ。秘境から出る方法は、昨日でもう解っているな?」

 「そっか、じゃあお先!」

 

 

 

 「まぶし……」

 「さっきまで夜みたいなところにいたからな。そういえばまだ昼だったぜ」

 「……まだ今日の予定はこれで半分終わっただけなんだよね。遅刻してもまずいし、少し休憩したらすぐ出発しようか」

 「お、オイラはいいんだけどさ。ほら、その……おまえは、色々と疲れてるだろ? もっと休んでいいんだぜ?」

 

 パイモンがいつも以上に優しく気遣ってくれる。それくらいさっきの私は弱ってたってことだろうか。自覚があるから何とも反応しづらいけど。

 「もし遅刻しちゃっても、オイラがなんとか説明するからさ」ってそれ、あまりやっちゃいけないやつだよパイモン。そもそもガイアとリサさんは同じ職場なんだし今日中に嘘がバレてしまう。実はリサさんも私のことをちゃんと疑っているであろう人だから、そういった悪印象は極力残したくないしね。

 

 「大丈夫だよありがとう。想定よりもかなり楽させてもらったし。――そういえば、ガイアの言ってた『後片付け』って何なんだろうね。もしかしてあの石を破壊した後に何かやるべきことがあったってことかな」

 「ええっ! だ、だとしたらまずいぞ! 昨日オイラたち、壊した後すぐに神殿を出ちゃったぞ……。あ、後でなにしてたかガイアに聞くか?」

 「『他愛のないことさ』とか言ってはぐらかされそう……そして鷹の神殿の方の後片付けも終わらせてそう……」

 「ああ、ありえる……。それとおまえ、ガイアのマネすっごく上手いな!?」




ガイア:ガイア・アルベリヒは、造酒名家「ラグヴィンド」家の養子である。
彼はディルック・ラグヴィンドを「義兄」として呼ばなくなってかなりの時間が経過した。
今のガイアは西風騎士団の騎兵隊隊長、頼れる行動派で、ジンに信頼されている人物である。
そしてこのモンドで何かアクシデントがあると、ガイアはいつでもその後始末をする人である。
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