禪院家の面汚し 〜ゴリラとドブカスを添えて〜   作:とある禪院家のブラコン

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報告、そしてサンドバッグ

 

 

 

 

「術式発現しました。相伝じゃなかったです」

 

「……」

 

 

ガン無視ですか。そうですか。

あ、お父さま溜め息ついた。でもこっちへの目線は相変わらず無し。

 

 

「……用が無いなら出て行け」

 

「はい」

 

 

私は速やかにお父さまの部屋から出て行った。

 

終わった。

 

 

 

 

 

 

呪術師は自分に発現した術式がどのようなものなのか、ぼんやりと理解するところから始める。

 

これが相伝術式なら滅茶苦茶詳細な説明が記された書物とかがあるんだけどね。

 

ただ、私の術式も同一とは言わずとも似たようなタイプのものが過去にあったみたい。

私は急いで禪院家の車庫にある参考になりそうな本をかき集めた。

当主の娘権限の濫用である。

 

ちなみに今は呪具の保管庫にすら入れる権限があるけど、これらはその内没収されてしまうだろう。

なぜなら私の術式が"ハズレ"だから。

 

つまり私は早急に自分の術式を解析する必要があった。

 

そうして部屋に篭って解析を続けた私は自分の術式を"変身(コピー)"と名付けた。

 

そしてまず嬉しい発見があった。私の術式の特異性だ。

 

外見を真似るような術式は多くあるけど、私の場合は内臓まで再現できる。本当に"全部そっくりそのまま"他人に変身できるのだ。

 

 

「これが何の役に立つのかはまだわからないけど、他と違うところがあるってことは強みになるはず……!」

 

 

この原因は多分術式のトリガーが"血のみ"なことだと思う。

 

文献では血の他に爪とか髪の毛のようなものを媒介にできるものが殆どで、そういうパターンだと外見だけのコピーに留まる術式が多かった。

 

 

「縛りみたいに機能してるのかな? あとは私の生得領域が関係しているとか。ああ、領域展開できたらいいなぁ……極の番すらわからないけど」

 

 

ちなみに内臓までそっくりさんになれることはみんなに内緒にした。

だってこれ言ったらお魚さんみたいに捌かれそうだし。

 

あとは術式の燃費についてだけどこれもかなり良い方だと思う。

私の術式は発動の際に呪力を消費するだけで、あとは取り込んだ血液の量で持続時間が決まる。

 

炊事場での出来事を思い出せば一滴あれば数分は変身が継続していたし、それを考えればコップ一杯あれば一日中は維持できるはず。

 

潜入任務とかに使えるかもしれない。

これは結構なアピールポイントかも。

 

一方で最大の問題点について頭を悩ませることになった。

 

 

「誰が血を用意するの……?」

 

 

誰かに協力してもらうか。それか独力で血を採取できるくらい身体を鍛えるか。

私にはこの二つしか思い付かない。

 

そして禪院家の誰かが私に協力してくれるか? 答えは否だ。

 

 

「よし、身体と呪力操作鍛えよ」

 

 

方針は決まった。術式の解析も楽しかった。

 

落伍者の烙印を押されたとしてもこの術式は私だけの力だし、好奇心は元々強い方だったからそれを満たす行為は楽しかった。

 

でもその一方で虚しさも積もっていった。

 

私のソレは禪院家において"ハズレ"の術式。

禪院家では相伝であるか否かが絶対だから。

 

なんとか術式発現までのタイムリミットには間に合ったけど、私は女で発現した術式は相伝じゃなかった。

 

だから私が役立たずという現実は変わらないわけなのです。つらいね。

 

 

「術式まで模倣できるんだったらまだ良かったんだけどね……」

 

 

これも問題点だった。

この家では戦闘で使えない術式は特に風当たりが強くなってしまう。

 

もし術式の模倣ができたら、強い術式持ちの人を模倣してその人と連携して実質出力二倍って感じで戦闘面で役に立てたのにな。

 

実際、女の人でも戦闘力を買われてサンドバッグや雑用(奴隷)を回避して人間様の露払い係になれたってパターンもあるみたいだし。

 

あとは一応お父さまも女とはいえ当主の実子がこのままサンドバッグ係確定なのは嫌だったのか、あのあと私を呼び出して色々試してくれたんだけど……全然挽回できなかった。

 

自尊心ポッキリです。

 

いやぁ、それにしても術式の模倣を試してみてできなかった時の周りの人たちの落胆の表情といったら……ね。

せっかく血を提供したのにって大人の男の人についでみたいに殴られちゃった。

 

痛くて泣きそうだったけど耐えた。

そしたらもう一発殴られた。泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

さて、私はめでたサンドバッグに就任したわけですが。

なんと不幸はこれだけに留まらないのです。

 

術式発現の瞬間をみんなに見られちゃってたので、炊事場での私の奇行は人伝いにじわじわと拡散されていった。

 

そして"無能なくせに血を吸うのが好きな異常者"という噂話が広まりきった頃、私の当主の娘としての権限は殆ど剥奪された。

ついにきてしまった。

 

禪院家のあらゆる人間が私を嫌悪し、その結果私のヒエラルキーは最下層付近まで真っ逆さま。

 

当主の娘だっていう事実は変わらないのでその最後の砦のおかげで表向きは待遇は変わってないけど、実態は酷いものだった。

 

 

「服の下はいつもアザだらけ……いたた」

 

 

ちなみにお父さまはこのことを知ってる。

 

いや、愛娘かつ六歳児をボコボコにされてるのになんでなにも言わないの? おかしいでしょ。

 

あ、ここ禪院家だったわ。おかしいの私だった。

 

つまるところ私は当主公認で"気持ち悪いからこっそりならいじめていいやつ"になってしまったのだ。

そりゃみんな率先してサンドバッグにするよね。

 

呪術師として禪院家の役に立てないならせめてサンドバッグとして役に立たないとね。なんて思うわけないだろバーカ。

 

嘘です殴らないでごめんなさい。

 

孕み袋も絶対嫌だったけど、自分より体の大きな人たちに常に暴力を振るわれるのはシンプルにつらかった。

 

 

「みんなが敵。何時も油断もできない。だから敵対者の気配を察する力と咄嗟の呪力操作は結構上達した気がする……いやこれ良いことかなぁ……?」

 

 

強くなるのは良いことのはず。呪力操作が上手くなれば術式だってもっと上手く使えるようになる。

 

でも冷静に考えると"殴られる瞬間にお腹に程良く呪力を固めるのが得意な六歳児"ってなんだよってなっちゃう……かなしい。

 

 

「あーあ。私が生きてる意味ってなんだろ」

 

 

私はケガの手当てをするのも上手くなった。

布団の中でこっそり泣く日が増えた。

 

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