禪院家の面汚し 〜ゴリラとドブカスを添えて〜   作:とある禪院家のブラコン

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愛、そして生まれた意味

 

 

 

「遅ればせながら甚爾お兄さま。この度は助けていただいて誠にありがとうございました」

 

 

折れた足を無理やりに曲げて正座をし、痛む指先を丁寧に床につき、深々と頭を下げる。

 

私は甚爾お兄ちゃんに全身で心の底からの感謝を伝えていた。

 

本当にありがとう。お兄ちゃん。

 

 

「顔上げろ。あと寝てろ。変な無理すんな。そういうの気持ちわりぃんだ。あと俺は何もしてねぇよ」

 

 

迷惑そうな顔だなぁ。でもやっぱりかっこいいな。

と、見惚れるのはそのくらいにして。

 

お言葉に甘えて布団に体を横たえることにする。

そのままお兄ちゃんの目をまっすぐ見て私の気持ちを伝える。

 

 

「沢山してくれたよ。お兄ちゃんのおかげで私は今生きていられる。そういえば一瞬とはいえ同じ姿になったわけだし、私とお兄ちゃんってもう一心同体だね。あ、私が死んでもお兄ちゃんは生きてるから違うか。なーんだ、残念。でも片想いも悪くないよね。私追われるより追う方が好きなタイプだし」

 

「なんだコイツ……急に元気になりやがって。人選間違えたか? おい、とりあえず黙れ」

 

「ふぁい」

 

 

顔面を片手で掴まれてタコさんみたいにされる。

いやん、乱暴。でもそんな甚爾お兄ちゃんも悪くないよ。

 

そしてやっぱり他の人たちとは全然違う。

お兄ちゃんはやっぱり優しいね。

私、呪力ガードも何もしてないのに痛くないよ。

 

甚爾お兄ちゃんって本当は力がすごく強いのにね。

私、どんどんお兄ちゃんのこと好きになっちゃう。

 

 

「ふぇへへ」

 

「笑うな。黙ってろ」

 

「ふぁい」

 

 

怒られちゃった。でも仕方なくない?

念願の会話だし、思ってた以上に優しいんだもん。

 

その上で命の恩人だし。

 

そんなお兄ちゃんのこともっと知りたいとか、意外と優しいっていうみんなの知らない一面を見られて嬉しいって思うこととか普通だと思うな。

 

っていうか今のこのシチュエーション、めっちゃ"王道の逢瀬"じゃない?

許されない罪を背負った二人が親の目を盗んで夜にこっそり密談する……う、うわー。これすごい。

 

いや別に恋愛感情は無いけど流石にドキドキしちゃうというか。

 

やばい、テンション上がってきちゃう。

 

 

「あー……まだるっこしいのは苦手だ。俺の質問に答えろ。嘘はつくな。話したくなけりゃそれでいいが、余計なことは話すな。いいな?」

 

「うん。なんでも答えるよ」

 

「ああ? そりゃ縛りか?」

 

「お兄ちゃんが望むならなんでも答えるよ」

 

 

お兄ちゃんはガリガリと頭を掻く。

面倒くさがってるな? でもやめてあげない。

 

これが私なりのお兄ちゃんへのお返しだから。

 

 

「……とりあえずどうやって俺の姿になったんだ? 詳しくは知らねーけど血が必要なんだろ? 俺はお前に血をやった覚えもないし会ったこともないはずだ」

 

 

会ったことはあるよ!

まあ余計なことだから言わないけど。

 

 

「血は懲罰房の床にこびりついてたのを勝手に貰っただけ。私に協力者がいてこっそりお兄ちゃんの血を盗ってきた、なんてことはないよ」

 

「……術式の詳細は? 真似できるのはガワだけだって話じゃねーか」

 

「お兄ちゃんの血を飲んだ後から術式も模倣できるようになったよ。お父さまは今もできないと思ってるけど」

 

「あー……俺の血でバグったのか? あとそれを俺だけに明かす意図は?」

 

「お礼だよ。私はお兄ちゃんのおかげで今生きてるし、これまでもずーっと助けてもらってた。だから少しでもお返しがしたいんだ」

 

 

察しの良いお兄ちゃんならこれでわかってくれるでしょ?

