ベーゼヴァンス成り代わり   作:まめちゃたろう

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 ご都合主義っていい言葉です。タグに追加しとこう。





トルークなしで洗脳されそうな件

 

 

 祈りを込め魔力を捧げ始めて二年が過ぎ、三歳の冬を越えた初春。

 そろそろ焦りを感じ、方針を変えようかどうしようか迷い始めた頃、ようやく待ちに待ったメスティオノーラからの記憶の伝授が行われた。

 

 それは七の鐘が鳴り、寝衣に着替えて体を横たえ、重くなった瞼をそろそろ閉じようとしたその時だった。

 特にお知らせというか、「今から送る」等のメスティオノーラからの意思や神託らしきものがあったわけではなく、唐突に…まるでテレビやネットの動画で見た、家屋や橋をなぎ倒して進む土石流の如き魔力の奔流が、天上から我が身に勢いよく直撃した。

 

 思わず硬直し身構えたが、予想したような衝撃は全く無く、横たわった身体は一ミリも動かされてはいない。

 止めどなく落下し続ける魔力の奔流は、私の体内魔力と混じり合い、ぐるぐると頭の天辺からつま先まで隙間なく巡り巡る。

 それは温かい温泉にでも浸かっているかのような、去っていた眠気が再び瞼へにじり寄る程の心地よさだった。ウトウトと意識が深く沈んでしまいそうな刹那、幾人もの男たちの記憶が脳裏へ刻まれていく

 

 真摯に、只々ひたすらなまでの真摯さで、自らが敬愛する女神に祈り捧げる男たち。

 マントの色や着用している衣装のデザインに共通点は少なく、布の基本色が黒ではない。つまりかなり古い記憶。ならばきっと中央という領地が生み出されるより前の…―そう、考察を始めていると「何をやってるんだ」と言わんばかりの怒りの感情が肌を刺した。

 

『ああ、頭を空っぽにするんだっけか…』

 

 確かそう、エアヴェルミーンが言っていた。

 任せてほしい。

 自慢になどならないが、前世において私は社畜だった。

 昼休憩の喫煙所で、あるいは終電帰りのコンビニの外で、コーヒー片手にため息をつきながら、意識を飛ばすのはもはや日常だった。超得意分野と言っていい。

 

 流れるようにボヘっと魂を抜くと、いつの間にか奔流は止んでいた。

 

 この幼い体には負担であったのだろう、こめかみがズキズキと脈打つ。全身から大量に吹き出した汗が、寝衣に染み込んで肌に貼り付いている。あまりの不快度の高さにうめき声を漏らすと、天蓋の幕が開けられた。

 

「お目覚めでございますか?」

 

 不寝番の側仕えの手を借りて寝台の端に座ると、更にどっと汗が溢れた。

 不思議な事に、直ぐ側で行われた事象に、不寝番は気がついていないようだ。

 

「夢見が悪かったようだ。今は何時(なんどき)だ?」

「一の鐘が間もなく鳴る刻限でございます」

「悪いが顔と首を拭いたい。あと、喉が乾いた。水でいいから持ってきてくれ」

「新しい寝衣とお飲み物を準備いたしますね」

「いや、今はそなた一人だろう? 簡単で……」

「しばし、お待ち下さいませ」

 

 丁寧だが有無を言わせぬ口調で言い切ると、サッと裾をひるがえして下がって行く。

 

 待っていた時間はおそらく三分もなかった。

 あっという間に戻って来た不寝番と、叩き起こされたであろう側仕えたちに寝衣を剥がれ、用意された大きな盥に座らされる。温かな湯が頭上と肩口から注がれた。気持ちいい…オッサンみたいな声が出そうだ。

 アワアワと石鹸でもみ洗いされていると、目尻にシワの目立つ初老の側仕えが跪き、眉根を寄せて尋ねてきた。

 

「ご入浴を準備が整うまで、しばしお時間を頂戴いたします。他に必要な物はございますか?」

「何を言う。今のこの状態は、入浴と呼ぶに相応しいのではないか?」

「芯まで温まる事が叶いません」

「不要だ。そこまでせずとも良い」

「……かしこまりました」

 

