「大通りはまだ活気があるね」
「うう……いろんなところからお酒の匂いがするぞ」
「パイモンはお酒苦手なの?」
「お酒というより、酔っぱらいが苦手だぞ。というか、オイラだけじゃなくてみんなそうじゃないのか? おまえはどうなんだよ」
「私は……そこまででもないかな。もし性質の悪い人に絡まれても吹っ飛ばせるし」
「な、なるほどなぁ……」
夜も浅く人通りは昼と遜色ない。まだ飲食店含めてお店は開いているし、街頭も着いていて明るい。
それはいいんだけど、流石にこれから軽く働いて小銭を稼ぐとかは厳しそう。みんな仕事を終わらせて飲みに行ってたり閉店準備を始めてたりしていて、一日を締めにかかっている人がほとんどだ。
これからが本番という店は――やっぱり居酒屋かな? 大きな居酒屋を探して、単発の給仕の仕事とかをもらえないかな。パイモンもいるから変な絡まれ方するかもしれないけど……宿泊代のためだ、背に腹は代えられない。
「ん? あそこのお姉さんが手を振ってるぞ、蛍。行ってみないか」
人の流れを見て大きな居酒屋のある方向に当たりをつけて移動していると、パイモンがそう呼び止めてきた。見ると、城門近くの建物の角に狭いけど屋根付きの半円形のスペースが設けられていて、カウンター的な場所に1人で立っている白いドレスのお姉さんが微笑みながらこちらに手を振ってきていた。
屋根には大きくコンパスのようなマークが掲げられていて、カウンターの中には女性が1人と大量の本、宝箱など。正直とても怪しいのは否めないけど、私は女性だから恋愛詐欺とかでもないだろうし、こんな目立つ場所で悪事を堂々とは働けないだろうし……。
私は一縷の望みをかけてお姉さんの方に向かった。
「冒険者協会へようこそ。あなたのことは観察させてもらいました」
――カウンター前に着くと出し抜けにそんなことを言われた。やっぱり来るんじゃなかったかな……。
「蛍を観察? こいつなんかしたのか?」
「いえいえ。優秀な冒険者を見つけることも、私の仕事ですから。あなたから、伝説の冒険者たちと肩を並べられるほどの素質を感じます」
「へへっ、それはオイラも分かるぞ。蛍と一緒にいると、安心できるんだ」
パイモンがとても嬉しいことを言ってくれている。今までも何回か呆れられたりしてるけど、まだ一緒にいると安心してくれるらしい。まぁ、私はパイモンのことを性的な目で見るような変態でもなければ売り飛ばしていくらになるか考える外道でもないからね。パイモンは空飛ぶ精霊的な何かだと思うし、少なくとも普通の人間じゃないのは確かだろうから、きっと今までも苦労してきたんだろうな……。
「この施設とかについて説明してもらえますか?」
「ああ、申し遅れました。私はここ――冒険者協会の受付係、キャサリンです。冒険者協会は七国各地の冒険者たちが立ち上げた支援組織です。新米冒険者たちがよりスムーズに冒険生活に慣れるように、ベテラン冒険者たちがより自由に冒険できるように……協会は冒険者たちから入手した情報をまとめ、冒険任務を冒険者たちに配ります」
「なるほど……」
そういえば、さっき出会ったリンさんも冒険者協会に所属してるって言ってたよね。割と冒険者って多いのかな。となれば比較的信用度は高いのか……?
