禪院家の面汚し 〜ゴリラとドブカスを添えて〜   作:とある禪院家のブラコン

7 / 7
放伐、そして白馬の王子様

 

 

 

 

「なあ、父ちゃん。甚爾くんは? 昨日は家におったし今日もおるはずやろ? 姉さんは来てくれたけど甚爾くんも呼ばんとしょうがないやん」

 

 

どうやら今日のお話の主導権は直哉(なおや)くんが握っているらしい。

流石は"天才"。五歳なのに堂々たる話し方だね。

 

私は入室するや否や平伏し、以降そのままの姿勢で頭上を飛び交う会話を聞いている。

これだよこれ。禪院家ってこれがデフォルトだったよね。

 

声を掛けられただろう直毘人(なおびと)さまは何も言わない。

沈黙に耐えられなかったか、お父さまが代わりに返事をした。

 

 

「……私が呼び出したが奴は来なかった。直毘人殿、やはりこの娘と奴が懇意であるというのは勘違いなのでは?」

 

 

いいぞお父さま。日和見主義も偶には役に立つじゃないか。

そのまま押し切るんだ。

 

 

「いやいや、自分の血なんてよっぽど仲良うないと普通あげんやろ。それと俺は父ちゃんから聞いたで。姉さんは"甚爾くんと同じ"になれるらしいやんか。ホンマならすごい術式やで。女なのに見直したわ」

 

 

あの時お兄ちゃんの血が手に入ったのは偶然だけどね。

 

あと褒められるのは良いことだけどこの流れは絶対に良くない。

 

下手に口を挟んだら、直哉くんが「なんや術式まで模倣できるか一回しか試してへんの? 甚爾くんの力が再現できるなら他のものできるやろ。今からもっかい試そうや」とか言い出すパターンでしょこれ。

 

既に禪院イズムに染まってる思想もヤバいけど、神童の頭脳のキレの良さがこわい。

 

 

「それとな、俺やったら自分と同じ強さになれる人間を放っておくなんて絶対せえへんよ。甚爾くんなら気配消すのもお手の物やろうし、実は二人で隠れて手合わせとかしてるんちゃう? 羨ましいわぁ」

 

 

いや察し良すぎだろこのキッズ!

手合わせはしてないけど内緒でめっちゃ会ってるのはもうバレてるみたいなものじゃん。

 

これまでの話の感じから直哉くんが甚爾お兄ちゃんに会ったの昨日が初めてだよね?

それでもう核心に迫ってるの早過ぎでしょ。

 

バリキレ頭脳と強さ(甚爾お兄ちゃん)に対する執着が併さって本気でヤバいキッズ誕生してるじゃん。

 

 

「……娘にはこの五年常に監視をつけている。その間、奴と接触した形跡は一度も無い」

 

「だーかーらー。それは監視の奴らが甚爾くんに気付かんような雑魚やからやって。埒が開かんわ。もう姉さんに直接聞こ?」

 

 

も、もうやめてぇ。

っていうか流石に相伝持ちとはいえ現当主のお父さまに対して強気過ぎない?

 

あ、まさか……ここに直毘人さまがいる理由って。

恐ろしい事実に気付いた私はわずかに肩を震わせてしまった。

 

 

「お、気付いたんやな。姉さんの方がよっぽど物分かりがよくて助かるわ。そこの二十五代目はもう隠居や。天才の俺が生まれた時点でうちの父ちゃんが二十六代目当主になることは決まってん。ちょっと遅かったくらいやけど、この家で今一番えらいんはウチの父ちゃんや。これ、幹部連中にもまだ話してないから内緒やで?」

 

「ぐ……」

 

「なに? 文句あるなら言うてみいや、二十五代目。相伝を一人も孕ませられんカスみたいな種。せっかく生まれた甚爾くんの強さも理解できんし姉さんの才能も埋もれさせとる……そんな耄碌した脳みそ持ちはさっさと引退しぃや。そもそも腹の方が優秀やったんかな? それなら納得やわ」

 

 

 

ゴッ、と鈍い音がした。

 

 

 

「っつ〜なにすんねん、父ちゃん。拳骨なんか古くさい真似して」

 

「言い過ぎだ直哉。すまんな、二十五代目。ウチの息子は才も頭もあるがまだ青い。だが五歳だ。許してやってくれ」

 

「……いえ、当主の仰る通りです。若輩の傍若を許すのも年長者の務めでありますゆえ」

 

 

うわ、はや!!

