今回も捏造三昧。
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孤児院の裏手に隠れるように建てられた畜舎は、真っ白に輝いており
一頭一室ではなく、親子だったり
主に飼育されているのは馬車用の馬で、基本的に神殿が所有し、儀式外で各青色が利用する際は、その都度金銭によって貸し出されている。反対に個人所有なのが山羊と牛で、主にミルク採取用に飼育され、預かり料は季節ごと発生する。
世話は孤児院に住む灰色が行っていて、驚く事に希望者が殺到する為、日頃の働きぶりで誰を配置するは年嵩の灰色が見極めているそうだ。
「しかし、何故だ?」
キツイ、汚い、臭いの
「申し訳…っございません。聡明なる我が主に見通せない物事があるとは、過分にして知らずっ」
「私など
「…一億! それは途方もない」
ラチ外の数字に驚いたのか、忍び笑いを止めた大男は、
「さて、発作が治まったティム先生。知識の伝授を願えますかな?」
「先生はお辞め下さい、ベーゼヴァンス様。分かれば簡単なことなのですが――」
――
購入される灰色は下働きが最も多いが、次点は――。
「――御者か」
「はい。買われた者が時折、星結びの儀式に出ています。借金を返せば所帯が持てると、昔から人気だそうです」
「なるほど」
確かに御者は操作だけでなく、馬の世話はもちろん、仕込みや馬車の手入れ等々、その仕事は多岐にわたる。更に購入者の多くは商人だろうから、貴族向けの基本的な礼儀作法は必須だ。一朝一夕で身につくスキルではないし、育てるより買った方が安くて早いのも頷ける。
「ここで育った私には、よくわかりません」
「だろうな」
ティムは灰色巫女から産まれた。話を聞く限り、母親は儚げな美女だったそうで、洗礼後、即座に召し上げられた。
魔力が釣り合ったのか、成人して間もなく妊娠し、出産。それが三回繰り返された後、産褥で高みに招かれた。母親は授乳以外の面倒を見ず、古株巫女たちに他の孤児たちと一緒くたに育てられたそうだ。正直、どの子が兄か弟かなど、気にしたこともないと言う。
私に付いた直後は、ため息が出るほど母親に似た金髪碧眼――傾国と呼んで良い程――の美少年だったが、あっという間にスクスク育ちすぎ、灰色の中でもトップクラスの身長と、騎士かと見紛う程の筋骨を持つ青年となった。
今も
性格は明朗快活、刺繍と編み物が得意なオトメンで、私の毛糸の腹巻きやハギレの集合体とは思えない、パッチワークキルトの膝掛けは彼の作品だ。そして簡単な護身術を身に着けさせた、私の外出の護衛兼お供でもある。
とりとめのない会話をしながら歩いて放牧場の柵に寄ると、待ってましたとばかりに私の山羊ばかりか、馬や牛もワラワラと集まってきた。
彼らのお目当てはもちろん私……ではなく、ティムを始めとした側仕えたちが持つ、野菜や果物のくずが入ったバケツである。
その中でも一際大きな、外側にクルンと巻いた角を生やした山羊が、軽々と柵上に立ち、その長い首をこちらに伸ばしている。
「お行儀がいいのか、悪いのか…」
「柵外に出た子に
「素晴らしい躾だな」
記憶の中で、マクシミリアンが【飛び白山】と呼んでいたこの山羊は、本来は雪山深い切り立った岩場に住み、柔らかな若芽や苔、昆虫などを主食としている。雌雄共に立派な角とぶ厚い被毛を持ち、一生涯ただ一頭の伴侶を
現在のエーレンフェストでどう扱われているかは不明だが、すっかり飼いならされ、美味なミルクに肉はもちろん、たっぷりとした被毛は防寒着や絨毯に、皮は羊皮紙に、丈夫な骨は細工物にと捨てる部位など無いとばかりに利用されている。
マクシミリアンは毎年、夏直前になると、この山羊の角を魔石として採取するために岩山へ通っていた。角が落ちる前に命と土以外の五属性で染めると品質の高い魔石となる。但し、命と土を誤って注ぐと魔獣化してしまい、討伐するしかなくなる。
失敗した光景を何度か見たが、成人した騎士が複数必要な程の強さと暴れっぷりだった。
流石に真似出来ない。仕方がないので、品質は相当落ちるが、夏に落角した物を魔石に変えている。クズ魔石屋はどこにあるやら不明だし、今のところ唯一の魔石の入手先だ。
そう、魔石だ。コレが欲しいがために、増えすぎた山羊を処分出来ずにいる。ミルクも体高が倍ほど違うとはいえ、前世の山羊と採取量は十倍以上開きがあり、
採取期間も季節を二つ跨ぐ程長く、私たちだけならば、雄一頭に雌が三、四頭も居れば年中新鮮なミルクが飲めるに違いない。
なのに……なのにだ。現在雄が十八頭に雌が十五頭もいる。
ミルクが余るのも道理だ。
「流石にこれ以上は処分するしかないが…」
「ご予算はまだ余裕があるのでは?」
ティムは山羊たちをとても可愛がっているし、屠殺もやりたがらない。庇うのは分かる。が……。
「実家からの送金は減る一方だ。予算はどんどん苦しくなるだろう」
「ご実家に状況を訴えられては?」
「アレは私を放り込んだ時の寄付金も渋ってないし、外面は良いからキッチリ上級らしい金額を包んでいるはずだ。中抜きされているだけだな。訴えたところで途中で書状が行方不明になるか、無駄遣いするなと一蹴されて終わりではないか?」
