鬼と平和は紙一重 作:αスタイル
夜鹿からこの世界のことを教えてもらった白夜は現状を解決するためにも夜鹿の便利屋に加わることになる。
夜鹿「まぁ分かってはいたけど……」
︎︎夜鹿と白夜は建物の陰から夜鹿の便利屋がある建物を覗いていた。
︎︎便利屋の前には警官が数人居て、事情聴取を行っていた。
白夜「どうすんだ?あぁも張られてたら帰るのは無理だぞ?」
夜鹿「しばらくは泊まりか野宿ね……」
︎︎そう言いながら2人は警官がいる便利屋から離れる。
︎︎拠点となる場所が使えないのは痛手であるが、今の2人にはコンカラーから奪った宝石がある。何も出来ないという訳では無い。
夜鹿「まずはこの宝石が何なのか調べましょ。何かヒントが得られるかも」
白夜「となると図書館にでも行くのか?」
︎︎街中を歩る夜鹿の少し後ろをついて行くように歩きながら白夜がそう尋ねた。
夜鹿「それも良いけど、折角なら使えるツテを使うわ」
白夜「へぇ、宝石に詳しい知り合いがいるのか?」
夜鹿「えぇ、ちょっと濃い人だけどね」
︎︎夜鹿が何処か歯切れ悪そうに答えた。
︎︎しばらく歩くと2人はとある喫茶店の前で足を止めた。
白夜「『喫茶ニューノーマル』?」
︎︎何処か落ち着いた雰囲気を醸し出す木造の店に掲げられた看板を見上げながら白夜は口に出して店名を読み上げる。
白夜「なんで宝石のことを調べるのに喫茶店なんだ?」
夜鹿「ここのマスターが色々と物知りなのよ」
︎︎夜鹿が喫茶店の扉を開けるとドアの内側に付いていたベルが子気味良い音で来店を店内に知らせる。
︎︎中に入ると程よい音量の落ち着いた音楽が流れ、アンティークな家具が配置された中々に落ち着いた雰囲気だった。
夜鹿「マスター!いる?」
︎︎夜鹿が呼ぶとカウンターの奥からドタドタと慌ただしい足音が2人に近づいてくる。そして、カウンターの奥から姿を現したのは身長が180は越えているだろう長身のマッチョな男性だった。いや、その人物はそのガタイを持ちながらフリルのついたピンクの可愛らしい服をピチピチにしながらも着て、髪も黒くセットされた綺麗な長髪を持っているので女性なのだろうか?
︎︎突然現れた情報量の多い人物に白夜は呆然とその姿を見ていた。
︎︎するとマスターと呼ばれた人物は夜鹿を見ると両手を合わせて嬉しそうにしながらその渋い声を上げた。
???「あらあらあら!よっしー来てくれたのね!」
夜鹿「マスター、恥ずかしいからやめてよ……」
︎︎夜鹿が居心地悪そうにしながらそう言う。
︎︎自分の後ろで口をパクパクとさせている白夜に気づいた夜鹿は目の前のマスターを白夜に紹介する。
夜鹿「この人はこの喫茶店のマスターのマルスさんよ」
マルス「あら?今日は他にも連れがいるの?」
︎︎マルスは白夜の前に立ち、「マルスよ、よろしく♡」と鍛え抜かれた腕を白夜に差し出した。
︎︎その屈強な肉体に圧倒されながらも白夜は「よ、よろしく……」と握手を交わした。
白夜「えっと……喫茶で合ってるんだよな?ボディビルカフェとかじゃなくて?」
マルス「あら、それも悪くは無いわねぇ?でも私は喫茶店の方が好きなの」
︎︎マルスはそう言うと夜鹿に「注文は?」と言いながらカウンターに戻っていく。よくよく見ると喫茶店の中には筋トレ用のグッズなどがそれとなく飾られたりしている辺り、彼……彼女?は体を鍛えることが趣味だと伺える。
︎︎カウンターに座った2人の前にコーヒーとオレンジジュースを置くとマルスは「それで?」と夜鹿を見ながら尋ねた。
マルス「今日は何を聞きに来たの?」
夜鹿「よく私が聞きに来たって分かったわね?」
マルス「アンタが飲食目的で来たことなんて1度もないでしょ?ウチは情報屋じゃないのよ?全く……」
︎︎マルスはパンを切りながらそう言う。
︎︎夜鹿は「そうだっけ?」ととぼけながら目の前のコーヒーを1口飲んだ。
