今回も遅れた上に長くてスイマセン。
今、この時、ベーゼヴァンスたちから貴婦人と呼ばれていた老女は、自分の身に何が起きているのか理解できないでいた。
季節の変わり目に近い今日、いつものように神殿を訪れ、灰色に預かった革袋を渡してさっさと帰ろうとしていたはずだ。
――ああ、そうだわ。ガブリエーレの息子に相談に乗ってほしいと言われて……それから? そう、確か……目の前が真っ白になって痺れを感じたような?
視界も頭もぼんやり朧げで思考が纏まらず、体躯はジンジンと痺れ、少しの動作すらままならない。
――痛い。手首に何かが食い込んでるわ……これは縛られているの…?
瞬きを何度か繰り返して頭を振ると、ようやく目の焦点が合い視界が晴れてきた。視線を素早く動かし、状況を確認していく。
両手は後ろ手に回され、コレはシュタープを出せないようにする為だろうか? 手首どころか、指先から肩までグルグルと衣類ごとキツく幅広の布が巻かれ、ピクリとも動かせない。
足はどうかと視線を下ろし――カッと恥辱で顔が真っ赤に染まった。
着衣が来訪時とは違い、刺繍もない灰色の見窄らしいワンピースに変えられ、靴も平民が使うような短い木靴で、縛られた縄の間から靴下が見えてしまっているではないか。
「安心して下さい。体に触ったのも着替えさせたのも全て、女性である灰色巫女が行いました。男性は同室していなかった事を神に誓いますよ」
「なっ…だからと言って……何というっ…。お前はっ!」
優雅に椅子に座る子供を睨みつけ、反論と罵倒を叩きつけようにも、羞恥に襲われて、口が上手く回らない。力任せに拘束から逃れようと体を捻ったり、キツく巻かれた布や縄を引き千切ろうとしたが、シュタープを出せず、身体強化が出来ない身では困難であった。
「無理に暴れると怪我をしますよ」
「流石、穢らわしい神殿に堕ちたガブリエーレの息子だわ! こんな事、許されると思って?!」
「許される? 誰に? 神か、アウブか、貴女にか? うーん…そうだね、神はこんな些末な事に気にかけないし、アウブはバレなければ問題ない。そして、貴女に許されようとは思ってない」
「……っ」
絶句という言葉の意味を初めて味わった。この目の前に座っているコレは一体何だ?
ガブリエーレの息子だ。確か次の冬で五歳になるただの子供だ……そのはずだ。コレが五歳の子供? 本当に? 老女とは言え、大の大人である自分を縛り上げ、悠然と見下ろしている
「恐ろしい魔獣でも見るような目だね。イサナベーラ」
「わ、わたくしの名を何故知っているの?!」
子供への面会依頼の申請は神殿長に送るのが通例となっていて、木札を本人が確認する事はない。しかも、自らの名をガブリエーレ派閥の者に知られぬよう、わざわざ袖の下を出してまで伏せさていたのだ。
「他所は知らないが、誰宛に書簡を出しても、神殿では最初に受け取るのも、確認するのも灰色だよ? それに貴女についてはもっと詳しい。確か、貴女が洗礼式を迎えたのは――」
どうやって知ったのか、語られるのは自らの経歴。そして続けて今は亡い父母や夫にその義父母、果ては兄弟姉妹の名前や出生没年、果てはその属性までがスラスラと淀みなく、流れるように幼い声で紡がれる。
子供とは到底思えない。まるで老獪な紳士と対峙しているかのような気分だ。魔力ではない重圧が全身をズシリと圧迫し、言いしれない恐怖が足元から這い上がってくる。
やがて語られる内容が自らの娘にまで及ぶ頃には冷や汗が滝のように流れ落ち、体が
「貴女は子供用の魔術具をしてないね。とても不思議だ…貴族にとって命に等しいはずなのに何故かな?」
「それは……」
「分かっているよ。孫息子に譲ったんだろう? 上級貴族のくせに、第二夫人として貴女の娘を娶りながら、子供用の魔術具を一つも用意しないとは非常識な男だ」
「違いますわ! 義息子は……」
「ふむ……出産直後は貰えたのか。確か一年違いで第一夫人が男児を上げているね。魔力の多少を理由に取り上げられたのかな? よくあるお家争いだね」
答える前に反応だけで、情報が暴かれていく。
――記憶を覗く魔術具を使ってるわけではないのに……。心が読めるとでも言うの?!
