原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:リサの力により「獅子の神殿」の攻略に成功。その後、浮かない顔をしたリサから風魔龍トワリンについての話を聞いた。


依頼任務:言語の交流

 「ふぅ、やっと全部片付いた。これでモンドの元素の流れも、モンド城の暴風も元通りになるよな。――でも、リサさんと一緒に帰らなくってよかったのか?」

 「あのままだと、ずっと暗い雰囲気のままになりそうだったからね」

 

 風魔龍――トワリンについて話していた時のリサさんの表情は苦しそうだった。リサさん自身の責任ではないけれど、モンド人として責任を感じているみたい。

 図書館でトワリンに関しての本を貸してくれると言っていたけど、多分その時にはまた暗い話になってしまう。ならせめて、今は私たちと離れて自由に行動したり気分をスッキリしてもらう方が良いかと思った。

 

 「それに……私たちのお金がかなりヤバいってこと、忘れてない?」

 「あっ……」

 「行きしはできるだけ魔物との戦闘を避けたしね。まだ多少ストックがあるとはいえ、少しくらいは魔物の素材を集めて冒険者協会で換金するための足しにしておかないとね」

 「でも、もうかなり暗くなっちゃってるぞ? 今から戦うのは危なくないか?」

 

 んー……それも確かにそうなんだよね。

 積極的に魔物の群れを襲撃するのは明日以降にして、今日は少し寄り道しながら帰るとするか。今日は色んなことがあって疲れたし。……私だってちゃんとやれるという自信を取り戻したいという気持ちも少なくないけど。

 

 「そうだ、さっきの神殿でまた『失われた風神の瞳』を手に入れただろ? 今後も入手するかもしれないけど、そいつの使い道を忘れるなよ」

 「なら、風立ちの地の七天神像に寄ってから帰ろうか。ちょうどモンド城の方面だし」

 

 

 

 「――どうだ?」

 「んー……昼と違って全然恩恵を受けた感覚はないなぁ。前はもう少し何か実感があったんだけどね。こう、なんて言うか……神像から暖かい力が流れてくる、みたいな……」

 「もっと瞳を集めないとってことか?」

 「そうかもね。まぁ、こればっかりは地道にやっていくしかないよ」

 

 1回目は1個だけで十分だけど、2回目は2個、3回目は3個要求されるとか、そういうのだろうか? まぁパイモン曰く元素力を扱える人――神の目の所持者はずっと瞳集めをしているようだし、長期的に考えるがいいんだろうな。短期間でパワーアップ! みたいなのじゃなさそう。

 

 「よし! じゃあ帰るか!」

 「待って――あそこ、ヒルチャールの集落がある」

 「うん? どれどれ……ホントだ! ここって、もうだいぶモンド城に近いよな!?」

 「アンバーの言ってた通り、街の近くにも集落が作られやすくなってるってことだろうね」

 

 流石にこれは見逃せない。暗くて少し危険だけど、大型のヒルチャールはいなさそうだし、慎重に戦えば大丈夫なはず。

 呼吸を整えて、風元素を扱えることも確認して――いざ!

 

 「ま、待った! なにか聞こえないか!?」

 

 …………。走り出してすぐに待ったをかけられ、命令に素直な私の足は急ブレーキをかけた。――転びそうになったし、出鼻をくじかれたことで折角あったやる気もかなり消えかけてるんだけど……それ後じゃダメ?

 半目で睨むと、震えながらも必死に主張してくる。

 

 「ほ、本当なんだって! 耳をすましたら、あっちの茂みの方から」

 「――っち。――こっちよ!」

 「ほら! な! 誰かがオイラたちを呼んでるんだよ! ……あのヒルチャールたちは大体みんな寝てるみたいだし、先にこの声の主のところに行く方がよくないか?」

 

 ……言っていることは、理解できる。おそらくパイモンの言い分の方が正しいことも、理解できる。つまりこの話に逆らうことはただの私のワガママ。

 そうだね。何を焦っているんだろう。今日1日が散々だったからといって、それで私の価値が下がるわけじゃないし、無理に武力を振りかざす必要もない。パイモンは私に付いてきてくれるし、何ならこうして指針を示して引っ張ってもくれて、その上で私の選択を尊重してくれる。

