Muv-Luv Alternative×創世奇譚アエリアル とある確率分岐世界 作:†バレット†
――――――横浜基地実験室
「……よわむし……」
白銀武を見送った直後、社霞は再び小さく呟いた。
それは辛い出来事に耐え切れずに逃げる選択肢を選んだ白銀武に対してか、それとも向こうの世界で彼に降りかかる最悪な結末を予想出来ていながらも、何も教えて上げる事が出来ずにただ黙って送り出してしまった自分の弱さに対してなのか。
その真意を計りかねていたこの国連太平洋方面第11軍・横浜基地副司令の香月夕呼であったが、社霞に歩み寄ろうとしたその時に、突如けたたましい警報が基地内に鳴り響く。
『防衛基準体制2発令、防衛基準体制2発令~』
(何!? まさかトライアルの時に解き放ったベータの生き残りがまだ存在していたとでもいうの!?)
自分が計画した事だとは言え、自分の唯一とも言える親友を失ってしまった、この苦悩、苦痛は幾ら彼女でもそうそう簡単に割り切れる物ではなかった。
「失礼します、副司令」
「ピアティフ! 今どう言った状況なの? まさかベータの生き残りが出て来たとか言うんじゃ無いんでしょうね!」
「い、いえ、違います。ただ、異常事態が発生致しました、至急中央作戦司令室まで出頭するようにとの事です」
夕呼の八つ当たり気味な剣幕に押され、少しばかりたじろぐイリーナ・ピアティフ中尉。
彼女を有能な側近として夕呼は長く従えて来ていたが、このような反応は初めてだ。
(私ともあろう者が……駄目ね)
親友の死を決して無駄にしてはならない、そう決めたのだから。
「分かった、向かいましょう。行くわよ社」
「……はい」
――――――スター・ノアブリッジ
「ぐうううっ! くそっ!『AXIA』状況報告!!」
1万年後の未来人から託された宇宙船スター・ノア。
その近未来的なコンソールの数々がホログラムとして浮かび上がる艦橋の中で艦長の怒声が響き渡る。
『――Yes,Sir. スプークとの戦闘を離脱したスター・ノアは突如発生した超巨大なブラックホールに呑み込まれ、次元の流れに流されてしまい、私達がいた世界とは別の地球に流れ着いてしまったようです』
眈眈と語るのはホログラムとしてブリッジに存在している美しい少女、このスター・ノアのマザーコンピュータでもある思考型中枢制御システムAXIA(アクシア)だ。
到底理解しづらい状況を報告され、ざわめくブリッジ。
そんな中で座席から立ち上がったのは一人の女性、市民の強い要望により長官の座へと返り咲いたオレアナ・エインズレイ行政庁長官だ。
「AXIA、周囲の状況をモニターに表示できますか?」
『――Yes,Ma'am. 周囲の光景をメインモニターに表示します』
エインズレイ長官の言葉に瞬時に答えたAXIAは即座にメインモニターを切り替える。
艦の被害状況を確認していたスクリーンが消え失せ、次の瞬間には廃墟と化した柊町の無残な姿が映し出される。
『スター・ノア周辺に生命反応はありません』
「そう……最悪な事態だけは避けれたようね……」
家屋を押し潰してしまったわけではないが、ここが無人の街でなければパニックになっていただろう。
当然だ、空を覆う程巨大なスター・ノアが突如出現したともなれば正直ゾッとしないどころの騒ぎじゃ済まないだろう。
『――生体反応を確認、スター・ノアから5km程離れた場所にある基地からです。
――該当基地からの情報収集を完了、該当基地の名称は国連太平洋方面第11軍・横浜基地、どうやら内部ではデフコン2が発令されているようです』
「デフコン2! 我々とやり合うつもりなのか!?」
「落ち着いてください参謀官、周囲の状況から鑑みるにこの世界も相当苦しい局面にあるようです。いきなり我々のような存在が現れたら警戒するのも当然とも言えるでしょう」
「地上が未だに残っているだけマシだとは思うがね……」
ブライアン艦長の一言にブリッジクルー全員が黙り込む。
皆が皆、思うところが多いにあるからであろう。
「……長官、こちらもデフコン2を発令致しますか?」
「いいえ、まだその時ではありません。あの基地にいるのがスプークのような化け物で無いのならば、私達は人間として相応しい対応をしなければなりません。言葉は……人だけが持ち得る最良の手段なのですから! AXIA、彼方の司令室と通信を開く事は可能ですか?」
『――Yes,Ma'am. お任せ下さい』
――――――中央作戦司令室
「これは……なんの冗談かしら? 新作映画の試写会?」
「いいえ、全て現実におこっている事実です副司令」
「はぁ……そんなに冷静に返さないでもうちょっと現実逃避させなさいよねピアティフ。余りにも非科学的すぎてげんなりしているんだから」
測定の結果、全幅10km程、高さに至っては50kmの超巨大な……恐らく船、それが柊町の上空に浮遊しているというのだ。
あれだけの質量だ凄まじい重量を誇っていることは容易く分かったが、何がどうやったらあの巨大な建造物が浮遊しているのかは皆目見当もつかない。
自他共に認める超天才の香月夕呼であっても完全なお手上げ状態だった。
(防衛基準体制2を発令しているみたいだけど……もし相手に戦う気があるのだとしたら到底敵わないでしょうね)
いつ以来だろうか、冷や汗が背中を湿らせる程に緊迫した事態に陥ったのは。
何が目的なのか、どうして突然現れたのか全く理解できない。
こちらの殲滅が目的ならばとっくの昔に攻撃が行われているだろし、今は下手に刺激しない方が良いだろう。
正直視界に入れているだけで頭が痛くなってくるような鬱陶しいこと極まりない存在だ。
(あーもうっ! ようやく00ユニットが完成するっていう時に厄介事を増やさないでほしいものね!!)
ましてや相手が人間かどうかすら分からないのだ、焦燥感ばかりが高まってしまい、一向にいい案が浮かんでこない。
「……ッ! 副指令!!」
「――何?」
情報が皆無の中、状況を打開すべく頭をフル回転させている夕呼へ声をかけたのは1人の通信兵。
「あ、あの巨大構造物から通信を求められていますっっ!」
「なんですって!?」
(いったいどうやってこちらの回線を掴んだのかしら? どうやら先手は向うにとられたようだけど……いいじゃない、望むところよ)
通信兵の言葉に僅かにざわついた司令室ではあったが、トライアルでの事件を経たお蔭か、既にピリッとしたいい緊張した張りつめた状態へと部屋の空気が戻っていた。
「いいわ、回線を繋ぎなさい。映像はメインモニターに回して、記録も忘れずに!」
「ハッ!! 回線繋ぎます!」