Muv-Luv Alternative×創世奇譚アエリアル とある確率分岐世界 作:†バレット†
私の隣にいる、社の正面に座っている少年、未だに幼さが顔に残っている感じがする東郷シン少佐の雰囲気が一瞬の間にガラリと変わる。
先程まで目の前に座っている社を見てあたふたしていた様子がまるで嘘の様に落ち着いている。
今の彼ならば、この横浜基地に所属している無駄に歳を喰った左官共よりも、目の前の青年の方が余程立派に見え、硬い意思で固められた芯の様な物が入った大人に私の目には見える。
(精神面はまだ発展途上のようだけどね)
社が行ったリーディングによると、社を視認した途端、強い後悔を初めとする負の暗い色が一気に噴出したらしい。
けれども、その中で唯一輝いていたのが強い覚悟と決意の色だったとか。
「ふむ、それでは貴方方が置かれているこの世界の現状を説明しましょう、香月副司令」
「はい、それでは人類の天敵であるBETAとの戦いの歴史、現時点での戦況、BETAに付いて判明している情報、その他諸々に付いての説明させて頂くので暫くの間ご静聴願います、質疑応答は最後に行いますので。
それではテーブルの上の資料をお取り下さい」
私が用意したBETAに関する情報が書かれている資料を手に取った彼等を見て、私は黙々と人類の宿敵であるBETAに関する歴史を彼等に対して説明する。
こうして過去の記録を掘り返してみれば、如何に過去の上層部が事の次第を楽観視していたかが手に取る様に分かる。
月では遅れを取ったが、本土では奴らの好きにはさせない? 補給が十全ならばタカが宇宙生物などに負けるはずがない?
私がタイムマシンでも作れたのなら、そんな事を言った巫山戯た連中の首をこの手でへし折ってる所よ。
内心憤りが高まる中、必死に理性で押し付けて冷静に振る舞い、彼等の反応を目ざとく伺いながら説明を続ける。
宇宙生物等というかなり眉唾な話だというのに、殆ど抵抗が無くまるでスポンジが水を吸収するようにこちらの話を真剣に聞く三人、事態を真摯に受け入れようとしている姿勢……こういう風な雰囲気を持つ奴らは私の経験上大体は信用できる。
(この会談は大きなターニングポイントになるでしょう、落とす訳にはいかない)
この先予定されているハイヴ攻略作戦には必ず彼等の助けが必要不可欠な予感がする、それでなくても人員が足りていない位なのだ。
それに彼等が保有している未来の技術も非常に気になる。仲間になってくれたとしてもどれほどの情報を公開してくれるのか不明なのであまり期待はしないでおくが……
私の話が遂に地球へとBETAが襲来し、中国とカナダに着陸ユニットが落着した時の出来事を話していると、エインズレイ長官の顔が辛そうな表情になって行くのが見て分かる。
一人の人間として核の使用に思う所があるのかもしれないが、今は説明を優先させてもらう事にした。
幸い彼女も話を遮るつもりは無いらしい。
……そして、BETAの進行についての歴史を説明し終え、現在確認されている個体種の情報、奴らが人間を生物だと理解していない等の説明を全て終えた私は、少しばかり分厚い資料をテーブルの上に戻す。
「以上でこの世界が抱えている全ての問題の説明は終わりとなります。……なにか質問はありますか?」
静かな……それでいてとても重い空気がこの部屋を満たしている。
まるで底なし沼に全身を絡めとられてしまったかのような不快感だ。
私の作り上げた資料が的確で、その厚さに見合う内容のおかげで質問をする必要が殆ど無いのもあるが、何とも言えない濁った雰囲気だ。
そんな中、じっと瞼を閉じて考えに耽っていたいたエインズレイ長官が目を開く。その澄んだ茶色がかった瞳がこちらを見定めてから口を開いた。
「……中国とカナダにBETAの着陸ユニットが落着した際の核の使用、貴方はどうお考えですか?」
「そうですね、中国が最初から核を使わなかったのは人間としては正しい判断だったのかもしれません、その後の対応がおざなり過ぎましたがね。この頃の私達は恥ずかしながらBETAを甘く見過ぎていたようです。その後のカナダに落着したユニットに対する核使用の対応は中国の教訓を良く活かしたと言えますかね」
「……カナダの半分が汚染されて人が住めなくなってしまったというのにですか?」