うちのお父さまもう負けた!!

 

 

「なーんかひっかかる言い方やなぁ。ま、ええわ。ほら姉さん、顔上げぇ。あ、別に怒らんからそないに怖がらんでええで? 俺、強い人好きやねん。姉さんが女なのが残念やけど……いや、もしかして阿呆ヅラさげて屋敷ん中でふんぞり返っとる(ザコ)よりも、姉さんみたいな才能ある女が外にはいっぱいおるんかもなぁ。俺、箱入り息子やからそういうの知らんねんな。あ、すまんな話逸らしてもうたわ。ほら、はよ」

 

「……お目汚し、失礼いたします」

 

 

私は諦めて顔をゆっくりと上げた。

皮肉のマシンガンを喰らったお父さまを見ている余裕は無い。

 

 

「うん。改めて見るとやっぱり甚爾くんに似とるね」

 

「……ありがとうございます」

 

 

直哉くんはにっこり笑ってこっちを見ている。

 

その瞳の奥には初対面の時とは違った感情が宿っている。

 

蔑みは……無い。

あるのは素直な喜びと少しの憐憫と、あとは嫉妬かな?

 

なんにせよ怖いです。

 

直毘人さまは面白そうな顔をするだけで何も話さない。

 

くそう、お父さまだけなら誤魔化せそうだけど直毘人さまも直哉くんもいるこの状況だとそれは無理難題すぎる。

 

 

「あ、流石に姉さんの才能も見抜けんかった間抜けな男がおったら話しにくいよな? すまんすまん。というわけで……出てってくれへん?」

 

「……失礼、いたします」

 

「終わったら人に呼ばせるからなー」

 

 

あ、お父さま……出ていかされちゃった。

自分の部屋なのに。

 

 

いやこっっっっわ。直哉くんヤバ過ぎる。

天性のサディストだ。プロ禪院家だ。

 

自分より下だと思った存在に対する容赦が無さ過ぎる。

 

 

「さて、被身子姉さん。これで隠し事も無しにゆっくりお話しできそうやね。それとも……俺の血あげるから飲んでみる? 相伝の血や。特別やで」

 

「……飲みません。お話も、黙秘します」

 

 

直哉くんは怖い。本当にすぐ核心を突いてくる。

それを止めない直毘人さんも同じだ。

下手に抵抗なんてせずに全部話してしまいたくなるほど。

 

だからこそ私の術式について今明かしている以上は何一つ明かせない。

 

こんなに怖い人たちに秘密を明かしてしまえば、私はすぐにでも完全拘束される。

お父さまは日和見主義だしお兄ちゃんのこともあって私のことを割と放任してくれてたけど、この人たちはそんな生温いやり方じゃなくてガチでやってくるよね。

 

そうなったら甚爾お兄ちゃんとの約束を守れない可能性が出てくる。

それだけはダメ。

 

私の全部を使ってもらってお兄ちゃんの人生をより良いものにしてもらうんだ。

 

そう誓ったんだ。

 

 

「ん? ああ、勘違いさせてもうたね。これはお願いやない。命令や。父ちゃんからこの場は任せてもろとるからな。姉さん、当主の命令に逆らうんか?」

 

 

うるさい。

 

今日この時間だけ。

いや、甚爾お兄ちゃんがまたいつか私のお部屋に訪ねてくるまで。

 

それまで拷問されようが黙秘を貫いて、術式の発動も拒否し続ければ良い。

痺れを切らしてお兄ちゃんの血を飲ませようとしても、そもそもお兄ちゃんから血を盗れる人なんてこの家には存在しないからね。

 

私の例の一件以来、綺麗に掃除されちゃったから懲罰房からお兄ちゃんの血を回収することもできない。

 

だから私が諦めない限りは私の勝ち。

そして私は絶対に諦めない。

 

私はその決意を胸にしっかりと直哉くんの目を見返した。

 

