鬼と平和は紙一重 作:αスタイル
喫茶店のマスターであるマルスからマスジュエルに関する伝承を聞いた白夜と夜鹿は伝承に出てくる神殿を目指し出発した。
︎︎セントラルワンの中央ターミナルには大きさも形も様々な電車が到着し、そして出発していく。その光景はまるで有り合わせの玩具で作った駅のホームだった。
夜鹿「マスターの調べだと、セントラルワンから電車で北に3時間ほど行った場所にあるらしいわ」
︎︎夜鹿は駅で貰った簡略の駅構内マップを見ながらそう白夜に教える。
︎︎白夜は忙しなく入れ替わる電車を見ながら感嘆する。
白夜「電車って言うからもっと整った感じの同じヤツがいっぱいいるのを想像してたけどよ、色んなのがあるんだな」
︎︎白夜はそう言いながら駅に入ってきた1体の巨大な馬が引いている電車を指さしながら「あれ大丈夫なのか?」と夜鹿に尋ねる。
夜鹿「大丈夫よ、あれは動力に馬を使ってるだけ」
白夜「俺の知ってる馬の10倍でかいんだけど」
夜鹿「ほら、乗るわよ」
白夜「……まさかあの馬の引いてるのに乗るのか?」
︎︎白夜は餌を与えるためにはしご車から餌をあげようとした駅員が馬の大きな鼻にぶつかり、はしご車の乗り場から放り出された光景と、その周りで騒ぎが起きているのを見ながら白夜は顔をひきつらせる。
夜鹿「乗ったら案外快適なものよ」
︎︎「ほら早く」と言いながら電車に乗り込む夜鹿を白夜は「いや、でもあれヤバいだろ」と言いながら追いかける。しかし、乗り込んだ白夜達を遠くから茶色いフードを被った謎の人物が何も言わずにじっと見ていることに2人は気づいていなかった。
︎︎電車に2人が乗り込むと、中は近代的な作りの電車内で、席は左右に設置され、前後の席が向かい合うようになっていた。
︎︎慣れた様子で車内を移動する夜鹿と、すれ違いざまに大きな毛玉のような乗客に埋まりかけながらも何とか抜け出して夜鹿の後を追う白夜は電車の後ろの方の席の窓側を確保した。
夜鹿「ここから3時間、乗り換え無しで移動よ」
︎︎向かい合うように座った白夜と夜鹿。
︎︎相変わらず様々な人がいることに興味を惹かれていた白夜は夜鹿の言った乗車時間に驚く。
白夜「3時間!?3時間も何すりゃ良いんだよ」
夜鹿「外でも眺めれば良いじゃない」
白夜「3時間も外の景色だけで暇を潰せねぇよ」
︎︎すると車内に放送が鳴り、「発車します」と車掌の声が聞こえてくる。
︎︎電車はゆっくりと動き出し、駅から出ると次第にスピードが上がっていき、遂には車両の外に見える建物や木が物凄い速さで過ぎ去って行くほどのスピードで走り始めた。これをあの巨大な馬が出しているのだから恐ろしいものである。
︎︎しばらく外を眺めていた白夜だったが、早々に飽きが来て夜鹿に話しかけた。
白夜「なぁ、なんかゲームしようぜ」
夜鹿「もう飽きたの?さっき貰った新聞は?」
白夜「文字読むの嫌いなんだよ、それに外に見えるのなんてここまで特に代わり映えのしない建物ばっかりだからな」
︎︎白夜がそう言うと夜鹿は少し考えてから手に持っていた雑誌を窓際の荷物置きに置いた。
夜鹿「それじゃ、叩いて被ってじゃんけんぽんでも良い?」
白夜「お、いいな」
︎︎2人は持っていた雑誌と新聞を使って新聞を丸めて棒のようにし、広げたままの雑誌と一緒に置く。
夜鹿「それじゃ行くわよ?叩いて被って……」
︎︎2人はグーにした手を振りながらお決まりの掛け声を口にする。
白夜・夜鹿「「じゃんけんぽん!」」
︎︎出た手は白夜がグーで夜鹿がパーだった。
白夜「うおりゃ!」
︎︎白夜は雑誌を掴むと頭の上に構えて攻撃を防ぐ準備を整えた。
白夜「よっしy……」
︎︎しかし、夜鹿の掴んだ丸めた新聞は白夜の頭上を狙わずに横から白夜の頬をシバく形で振られた。
白夜「ぶるるぇあ!?」
︎︎予想外の方向から来たフルスイングの新聞は白夜の頬にスパァン!と良い音を鳴らしながら振り切られ、白夜は隣接した空いている席に倒れる。
白夜「おい!何処狙ってんだ!!」
夜鹿「誰も叩く場所は頭上からなんて言ってないでしょ?」
白夜「普通は頭を狙うだろうが!」
︎︎白夜は頬を抑えながら抗議するも夜鹿はジト目で白夜を見る。
夜鹿「そもそも横からは狙われないと思っていたアンタの思い込みが敗因よ」
白夜(こ、コイツ……!)