もう、表情を取り繕うことなど出来ず、恥辱に赤く染まっていた皮膚はすっかり青に変わってしまった。
「貴女は婚姻で上級に上がったとはいえ、元は中級で三属性。それは娘も同じだ。先日、洗礼を迎えた孫息子は四属性。属性が足りない君の魔術具では所詮、間に合わせにしかならない。上手く魔力を貯めれてる? 貴族院の準備は整いそうかい?」
整う訳が無い。命を繋ぐだけで精一杯なのだ。
第一夫人は大派閥ライゼガング出身で、義息子は後ろ盾が強いそちらを優先しがちだ。娘や孫息子の生活はともかく、新たな魔術具の調達には非協力的で、収入や財産は十分あるはずなのに、魔石も学用品も衣類も…何もかもが後回しにされ続けている。
自分の財産から援助しなければ早晩、孫息子の命は潰えていただろう。
「せめて貴女の孫が女児ならば良かった。きっと第一夫人も敵対視せず、気を使ってくれただろうに」
「……っ」
「でも闇の神の袂に誘われないだけマシだ。魔術具さえ用意出来れば命を繋ぐ事も可能だし、きっと貴族院も卒業出来る。私への送金から随分抜いたみたいだけど、資金は溜まったかい?」
「わたくしはそんな愚かな真似は致しませんわ!」
被せられた冤罪に思わず恐怖を忘れ怒鳴り声をぶつけてしまった。が、子供は微塵も怯む様子を見せず、顎に手を当て、しばし目蓋を閉じた後頷いた。
「なるほど、金を抜いたのは側近で、貴女は交換条件で仕事を引き受けたのか」
「なっ……」
「要求したのは孫息子の魔術具と魔石かな?」
「……魔術具だけですわ」
もう、何故分かるのかと疑問をぶつけるのは諦めた。体内で乱高下する感情と荒れ狂う魔力にすっかり疲れ果て、聞かれるがままに答えていく。
「約定を結んだのはギーベ・グレッシェルと? それとも側近と?」
「最初にギーベとお会いして約定を交わしました。以降は側近の方とやり取りしていますわ…。領主候補生だった方ですもの、上級用とて
「五年近く経ってるのに、まだ渡されないとはきな臭い。約定の内容は?」
「わたくしがギーベと神殿の繋ぎ役になるならば、魔術具を用意すると……」
「契約魔術は交わした?」
「いいえ、そもそも上からの命に契約魔術など願ったら、叱責されてしまいますわ」
「口約束かぁ……なかったことにされそうだね」
「何を言うのです! あの方は次期アウブだったのですよ!?」
「領主候補生から落ちた、貴女と同じ上級貴族だ。信用に値しない。
……もしかしてお金と同じように、魔術具も側近に抜かれてないか?」
「まさか……」
「上役であるギーベの懐に手を突っ込む輩が、貴女のような中級上がりから報酬を掠め取らないと言えるのかい?」
考えてもいなかった。待ちきれず催促した事もあったが『ただのオルドナンツの癖に、待てないのか
ガブリエーレの息子が洗礼式を迎える頃なら手にできるはず、そう思い込んでいたが、そんな保証など何処にもなかった。
――そんな……わたくしの可愛いあの子はどうなってしまうの?