「そんなっ…」
途中、何人挟んでるか知らないが、要は舐められているのだ。中抜きがバレたとて何も出来ないと高をくくって、やりたい放題やられている。今は確かにその通りだが……。
「間もなくあの女が来る時期だ。そろそろ話し合いをせねばなるまい」
「是非、お手伝いさせて下さい」
「もちろん、扱き使う予定だ。宜しく頼む」
「ハイ! 何なりとお申し付け下さい」
またもや大袈裟な仕草で畏まって礼をとる姿に笑みが溢れた。
そろそろ実家のスネに頼るのは控えたいものだが……さて、どうしたものか。
悩みや問題は山積するも、解決できるのは雀の涙ほど。
今は今、そう割り切って日々を過ごすしかない。
居室に戻って袖が膨らんでない部屋着へ着替える。裾の長さは膝下程度に抑えられ、僅かばかりだが伸縮する生地で作られている。どちらかと言えば、運動着に近い。
肩甲骨の高さに揃えられた髪は、頭皮を刺激しないよう、緩めの三つ編みに編まれ、無造作に垂らされている。
本当は短髪にしたかった。でも……ここの散髪は小刀でゾリゾリ剃るのだ。顔の真横に小刀が来るのは信用してるとはいえ、正直、怖い。自分で上手くやれるはずもなく、前髪なしの長髪で落ち着いた。
さて、側仕えたちが見守る中、早速始めよう。
私が立つ高さに合わせたテーブルの上で、腰を入れ体重をかけてただひたすら、捏ねる、捏ねる、捏ねる。
手のひらとテーブルの間で、まるで粘土かパン生地の如く、魔石がグニャグニャと姿を変えていく。
記憶を色々覗き見て考察した結果、思うに魔石の品質とは、魔力の内容量とその濃度にあると考えるに至った。もちろん、属性も重要だが、それはどうとでもなる。粘土は混ぜ合わせることが出来るのだから。
よって、回収した角は単属性に染め、濃度を高める為に、捏ねに捏ねて、空気や不純物を抜くように圧縮していく。その過程で大人の顔程もあった角は、最高品質まで圧縮すると、私の爪先程にまで小さくなってしまう。
流石に現時点で、最高品質までは必要なかろうと、中程度迄で留めている。
山羊角は私が欲しがらない限り、トイレのネバネバ…基、魔力喰らいに捨てられるので、神殿で飼育している全ての山羊の角が回ってきている。
その数、年間五十は超えるのだが、こちとら暇な子供だ。正直、魔石を触るだけでワクワクと心が沸き立ち、あっという間に圧縮は終わってしまう。
丸く纏めるだけでなく、定規を使って水属性をエメラルドのように整形したり、各属性で花びらを形作り、シェンティスの花の如き魔石にしたり……挙句の果ては、ティムの提案とアドバイスを受けて、細く長く途切れなく、ちまちまと伸ばし、魔石糸とでも言うべき代物まで創作してしまった。完成度としては太さが不揃いでイマイチだ。更なる努力と創意工夫が必要だろう。
少々やらかした自覚はあるが、楽しかったのだ。仕方あるまい。
そうそう、魔力を各属性に分離する練習を繰り返していた際に、重要なことが判明した。私の生まれ持った属性である。
どうやら、火と土なしの五属性だったようだ。土はともかく、火がないのは少々困る。今後、重点的に祈るとして、加護の儀式も行いたい。
儀式の魔法陣はすでに手中に収めているが、そのためにインクと布を用意する必要がある。布はどうとでもなるが、問題はインクとその素材だ。
どうするべきか思案していると、ネーベルが慌てたように入室し跪く。
「何事か?」
「例の貴婦人より先触れが参りました。明日、来訪されるとの事」
「何という性急さだ。貴婦人のなさりようとは思えぬな」
先触れから数日開けるのがマナーと聞いた覚えがあるのだが、かの貴婦人にとって私は常識を守るべき相手ではないのだろう。
格下どころか、平民にも劣る扱いに眉をしかめる。
「今、馬車を追いかければ変更は可能やもしれませんが…」
「不要だ。腹は立つが都合がいい。そろそろ揃えたい道具類や素材も増えてきた。ご協力を願う良い機会ではないか?」
「それでは……」
「夕食後、全ての側仕えを集めてくれ。明日の流れと動きを説明する」
「かしこまりました」
捏ねていた魔石は高ぶる魔力に耐えきれず金粉に変わっていた。大きく深呼吸をして、体内を激しく巡る魔力をゆっくり畳んでいく。
とうとう来た。そう、柔らかな繭を破り、微睡んだ生活から目覚める時がやって来たのだ。
失敗すれば殺される? いや、私はおそらく大丈夫だ。多少痛めつけられる程度ですむはず。だが、躾に失敗した側仕えたちは皆、高みへ送られることになるだろう。
かしましい娘もいるが、私の側仕えは亡くしたら替えの効くものでもない。失えない……絶対に。
心中で決意し椅子へ腰を下ろして考え込んでいると、いつの間にか作業していたテーブルは下げられ、椅子に合わせた丸机の上で琥珀茶が湯気をくゆらせていた。
口をつけ、飲みやすい温度の茶を喉へ滑り落としながら窓越しに空を見上げると、雲一つない真っ青な秋空が広がっていた。
後、一季節跨げば五歳の冬になる。明日もこの空の如く、曇りのない日であるように、
「」の最後は句点を付けないのが主流とご指摘受けたので、全編該当箇所を修正しました。抜けてたら教えて下さると嬉しいです!