原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:モンド城に向かう途中、蛍たちは偶然にも、巨龍と謎の人物の出会いを妨害してしまう。疑問を抱えながら進む蛍の前に、軽やかな少女が現れた。


風と共に来た騎士

 「風神のご加護があらんことを。わたしは西風(セピュロス)騎士団の偵察騎士、アンバーよ」

 

 少女――アンバーは、私たちに正面に対して向き直り、右手を拳にして胸の前に掲げた後勢いよく右下に振り下げてそう名乗った。騎士団の礼法なんだろうか?

 

 アンバーは赤いバンダナを大胆に頭に巻いていて、まるでウサギの耳のようにぴょこんと二本大きな飾りとして自己主張している。バンダナと同じで鮮やかな長袖の上着と、大胆に開けている谷間に目が行きがちだけど、首に提げた金縁のゴーグルのお陰で艶めかしさはない。むしろ健康的だなーってイメージ。

 髪型は黒に近い茶色のロングで、ストンと腰の辺りまで落としているけど、かなりのくせっ毛であちこちぴょこぴょこと跳ねている。おなかは髪色と同じ色のコルセットで引き締めており、腰の右側には私のものよりも少し大きめのカバンを下げている。

 バンダナと同じくらい目がいってしまうのは真っ白い太もも。白いロングブーツに赤いタイツを穿いているけども、きわどすぎるくらいのホットパンツだからいかにも健康的な太ももが惜しげもなく晒されている。いや、見せつけられている。

 

 「ふ、太ももには注目しないで! あんたもわたしと似たようなものじゃない!」

 「いやでも、私はスカートである程度はガードしてるし……」

 「ホットパンツも穿いてるからって安心してるんでしょうけど、正面からはそのスカート機能してないからね!? それに、胸元だってあんたの方が出してるじゃない! 胸元どころか肩や二の腕だって! そんなあんたに露出度についてあれこれ言われたくないわ!」

 「ご、ごめんって……」

 

 まさかそんなに怒るなんて……。というか、無意識で口に出しちゃってたなんて……反省。

 私はもうこの服装に慣れちゃったけど、アンバーはお年頃みたいだし、まだ慣れきっていないから恥ずかしさも残ってるんだろうな。パイモンが相手じゃないんだし、これ以上むやみにからかうのは止めておこう。

 あ、思ってたより顔真っ赤になっちゃってるし。「コホン」ってわざとらしい咳をして誤魔化してるし。――からかってほしくないなら、からかいたくなるような態度は止めてほしいなぁ。

 

 「あんた、モンドの人じゃないよね? 身分の証明はできる?」

 「落ち着いて、怪しい者じゃないんだ――」

 「怪しい人は皆そう言うわ。それに、あんたの相方は出会い頭に自分のことを棚に上げてセクハラしてきたのよ? 怪しくないと言う方が無理があるでしょう」

 「うぅ……」

 

 ちょっとパイモン? どうしてそこで口ごもるの? 私セクハラなんてしてないよね?

 

 「はじめまして、蛍だ」

 「……ここら辺の地域じゃ、めずらしい名前ね。というか、その堅苦しい話し方は何?」

 「一応失礼がないように丁寧に話そうかと思って」

 「いや、もうあんたの評価はマイナススタートだから、少なくともそれくらいじゃ挽回できないわよ……」

 

 なんと。……いやいや、せっかく出会えた同年代の女子(それもかわいい!)とこんなことで疎遠になるのはもったいなさすぎる。私だって友達がほしい。話しやすくて同年代ならベスト。つまりアンバーがベスト。

 ――別にパイモンに不満があるわけではないことを、誰に対してというわけではないけどここに注記しておく。本当に本当。

 

 「それからその……さっきから普通に話してるんだけど、空を飛んでるマスコットはなんなの?」

 「非常食」

 「全然違う! マスコット以下じゃないか!」

 「ごめん間違えた。友達」

 「……もう遅いからな」

 「まだ知り合って2ヶ月くらいの仲間だけど、今じゃもう大親友なの。ね?」

 「……オイラ、もうおまえのことが分かんなくなってきちゃったぞ……」

 「とにかく、旅人よね」

 「そんな雑なまとめかたでいいのかよっ!」

 

 「だって、そっちの面倒ごとに巻き込まれたくないし……」という内心を隠そうともしない表情。もしかして、私が想像している以上に、アンバーからの私の印象って悪い?

