ベーゼヴァンス成り代わり   作:まめちゃたろう

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 久しぶりに二次を書きたくなったので投稿。


産まれてすぐドナドナされた件

 

 目前にある華美な鏡を覗きこみ、柔らかい手のひらを顔にすべらせる。

 もちもちのほっぺにぷっくりと赤く瑞々しい唇。二重の瞼と重厚なまつ毛に彩られたやや猫目な深緑の双眼。まっすぐツヤツヤと(くしけず)られた銀糸の髪が真っ白な肌によく映えている。

 

 まさしくビスクドールの如き絶世の美少年…いや、まだ幼い身の上と考えると絶世の美男児とでも言うべきか。

 

『これがあのハゲデブサンタになるわけか…。時の流れとはなんとも(むご)いものよ』

 

 鏡に映る幼児はかの超大作。本好きというか、本狂いな少女マインが本のために大暴れした結果、底辺からほぼ天辺までのし上がるついでに救国する物語。その途中で立ちはだかる最初のボス…というより踏み台、花捧げ大好きな汚職と怠惰にまみれた皆大嫌い、余計な事しかしない()()ベーゼヴァンスである。

 

 大きな仕事が終わり、お疲れ様の慰労会でしこたま飲んだのが前世の最後の記憶。

 そして気づいたらこの世にオギャアと産まれ、状況を把握できないまま、何がなんだかわからないうちに、母が死去。まだ温かい亡骸の側であ然としていると、嘆き悲しむ兄と姉の嗚咽が響く室内に、父が待ってましたとばかりに現れ「上級貴族に相応しい魔力がない」と言い出した。怒髪天を衝く勢いで怒り狂う兄姉が必死に止めるが聞き入れるわけもなく、雌ヤギ2頭と共に神殿へボッシュート。

 

 この間わずか三日。

 

 何度思い返しても身体の中の魔力が動いた感触や、触れたり抱き上げられた感触が無かったので、おそらく相応しくないと言いつつ、魔力量も属性も調べていない。というか、荷物をまとめる暇など無かったはずなのに、神殿に到着すれば衣類などの日用品は過不足なく、家具も灰色側仕え達も準備万端。スムーズに私を受け入れ世話を始めていた。

 つまりはそういうことである。ドグズめ。

 もちろん、子供用魔術具は与えられていない。

 

 原作の内容を思い出すと、ヴェローニカのやりようも激烈だが、父やその周囲もたいがいアレで、やむを得ない気もする。

 兄も私が産まれた後、しばらくして亡くなるはずだし…。

 ヴェローニカから見れば母と兄は殺され、弟は魔力が少ないと神殿堕ち。父には冷遇と言うには生易しい程の仕打ちを受け、その様子を見てあざ笑っていそうなライゼガング。ガブリエーレ派閥は庇ってくれるだろうが、多くが中級落ちしているせいで中途半端になりそうというか、反対に矢面に立って守ってやらなければならなさそう。中立や領主一族は、おそらく傍観か加害側。ドアマットヒロインを地でいっている。

 コレが未来のアウブ夫人への扱いだというのだから終わってる。救いようがない。立場逆転でざまあ返しされたのはさもありなん。

 いじめっ子は忘れても、いじめられっ子は一生覚えている。

 とばっちりを受けた方々には申し訳ないが、傍観もまた同罪である。つまりはどっちもどっち。

 

 フェルディナンドへの苛烈な対応はまた別問題だが、ヴェローニカがアウブの第一夫人らしく受け入れていたらユルゲンシュミットは滅んでいただろうし…難しい。何十年と先だが、生き残れればマインやフェルディナンドとは仲良くしたいものだ。

 

 さて、一方私はといえば、父のドグズな所業にドン引きしたショックが大きく、転生やら、ユルゲンシュミットやら、ベーゼヴァンスやらといった混乱が治まるのにしばらく時間を要した。

 

 ドグズへの復讐を心に誓いつつも、出来ることは何も無いので、赤子らしく食っちゃ寝の日々を過ごして一年。ようやく落ち着いて周囲を観察できるようになってきた。

 ちなみにまだ立てないし歩けない。灰色の側仕え達はハイハイするとすぐに抱き上げるので、足腰を鍛える機会が極端に少ないのだ。隙を見てハイハイダッシュを決めても、慌てて掬い上げられ、揺すられながら背中トントンであっという間にシュラートラウムの領域へ招かれる。側仕え達のお世話スキルは順調に伸びている。困ったものだ…中身がもし私でなかったら抱き癖のついた甘えたになってしまったに違いない。

 

 反対に発語は、アレ何? コレ何? と質問攻めで練習を繰り返したお陰か、時折噛むものの、短い単語の組合せならスムーズに話せるようになった。いい歳したおっさんだった私が、(つたな)い赤ちゃん言葉を喋るなど鳥肌ものなので、必死に努力した結果だ。

 ちなみに今生初の言葉は【おまる】である。

 体を支えられながらの排泄は屈辱的だが、オムツよりはよほどマシで、人としての尊厳を取り戻した気がした。

 一人トイレはそう遠くない未来に達成出来る見込みだ。たぶんきっと。

 

「どうされましたか?」

 

 鏡を見つめたままジッと動かない私を心配したのか、側仕えが両手を伸ばし、そっと優しく抱き上げる。

 

「本、読んで」

 

 指示を出すと書見台に聖典の写本が置かれ、少女の膝に乗せられる。

 透き通った声が滔々(とうとう)と読み上げ始めると、居室内に控えている側仕え達がソワソワと楽しげな雰囲気を醸し出す。神殿では堅苦しい聖典の朗読も心躍る数少ない娯楽だ。