夜鹿「実はこれについて何か知らないかと思って」
︎︎夜鹿はポケットから例の宝石を取り出してカウンターにそっと置いた。
︎︎マルスは手を拭いてから夜鹿の置いた宝石を持ち上げて顔の近くに持っていきまじまじと宝石を見た。
マルス「ふーん……『マスジュエル』にそっくりね」
夜鹿「マスジュエル?」
︎︎マルスは夜鹿の手のひらに宝石を返しながら「そっ」と言う。
マルス「北の方に伝わる伝承の1つに似たような宝石が出てくる話があるのよ。神フトゥスが飢餓に苦しむ人々の為に授けた宝石、それがマスジュエルよ」
︎︎マルスはそう言いながら夜鹿とマルスの会話を肩肘をカウンターにつきながら黙って聞いていた白夜の前に3つの具沢山のサンドイッチが乗った皿を置いた。
白夜「俺サンドイッチなんか頼んでないんだけど?」
マルス「アンタ細すぎよ、もっと食べなさい?」
白夜「金持ってねぇんだけど……」
マルス「良いわよ、ツケにしとくから」
︎︎白夜が置かれたサンドイッチを見ながら「取るのかよ……」と愚痴るのを横目に夜鹿は話を戻した。
夜鹿「その伝承もっと詳しく教えてくれない?」
マルス「私も詳しくは知らないけど、話の内容は確か悪魔が引き起こした災害によって人々はありとあらゆる『物』を失ったって話だったわね。
そんな人々を見て可哀想に思った神フトゥスは人々にあらゆるものを生み出す宝石マスジュエルを授けたって内容だったわ」
夜鹿「あらゆるものを生み出す?」
マルス「そ、食べ物でもなんでも生み出してくれるらしいわ」
︎︎その話を聞いていた白夜はサンドイッチを頬張りながら話に加わる。
白夜「でもおとぎ話なんだろ?」
マルス「実はそうでも無いらしいわよ」
夜鹿「え?」
白夜「マジで?」
︎︎マルスの発言に2人は眉間にシワをよせた。
マルス「伝承に出てくる神殿らしきものが最近見つかったらしくてね、話の内容から見ても特徴が一致するんですって」
夜鹿「神殿……ってことは神フトゥスの神殿よね?」
マルス「でしょうね。話の中では信奉するためのものって言うよりはそのマスジュエルの力を使うための祭壇に近かったみたいだけど」
︎︎マルスのその言葉に白夜は「そのまま使えないのか?」と尋ねる。
マルス「マスジュエルは大きな力そのものだからそれを制御するものが必要なのよ。それを制御するのが神殿ってワケ」
白夜「本物だったら金を作ってもらおうと思ったのに……」
︎︎そのままじゃ使えないことを聞いた白夜は舌打ちをしながらサンドイッチを頬張る。
︎︎夜鹿は手元の輝くマスジュエルをしばらく見ていたが何か決めたのかマルスの方を向いた。
夜鹿「マスター、その神殿の場所は分かる?」
マルス「えぇ、調べれば分かるけど……まさか行く気?」
夜鹿「この宝石に関することなら調べる価値はあるわ」
︎︎宝石を握りながらそう言う夜鹿を見ながらマルスは軽くため息をついた。
マルス「ま、ほどほどにしなさいよ」
︎︎マルスが呆れながら言うと夜鹿はニヤリと笑って「分かってる」と返した。そして横でサンドイッチを食べていた白夜に声をかける。
夜鹿「食べ終わったら行くわよ」
白夜「ムグッ……ちょっと待て、トイレ行きてぇ」
︎︎白夜はマルスに「トイレは?」と聞き、マルスが指さした方に歩いていった。
︎︎白夜の背中が見えなくなった途端にマルスはウキウキ顔で夜鹿に聞いた。
マルス「で?あの子とはどんな関係?」
夜鹿「ただの巻き込み事故よ」
マルス「あら、そうなの」
︎︎マルスはつまらなそうにそう言うが、何処か納得のいかない顔をする。
マルス「……ちょっとは誰かを頼ったら?」
夜鹿「今マスターに頼ってるじゃない」
マルス「そういうことじゃないわよ。もっと、心から許せる人を見つけなさいって言ってるの」
夜鹿「別に、これが私だからいいの」
︎︎そう言う夜鹿をマルスは何処か悲しげな顔で見ていたが、それ以上は何も言わなかった。