 

 「おまえ、もう少し言動に気をつけろよな……」

 

 パイモンも呆れ顔でこんなことを耳打ちしてきた。これはマズい。パイモンからの評価は下がることがないと勝手に思い込んでいただけにダメージが大きいかもしれない。非常食呼びは自重した方がいいかも。

 

 「はぁ……。まぁ、あんたが悪人じゃないってのは、ひとまず信じてあげるわ」

 「ありがとう!」

 「く、食い気味ね……。それで、近頃、モンド城の周辺で大きな龍が出没しているの。だから、早く城に入った方がいいわ」

 

 パイモンと顔を見合わせる。あのドラゴンはどうやら最近はこの周辺でよく見かけるらしい。――ということは、不本意だけどまた遭遇する可能性もあるみたい。できることならもう会いたくないなぁ……今の私だと満足に戦えないだろうからただ逃げることしかできないだろうし。

 

 「そうだ。ここからモンドまでそう遠くもないし、ここは騎士の務めとして城まで送ってあげる」

 「え? 任務があって城を出たんじゃないのか?」

 「もちろん任務もあるわ。でも安心して。任務を行いながらでも、あんたたちの身を守ることくらいはできるから。それに……怪しい者を放っておくわけにもいかないからね!」

 「こっちを信用してないみたい」

 「当然でしょ! こっちの……ええと……マスコットちゃん?」

 「オイラはパイモンだぞ!」

 「ありがと――パイモンちゃんはともかく、あんたのことは今のところ信用できる要素がないじゃない」

 

 それもそうか。って納得はしたくないけど……。パイモンには肩を軽く小突かれるし、アンバーからの評価は上がる兆しが見えないしで、本当にどうしよう。困ったな。

 アンバーはさっきから腕を組んで、うーんうーんと唸っている。かなり葛藤しているのか、苦しそうな表情。パイモンも肩を何回か叩いてきただけで目も合わさず何も言わないし、少し居心地が悪い……。

 

 「でも……そうね。ごめん、優秀な騎士にあるまじき言動だったね」

 「おぉ! すごいぞアンバー! オイラだったらそんなことできない」

 「誤るよ、えっと……見知らぬ、その……尊敬できる旅人さん」

 「ぎこちない!」

 「『騎士団ガイド』で決められた言葉に不満でもあるの!?」

 「そのガイドにはこういうことも想定して書かれてあるのか! すごいな!」

 「そうよ。だからページ数も多いけど、なんとか暗記してるんだから」

 

 パ、パイモン……!!

 こんなに自然に話題を私から誘導してくれるなんて、ナイスファインプレー! 私は自覚がないけど話し下手らしいし、メインで人と話すのはパイモンに任せようかな。交渉とか情報収集とかがパイモンの仕事で、私は戦闘担当。――適当な思いつきだったけど意外とバランスいい役割分担なのでは?

 私はつい側にいたパイモンをぎゅっと抱きしめた。

 

 「きゅ、急になんだよ!」

 「んー、いや? パイモンは最高の相棒だなーって」

 「エヘヘ、そんなに褒めるなよぉ、オイラが何したっていうんだ?」

 「なんにも? パイモンはずっとそのままのパイモンでいてね」

 「ど、どういうことだぁ……?」

 

 私はアンバーが見ていることもお構いなしに、そのまま10秒以上もパイモンを抱きしめ続けた。パイモンも途中から諦めたのか、抵抗しなくなった。

 

 

 

 「――ねぇ、得体の知れない旅人さん、何しにモンドへ?」

 「蛍は遠い遠い旅の途中で、兄と離れ離れになってな。オイラはこいつと一緒にその兄を探してるんだ」

 「へぇ……家族を探してるのね」

 

 私とパイモンは、アンバーに連れられ森の中を移動することにした。一度は森から出たけど、また別の森に入り直した形になる。正直なところ早くモンド城(街)に行きたい気持ちはあるけど、そこはぐっと堪えて我慢。

 ちなみに私は、さっきの反省を踏まえてアンバーとのほとんどの会話をパイモンに任せている。……無口な変なヤツって思われてないかは心配だけど一旦気にしないことにしてみる。

 

 「…………そうだ! 今請け負ってる任務が片付いたら、城内にお知らせを貼ろうか!」

 「お知らせ?」

 「そう。モンド城にはよく掲示板や張り紙があってね、その中には尋ね人のものもあるから――」

 「そうか! もし城の目立つとこにそれを貼っておけば、勝手に情報が集まってくるってことだな!」

 「まあ、モンド城の中にお兄さんをのことを知っている人がいる前提の話だけどね」

 

 ……あれ? これは、本当にパイモンに会話するのを任せてた方が事態が良い方に転がる感じ? 物理的には私の方が大きいんだけど、こうなると私がまるで邪魔な置物みたいに思えてくるかも……。

 パイモンの優秀さを初めて正面から認識したかもしれない。

 

 「そういえば、任務ってなんなんだ?」

 「簡単よ、見ればわかるわ――」




アンバー:アンバーは西風(セピュロス)騎士団の偵察騎士、偵察騎士がすでに没落した今の代でも、彼女は一人でその職務を全うしている。
初めてモンドに来た人でも、3日しないうちにこの炎のように熱い少女と打ち解けられる。
どんなありえない場所にも、たとえそれが「鹿狩り」の看板の前、シードル湖の岸辺、風立ちの地のオークの木の上、この機敏な赤い騎士はその足跡を残した。
そのため、彼女が目をつけた「不審者は」彼女の質問から逃れることはできない。
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