甚爾お兄ちゃんのことを考えていたら落ち着くこともできた。

もう怖くはなかった。

 

 

「良い目やな。さすが甚爾くんの仲良しさんやね。妬けるわぁ。俺の周りの世話係の女はみーんな腐った目してて気持ち悪いねん。そのくせ甚爾くんのこと馬鹿にする身の程知らずやしな。ちょっと脅かしたらすぐ目逸らすしホンマ嫌になるわ」

 

 

スッと直哉くんの目が細くなり、嗜虐的な笑みを浮かべる。

 

 

「でもなぁ……今ぁ姉さんは甚爾くんの血、持ってないんやろ? 素の姉さんは俺の見立てやと普通に弱いわ。そんなんでその強い態度いつまで貫けるんやろうなぁ……楽しみやわ。父ちゃん、ちゃんと半殺しでやめるから止めんといてな」

 

「いいや、待て。直哉……早まるな」

 

「あ? 今日は俺に任せる言うたやん。今更ビビったんか?」

 

「違うわい。"来た"ぞ」

 

 

私も気が付いた。

 

ズン……ズン……と地鳴りがするようにその気配が近付いて来ている。

 

 

「……嬉しいなぁ。昨日はガン無視やったのに今日はやる気満々やん。なんや、やっぱり二十五代目が全部悪かったんやな。あの人がおらんくなったら俺の会いたい人が全員揃うんや。覚えたわ」

 

 

直哉くんはとても嬉しそう。

 

近付いてくる気配の主は明確な意思を持って自らの存在をわざとらしいほどに周囲に知らしめている。

 

それが何を意味するのか。

やっぱり優しいなぁ……でも情けないや。

 

私はその優しさを今は素直に喜べないよ。

 

なんで来ちゃったの。

絶対ややこしいことになるのに。

 

煩わしいことは嫌いだっていつも言ってたのに。

私が耐えれば良いだけの話なのに。

 

でも私がいくら考えても無駄。それを思い出した。

 

あの人はいつだって圧倒的で、私の想像もつかないことをやってのけるんだから。

だったらこれでいいのかもしれない。

 

 

 

襖が乱暴に開かれる。

 

 

 

「邪魔するぜ。俺の妹が世話になったみたいだな? 新しい当主サマよ」

 

 

 

禪院甚爾。十五歳。

得物も持たず、ただそこに立っているだけ。

 

しかし無遠慮に室内の人間を睥睨する姿は堂に入っている。

間違いなくこの場で一番強い、絶対の支配者だった。

 

天与の暴君が降臨した。

 

 

 

 

 






※カス二十五代目こと被身子ちゃんのお父さま、追い出された腹いせに甚爾お兄ちゃんを召喚するファインプレー。
本当はハナから声を掛けてなかったし呼ぶ気はなかったけど、あまりにもムカついたので直哉がボコボコにされれば良いとヤケになった。
ちなみに甚爾お兄ちゃんは割と近くでこっそり聞き耳立ててたからすぐ見つかった。
お父さまは私室の全壊くらいは覚悟している。



※以下考察

直哉くん(五歳)の性格は生来の傲慢さに「男の方が女よりえらい」という禪院イズムが素直にプラスされた状態です。

呪術廻戦本編ではここから
・天才の自分がどれほど努力しても特級の領域(いわゆる"アッチ側')に至れないことを思い知らされる
・アッチ側の甚爾くんより弱い男が幅を利かせる家に嫌気がさした
・諦めに支配されてしまった女性が多く存在する家で長年過ごした

これらが重なったことで鬱屈した感情を溜め込み、「強い女は生意気」とまで思うように捻くれていったと私は解釈しています(もちろん独自解釈)。

なので五歳時点で"アッチ側"の可能性のある女性と出会えば「なんや、偉そうに男尊女卑掲げとる奴らは単純に強さを理解してないだけやん。甚爾くんみたいに"強さが正義"や。男とか女とか阿呆らしいわ」となり、強い奴であれば性別は関係なく憧れるようになります。
ただし生来性格は悪いし弱い奴はゴミだと思うところはむしろ強化されたので、方向性は違えど結局ドブカスに帰結すると私は解釈しています(もちろん独自解釈)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。