原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:旅の途中で、不思議な「七天神像」を発見した。パイモンの提案により、蛍はそれを確かめることにした。



異常な力

 「これが『七天神像』……」

 

 近くで見ると、パイモンが「七神をかたどった」と言っていたのがよく理解できた。

 七天神像は大部分が石造りの太いポールのようになっていて、台座の部分だけが金属で装飾されている。金属の波打っているプレートでぐるっと囲んでいる形だけど、正面だけは開いていて、より細かく模様が刻まれている。そして、そのポールの最上部には台座と同じくらいの広さ(直径1メートルくらいの円?)の台座があり、人――いや神をかたどった石像が鎮座している。その台座の周囲を囲むように、金属の輪がいかなる原理でかじっと浮遊している。

 神はやや小柄でローブを目深に被っていて顔を確認することはできない。きっと神の顔を表すのは不敬だという話か、後世に顔立ちが伝わってないかのどちらかだろう。背中からはやや小さめの羽が一対生えており、両手では何やら球状の物体を掲げている。

 

 誰に言われたわけでもないけど、私は導かれるように神像に触れた。

 瞬間、正面の金属装飾の部分が光り、一拍おいて神像全体が淡い緑の光を放ち始めた。

 

 「なんだなんだなんだぁ!?」

 

 光はやがて神像が掲げる玉に集まって、昼でも眩しすぎるくらいに強く発光した。

何が起きているのか全く理解できていないけど、少なくとも害意は感じられないので動かず様子見をする。

 神像の持つ玉から光と同じ淡い緑色のオーブが出て、私の胸に触れると――不思議な力が満ち満ちてきた。思わず身体を確認したけど、身体に変化は全くない。ただ、身体の内側から今までにはなかったタイプのエネルギーが湧いてきてる感覚が鮮明に感じられる。それと同時に、世界に満ちるそれと同じか似たエネルギーの流れも。

 

 「どうだ? この世界の『元素』を感じたか?」

 「『元素』?」

 「どうやら、おまえは神像に触れるだけで『風』の元素力を手に入れられるみたいだな。この世界の人が力を得るには、おまえみたいに簡単じゃないんだぞ……」

 「おかしいよ」

 「『おかしい』は神様にとって失礼だぞ!」

 

 でも、そうとしか言えないし……。まあ、神の恩恵で強くなれたのなら、少なくとも害はないはずだし、いいこと……なのかな?

 

 「あっちの方、でっかい風車が見えるだろ? ここから西へ行くと、自由の都『モンド』に行けるんだ。モンドは『風』の都市で、七神の中で風神を祀ってるんだ。神像から力を得られるおまえなら、そこで神の手がかりを入手できるかもな? それと、モンドには吟遊詩人がたくさんいるから、お兄さんの情報を手に入れられるかもしれないぞ」

 

 こんな遠くからでも風車や教会(?)の姿が見えるくらい大きな都市だし、ひとまずはパイモンの言うとおり情報収集するのが先決か。もし元素の力で体調不良とかになったら、その時に考えよう。

 自由の都か……。こんな時だけども、聞くだけでわくわくするようなキャッチフレーズだ。

 

 「おっ、おまえの中でも方針が決まったみたいだな。この世界の『元素』はおまえの祈りに応えた。いい兆しだとオイラは思うぞ。――よしっ、じゃあ行くか!」

 「いざ、自由の都へ!」

 

 

 

 「モンドに向かうのはいいけど……思ってたよりもスライムが多いね」

 「オイラたちの順調な旅路を邪魔する嫌なやつらだ! とっちめてやろうぜ」

 「んー……そこまでする必要はないと思うけど」

 

 だってスライム、かわいいじゃない? 攻撃の方法も体当たりだけでとても避けやすいし。あのプルプルした身体で跳ねて移動する姿はとても癒やされるし。あのきゅるんとした目はいつまでも見ていられるし。

 正直言って、そんな積極的に倒したい存在じゃないんだけど……。

 

 「それに、スライムってとってもおいしいしな!」

 「ん、んー……」

 「なんだよ! じゃあ今度機会があったらおまえに振る舞ってやるよ。このパイモン様の特製スライム料理を!」

 「……遠慮してもいい?」

 「なんでだ! ダメだぞ!」

 「ダメなの!?」

 