 ――らしくないな、まったく……。焦ってるのが我ながらよく分かる。

 

 「そうだねごめん、なんか熱くなっちゃってた」

 「おう。オイラもそんなおまえはあんまり見たくないぞ」

 

 

 

 「旅人さん! ここ、ここよ!」

 

 声のする茂みの裏を覗いてみると、そこには1人の女の子が。――女の子が!? こんな時間に、こんな場所で!? 昼に会ったクロリスと同じで、かなりヤバ目な女の子なんじゃないだろうか。私の警戒ゲージはぐんと高くなる。

 ……いや。決めつけはよくない。もしかしたらピクニックをしていたけど夜になって、モンド城に帰れなくなっただけのごくごく一般的な女の子の可能性だって――

 

 「あのヒルチャールたちには気づかれないように。どうしてあなたはまっすぐ集落に突っ走ろうとしていたの……。まあいいわ。私はエラ・マスク。ヒルチャール語の研究者よ」

 

 ――そんな可能性はなかった。モンドには特殊な人ばかりいすぎじゃない? とんでもない地域だよね? それとも、私がたまたまそういう人たちとばかり会っているだけ?

 

 年齢はクロリスと同じくらいで、私よりも年下だと思う。彼女と違ってピンクのワンピースを着ていて、頭には小さなピンクのお花の髪飾りをつけている。茶色の髪を左右対称の短い三つ編みにしていて、夜闇に光る青い瞳をしている。……うん、本当に見た目はごく普通の女の子だ。見た目は。

 

 「私は今までずっとヒルチャールの言語を研究してきたけど、今は記録よりもその話し方を研究したいの」

 「そ、そっか……」

 「せっかくここで完全なヒルチャール集落に出会ったんだ、このチャンスは逃さないわ」

 「言語の研究で、集落を見つけた? ……何をしようとしているの?」

 「もちろん、ヒルチャールとお話するのよ!」

 

 うわぁ。この子は本格的にヤバい子かもしれない。パイモンも思わず「ひっ」と声を漏らしてしまっている。

 ……この子は放っていたら1人でも集落に突撃しに行くな。絶対に。もしそんなことになったら、十中八九この子は殺されてしまう。クロリスのときとは違う、この子は私たちが責任を持ってモンド城まで送り届けないと命に関わる――!

 

 「だからね、練習相手になってくれるヒルチャールを探したいんだけど、一緒に集落に入ってくれない?」

 「……分かった。とりあえず1体捕まえてくるね……」

 「待って! そのまま入らないで! 一体誰があなたをこういう風にしたの!?」

 

 いや私のセリフですけどそれ!?

 割とツッコミ気質なパイモンも流石に本人にこの言葉を直接ぶつけるのはよくないと感じたのか、前のめりになって口を開いたけどすんでのところで踏みとどまった。……いや、いつか誰かが教えてあげた方が優しさなのかもしれないけどね?

 

 「今から私と一緒に集落に入って、友好的な会話をしようよ。ほら、行くよ」

 「あっ、おい待てよ――!」

 

 まっっったく人の話を聞かないよね! モンドの変人たちは! 基本的に自分のことか自分の興味のあることにしか眼中になくて、話をしたり協力しようとする人がいても自分中心でしか動いたり話したりできない。よろしくないよ、本当に。

 そう考えると、西風(セピュロス)騎士団の人は常識人ばかりだなぁ……。代理団長のジンさんはもちろん誠実な人だし、幹部級であろうガイアやリサさんもマトモだった。普通とは言わないけど。一般騎士の身分であろうアンバーもとても良い子だし、騎士団の人たちは人格面が素晴らしい。もはや騎士団の人間ですと言われただけで警戒心を解いてしまうレベル。

 

 対して……。

 私たちの静止も聞かず、身をかがめながら茂みを出てヒルチャールの集落に近づくエラ・マスクを見て、つい大きな溜息が出てしまう。モンドの騎士団の人たちも大変なんだろうなぁ。

 

 「ちょうどここに起きてるヒルチャールがいるわ。急いで近づこう」

 「話を聞けって!」

 「しっ! 静かに! 他のヒルチャールが起きちゃうでしょ」

 「うっ……オイラが悪いのか……?」

 「他のヒルチャールを起こさないよう気をつけてね、でないと絶対攻撃しに来たって思われるから。そんなことになったら会話ができなくなっちゃうもの。だから、武器を出すのも敵意を出すのも禁止!」