「冒険者にとって素質よりも経験の方が大事です。〈冒険経験〉を積み重ねることで〈冒険ランク〉が上がります。早速、新しく入ってきた冒険者に紹介しますね」
「待って! オイラたちもう正式な冒険者になったのか?」
「安心してください。冒険者協会には会費を払う必要も、強制的な義務もありませんから。つまり、協会に入ったらメリットだらけ、デメリットはありません」
あ、怪しい……。本当に何一つ手続きとかをしていないのにいつの間にか加入されている、初めの頃はデメリットなんてなくメリットしかないと強調する、というのは典型的な詐欺のパターンじゃない……?少なくとも、こんなに早く簡単に加入できるということは、〈冒険者〉という身分は社会的信用度を保証するものではなさそう。
「ご安心ください。多くの成果を上げている冒険者ランクの高い冒険者の方々はやはり有名になりますし、知名度に伴って社会的信用度も高まっています。また、有名になれば『あの冒険者に依頼したい』と指名される場合もあります。あなたの実力はなかなかのものとお見受けしますし、やはりメリットは大きいかと」
なるほど……。考えるに冒険者というのは、協会から依頼を受けて、それをこなすことにより報酬をもらう。依頼内容に関しては〈冒険者ランク〉の高さや知名度に応じて受けられるものが広がっていく、という感じか。
「分かった……今メリットがほしい!」
「はは……今時の新人は率直ですね。とにかく、冒険ランクが上がる度、冒険者協会から報酬をもらえます。冒険ランクは基本的に、魔物の素材を持ってくる、街の住人の依頼をこなす――これは口コミに依るところが大きいです――それと冒険にまつわる様々な情報の提供によって上がります」
「魔物の素材?」
この2ヶ月間ずっと外にいたし、積極的に戦闘したわけじゃないけれどかなりの数のドロップ品――素材は手に入れてる。とはいえスライムとヒルチャールのものだけだけど。1つ1つはそんなに高額じゃないだろうけど、ある程度まとまった数になればそれなりの値段になるはず。
特殊そうなヒルチャールや見たことのない赤や水色の魔物なども見かけたけど、パイモンに「やめとこうぜ」って止められてる。強くて危険なんだろうけど、これからはああいった魔物とも戦っていこうかな……元素の力も手に入れたことだしそれなりには戦えるでしょ。
そんなことを考えつつ「これでいいですか?」と言いながらカバンからこれまでの入手した魔物の素材をカウンターに乗せていく。ヒルチャールの仮面やスライムの液体。ちなみに「液体」とは言っているけどかなり弾力のあるゼリーのような感じで簡単に掴めるのでカウンターに置いても問題はない。
――んー……数えやすいようになるべく並べてたんだけど、そろそろ置くスペースななくなってきたな……。もうそんなに数はないけど、一旦回収してもらえないかな?
「お、おい蛍……」
ちょっとカウンターの素材を回収してもらおうとお願いするために顔を上げてキャサリンさんを見ると――「何だコイツ」みたいな表情で固まってた。パイモンもそんな様子を見てか、若干私から距離を取っていた。それは許さない。パイモンの手首を捕まえて引き寄せる。いつもより体が固かったけど気のせいでしょ。きっと初めての施設で緊張してるだけ。
「す、すみません。これらの素材は一体どのようにして……?」
「私、ずっと野外にいたんですよ。だから積極的に戦ってはいないんですけどどうしてもそれなりの数溜まっちゃって」
「ちなみにどのくらいの期間で集めたものですか?」
「大体2ヶ月くらいですかね?」
「2ヶ月ですか!?」
え、そんなに驚かれるようなことなの? もしかして、そんなに長いこと野外で野宿生活する人はモンドでは蛮族認定されたりする?
「大変失礼致しました。これだけの素材でしたらそれなりの金額でお引き取りが可能です。また冒険ランクも一足飛びに上がります。――少々お待ちください」
そう言うと、キャサリンさんは後ろを向いて金庫らしき大きな宝箱を漁ったり棚からいくつかの箱を取り出していくつか物を取り出し始めた。いや、本当にありがたいことだし、追加で働かなくてもモラをもらえるのは願ってもない話なんだけど、なんか釈然としないような?
うーんと腕組みして唸っているとキャサリンさんの方は一段落したらしい。すっかりカウンターに置いた素材は全て回収されていて、代わりに2つの袋と一つの木箱が置かれていた。
「まずは素材の換金からお話します。後でご説明しますが、まずはこちらの袋に入った金額、合計53980モラとなります」
「ご、5万だって!?」
「はい。高額になるものは特にありませんでしたが、何分数が多かったのでこのような金額となりました。内訳につきましては少々お待ちください」
「おい蛍、これから毎日魔物を狩ろうぜ!」
「毎日は流石に嫌だよ……ねぇパイモン、私は別にバトルジャンキーじゃないんだよ?」
でも、こんなに高額になるのは流石に驚いたな……。今日入会したような新米がこんな大量の魔物の素材を出してきたらそりゃああんな反応にもなるか。納得だ。