 だってスライムって、かわいいとはいえ魔物じゃない? 魔物を食べるのは流石にちょっと抵抗が……。それとも、パイモンが特殊なんじゃなくて、この世界では魔物を食べるのは普通なのかな。

 早く街に行って食文化について調査したくなってきた。私の精神衛生上、非常に重要なことだ。もしレストランで魔物料理ばかり売っていたらと考えると身震いがする。

 

 「お、ちょうどいいところに炎スライムがいるな。さっそくやっつけようぜ!」

 「はいはい、ちゃんとやりますよ」

 「せっかくだし、さっき手に入れた風元素の力を使ってみないか?」

 

 風元素の力、ねぇ……。

 そうね、確かに使い方とかまだ理解できていないし、いきなりぶっつけ本番で使いこなせるかといったらそんなことはないだろうから、スライムで練習しておくのは正解かも。

 

 「元素の力って、戦闘に使うので合ってるんだよね」

 「もちろんバトル以外にも色々と便利に使えるだろうけど、旅人であるおまえにとっては、バトルに使うのが一番多いんじゃないか?」

 「それもそうか」

 

 

 

 ということで戦闘開始。ターゲットは木の下で休んでいる炎スライム1匹。

 

 まずは相手に気づかれる前に素早く近づいて自分の間合いに敵を入れる。炎スライムがこちらに気づく。いつもならここで剣を取り出して戦うのだけど――今回は使わない。実態のない風だけど、元素の力で握りしめる――握りしめれているはず。握りしめた手のひらの中に空気の渦を作り、それをスライムにぶつける!

 

 ドッ、ボシュ!!

 

 「……ん?」

 

 何か今、二段階のダメージが入ったような……。使った直後に風の渦が爆発した……?

いやたしかに1回でスライムが倒せたから、剣で2~3回切りつけるよりも体感的にはダメージが入っているように感じるし、まだ慣れてないから集中が必要だけどすごい手軽だから使い勝手もいいんだけども……なんだろう、すごい原理が気になる。

 

 「おい気をつけろ! 今度は2体出てきたぞ!」

 「くっ」

 

 考えるのは後! 今はとりあえず目の前の敵を倒すのが先決だ。

さっきは風の弾を撃ち出すイメージでやってみたけど、今度は意識的に手のひらに風のエネルギーをとどめたままで炎スライム2匹にぶつける。

 

 ドッドッドッドッドッボシュ!!

 

 やっぱり最後に爆発してる!

 さっきよりも範囲が広くなってる気がするけど、何だろう。もしかして、空気の塊だと思っていたけど、むしろ逆で、真空の空間を作ってて、一気にそこに周囲の空気が流れていくから爆発しているように見えるとか?

 ……うーん、物理学とか得意じゃないからそのあたりよく分からないんだよなぁ……。

 

 

 

 「よくやったぜ! 流石だな、もう元素の力を使いこなすなんて!」

 「うん、私、使いこなせていたんだよね?」

 「なんだよ晴れない顔して……。初めての元素力を使っての戦闘で、一方的な大勝利を収めた。大成功じゃないか!」

 「なんというか、原理が分かってないからかあまり実感がなくて」

 「そんな難しいことはいいんだよ! 元素力を持つ人はそれなりにいるけど、みんな同じ使い方かっていったら全然そんなことはないしな。おまえはおまえなりの使い方を見つけていけばいいんだ!」

 

 そうか――そんなものなのかもね。パイモンは癒やし枠だけど、たまに核心を突いた発言をするから本当にありがたい。一緒にいて気兼ねすることないし、できればお兄ちゃんに再会するまでずっと側にいてくれたらなぁ。

 

 「さあ! そんなことよりもスライムの液体を探そうぜ! ドロップしてるといいな~」

 

 そうだった。この子は自分の食欲のためだけに私にスライムを倒させたんだった。元素の力の練習なんて後付けの理屈だったのをすっかり忘れてた。

 

 「おぉー! 3匹のうち2匹もスライムの液体を遺してるぞ! 大量大量~」

 「……ねえパイモン。どうしてアイテムをドロップする魔物としない魔物がいるの?」

 「ん? さぁ?」

 

 さぁって……。

 

 「基本的に、魔物って死んじゃうと塵になって消えちゃうんだぞ。でも、大体半分くらいの確率でその魔物に関するアイテムをドロップするんだ。理屈まではオイラに聞かれても困るぞ?」