 

私が私の命運を完全に甚爾お兄ちゃんに委ねたことを。

 

 

「お前……」

 

「甚爾お兄ちゃんはいつか絶対に禪院家を出て行く。私と違ってお兄ちゃんにはそれができる力がある。そもそもお兄ちゃんみたいにかっこよくて優しい人はこんな家には似合わないよ」

 

 

お兄ちゃんの目つきがそろそろ怖くなってきた。

でも私は話すのをやめない。伝えなきゃ。

 

多分、これが私が生まれてきた意味だから。

 

私の"終わってた人生"に少しの喜びと希望、そして楽しみを与えてくれたお兄ちゃんに、私の残りの人生をぜーんぶ使ってお返しをするんだ。

 

クソみたいな禪院家に貢献なんて絶対してあげない。

私は私のことを尊重してくれる人に尽くしたい。

 

 

「私はお兄ちゃんがどういう出て行き方をするつもりなのかはわからないけど、いずれにせよ私の情報が役に立つことは間違いないよ」

 

 

だから、その時は遠慮無く私を使って欲しいな。

 

ついでにこの家に手痛いダメージを与えてくれたら嬉しいけど、まあそれはお兄ちゃんがどう思うかだからね。

私が何か言うことじゃない。

 

 

「ずっと考えてたけどお兄ちゃんと話してみて色々思い付いた案があるんだ」

 

 

まずは五条家か加茂家に私の情報を売り渡すとか。

私の術式を巡って御三家がドロドロの争いを始めそうだし、そのどさくさに紛れて脱走後のお兄ちゃんが生き易くなりそうだから私的にも嬉しい。

 

あとは単純に私の身柄を他家に売り渡すパターンだね。

 

これだと最近落ち目の加茂家あたりからかなりの額のお金が手に入るんじゃないかな?

プラスしてすごい呪具とかも手に入るかもしれないし。

 

あ、でも禪院家からの恨みを買い過ぎちゃうから悪手か。

他家の庇護下に入るのはお兄ちゃん嫌いそうだし、我が家の追っ手って滅茶苦茶しつこいだろうしなぁ。

 

最後は呪詛師に売るパターンだけど……これは個人的にはやめてほしいかな?

変な趣味の呪詛師にとっ捕まって解剖とかされそうだし、何より御三家に売るより圧倒的にお兄ちゃんにとっての旨味がないからね。

 

でも結局のところ決めるのはお兄ちゃんだから。

すっごい切れ者だし私より良い案出せるでしょ。

 

ぜーんぶ任せるよ。

 

 

「どう? 私を使えば明るい未来がよりどりみどりの選び放題だよ、甚爾お兄ちゃん」

 

 

私は渾身のドヤ顔をキメた。

お兄ちゃんの表情は……おお、これが能面みたいな表情ってやつかな。

怖いけどこれはこれでいいね。

 

 

「……選択肢はまだあるぜ」

 

「あれ、もう思いついたの? さすがおにー……あれ?」

 

 

気付けば私は布団の上で音も無く組み敷かれていた。

 

全然見えなかった。すごい。

別に体重をかけられてる感覚は無いのに全然体が動かせない。

 

単純な暴力に加えて卓越した身体操作能力。

これで頭もキレるんだからやっぱり甚爾お兄ちゃんはすごい。

 

 

「お前に今ここで俺の血を大量に飲ませる。そしたら俺の姿になって暴走すんだろ? お前が暴れて大騒ぎになってる間に、本物の俺は蔵の高価な呪具を全部かっぱらってこの家とオサラバ。お前がこの家を全部ぶっ壊せたら追っ手も来なくて万々歳。途中で力尽きてもその頃には俺は雲隠れで悠々自適な人生を過ごせる。どうだ? 名案だろ」

 

「……ぶっ飛んでるね。でも、それが最適かも。さすがだね」

 

 

明日にもお父さまが私の術式の覚醒に気付くかもしれない。

そうなればさっき話した私のお粗末なプランは全部パーだもんね。

 

うんうん。それなら今から実行するのはすっごく合理的。

 

私を優しく抑え込んでいるお兄ちゃんは黙って自分の腕を切り裂いた。

布団に派手に血が飛び散る。ああ、勿体無い。

 

そのまま腕が私の口に近付けられる。

私は滴り落ちる血に躊躇無く舌を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいたっ」

 

 

恐ろしく速いデコピン。

 

おあずけされちゃった。

私はいい子だから渋々舌を引っ込めることにした。

 

 

「ばーか。ナメんなよ。ガキの手なんざ借りなくても俺はこの家を出て行ける。たっけー呪具だって全部持ち出してやらぁ」

 

 

普通に滅茶苦茶痛い……でもなにこのツンデレの見本みたいな行動。

可愛いかよ。

 

 

「ふふ」

 

「何笑ってんだ……今日はもう寝ろ。お前、俺の血でハイになってて自分で何言ってるかわかってねぇだろ。とりあえず頭冷やせ」

 

「えへへ……待ってるよ。あとお兄ちゃんはやっぱり優しいね」

 

「……」

 

 

無視ですか。

でも悪くないよ。胸がとってもポカポカしてる。

 

あ、でもこのまま帰らせるわけにはいかないかな。

もうちょっと存在感をアピールしとかないと「俺に妹なんていたっけ?」とか本気で言って私のとこに二度と会いに来てくれなさそうだし。

 

 

「甚爾お兄ちゃん、ちょっと部屋の周辺で監視してる人たちを眠らせてくれないかな。大事なことを伝えたくて」

 

