「それにしても、でっかいお堀に石橋だなぁ……。モンド城の周りを全部この幅の堀で囲ってるのか?」
「そうよ。そして、その堀を越えて城に行くためにはこの石橋を渡るしかないの」
近づくとより実感するけれど、モンド城はかなりの大きさの都市だ。
それに、城郭都市によくある形式だけど、街全体を高い城壁で囲っていて、深くて幅の広い堀で周囲を囲っている――いや、違うな。暗くてよく見えないけど、多分そこそこの大きさの離れ小島の上にモンド城という大きな都市を作ったのだと思う。天然のお堀だ……都市を造るのは大変だっただろうけど、お堀の管理コストはゼロに近いだろう。
そんなモンド城に行くためには石橋一本だけしかルートがない。あのドラゴンのように空を飛べる怪物や泳げる魔物には話は別かもしれないけど、城郭都市ならではの高い防衛力の高さを実感する。
「パイモンなら空を自由に飛べるから、お堀も城壁も関係ないけどね」
「おいおい、オイラをなんだと思ってるんだ? 犯罪なんて怖くてできないぞ……。いくら食べるのが大好きなオイラだって、食い逃げもしない!」
「……本当にお願いね? 私まで共犯ってことになっちゃうから」
「ね、ねぇ、
本当にそう。犯罪で騎士団に捕まりたくないし、それが知り合いの仲良くなった騎士だなんてなおさら。恥ずかしさよりも申し訳なさが勝ちそう。
だいぶ城門に近づいて、門兵の騎士も2人持ち場についているので流石に黙る。
「おかえりアンバー、そちらの方は?」
「お疲れ様ですロレンスさん。道中出会った旅人さんだよ。家族を探して旅をしてるみたい」
「なるほど、それはお気の毒に……。モンドへようこそ。あなたの旅が順調にいきますように」
何も、本当に何もやましいことはしていないのに、初めて入る都市に入る時、特に衛兵の横を通る時にこんなに緊張してしまうのは何でなんだろう? 何度か経験しているのに未だに慣れない。今回は優しい言葉を門兵さんがかけてくれたけれど、無言でほほ笑みながら会釈することしかできなかった。
自分のことだからよく分かってるけど、どうせ数日も過ごして「自分の街」と認識するようになったら逆に緊張なんか微塵もせず、下手するとあくびしながら通ってしまったりするのに。不思議だ。
「あらためて紹介させてもらうわ。風と
大きな城門をくぐるとすぐ、私たちに向き直って、とても良い笑顔でアンバーが歓迎してくれた。同年代だしかわいいし、この短い時間でも分かるくらい良い子だし、仲良くしておきたいなぁ……。もう警戒されちゃってるし無理かなぁ……。
「なんか……城内のみんなはあまり元気じゃなさそうだ。街の規模にしては活気がないような?」
「夜というのもあるけど、最近はみんな風魔龍の件で頭を悩ませてるからね。でも、ジンさんがいれば、きっと全てうまく行く!」
「「ジンさん?」」
「西風騎士団の代理団長――ジン。モンドの守護者だよ。ジンさんが一緒なら、風魔龍レベルの災害でも、きっと打ち勝てるはず」
誰だろう? 名前からして男の人――それもかなり強くて頼りになる人なんだろうな。とにかくすごい人みたいだ……風神のことを知ってるといいんだけど。
私がこの都市に来たのは、お兄ちゃんを連れ去った神の手がかりを掴むため。そのために風神を探したり情報収集をするためだ。目的は忘れちゃいけない。
「そうだ、実はあんたに渡したい物があるの。さっき一緒にヒルチャールの巣を片付けてくれたお礼にね」
「おいおい! オイラにはないのかよ?」
「えっと……パイモンちゃんには使えない――使う必要がないものだからね。でも、今度モンド名物のニンジンとお肉のハニーソテーをごちそうしてあげる」
「ニンジンと! お肉の! ハニーソテー! えへへ、名前を聞くだけで美味いことが分かるぜ」
不満顔だった表情が一変、キラキラと目を輝かせはじめた。あっさりとご飯に釣られるパイモンは本当にチョロい。パイモンは食欲の強さが一番の欠点だと思う。それがなければなぁ……。
「ただ、私はこれから報告書を書かなくちゃいけないから……明日のお昼前に、高いところで集合しましょう」
「高いところ?」
「そう。あの、大きな神像が見える? あそこはモンドの中でも結構高い位置にあるから、そこの近くで」
「分かった。私たちも宿屋を探さないといけないから、とりあえず今日はこれでお別れだね」
もうすっかり日も暮れてしまった。今から泊まれるような宿屋なんてあるのかな……。正直手持ちのお金(この世界では共通単位「モラ」)もそんなにないから、ひとまず一泊できたら、翌日以降の宿代は何か仕事をして日銭を稼がないと……。
――あれ? もしかして、野宿の方が楽? いやいやまさか……。
「そうだ、モンド城の地図をあげるね。それに宿屋の場所も書いてあるから、そこに行ってみて。ホテルって書いてある方は今貸し切り状態だから、宿屋の方ね」
「おぉ! さっすが騎士団、用意がいいなあ」
「いろんな種類の要望に応えられるよう、きちんと準備しとかないとね」
仕事のために小走りで街の奥へと消えていったアンバーを見送ると、私たちも貰った地図を片手に宿屋を探しはじめた。幸い城門からそんなに離れていない場所だったからすぐに見つかったんだけど――。
「あー、旅人さん。さすがにモラが足りないよ……」
「い、一泊じゃなくって、何日も泊まるからさ! サービスしてくれよ!」
「そうしてやりたいのはやまやまなんだが、最初の一泊分すら払えない人たちが何泊ものお金を支払ってくれるとどうやって信じればいいんだろうね」
「うぅ……」
現在。所持金約1000モラ。ヒルチャールの持っていた宝箱に入っていた分だけ。せっかく街に着いたのに、宿屋に泊まれないかもしれない……。
というか、野宿で今まで何の問題もなかったんだよね……。調理道具は元々カバンの中に入っていたし、食材は現地調達できた。私はこれまでの旅の経験で慣れてしまったので野外でも寝られるし、パイモンは寝るときすら浮いていることも。
つまりどういうことかというと、これまでの旅ではモラの心配をする必要が一切なかった。使わなくてよかったから。
「とりあえず……大通りに出てみようぜ。今からでも軽い仕事で稼げるかもしれないし」
「……そうだね。宿屋の前であれこれ考えてても何も進展しないしね」
モンド城:風は蒲公英の種と詩歌と物語を遠くへ運び、穏やかな旅人を連れてくる。モンドへようこそ。