あの後、ルビー達をあの廃ビルに残してカミキヒカルを追いかけてみたはいいものの、どこに行ったのか分からずじまいになってしまった。それに雨も強く降り始め、これ以上の捜索は困難という判断をせざるを得なかった。
「くそっ! 逃がしたか……」
これでまた奴に近づくのは難しくなってしまった。警戒されてる状態で近づいたところで、奴と二人きりの状況を今後作るのはほぼ不可能だろう。
とりあえず俺は今後の策を練るべく仮の住まいを探すことに決めた。
もう……あの家には帰れない……
そんな時だった。俺の元にある人物から着信が届いた。相手は斉藤苺だった。
「もしもし……」
『お、おい。お前ニュース見たか?』
ニュース? なんのことだと、俺は普段使わないスマホでニュースをいくつか見漁る。その中には俺の目を引くようなニュースが一つだけあった。
「は? なんだよ、これ……」
『その様子だとお前はやってないみたいだな』
カミキヒカルが俺の知らないところで死んだ。俺はろくに復讐を果たせず、あいつは勝手に死んだのだ。
『アクア戻ってこい。あいつらもお前のこと心配して……』
「黙れよ!? は? 死んだ? 俺の知らないところで勝手に死にやがって、ふざけんなよ……俺がどんだけこいつに復讐するために……! 復讐するために………」
「アクア……」
俺は今までの人生すべてを復讐するためだけに注いできた。それなのに目的も完遂できないで突然終わった? 俺は一体……なんのために今まで………
俺は許されるような人間じゃない。俺の復讐にたくさんの人を巻き込み、傷つけてきた。なのに、復讐できませんでしたなんて許されていいわけがない。
(そうだ。お前はアイを守ることができなかった。にもかかわらずいろいろな人達を傷つけ、復讐もできずに終わったような奴に生きる資格なんてないだろう)
(そろそろこの体をアイに返すべきなんじゃない?)
いつの間にか、俺の横に雨宮五郎と幼少期の頃の星野アクアの姿があった。
俺は……やはり死ぬべきなのだろうか……
(ああ、そうだ。ましてや最初から生まれるべきではなかったんだ。母親を死なせたのも、さりなちゃんを死なせたのも、アイを死なせたのも、全部お前だ。お前なんだ)
そうだ。こいつの言うことは全部正しい。俺は母親を、さりなちゃんを、アイを死なせてしまった。俺じゃなかったら何か変わったかもしれない。
俺じゃなかったら……はぁ、もう考えるのは疲れた。
「苺さん。俺、死ぬよ。じゃあな」
「はっ!? お、おい! ま……」
俺は生涯最後だというのに淡白な別れを告げ、電話を切る。いつの間にか俺の横にいた姿は綺麗さっぱり消えていた。
あいつらも俺が死んだら消えるのだろうか。
俺は手持ちで残っていたなけなしの金だけ持ち、スマホは捨てて海へと向かった。今日は大雨のせいで星なんかまったく見えず、俺はただ雨に打たれ続けた。
* * *
「お客さん、どちらまで?」
「……海、近くの海までお願いします………」
「……お客さん。今、海はこの大雨の影響で大荒れですけど」
「お願いします……」
それだけ言うと、それ以降タクシー運転手の男が俺に話しかけることはなかった。
車の中で体を揺らし続けること、30分。車は海沿いの道に止まった。
俺は、運転手に所持金すべてを投げやりに渡し車を出る。最後まで運転手の顔は苦い物を食べたような表情をしていた。
車が帰っていくのを遠目に浜辺の方に向かって歩き始める。コンクリートと砂の境目まで行くと、この降り頻る雨にはいかにも不似合いな白いワンピースを着た幼女が傘をさし、いつの間にか隣を歩いていた。
「なんだよ、疫病神」
「疫病神とは失礼だなぁ~。君を救いにきたんだよ? もっと敬ってほしいよね」
疫病神、もといツクヨミがそう軽口を叩く。
「はた迷惑なんだよ。俺は救いなんて求めていない」
「関係ないよ。君が救いを求めていようが求めてなかろうが、私は君を死なせたりはしない。君は不幸になりすぎた。そろそろ幸せになってもいいんじゃない?」
もし、俺に戻るという選択肢があったとしても、アイがいない人生なんて幸せとは言えないだろう。ならば俺の出す答えは最初から決まっている。
「もういいんだよ……」
いつの間にか、俺達は足首に波が浸かるぐらいの場所まで来ていた。
これ以上進むとツクヨミが溺れてしまうと思い足を止める。
死ぬのは俺だけでいいんだ。そもそもこいつが死ぬような存在であるかは怪しいラインではあるが……
「やっぱり君は優しいね。ますます助けたくなってきちゃった」
「何を言ってるんだお前は」
突然、ツクヨミが意味不明なことを喋り始める。
「君はアイのいない人生なんてどうでもいいと思ってるよね」
「……!?」
「だから死ぬことにも躊躇はない。いや、ないわけではないか、さりなちゃんや他の子達がいるわけだからね。それでも人生をアイのために投げ捨てれるほどの覚悟があった。だから、復讐を失敗した今、死んで償うことしか頭にない」
「……そうだ」
「つくつぐ君は罪な人間だと思うよ。君はやっぱり幸せというものを一度味わうべきだ」
「さっきから何が言いたいだ」
「君がアイをもう一度救うチャンスをあげるという話だよ」
!?
「それはどういう……!?」
もう一度ツクヨミを問い詰めようとした瞬間、ツクヨミに押され、俺は海に投げ出されていた。大雨の影響で波が強く、元々足が浸かるぐらいの深さだった波がすぐに俺の顔に浸かる深さにまで押し寄せる。
俺は波に飲まれながら必死に手を動かすが海面から顔を出すので精一杯だった。
ツクヨミはそんな俺の方を見て、少し俯きながら……苦々しく笑い、口を開いた。
「でも、それには時間がいる。君には少しの間アイの記憶を封じさせてもらうよ。安心して、記憶を封じる作業が終わった頃には病院の温かいベットの上だ」
記憶を封じる……? くそっ……水を飲みすぎた………頭……が………回ら……な………
アクアはツクヨミの言葉を最後に意識を失った。
pixivに投稿していた推しの子シリーズをこっちでも投稿することに決めました。
てことで、今回は波乱の展開に! アクアは一体どうなっちゃうんでしょうかね?
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