 何故、たかが風呂に浸かれぬ程度で慚愧(ざんき)に耐えぬとでも言いたげな表情になるのか…。

 

 一年程前に入れたばかりのこの男の名はネーベル。本日の不寝番を勤めている。

 まだ子供の側仕えたちの教育のため、読み書き可能で経験豊富な者、と指定して連れてこられたのがこの男だった。当時四十九歳。神殿に初老の灰色がいると思わず固まった私に「使用期限まであと一年程ですが、それでも良ろしければ」と更に驚愕の事実を重ねられ、ナチュラルに己を道具扱いする言動に顎が外れそうになった。

 

 どうやらこの時代の神殿では五〇歳になると遥か高みへ遠ざけられるらしい。確かに寝たきりになどになっても誰も面倒見れぬし…とか、もっと若い時分に送られてしまう主人公(マイン)時代よりはマシなのか…とか、謎の罪悪感に襲われてつい「最後は看取ってやるゆえ、命続く限り私に仕えるがよい。」とかなんとか言って雇ってしまった。

 

 雇ってから、新たな灰色を迎え入れるための理由をなんと誤魔化すか考えていたら、【保護者よりの要請のため】と書き込んでサクサク自ら動いてサインを貰って来た。

 すぐバレる嘘でも大丈夫なのか? と聞いたら「あの方は文字を書けないので、サインも側仕えが行っています。問い合わせを受けて答えるのも側仕えですので、どうとでもなりますよ。」と返事が帰ってきて鳥肌が立った。

 原作を知るだけに、【文字が書けない傀儡神官長】が持つ破壊力に震える。神殿ヤバすぎぃ。

 

 経歴を詳しく聞くと、洗礼直後から数年前に亡くなった青色に仕えていたとのことで、即戦力間違いなしの優良物件。男性というのも大きい。

 ついでに良い機会なので裏切りや情報漏えい防止ため出費は少々痛かったが、側仕え全員と料理人を契約魔術で縛った。

 

 私が緩い主人なせいか、良く言えばゆったりと悪く言えばダラダラと仕事しがちだった側仕えたちを厳しく躾直し、読み書き計算もしっかりと教育してくれた上、神殿内部に深く通じ、ありとらゆる儀式や青色たちの内情、冠婚葬祭に付随する書類の保管事情にも詳しいスーパーおじいちゃんである。

 若い側仕えとの情報量の格差に軽くビビった。

 君たち引き継ぎはちゃんとしよう…? 適当されると残された側がホント大変なんだから……昔を思い出して胃が痛くなったよ。

 

 有能な男で頼もしいことこの上ないのだが、命を救われた恩を感じたのか何なのか理由は不明だが、やたら私に過保護になるのだけはやめてほしい。

 今も寝衣だというのに冷えるから、風邪をひくからと、重ね着させようとするのは勘弁してくれ。寝間着はダルダルで楽なのが好きなんだ!!

 

 

 

 さて、温かい茶を飲んでぽかぽかになった体を再び寝台に滑り込ませ、メスティオノーラからの記憶を確認する。まずは最初に頂いた物から……と軽い気持ちで覗いて即後悔した。

 

 いや、役に立つかといえば立つ。記憶の男たちやその周囲の者たちの所作はため息が出るほど自然で美しい。だが、フェルディナンドが言っていた「相手の感情に引きずられる。」とのセリフをかなり軽視していた。

 

 

 それはきっと物語に出てきた図書館のあの場所。メスティオノーラの忠誠を誓う場面。

 

 彼らはずっと努力をしていた。腕を磨き、知識を蓄え、少女神に仕えるに足る相応しい人物になるように。そう認められるように。

 

 ()くして今日、努力は報われた。成人した彼らは、並み居るライバルたちを押しのけて図書館司書に見事選ばれたのだ。

 両親兄弟親族一同、仲の良い友人たちに見守られ、高鳴る胸を抑え忠誠を誓う。

 心の内にあるのは歓喜と誇らしさ。これから仕える女神への敬愛と思慕。そして奥底へ大切に仕舞われた、決して叶うことのない恋情。

 

