禪院家の面汚し 〜ゴリラとドブカスを添えて〜   作:とある禪院家のブラコン

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平穏、そしてドブカス襲来

 

 

 

 

 

 

 

禪院家の炊事場の朝は早い

 

 

 

 

 

 

 

 

我が家の炊事場には女の人しかいない。

理由は禪院家の鉄の掟である"男尊女卑"がゆえ。

 

でも、女の人だけとはいえその背景は様々なのです。

わかり易く大まかに三パターンに分類するね。

 

 

 

一つ、齢七つに満たない女子。まだ希望を持ってる人たち。

 

一つ、術式無しあるいは相伝を発現しなかった"落ちこぼれ"。諦めを全身に宿した人たち。

 

一つ、十一歳になってプリティに磨きがかかった私。元気。

 

 

 

以上!

 

 

私の術式の格が爆上がりしたことは結局今までバレていない。

なんだかんだ書庫の文献の閲覧権限も戻ってきたよ。

やったね。

 

呪具庫の入室許可は出なくなっちゃったけどね。

多分私がまた"お兄ちゃん化"した時に呪具を持ってたら手が付けられないからだろうけど。

 

 

「いやぁ、快適快適。"禪院家基準では"って但し書きがつくけど……前より待遇が改善されてるのは確かだし、嬉しいな」

 

 

私に対する監視は継続されてるけど、私がここ五年ずっと大人しかったからか半ば形骸化してるって感じ。

 

サンドバッグにされる機会も明確に減った。

殴った後にもし私が"お兄ちゃん化"したら……って感じで大半の男の人は私を避けるようになったからね。

 

完全にゼロになったわけじゃないし、そもそも強くなって損はないから呪力操作のトレーニングは継続してるけど。

 

 

「虎ならぬ"甚爾お兄ちゃんの威を借る狐"こと私です。でも狐も呪術的には結構強いからね。罷り間違ってお兄ちゃんの足を引っ張るなんてことにはなりたくないし……もっと強くなりたいなぁ」

 

 

あれから甚爾お兄ちゃんはそれはもうスクスクと成長して、もはや見た目がお兄ちゃんなのかゴリラなのかってくらいには立派な体格になってしまいました。

 

みんながビビり散らかすのもわかるよ、うん。

でも私はムキムキのお兄ちゃんも好きだよ。

 

お兄ちゃんとの初めての密会から四年。

アピールの甲斐あってか、あれからも不定期ながら結構な頻度で甚爾お兄ちゃんが夜中に部屋に訪ねに来てくれてます。

とっても優しい。

 

日中は相変わらず全然会えないし、偶然見かけたとしても名前どころか目線もくれないけど、その分密会の時にはたっぷり名前を呼んでもらってます。

とってもうれしい。

 

 

「なんだろう……私幸せすぎて死ぬの……?」

 

 

思わず緩みそうになった表情を引き締める。

廊下でヘラヘラしている女なんて恰好のサンドバッグである。

 

私は内心の喜びをおくびにも出さず、しずしずと未明の廊下を進んでいく。

 

サンドバッグ係ができないのであれば他に仕事をしないといけない。

私の仕事の一つが炊事場での仕込み作業だ。

 

お父さまは私の存在を割と無かったことにしたいらしく、家の中での仕事だとしても早朝あるいは深夜しか私に回さない。

 

文献の閲覧許可が出るのも、日中に私を書庫かお部屋に籠らせることであまり衆目に晒さないようにしたいからだろうね。

 

私としても目立ちたくないからお父さまのこの采配はたいへんありがたく感じている所存です。

お勉強も大事だし、何より私に向いている気がする。

 

と、そんなことを考えていると炊事場に到着しちゃった。

 

 

「おはようございます。本日もよろしくお願いいたします」

 

 

炊事場の扉を開け、ご挨拶と丁寧な一礼を済ませる。

 

頭下げてるから見えてないけど、既に到着して下準備をしていた年下の女の子たちがササーッとみなさん部屋の端っこの方に行く気配が伝わってくる。

 

私はゆっくりと頭を上げにっこりと微笑む。

そのままずんずんと自分の担当場所に向かい作業を始めた。

 

 

「ひみこ様……今日もお綺麗です……」

 

「関わってはダメよ。あの方は"猿"と懇意にしている噂が……」

 

「口元の傷はその折檻で付いてしまわれたとか……」

 

「人の生き血を吸うという噂も……穢らわしい……」

 

 

はいそこ。サボってひそひそ話ししてないで作業しなさい。

後から来るお局さんたちに怒られても知らないからね。

 

あ、そんなこと考えてたらもう来る。

呪力で強化した私の聴覚が近付いてくる足音を捉えた。

 

一旦手を止めて振り返る。

ビクッと肩を震わせる女の子たちに向けて声を掛けた。

 

 

「みなさま。本日もお怪我のないよう頑張りましょうね。時間もありませんのでお返事は要りませんよ」

 

 

できるだけ柔らかく、それでいて「早く作業再開しようね」というメッセージを込めて年下の女の子たちに声を掛ける。

 

女の子たちは慌ててそれぞれの作業に戻っていく。

よしよし。いい子たちだ。

 

さ、私のできることは終わったし私も作業再開っと。

 

こうして私の平穏な日々は流れていく。

 

子を成せるようになれば終わってしまうけれど、それまではどうかこの幸せを味わせて欲しい。

 

私は心からそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その願いは儚くも叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、あんたが被身子(ひみこ)姉さんやろ? 必死こいて探してもうたわ。なあ、あの甚爾くんと仲良いってホンマなん? 姉さんが甚爾くんみたいに強いようには見えへんけど……なんか隠してることあるやろ?」

 

 

禪院直哉(なおや)くん。五歳。

 

禪院直毘人(なおびと)さまの実子であり、禪院家待望の"相伝術式"を既に発現させ、将来の当主候補と目されるエリートだ。

 

子供らしい純粋な感情を隠さない瞳は可愛らしい。

私を見上げる視線に私の大嫌いな"蔑み"が乗ってなければ、そして私にとって都合の悪い察しの良さが無ければの話だけど。

 

私は当然として、どう考えても甚爾お兄ちゃんと合わないタイプの人間だったからその場はなんとか流した。

 

 

後日お父さまから呼び出された。

私室に一人で来るようにと。

嫌な予感しかしないね。

 

呼び出された部屋にはお父さまと直毘人さま、そして直哉くんが勢揃いしていた。

嫌な予感が的中してしまった。

 

私は私の胃が悲鳴を上げるのを聞いた。

 

 

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