原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:アルカディア遺跡について情報を集めるためにエンジェルズシェアに行った蛍たち。しかし酔っぱらいの冒険者スタンレーに絡まれるくらいで、特に収穫はなかった。



ガイアの難題III

 「冒険者協会、冒険者協会……キャサリンのところだよね?」

 「そうだな。昨日も夜に行ったあそこだぞ」

 「でも、なんか凄い並んでるよ?」

 「ほんとだ!」

 

 パイモンの真っ当な提案により冒険者協会を訪ねることにした私たちは、けれどそう易々とはことを運ばせてもらえないらしい。キャサリンの前には5人もの冒険者が並んでいて、彼らの手には中身の詰まった大きな袋や数枚の書類がある。どう考えても長引きそう。

 キャサリンに何か質問するためだけに並ぶのはやめておいた方がいいんじゃないかな……。他の冒険者の邪魔になるだろうし、キャサリンの負担もあまり増やしたくない。

 

 「い、いやいや大丈夫だ! オイラの狙いはキャサリンじゃなくて、冒険者なんだからな。用事が終わって列を離れたやつに聞いてみようぜ」

 「さっきので分かったでしょ? 冒険者だからって、誰にでも聞いていいわけじゃないって」

 「お、1人離れたぞ。あいつなら大丈夫そうじゃないか? 真面目そうな兄ちゃんだし」

 

 エンジェルズシェアでのスタンレーに懲りたのか、パイモンが聞き込みをする相手を「真面目そうか否か」で決めている。いや、いい傾向だしきっと正解なんだけど、それくらい衝撃的というか、影響が大きかったんだなぁ。

 パイモンはかなり単純でからっとした性格だから嫌なことがあっても比較的すぐに忘れる――美味しいものを食べたら大概忘れる――というのに、かなり根に持っている様子。自分の話を聞いてくれなかったというのは、おしゃべりなパイモンにとって堪えたんだろう。

 

 「こんにちはー! ちょっといいかー?」

 「こんにちは。君たちも新人冒険家なのか?」

 「聞きたいことがあるんだけど……ん? 『君たちも』?」

 

 さっそく雲行きが怪しくなってきたな。

 パイモンが狙いを定めて話しかけたこの青年は、濃いめの緑色を基調とした長袖長ズボンで、背中には大きめのリュックサックを背負っている。全体的に緑のイメージが強いけれど、アクセントとして赤いネクタイやクロスした刺繍などがあるので意外と鮮やか。何が入っているのやらリュックはパンパンで、肉や卵が側面から吊されている。

 確かに言われてみれば、まだ必要なものを厳選しきれていない駆け出し冒険者の格好と言える。ちなみになぜ物を厳選しないといけないのかというと、単純に邪魔だからだ。体積的にも、重量的にも。だから基本食料は現地調達して持ち運ばなくてすむようにするのが推奨されている。

 

 「あ、『アルカディア遺跡』について、なにか情報を知らないか?」

 「アルカディア……聞いたことないね。ごめん、僕はまだ新米だからさ、知ってることは少ないんだ」

 「そうか……」

 「協会に依頼してみたらどうかな。今キャサリンさんは忙しそうだけど、依頼するのは本部の方だから空いているかも。きっと、ベテランの先輩たちなら力になれるかも――」

 「ダメダメダメ、それはダメだ! もし他の冒険者に先を越されて、お宝を取られたらおしまいだ!」

 

 言っちゃった……。いや、冒険者に聞いたこともないような遺跡のことを聞き回っているということから簡単に推測はできるのかもしれないけど。それでも、こっちから正解を言ってしまうのはいかがなものか。まぁ、パイモンらしいといえばらしいんだけどね。

 

 「なるほど、それならしょうがないね。お宝、いや、遺跡のことは気にかけておくよ」

 「そうか、ありがとな! またな!」

 

 彼は私に軽く視線を向けて確認をとってきたけど、ゆるゆると首を横に振って返事とした。互いに軽く苦笑いして、しょうがないなって感じの意思疎通が図れた。そんな無言のやりとりがあったことなんて、もちろんパイモンは知らない。無邪気にきらきらと感謝を振りまいているだけだ。かわいい。

 

 「あ、飛んでいった……あの、アルカディア遺跡についてなんだけど……」

 「うん……僕も探してみようか……ん? なんでもないよ。早く見つかるといいね、ははっ」

 「あ、うん。そうだね」

 