ただでさえ魔石が足りず、カバーし切れない属性の魔力が何度も溢れかけ、下働きのように家の魔術具に供給させてしまっている。家にいるなら屈辱的とはいえ、それで凌げるが、貴族院に行ってしまったら誤魔化すのは難しい。きっと合わない魔術具の存在はすぐに発覚し、糾弾され爪弾きに合うだろう。
ライゼガングから指摘されれば、義息子はきっと孫息子を貴族院から帰還させてしまうに違いない。そうなれば行き着く先は神殿か、下働きの二択しかなくなる。
やがて来る未来に絶望して項垂れていると、頭上から穏やかで優しい声が降りそそいだ。
「イサナベーラ、助けてあげようか?」
「えっ…」
「見てご覧」
脇から側仕えが差し出したトレーを見て驚愕した。
そこには高純度な四属性……孫息子の適正そのままの魔石が乗せられていたのだ。
「一先ず、魔術具の魔石を適正に合った物に交換すれば良い。後は貴女の協力次第だが、魔術具も準備出来るはずだ。どこぞのギーベのように五年も待たせたりしないよ」
「……本当に?」
「もちろん、契約をするならば…だけどね」
「じょ、条件はどのような」
やけくそ気味だった事は否定できない。藁にも縋る思いだった。
拘束された不自由な体勢のまま、掲げられた契約書に目を滑らせていく。
【一つ、ベーゼヴァンスはもちろん、ベーゼヴァンスの側仕えなどの近しい人物を、ベーゼヴァンスの許可なく、精神的にも肉体的にも傷つけてはならない。
二つ、ベーゼヴァンスやその近しい人物から知り得た、もしくは読み取れた情報を、ベーゼヴァンスの許可なく書き残したり、話したり、匂わせたりしてはならない。
三つ、毒や薬、魔術具などをベーゼヴァンスや近しい人物に、ベーゼヴァンスの許可なく、盛ったり仕掛けてはならない。もし、上位者などに命令された場合は、周囲に気づかれないよう慎重に動きつつ、可及的速やかにベーゼヴァンスへ連絡を取り、綿密に対応を相談する事。
―――――――(中略)―――――――
九つ、材料が手元に揃い次第、家族や近しい者に悟られないよう、イサナベーラ自身の名捧げ石を作成し、ベーゼヴァンスに捧げる事。
以上の内容を、わたくし、イサナベーラは、高く亭亭たる大空を司る最高神たる光の女神と、その側に仕えたる十二の眷属に誓います】
八番目迄はベーゼヴァンスとその周囲を守る為のものと、契約後の不服従や裏切りを防ぐ為の回りくどい条項なので、契約魔術を交わすのならば入っていて然るべき文言だ。
だが、この九番目と最後の一文は眉を潜めざる得ない。
「名捧げ石…? 忠誠を誓えとでも言うの?」
「いや、忠誠など強制して得られるはずがない。石を捧げてくれるだけでいい。もし捧げてくれるのなら、私も貴女や貴女の大事な娘と孫息子を、手が届く範囲で守ることを誓おう」
「お前は軽い事しか誓わないのね? わたくしには固く誓わせて縛るくせに」
孫息子が無事、生きて貴族院を卒業出来るのなら、老い先短い自分の忠誠など安いものだ。けれど、名捧げ石の事は遠い昔、貴族院で習った覚えがあるが、記憶から消えて久しい。
知識に無いものを捧げるのは、先が読めず不安だ。
僅かに、領主候補生のボニファティウス様が、側近から忠誠の証として捧げられた事を自慢していたのを覚えている程度。興味が無かったから、その時も話しの輪に加わらなかった。何故情報収集しなかったのか。後の祭りとは正にこの事だ。
「……魔術具はいつもらえるのかしら? 期限を縛ってお前の契約魔術に加えなさい」
「作り方は知っていますが、魔石以外の材料は貴女に協力願うしかない。なので材料と調合器具が届き、予定と体調が万全の時に作成するとしか約束出来ません」
「仕方がないわね、わかったわ。でも、名捧げ石の作り方など知らないわ」
「心配ご無用。手順と材料を記した木札を用意してあります」
「……手際が良すぎて気持ちが悪い子ね」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
捻り出した嫌味をサラリとあしらわれてムッとした。人として、こちらが遥かに年月を重ねているはずなのに、まるで小娘を転がすかのように扱われ、困惑してしまう。
「契約を交わしますか?」
「……すぐには決められないわ。少し考えさせて頂戴。できれば、一度帰宅して熟考させて欲しいものね」
「なるほど、帰宅は難しいですが、考える時間ならば差し上げましょう。お茶を一杯飲む程度しか与えられませんが」
側仕えが嗅いだ覚えのない香しい茶をサーブし、子供がゆっくりとカップを傾け、彼女の存在が無いかの如く、主従で日常会話を交わし始めた。
憎らしく思いつつも、彼らの様子を観察する余裕はない。僅かな時間で決断せねばならなかったからだ。
――署名をする? 絶対に嫌。こんな得体の知れない子供の下につくなんてごめんだわ。
ここから逃げる? どうやって? 手足を縛られたままじゃどうにもならないわ。
状況を打開するため、頭の中で激しく相反する考えが浮かんでは沈んでゆく。荒れ狂う思考の嵐の中、一つの欲望が鎌首をもたげた。
――あの魔石が欲しい。あれさえ手に入れられれば、わたくしのあの子は生きて真っ当な道を歩めるはず!