 仕事中に浮ついた態度を見せれば、大人の上役が注意を促すものだが、ここでは難しい。

 側仕え達は皆、うら若き少年少女しか居ないからだ。年齢はおそらく十歳から一六歳程度といったところか、あどけない雰囲気を残しながらも可愛らしく整った容貌をしている。

 季節事に様子を見に来る老婆が選んだらしいのだが、思惑が透けて見える人選である。

 穢らわしい神殿に堕ちたガブリエーレの息子。その有り様に相応しく、花捧げに耽溺した穢れた男に育ってくれ…そう言わんばかりである。精通を迎えた日には、父の息がかかった青色が賢しらに手ほどきでもするのだろう。

 原作のベーゼヴァンスはものの見事に嵌ってしまったようだが、私はそんな思惑には乗らない。

 性行為は前世でそれなりに経験した。確かに気持ちはいいが、わざわざ嫌がる女性にのしかかる趣味などないし、一度神殿に堕ちた以上、おそらく婚姻は望めまい。今生は右手と仲良くすればいいだけの話だ。

 

 ため息をつきたくなる環境だが、貧民生まれで小汚い家に住む主人公(マイン)よりはだいぶんマシだ。

 それにコレはコレで良いこともある。

 老婆は仕送りを持ってくるだけで、――まだ幼いというのもあるだろうが――灰色に日々の生活の様子を確認すらしないので、大人の目が全くない事が一つ。

 普通の貴族の幼児を見たことがない子育て経験の浅い灰色達は、神童か鬼子かと畏れるべき私の言動を見ても、首を傾げるばかりで、忌避感がなく居室内で排斥されない事が二つ目。

 肌を晒すような身の回りのことは少年たちにさせているし、今更可愛らしい幼児ムーブなど苦痛でしかない私にとっては、ある意味良い環境だと言える。

 

 せっかくユルゲンシュミットに産まれたのだ。騎獣も欲しいし、シュタープも手に入れたい。魔石や魔術具、魔法陣への興味も尽きないし、それにもし、もしも手が届くのならば…メスティオノーラの書をこの身に宿したい。

 本来のベーゼヴァンスには悪いが、ドグズに復讐しつつ、思いっきり好き勝手に二度目の人生を満喫する。

 

『何はともあれ、必要なのは魔力と知識だ』

 

 生まれは良いのだからー持っている属性がどうかは知らないがー中級程度の魔力はあるはずだ。

 ローゼマイン式圧縮法をアレンジして量を増やし、濃度を高める。著作権料は、マインに会ってから本で支払う。何十年後かは覚えてないが、生きていれば神殿に突撃してくるだろう。

 原作通りの彼女なら、十冊ほど積み上げて謝罪すれば両手を上げて許してくれるはずだ。

 

 魔力を全身に巡らせスムーズに素早く動かす初期段階。

 体中に広がる魔力を丹田に集め、グッと押し込んで塊を作る一段階。

 家庭用ハンドジューサーで絞り、液体状にする二段階。

 火にかけ煮詰めてかさを減らす三段階。

 バットに広げて冷やし固め、麺棒で丁寧に伸ばしながら小さく折りたたむ四段階。

 

 慣れてきたら二と四を業務用なり、工業用なりに変えれば良かろう。

 

 で、暇でしょうがなかった新生児の頃からやっていたわけだが、最初は少し動かすだけで体力を根こそぎ奪われて昏倒の上発熱したり、圧縮を失敗して暴走しかけ、体中がボコボコ沸騰させたりと、意外とヤンチャして、側仕えたちに一晩中看病させたり、神具を取りに祭壇まで走らせたりと振り回した。

 正直なところ、少し危なかったと思う。魔力圧縮は器の安定した貴族院入学後に設定された理由を身を以て勉強させてもらった。

 無理に四段階まで行って、抑え込むのに失敗すると死にかけるので、しばらくは二段階で止めて、調子の良いときのみ三段階を行うようにしている。

 まあ、何度か同じ事を繰り返していたら溢れやすい子と思われたのか、何かしらの神具が居室に常備されるようになったのは怪我の功名か、便利に使わせて頂いている。

 

 問題は知識だ。灰色達は聞けば何でも素直に答えてくれるが、いかんせん閉じられた神殿で生きてきた弊害か、狭い世界の事しか知らない。

 仕方なくヤギに会いたいと訴え外出するも、ほんの束の間で、情報収集など出来るはずもなく、つぶらな瞳を眺めつつ新鮮な空気と陽射しにあたって終了だ。

 他の青色なら灰色よりはマシだろうが、鬼子としてドグズへ御注進待ったなしな上、直近で必要不可欠な所作や言葉遣い、フェシュピールなどの貴族教育は彼らも知るまい。

 

 で、思い悩んだ結果…神頼みをすることにした。ユルゲンシュミットには神が実在しているのだから、駄目で元々やってみるしかない。

 狙い目はやはりメスティオノーラ。エアヴェルミーンを助けたいと強く願う彼女ならば、多少の横紙破りくらいあっさりやってのけそうだ。

 

 シュツェーリアの盾に手を当て、ひたすらメスティオノーラに向けて願う。

 メスティオノーラの図書館に生きたまま連れて行って欲しいと、難しいのならば知識だけでも与えて欲しいと。

 現状では聖地に辿り着くのは困難で、シュタープすら手にすることは叶わない。だが、助力をくれるのならば必ずや全属性になり、袋小路にはまったユルゲンシュミットとエアヴェルミーンの状況を改善して見せる…そう強く訴え続ける。

 

『あ、知識ならば長く生きた男性の文官で、所作や文字が美しく、奉納舞が得意な方をお願いします』

 

 

 多少の図々しい要望を加えながら…。

 

 





 読んでくれてありがとうございました。
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