 

 かなりの無理難題じゃない? 普段から敵として戦っているような魔物を相手に「敵意を出すな」は……。武器は、まぁ最悪戦闘になったら元素で戦って、距離をとれたら武器を出すでいいかもしれないけど。

 

 「さあいくよ!」

 

 

 

 「Olah! Muhe mimi nye, eh … mosi aba?」

 「ほ、本当によく分からない言葉で話しかけはじめたぞ……」

 

 エラは魔物であるヒルチャールに対して全く臆することなく近づき話しかけた。その言葉は確かに私たちの扱うそれとは違うもので意味の理解はできないけど……ヒルチャールの言葉と同じと言われたら似ているような気もする……?

 ヒルチャールも人間がやってきたことで警戒心をあらわにしたけど、自分たちの言語で話しかけられたからかきょとんとした様子。少なくとも、今すぐ襲いかかってきたり寝ている仲間を起こしたりはしなさそう。

 

 「Yo mimi beru si?」

 「Buka … mita nye, guru-guru … yo mosi ka?」

 「Ya odomu, Todo yo, buka, guru-guru nye.」

 「Mi? Dada! Valo.」

 「Valo, ya odomu.」

 

 まさかそんなことがと疑っていたけど、この子は本物だ――本当に魔物であるヒルチャールとの会話を成立させている。それもかなり友好的に話を進められているみたいで、同じフレーズを繰り返したり口調が穏やかだったりと感服するばかりだ……。

 パイモンも少し身体を縮こまらせて怯えた目でやりとりをしている2人を見ているけど、下手に刺激するわけにもいかないから黙っているしかない。

 

 「――ふふっ、このヒルチャールの動きを見るに、喜んでくれたみたいね。今回の交流はうまくいったみたい。私のヒルチャール語のスキルもなかなかのものでしょ?」

 「そ、そうだね」

 「なんだこのダンス……」

 

 2分にも満たないやりとりだったはずだけど、すぐ近くで見守っている分には10分以上にも感じられた交流は、ヒルチャールが踊り始めたことで終了した。

 軽快な足さばきとクロールのような腕の動き。ヒルチャール独自の踊りの文化なんだろうか? 少なくとも、かなり機嫌がよさそうなのは確かなよう。

 私たちに襲いかかってくる様子はないし、エラ・マスクも満足そう。私たちは何か予測不能のトラブルが発生する前に早々にその場を立ち去った。

 

 

 

 「どう? 私のヒルチャール語はなかなかだったでしょう? 言葉さえ通じれば、互いを理解するのも時間の問題よ」

 「そんな日がくるといいな。オイラたちだって、戦わずに話し合いだけでことがすむなら、それにこしたことはないからな」

 「そう願っているわ……私の夢は、ヒルチャールたちと友達になることだから」

 

 今日はかなり濃密な1日だったな……。特に、ヒルチャールに関して新たな考え方をする日だった。

 秘境ではこれまで通り多数のヒルチャールを倒し。リサさんからは「吟遊詩人にもなれないほど知能の低い魔物」だと教わり。エラ・マスクからはヒルチャールと友好的に交流できることを見せられた。

 ヒルチャール――一体どんな存在なんだろう。私の感じている違和感や疑問が、解消される日は来るんだろうか……。

 

 「あっ、もうそろそろモンド城に着くな。長い道のりだったぜ」

 「そういえば、さっき『今回の交流はうまくいった』って――」

 「それじゃ、記録したいことがたくさんあるから、先に行くね。機会があったらまた会おうね」

 「あっ」

 

 走っていっちゃった……まぁ、もう危険はないだろうし、大丈夫なんじゃないかとは思うけど……。

 彼女の口ぶり的に、これまでにも何度も交流を図ろうとしていて、失敗したこともあったかのような口ぶりだった……。ヒルチャールをとても大切にしているようだったから倒すようなことはしていないだろうけど、少なくとも怒ったヒルチャールたちから逃げられるってことだ。それ以前に、普段からヒルチャール以外の魔物も跋扈する野外で活動しているってことは――。




アチーブメント「…Odomu?」:「言語の交流」でヒルチャールとの交流を成功させる。
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