 見守っていた周囲の者たちから祝福の光が降り注ぐ。

 

『ああ、我が女神よ。貴方に永久(とわ)の忠誠を……』

 

 

 そこまでが限界だった。膨れ上がる感情に耐えきれず、記憶の再生を打ち切る。

 

 大きく息を吐き、枕に顔をボスンと埋めた。深く残るメスティオノーラへの感情は治まる気配はなく、苦肉の策で渦巻く感情を魔力と共に折りたたみ、器に作った頑丈な箱へしまって鍵をかける。そうまでしても未だジクジクと疼く心に怖気が走った。

 

 決してメスティオノーラ自身を嫌悪している訳じゃない。助力に感謝しているし、敬う気持ちも、もちろんある。

 まるで出来の悪い惚れ薬を飲んだみたいに、いきなり生まれた叶わぬ恋心への違和感が凄まじく、気色悪いだけだ。

 

 原作であの残念で傲慢な女神っぷりを読んでいなければ、私もメスティオノーラの使徒ならぬ、司書を目指したかもしれない。

 望んで貰った記憶だから文句は言えないが、コレって洗脳じゃないか……? トルークも真っ青の効果とは恐れ入る。

 

 おそらく彼女にそんな意図はなく、お気に入りの司書たちを自慢したいから、とかそんな軽い理由で送って寄越したのだろうが。

 

 一先ず、女神へ忠誠を誓う記憶は永久封印だ。

 

 貰った記憶は司書たちのを含めて二つ。残りの一つを慎重に、感情を揺らさぬように確認していく。

 

 どうやら司書たちの物とは記憶量が桁違いに多く、物心ついた頃から始まっている。

 

 

 周囲の大人たちからその男の子は、マクシミリアンと呼ばれていた。

 幼いだけに彼の感情は常にジェットコースターで、笑ったと思ったら泣いてたり、機嫌よく玩具で遊んでるのかと思いきや、母が側から離れただけで気分が急降下している。

 常にじっとしておらず、走ったり転んだり隠れたりイタズラしたり、かと思えば電池が切れたようにコトンと眠った。

 

 マクシミリアンの記憶を除いた時間は一時間にも満たない。だが、たったそれだけの時間でメスティオノーラの書が何故生み出されたのか、本当に良く解った。

 

 

 まず一つ目、司書たちの物と同じく感情に引っ張られる。書を挟むことで不要な感情を排除し、閲覧者の心を守るため。

 

 二つ目、当たり前だが記憶主の目線に固定されている。いわゆる一人称視点だ。しかも当たり前だが瞬きもするし、ゲームのように操作など出来る訳がない。

 

 マクシミリアンは、元気に動き回るから画面揺れが激しく、瞬きや瞳にかかる前髪のせいでちらつきも酷い。3D酔いで吐くかと思った。

 おそらく彼が、女神に希望した奉納舞の名手なのかもしれないが、参考になるか怪しいものだ。奉納舞の名手を見る他人とか、名手に教わっている人間とか、細かく指定しなければならなかった。

 書ならば、一瞬で見ている記憶の人物を変更出来るのだろう。

 あと、画面から離れて視聴すれば酔いにくい。

 小さい頃から良く言われただろう? テレビは離れて見ましょうって。

 

 三つ目、記憶は最初から通しで見る必要がある。必要な情報がどこにあるのか、欲しい情報が含まれているのかすら不明だ。トイレや風呂、閨など見たくない場面も多いだろうし、そもそも長すぎて地獄だ。

 

 四つ目、スロー再生、早送り、巻き戻し、チャプタージャンプなどの機能がない。理由は言うまでもないだろう。

 

 

 うん、メスティオノーラの書って必要だ。本当にそう思う。

 しかし、書を取るにはシュタープが必要で、シュタープは貴族院でしか手に入らない。貴族院へ行くには貴族として洗礼式を挙げなきゃならないし、洗礼式のためには高ランクの教養が必須で、それは今のところ記憶でしか手に入らない。そして記憶をストレスなく見るにはメスティオノーラの書が……。