でも、これで長期的にも資金繰りの心配をしなくてよくなったのは一番の収穫だ。時間も手間もかかるけど、魔物を倒すこと自体は今のところそこまで危ない目に遭ってない。だからお金に困ったらしばらく外に出て積極的に魔物を探せばなんとかなりそう。
「それと、これは冒険ランクが上がった報酬です」
「おっ、さっき言ってたやつだな!」
「ええ。蛍……さんですね。あなたは冒険ランクが4まで上がりましたので、こちらの報酬をまとめて受け取っていただけたらと思います。」
2つ目の袋には20000モラが、また木箱には地図が3枚と紫色の……石? がいくつか入っていた。
「こちらは仕上げ用の鉱石でして、武器の手入れに使えます。鍛冶屋さんに依頼すれば確実に武器の品質や耐久度などを伸ばしてくれます。また、技術や道具があるならご自分での手入れも可能です」
「なるほど……魔物を倒すには武器が必要だからな。それも、強い魔物には強い武器が。確かにこれは必要な道具だぜ」
魔物を倒して素材を渡すだけで生活に必要なお金は十分に手に入り、そのための支援物資も自分のレベルに応じて支給もしてくれる……。確かに、実力さえあれば冒険者として生活するのは全然アリな選択だ。
騎士団に入る方が公的な身分や社会保障とかは充実してるんだろうけど、それはこの地に定住することが条件になるからなぁ。私のような旅人にとってはこんなにありがたいシステムはない。
「それとこちらはモンド地域全体の地図ですね。どれも同じ物ですが、冒険者の方ですと地図に色々と書き込むことも多いと思いますので3枚入れておきました。追加でご入り用でしたらまたお声がけください」
「地図に書き込み……? そんなことするか?」
「ふふ、きっと冒険を続けたら分かると思いますよ」
そこでふと「あっ」という表情をしたキャサリンさんはしゃがんで一冊の本を取り出すと、何食わぬビジネススマイルで渡してきた。ついさっきまでこの冊子のことを忘れていたなんて微塵も感じさせないプロの表情だ。
「改めて入会を歓迎します。冒険者の新星! これはあなたの〈冒険の証〉です」
「証書もあるの? これは……宣伝冊子?」
「新人の加入はとても大事なことですかから、当然です。これには協会の依頼や報酬に関する情報がたくさん載ってますから。会員の証明でもありますから、きちんと保管してくださいね。」
「蛍、オイラにも貸してくれよ。――あ、ホントだ。魔物の素材ごとの報酬も載ってるぜ」
これを無くすわけにはいかないな……。パイモンから返してもらった冒険の証をカバンの中の【大事な物】のカテゴリの中に入れた。他の物とごちゃごちゃ混ざらないように。ちなみに魔物の素材は【魔物の素材】という枠を別途定めてて、全部その中に入れるようにしている。
「それと、もうひとつ。〈冒険ランク〉が上がりにくいと感じる時がたまにあると思いますが、その時は『印象に残る任務』をクリアすることで協会の認可をもらえますよ」
「印象に残る任務……?」
「〈冒険ランク〉の上限を突破するための〈突破任務〉と言ったほうがいいかもしれませんね。今はまだその時じゃないですが、あなたの〈経験〉が多くなれば、みんなの認可をもらえるチャンスも増えてくるはずです」
「ど、どういう話なのかオイラにも分かるように教えてくれよ! 今の説明じゃさっぱりだぞ」
「あまりないことですが、協会に依頼のあったものではなくとも、何か大きな事件を解決したとか、公的な大会で優秀な成績を収めたとか、公的な表彰をされたり階級を授与されたり、ですかね。直接冒険者協会からの依頼ではありませんが、こういったものもその冒険者さんの実力や信用を保証するものとして、例外の任務とすることで冒険ランクを上げられることになっているのです。冒険ランクが上がるにつれて次のランクに進む条件が厳しくなるので、後々はこういったものも必要かと」
「な、なるほどな……。まぁ、相当後の話だろ。今入ったばかりだしな」
冒険者協会は柔軟な対応をしてくれて、実力とかを認めてくれると。考えてみると、こんなに簡単に冒険者になれて名乗れるのなら、その実力も玉石混交だろうしね。それに、実力ばかりあっても悪人に重要な依頼をするわけにはいかないし、こういった仕組みは必要なのかも。
「では今日はここまでにしましょう。これからどんどん会う機会も増えると思いますから。頑張ってくださいね、冒険者さん。星と深淵を目指せ!」
「おう、またな!」
「ありがとうございました、キャサリンさん」
「あ、もっと気さくに接していただいても大丈夫ですよ。場合によっては毎日のように顔を合わせるかもしれませんし、気楽に来てほしいですしね」
「分かった! またな、キャサリン!」
「またね、キャサリン」
「ええ。またのお越しをお待ちしています」
冒険者協会:「星々から、黄泉まで」と言っているが、実際は「猫探し」から「秘境探索」までが仕事らしい。星空を仰ぎ、深淵を見つめる、何事も地道に行かないと。
※このタイミングでこの世界任務は本来受けられません。