貴族でもない子供には分不相応な魔石。神殿で生きるしかない此奴には宝の持ち腐れ以外の何者でもない。
他は自身の資産を全て処分する羽目になろうとも、必ず用意してみせる。
だが、あの子の適正にあった魔石だけは
――シュタープさえ出せれば、こんな子供など一捻りして奪えるのに…。
そう時を置かず、カップの中身は底をつくだろう。追い詰められ、焦りが募ったその時、
――そう、そうよ、契約書に署名するならこの体勢じゃ無理だわ! 解放されて片手だけでも自由になれば、ロートを上げられる。すぐに捉えられようと、騎士団の救援は止めようがないはず。あの魔石は此奴に盗まれたと訴えればっ……!
光明にも思える策に高揚し、自然と緩み始めた顔を慌てて引き締める。所詮、神殿に貶された子供だ。やることが穴だらけで助かった。
輝きそうになる瞳を閉じ、意気揚々と口を開く。
「契約魔術を交わしますわ」
答えを聞いた子供は驚いたような仕草で飲みかけのカップを置き、視線をこちらに向けた。
「……ふむ、覚悟は決められたので?」
「ええ、もちろんよ」
「貴女の決断に称賛を贈りましょう」
「じゃあ、これを解いて頂戴。このままじゃペンが持てないわ」
「いえ、その前にまず、口頭で誓って頂きましょう。クララ、アレを」
子供の指が振られるとすぐ、背後から頭に何かが乗せられた。僅かに魔力が吸い取られた事から、魔術具だろうと予想がついたが…。
「な…何なの?」
「嘘を見抜く魔術具ですよ。貴族である貴女を何の保証もなく、解放するのは怖いですからね」
「くっ…何故そんな物を……」
「魔力量は僅かで構いません。その魔術具に魔力を込めながら、真摯な気持ちで契約内容を読み上げて下さい。真摯に…ですよ? 嘘は分かりますからね」
――とっとと解けば良いのに……面倒な子供め。
ペラりと再度目前に掲げられた契約書を睨みつけ、口惜しく臍を噛む。
「さあ、読み上げて下さい。全てを」
強く促され、署名する訳ではないのだからと渋々契約するつもりで、内容を読み上げる。
「一つ、ベーゼヴァンスはもちろん――」
不思議な事に条文を音読する毎に、頭上の魔術具は自らの意思に関係なく魔力を勝手に吸い上げていく。
それはふわふわゆらゆらと、まるで騎獣で空へ浮かぶ時のような、テラスで春風にあたっているかのような柔らかな心地で、拘束されているというのに偉大な何かに包まれ、見守られているかのように感じた。
やがて長くも短くもあった読み上げは最終章に近づき、最後の条文を口上に乗せる。
「――以上の内容を、わたくし、イサナベーラは、高く亭亭たる大空を司る、最高神たる光の女神と、その側に仕えたる十二の眷属に誓います」
劇的、正に劇的であった。誓うと同時に光の帯が無数に現れ、四方八方からグルグルと体に巻き付いて消滅した。
「なっ……何が」
本当は聞かなくとも分っていた。自らは縛られたのだと、肉体ではなくシュタープの宿る魂を直接、契約で縛られたのだと、本能的に理解出来たのだ。
「どうして騙したの……?」
「人聞きの悪い事を言いますね。契約を交わすと宣言したのは貴女自身ではないですか。
まあ、署名する気などないと見れば判りましたからね。
少々、強固な形になってしまいましたが、自業自得です」