 「そうなんだ」

 「前にも教えただろ~?」

 「ごめん、ちょっと色々考えることが多くて忘れちゃってた」

 

 私の言葉を受けたパイモンは「まぁ、その気持ちはオイラにも分かるけどな……」と浮かない顔。私の事情でパイモンまでそんな気持ちにさせちゃうのはさすがに悪いな……。というかそこまで深い意味を持たせるつもりなんてなかったし。元気いっぱいの方がパイモンらしいし、できれば私の込み入った事情とかは忘れて気にしないでいてほしいんだけど……難しいかな。

 

 カサカサッ

 

 「ん、なんだ? ――うひゃあ! 雷スライムだ!」

 

 それも4匹も同時に!茂みに隠れて私たちの様子を窺ってたのだろうか。

 

 私はとっさにまた元素力を使って風(真空?)を雷スライムにぶつけたけど、エネルギーをとどめたままの方がより威力や効果範囲が高まることを忘れてた。手前にいた2匹のスライムは爆発で吹っ飛んでいったけど短すぎて威力が足りなかったのかまだ塵にならずにまだ生きてる。

 奥にいたスライム2匹は時間差で攻撃してきて――

 

 「うっ」

 「おい! 大丈夫か!?」

 

 ――久しぶりにまともに攻撃を受けてしまった。体当たりの威力はそんなに高くないけど、体に雷元素が付着した。別に特別害があるわけではないけど、全身がピリピリする感覚があって少し気持ち悪い。

 私は今度は虚空から剣を取り出して――自分の全身が、それまでよりも強い元素力に満ちていることに気づいた。今ならもう少し強くて広範囲の風元素攻撃ができる、と理屈ではなく本能でそう感じた。目の前にいるのはたかがスライムではあるけども、これは練習。別にやって損はないだろう――!

 

 「風と共に去れ!」

 

 根拠のない自信の赴くまま、内から沸いてくるエネルギーを具現化する。強風が自分を中心に巻き上がり、身体を浮かせるがそんなことは副次的な効果。元素力を使って風の流れをより速く、勢いをつけて――発射!

 高さ3mくらいの小さめの竜巻が巻き起こり、周囲の草木や、もちろん雷スライムも含めて吸引しながら進んでいく。――というか、今までの風元素攻撃よりも強いのか、竜巻の頂点に着く頃にはもう雷スライムは塵と化していた。

 

 

 

 「おま、おまえ、こんなこともできたのか!?」

 「剣がなくても、意外とそれなりに戦えるね。やっぱり集中する必要があったり、元素力が溜まるのを待ったりしないといけないけど。でもすごい便利」

 「ああ……オイラもこんなかっこいい戦い方ができたらなぁ!」

 「パイモンって戦えるんだっけ」

 「逃げたり翻弄したりして崖とかに落とすことはできるぞ!」

 

 なぜか胸を張って得意げな様子。……誇らしい内容ではなかったような気もするけど、まあかわいらしいからいいか。

 実際今までの経験的に、魔物って泳げない個体が多そうだし、敵が多い場合とかは意外とパイモンに助けられるかもしれない。

 

 「というかオイラ、なるべくおまえを怒らせないように気をつけるぞ……」

 「どうして?」

 「だって! もし怒らしちゃったらどんな目に遭わされるか分からないじゃないかぁ!」

 「ふむふむ……でも、もし私が元素力を持たなかったとしても、結局私の方が強いんだから別に変わらないんじゃない?」

 

 しばらく固まってしまったパイモン。空中で身じろぎもしないのはとても難しいように思えるけど、その辺どうなんだろう?

 

 「ん、ん~? ……なるほど、それもそうか! じゃあオイラ、今まで通りにおまえとやっていくぞ!」

 

 くるくると縦回転しながらにこにこと語る姿は天使のよう。見ているこっちまで思わずにこにこしてしまう。

 

 「ん? なんだそんなにニヤニヤしながらオイラを見て」

 「いや? 今日もパイモンはかわいいな~って」

 「エヘヘ、それほどでもあるぞぉ」

 「……フッ」

 「おい! その笑いは絶対にオイラを馬鹿にしたやつだ! それくらいちゃんと分かるんだぞ!」

 「ごめんごめん、違うんだって」

 「ふーんだ!」

 




アチーブメント「風の導くままに」:「風」の元素力を習得する。
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