 

 ループしてるなぁ……。

 

 袋小路に入りそうになったが、感情は諦めよう。マクシミリアンも洗礼式を迎えれば落ち着いてくれるはず。たぶんきっと……頼むよ……。

 

 後は四つ目としおり機能があればいけそうなのだが…魔力は想像力。主人公(マイン)式ゴリ押し戦法でなんとかならないか? いや、何事も為せば成る。

 

 早速、瞳を閉じて瞑想し、心の中に潜る。

 意外と広い空間に魔力が漂っている。これは心の中と言うより、器の中か? まあ、どっちでもいいか。

 

 さて、どんな物を作ろう。テレビとDVDプレイヤー? いや、それでは画面が少しばかり小さいし、酔い防止でもっと離れて見たい。

 

 ああ、そうだ。昔通った小さな映画館がいい。フィルムにもデジタルにも対応しているのが売りだった。オーナーは髭も髪も真っ白なお爺さんだったのに、スイスイと大きなパソコン機器を自在に操っていて、感心したのを覚えている。

 

 スルリと体内の魔力が動き、下から順に寸分違わずかの映画館が生み出されてゆく。

 映画館前のアスファルトの道路に電柱まで創られていて、笑ってしまった。

 

 少し軋むドアを潜り、ポップコーンと自動販売機を横目に真っすぐ映写室へ向かう。

 昭和を感じさせる大きな机に、場違い感がハンパない一昔前の最新機器が並んでいる。電源ボタンを押すとディスプレイに窓のOSが表示され、並んだフォルダには【司書たち】、【マクシミリアン】とタイトルがついていた。

 

 試しに【マクシミリアン】を開き、先程の続きを再生し、覗き窓からスクリーン見ると眠っているからか、画面が真っ黒だ。

 手元を操作し早送り。二倍三倍、問題なし。一〇〇倍まであれば十分かな? 巻き戻し、一時停止にスロー再生。

 おっ? カット編集まで出来る。

 久々に触る文明機器に夢中になっていると、視界に古いレトロな映写機が写った。

 

 不思議な事にフィルムはすでにセットされ、再生を待つばかりの状態だ。

 吸い込まれるように近づき操作すると、カタカタ音と共に、どこか見覚えのある懐かしい光景がスクリーンに写し出された。

 

 

 マクシミリアンより僅かに幼い男の子が、若い女性に抱っこしてと両手を伸ばす。けれども女性は拍手をしながら「こっちにおいで。」と笑うばかり。

 理不尽な仕打ちに思わず、頬が膨れて涙が零れる。それなのに女性は「強い子は泣かないよ。」と煽る。なにくそとばかりに男の子は奮い立ち、拙い両足を必死に動かして、柔らかくて暖かい女性の胸に飛び込んだ。

 優しい手が頭をなで、すぐ後ろから「凄いぞ! よくやった!!」とびっくりするほど大きな男性の褒め言葉が聞こえた。

 

 

「母さん……」

 

 高校を卒業してすぐ癌で亡くなった、皺のない若い時分の母の姿がそこにあった。

 ふくふくぽっちゃりしていたのに、最後はガリガリで「お母さん、モデルさんみたいになれたわ。」と笑い、「大学はキッチリ卒業するのよ。」と釘を差し、「お父さんをよろしくね。」と願って逝った。

 

 だが、おしどり夫婦だった父の背中はどんどん小さくなり、私の大学卒業と就職を見届けた後、すぐに母の元へ旅立っていった。

 寂しかったし、悲しかった。でも、良かったねと棺に眠る父に声をかけた。亡骸の横で、母と再会したであろう父へ、祝いの盃を傾けたのを覚えている。

 

 父と母、姉と呼ぼうとも、ドグズはもちろん、ガブリエーレもヴェローニカも、私の家族だとは思えないし思いたくない。

 

 

 私の家族は、両親は、私の幸せは、ここにあったのだから。

 

 

 






 ローゼマインのメスティオノーラの書でも、前世の記憶を確認できる気がしてならない。
 だって記憶を覗く魔術具で見えるんだもの(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠)
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