「こんなの嫌よ! 必ず契約魔術に署名するから、コレは解消して頂戴!」
こんな恐ろしいモノを背負って生きる位なら、契約魔術の方が断然マシだ。そう訴えるも、子供からの返事は無慈悲で冷たかった。
「出来ません」
「そんなっ…」
「ご覧なさい」
女性側仕えの手によって、頭上より降ろされた魔術具は美しく周囲に荘厳な輝きを放っている。
すぐにどの魔術具か見当がついた。希少な本の表紙や挿絵によく使われていたし、自らの、そして娘の婚礼衣装へ刺繍するため、何度も何度も針を通したので見覚えがあったのだ。
「光の女神の冠……」
「ええ、その通り。貴女は神と契約した。そこに契約解除などの抜け道は一切存在しない」
「わたくしはこんな事になるなんて知らなかったっ…卑怯だわ!」
「光の女神とその眷属の役割は十分ご存知のはず。知らなかったは通じません。まあ、諦める事です」
「あ、ああぁ…」
全身から力が抜け床に倒れ込む。絶望か、忘我か、もうわからない。何も考えたくなかった。
どれほどそうしていたのか、だらしなく、床に身を投げた老婆が見苦しかったのかもしれない。いつの間にか手足をを縛った拘束は解かれ、女性側仕えによって長椅子に横たえられていた。
「イサナベーラ、そう悲観する必要はない。
私に利をもたらすならば、必ず利を与える。このようにね」
そう言って子供はイサナベーラの手に何かを握らせた。
ぼんやりとした思考と視界の中で手のひらを開くと、そこにはキラキラと切望した魔石が光り輝いていた。
「契約の報酬と、調達してもらう物資の前払い金として受け取りなさい」
「……本当に頂けるの?」
「フッ、それはもう貴女の物ですよ。
私についてきなさい、イサナベーラ。決して損はさせません」
口端を上げて笑む子供の言葉はストンと心に落ちた。
どの道、契約を交わしてしまった以上、この子供に逆らうことも、不利益をもたらすことも、出来はしないのだ。ならば腹をくくり、利を絞り取るしかない。
「まずは、向こうの小部屋で服を整えてきなさい」
心を決めて頷き、踵を返して指示に従う。
音もなく付いてきた灰色巫女たちは、握りしめた拳に触れず、手早く着付けを行なう。来訪時に着用していた魔術具やお守りは絡めて返却されたので、自ら装着し直す。
最後に大事な魔石をハンカチに包んだ上で小袋に封じ、貴重品を入れる胸元の隠しにそっと仕舞った。
小部屋から戻ると、左の膝を立てて跪き、新たな主の手を取り、その甲に額をそっと押し当てる。
主は片眉を上げたものの、その行動を咎める事も、褒めることもなかった。
「当分の間、貴女が表面上、私を主として扱うのは神殿内だけで構いません。
心までは縛りませんから、私への悪態は頭の中で存分に行う事を許可します」
「……畏まりました。ベーゼヴァンス様」
「では指示を与える――」
立て板に水を流すように溢れ出る指示を心に刻みつけながら、大幅に方向転換し、忙しくなりそうな残り少ない人生を思う。
願わくば、後悔の少ない最後を迎えられますように……と。
ちなみに、オリ主がサインする気あると判断したら、猿ぐつわを嵌めさせて利き腕だけ解放しました。
これぞまさしく鬼畜の所業。
シュタープ怖いからね。仕方ない。後は物理でシュタープを封じる方法は、腕や指を折る位しか思いつかないけど、他に何かあるかなぁ?