「ああ? なんで俺が……いや、いい。どうせまたなんかとんでもない隠し球があんだろ? やってやるよ」

 

「ありがとう」

 

 

その後、ものの数十秒で戻ってきたお兄ちゃん。

もはや驚きも無いね。

 

ではではご覧あれ。私のもう一個のアピールポイントを。

 

 

「お兄ちゃん、腕貸して」

 

「ん」

 

 

素直で可愛いかよ。

じゃなくて。私は"正の呪力"をお兄ちゃんの真新しい腕の傷口に流し込んだ。

 

ゆっくりと傷が治っていく。

その様をお兄ちゃんは流石に驚きの表情で見守っていた。

 

ふふん、どうだ。

読み漁った文献にも"反転術式のアウトプット"はかなりのレアだと記されていたからね。

 

まあ、タネも仕掛けもあるんだけど。

またまたお兄ちゃんの血のおかげだね。

もはや万能薬なのかな?

 

 

「……他者への反転術式の行使だと? いよいよぶっ飛んできたな。俺の血ってそこまで便利なもんなのか……?」

 

「さっきは冗談みたいに言ったけど、私って一瞬だけどお兄ちゃんと同一存在になってたんだよね。だからお兄ちゃんに対してなら私自身への行使と同じ感覚でいけるし、難易度は低めなんだ」

 

 

私に発現したお兄ちゃん限定の能力……運命的だね。

個人的には嬉しいな。あ、お兄ちゃん嫌そう。

 

 

「お前、顔に出過ぎだ。つーか術式の反転自体も難易度はたけぇだろ。そもそも反転はいつ覚えた?」

 

「それもお兄ちゃんの血を飲んだ後にだよ。あの時に"利用するはずの血の情報から逆に乗っ取られる感覚"を滅茶苦茶に叩き込まれたからね。その時に"反転の感覚を掴めちゃった"んだ。忘れようとしても忘れられないくらい激しかったなぁ。それで掴んだ術式反転のイメージ通りに反転術式をやってみたらできたって感じかな」

 

 

話してて思うけど本当にぜーんぶお兄ちゃんのおかげだなぁ。

 

あ、アウトプットどころか反転術式を試したのもお兄ちゃんで初めてだよ。

できる確信はあったけど下手に自分の怪我治しちゃったらお父さまにバレちゃうからね。

 

そうやって私が微笑むとお兄ちゃんは微妙な顔をした。

 

 

「……はぁ。あのクソ親父殿の血はどうなってんだろうな。俺も大概だがお前みたいな変なのも生まれちまうなんてな」

 

「あはは……本当にね」

 

 

我が子が相伝は持ってないわ吸血したがるわで気味悪いだろうし、こんな私が生まれてしまった点に関してはお父さまには同情かな。

それ以外は本当に恨みしかないけど。

 

こんなに優しくて優秀なお兄ちゃんを冷遇するなんて本当に許せない。

 

甚爾お兄ちゃんとじっくりお話ししてみて、私は改めてそう思った。

 

 

 

さて、楽しい時間もそろそろ終わり。

お兄ちゃんがどいてくれたので体を起こしてお見送りをしようとすると静止された。

 

 

「見送りなんていらねぇよ。布団汚しちまった言い訳だけよろしく」

 

「任せといて。血が吸いたくなって自分の腕掻っ捌いたって言っておくから。じゃあね、おやすみ甚爾お兄ちゃん」

 

 

お兄ちゃんは首だけでこっちを振り返って立ち止まった。

なんだろ。

 

 

「……名前、なんて言うんだ」

 

「あ……ひみこ。被るに心身の身に子供の子で被身子だよ」

 

「あー……被身子。早く寝ろよ。じゃあな」

 

「あ……お、お兄ちゃんもお大事に」

 

「おう」

 

 

音も無くお兄ちゃんは去って行った。

 

耳が痛くなるほど静かな部屋の中で、私の心臓の音だけが響いていた。

 

 

「ほ、惚れてまうやろー……!」

 

 

だ、大丈夫……私とお兄ちゃんの間に恋愛感情は無い。

 

でも……はー、好き。

冷静に考えると暴力的だけど優しいところもあって良い人なの。

 

そんなイケメン過ぎる甚爾お兄ちゃん、家出たら絶対ヒモになる。

 

私がそう確信した夜であった。

 

 

 

 

 

 

禪院甚爾(九歳)ならこの後どうすると思う? 単なる興味なので参考にするわけではないです。 ※どのルートになっても妹とは恋愛関係にはならないしちゃんと恵くんは生まれる

  • 原作通り。妹は孕み袋になる
  • 逸脱ルート①妹と逃避行
  • 逸脱ルート②禪院家の最強の兄妹
  • 逸脱ルート③妹を殺して闇堕ち
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