 新米とはいえ、彼もお宝の話には敏感な、1人の立派な冒険者だということか。

 まだそこまで大きな成功体験がないからか、気弱な雰囲気があるけれど、いつか偉業を成してやるという隠れた強い意志を感じる。自分の現状を正しく認識して無謀な背伸びをしないけど、現状に満足せず停滞ではなく成長を望んでいる。この人はきっと、いつか何かを成すような気がする。

 

 「そうだ、自己紹介を忘れてた。私は蛍、あの子はパイモン。最近モンドに来たばかりの新米冒険者だよ」

 「僕はジャック。――自覚が足りないみたいだから忠告しとくと、君たちはかわいいし優しそうだから、人との距離感には気をつけた方がいいんじゃないかな。ほら、勘違いする男とか、厄介な人とかも世の中にはいるしさ……」

 「ん?」

 

 当然の社交辞令として握手と自己紹介をしただけなのに、何か真っ赤になりながら忠告してくれたぞ? いや、別に可愛いと言われて悪い気はしないけれども……そんなに何か言われるくらい無防備なのかな、私って。

 一応腕には覚えがあるし、もしもの時はどうにかできる自信もあるけど……そんなに何か勘違いさせるようなというか、特殊なことってしてるかな? そりゃ聞き込みをして回っているから初対面の人に話しかけてはいるけど、適切な距離感だと思ってるんだけどなぁ。

 

 「き、気を悪くしたらごめん! でも、あまり気にしてないみたいだから言わなきゃと思って……。あ! 冒険者協会の本部に聞き込みしに行くのは全然アリだと思うから行ってみるといいんじゃないかな! それじゃ!」

 「あ、うん。ありがと……」

 

 パイモンが行ったのとは別の方向に足早に逃げていった……。途中から目も合わせてくれなかったし、なんだったんだろう? 忠告してくれたし、嫌われたわけじゃないと信じたいけれど。

 真面目ないい人そうだし、冒険者になったばかりというので立場も似通ってる。避けられるのは精神的にもそうじゃない点においてもしんどいな。今度見かけたら積極的に話しかけにいってみよう。

 

 

 

 「パイモーン」

 「うがー! だーれも知らないんだから嫌になっちまうぜ!」

 「うがーって……」

 

 人型なのにどんどん人から離れていっちゃってるよ、その鳴き声。獣か何か。頭をガシガシと掻きむしっていて、ストレスも溜まっている様子。

 どうやらまた別の人に話しかけては有力な情報を得られない、というのを繰り返していたらしい。うがーとなる気持ちも分かるけど、そんなに大っぴらに聞き回っていいの? という気が少なからずあるんだけどね。

 まぁ、私の予想としては全てガイアの嘘で、神剣や遺跡といった諸々が全てガイアの虚言だからいいんだけどね。何も秘密にするような情報なんて含まれていないから、大勢の人がその話を聞いても特に実害はないという。

 ――というかそうであってくれ。でないと、パイモンがとんでもないやらかしをしていってるし、それを止めなかった私の責任もそれなりに大きくなってしまう。

 

 「こうなったら――冒険者協会の本部に行ってみようぜ!」

 「え、うん、そうだね。まさか私が提案する前に言われるなんて」

 「オイラだって賢く考えられるんだ! たしかに冒険者は情報を持ってるだろうけど、その情報が集まるのは協会の本部だってな!」

 

 どうしよう。まさしくその通りなんだけど、それはさっき会ったジャックの話を覚えていて、それをさも自分が考えついたかのように言っているだけだってことを、教えてあげた方がいいのかな……。

 まっ、いっか。満足そうだし。

 

 「ところでさ、冒険者協会の本部ってこの前迷い込んだところだよね。大聖堂の方へ行くために階段を上がっていって間違えて入った場所」

 「おう。入ったことはないけど、あそこにはキャサリンのとこと同じコンパスのマークがあったし、合ってると思うぞ」

 「またあの階段を上るのか……パイモンだけ行かない?」

 「ダメだぞ! 一緒に行くぞ相棒!」

 

 本当に階段嫌いなんだよね。特に、隣にいるパイモンは飛んでいるから、この苦しみを共有できないというのもある。隣人も同じ苦しみを味わっていたら、「仕方ないね」「もうちょっと頑張ろうか」みたいな感じで精神的に軽減されると思うんだ。なのに。

 結局、パイモンの「モンドにいる限り階段からは逃げられないんだ! 早めに慣れるのが一番だぞ!」というごもっともな意見に押し切られて私も行くことに。足腰をしっかり鍛えます。――モンドのご老人がやたら元気でしゃっきりしてるのは階段のおかげ?