︎︎白夜はさも当たり前のように不正を働く夜鹿を睨みながら言い返そうとするが、何とか踏みとどまる。
白夜「……分かった、もう一度だ」
︎︎白夜が座り直すと2人は再びじゃんけんを始める。
白夜・夜鹿「「叩いて被ってじゃんけん……」」
︎︎2人は「ぽん!」と言い互いに手を出し合うと、今度は白夜がチョキで夜鹿がパーを出した。
白夜「しゃあ!」
︎︎夜鹿が雑誌を掴んで頭の上に持っていくが、それを見た白夜はすかさず新聞を掴むと思いっきり振って夜鹿の横顔を狙いに行く。
白夜(へっ!女だからって手ェ出されないと思ってるんだろ?お前はさっき俺の思い込みが敗因って言ったよな?だったらテメェも思い込みで負けるんだよ!!)
︎︎白夜の新聞が夜鹿の顔に迫る。
︎︎……が、夜鹿の雑誌を持つ手は頭をガードしに行ったかと思ったが、その雑誌はもっと高く振り上げられ、そして勢い良く振り下ろされ白夜の頭に叩き込まれた。
白夜「ぶへぇ!?」
︎︎脳天に雑誌を叩き込まれた白夜はそのまま体制を崩し床に転倒する。
︎︎夜鹿が白夜を叩いた雑誌の表紙の埃を手で払っていると起き上がった白夜が頭を抑えながら夜鹿を指差す。
白夜「なんでテメェが殴ってんだ!!」
夜鹿「誰も負けた方が防御だけなんて言ってないでしょ?」
白夜「それじゃんけん必要ねぇだろ!ただの殴り合いじゃねーか!!」
夜鹿「防御だけだと思ってたアンタの負けよ」
白夜「せめてじゃんけんの勝敗は加味しろよ!」
︎︎そんなこんなで戦いを続けるが白夜が夜鹿に勝てることはなく、15戦ほどやった辺りで白夜が「やってられるか!」と憤慨し席を立った。
夜鹿「どこ行くのよ?」
白夜「気晴らしに車内を散歩してくる」
夜鹿「他の人の迷惑になるからやめなさいよ」
︎︎夜鹿がそう止めるも白夜は「少し、少しだけだよ」と言いながら車内の探検に出てしまった。
︎︎車内を歩きながら夜鹿にはたかれた顔をさすり、愚痴を吐いた。
白夜「ったく、全力で殴りやがって……」
︎︎そう言いながら乗っている乗客を軽く見ていく。
︎︎うさぎの耳を生やした3人家族、首が顔の2倍の長さもあるグレイのような老人、本当にこの世界には色々な人種がいるのだと白夜は改めて思わされた。
︎︎ふと、白夜は車両の窓に映る自分の姿を見て足を止めた。
︎︎額に生えた鬼のような角を触りながらふと白夜は自分について考える。
白夜(俺は一体何者なんだ?)
︎︎成行きでこんなことになってしまったが、白夜は自分が何者なのかはっきりと答えを出せていなかった。
白夜(自分の名前は分かる。……でも、それ以外は何も思い出せない。どこで生まれて、どんなことをしてたのか?
そもそも、なんで俺はセントラルワンの街中に突っ立っていたのか……自分の人種すらも分からねぇ)
︎︎白夜は考えれば考えるほど、自分という存在の情報の少なさに苛立ちを覚える。
︎︎せめてもう少し……何か前にあった出来事などを覚えていれば自分が何者なのかを思い出すヒントになると考えるも、必死に思い出そうとして思い出せないのはここまで何回もチャレンジしている白夜自身がよく分かっていた。
白夜「……やめだ!今は夜鹿の仕事に集中しろ」
︎︎夜鹿と共に行動すれば何か自分について思い出すきっかけを得られるかもしれない。と言うより、それしか白夜には術が無い。
︎︎移動しようと白夜が足を動かした時、何かに足が引っかかり、白夜はその場で派手な音を立てて転んでしまう。
白夜「いっで!!……ん?」
︎︎座席にぶつけた頭を擦りながら足元を見るとそこには1本の黒い刀が転がっていた。