「長官……もしも米国が核を使ってカナダに着陸したユニットを殲滅していなければ……今この地球上には私達人間は存在していなかったでしょうね」
その言葉を聞き、しばらく俯いていたエインズレイ長官はゆっくりと顔を上げ、しっかりとした目線で此方を見て口を開く。
「そう……ですか。分かりました、ありがとうございます。
……この世界は私達が想像していた以上に危機的な世界だったようですね。
三十年以上ものBETAとの終わりが見えない言葉通りの地獄の戦い、その末に世界の人口は60%以上もの人口が激減してしまった……
香月副指令、貴方から見てこの世界の人々は……BETAに勝てるとお思いですか?」
……優しそうな見た目にはそぐわない、えげつないほどに核心を問い詰めて来るのね。
いや、この人も指導者、この位の胆力は持ち合わせていて当然か。
「そうですね……このまま人類が何も打開策を取ることが出来なければ十年以内に滅亡してしまう可能性は濃厚でしょう」
「……ッ!」
「ですが、それをさせない為に私がこの基地にいるのです。私の主導している計画はもうじき次の段階へと進みます、これが軌道に乗ればやられっぱなしだった人類がBETAに反撃出来る日もそう遠くは無いでしょう」
「それは……いったいどのような計画なのですか?」
滅亡の可能性が濃厚だと言われ、明らかに落胆の色を示していたエインズレイ長官の顔が再び上がる。
だが、ここまで言っておきながらもなんだが、流石にそれに答える訳にはいかなかった。
「申し訳ありません、世界規模での機密計画なので……。
ただ、無策ではないという事だけは伝えておきたかったのです。
そして……もし可能ならば私達人類に貴方方の御力をお貸しいただけないでしょうか?」
スッと頭を下げてから一瞬思い浮かんだ。
まさか私が初めて頭を下げる相手が異世界から来た未来人だなんてね、なかなか面白い因果だわ。
「……頭を上げてください香月副指令……いえ、博士と呼ばせてもらった方がいいのかしらね?
事情は良く分かりました、そしてこの世界の情勢も。私達がこの世界に来たのは何かの運命なのかもしれませんね、意見を纏める必要があるのですぐに返事を返すことが出来ませんがよろしいですか?」
声に応じて顔を上げると、エインズレイ長官が真剣な表情で好意的な返事を返してくれた。
「ありがとうございます、意見が纏まりましたらまた通信をお願いいたします。
それと貴方方の説明は此方から上層部へしておきますのでご安心ください。ただ一つだけ、あのスター・ノアという船の事なのですが、些か大き過ぎて目立ちます。今は深夜だから良かったものの、明日の朝もそのままでは市民の不安を悪戯に煽ってしまう事でしょう、どうにかいい方法はお持ちではないですか?」
全高50kmという化け物染みた巨大さなのだ、正直こちら側には打つ手等存在していない。
「その事なら心配はありませんぞ、スター・ノアには光学透過機能が備えられていますから。
ただ、どこか着陸しても良いポイントを教えて貰えると助かります、流石に廃墟とは言え家を押し潰してしまう事には抵抗がありますからな」
私の質問に答えたのはこの場で初めて言葉を発した初老の男、ブライトン艦長だ。
「こ、光学透過!? あの巨体がですか?……いえ、すいません少しばかり取り乱してしまいました。着陸ポイントは追って此方からお伝えさせていただきますわ」
これが未来人の技術なの? 余りにも非現実的過ぎて取り乱してしまったじゃない。
「いいえ、こちらこそ色々と手を回してくれてありがとうございます。それでは私達は一旦戻らせて頂きますね。これからの方針を決めなければならないので……」
「分かりました。ピアティフ中尉、エインズレイ長官達をお送りして頂戴」
通信端末に指示を飛ばすと、部屋の外で待機していたピアティフがドアをゆっくりと開ける。
「お疲れ様でした、それではこちらへ……」
ピシッとした姿勢からのお辞儀をしたピアティフは三人を引き連れて退出していく。
「香月副指令、ご苦労であった」
「ええ、ラダビノット指令。今日も大変でしたがこれから先、もっと大変になりそうですわ」
「ウム、そうなることを願うばかりだ。彼の物達の戦力がどれ程のものなのかは想像も付かないがな」
「ええ、私としても同じ意見です」
部屋の窓から見える突如現れた巨大建造物の姿を眺めながら、二人の声は夜闇に消えていった。