 

 

 

 「ふぃー、やっと着いたな」

 「これに慣れるのか――旅路も大して苦にならなさそう」

 

 やっぱりモンドは奥にある重要な施設に行くほど階段が多いの、普段使いには辛いよ。

 例えばキャサリンのいる窓口は、外から帰ってきた冒険者がすぐにふらっと寄れて宿に戻れるように正門の近くにあるけど、重要な書類なんかが沢山ある冒険者協会の本部はかなり奥にあるし。

 ただまぁ、ここで働いているような一部の人を除けば、あまり毎日通うような場所でもないからあまり支障はないのかな。

 

 「入ればいいのかな」「ノックじゃないか?」などと入り口近くで話していたら、扉が内側から開いていかついおじさんが出てきた。

 

 「ん? よぉー、冒険者協会へようこそ! 俺はサイリュス、冒険者協会モンド支部長だ!」

 「お、ちょうどいいところに!」

 「今私たち探し物をしていて……」

 「おっと、そんなくだらないことのために来たんじゃないぞ。天空の島から落ちてきた、八つの頭を持つサキュバスや、銀髪の海蛇を切ったっていう……超、超、すっごい神剣を探してるんだ!」

 

 色々と混ざった結果よく分からないことになった、本来秘密であろう情報を誇らしげに語るパイモンは置いておいて……。

 側面を短く刈り上げた金髪で、豊かなアゴヒゲを蓄えたサイリュスさんは流石大人と言うべきか、眉唾な話を否定せずにただうんうんと頷きながら聞いている。コワモテな感じの顔で筋骨隆々ながらもモノクル越しに見る青い瞳は理知的で、事務仕事もこなせる頭脳派冒険者であることが窺える。

 

 「流石に喋りすぎじゃない?」

 「平気平気、お宝の隠し場所さえ言わなきゃ大丈夫さ」

 「ほぉー、まさかそんなお宝があるなんてなあ」

 「だろ? それでサイリュスさん。『失われたアルカディア遺跡』ってどこにあるか知らないか?」

 

 自分が2秒前に言った内容すら忘れるなんて……。パイモンは本当に頭パイモンだなぁ……。

 サイリュスさんは興味深そうに頷く。まるで子どもを相手にしているみたいに。――というか、お宝が絡んだ時のパイモンは正直子ども未満じゃない? 子どもでももっと秘密は守るよ、特にそれが自分の得になるようなことなら。

 

 「『アルカディア遺跡』……聞いたことない名前だ。君たちの話に興味はあるんだが、手がかりに関しては力になれそうにない、すまないな。でも、情報提供ありがとさん。見つけたら、俺にも見せてくれよ」

 「ん? 情報……提供……? あ、あああああーーっ!!」

 

 あ、やっと気づいた。遅すぎるんだけどなぁ……。まぁ、サイリュスさんが優しい大人で、こうして遠回しに自分で気づけるように誘導してくれたのは本当にありがたい。いい大人だよ、本当に。

 

 「協会に依頼するのもありだが、君たちなら自力で探してみるのもいいんじゃないか?」

 

 遅まきながら今日の自分の失態に気づき、頭を抱え身もだえながら唸る白い生命体を横に、サイリュスさんはそう提案してきてくれた。

 

 「君は冒険者に向いているようだからな。ぜひこれから仲良くなろうじゃないか」

 「どうして分かるんですか? キャサリンにも言われたけど、もしかして社交辞令じゃなかったり?」

 「なぜかって? 先輩冒険者の勘、だな。ははは……。ちなみに、誰にでもこう言っているわけじゃないぞ。何せ冒険者は危険と隣り合わせだ、下手に適正のないヤツを勧誘して死なれたら責任取りきれんからな」

 「なるほど」

 

 キャサリンのあの勧誘も、あながちただの社交辞令で持ち上げてるわけじゃなかったんだ……。言われてみれば確かに納得。誰にでも勧誘していいわけじゃないのはちょっと考えたらすぐ解るはずなのに。

 

 「じゃ、じゃあな、サイリュス……」

 「おう、またな! 若者は元気であるべきだ! しっかり前を向け!」




サイリュス:冒険者協会モンド支部長。意外なあの人と家族だったりと話題に事欠かない。見た目通りの熱血漢で、人一倍冒険が大好きだが、最近は事務仕事がメイン。
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