藤原北家に転生した俺氏、ファムファタール羂索に脳が灼かれてしまう模様 作:砂漠谷
平安京、東三条殿の側。寝殿造の小邸宅。
右中弁にして能書家。
彼は、水晶で出来た、度が入っていない眼鏡を掛け、異様な匂いをする壺に小筆を入れ、御札程度のサイズの紙に筆を走らせる。
その眼鏡を通して、彼はうっすらと青か紫色の燐光を観ている。
その姿を、
「親父、そろそろ終わったか?」
「
「新嘗祭だよ。来年は流石に参加させてくれるだろ?もう元服も済ませたんだし。良いだろ?」
藤原安門。それが今生の俺の名だ。
前世の名は……どうでも良いか。大した才能も無い高卒IT土方の漫画読みだった。
しかし、今生では『呪術』という才能を天から授かった。
父は非術師の身ながら、その能筆家としての技巧から、蠱毒で作った呪力の溶液と特殊な過程で作った呪紙を用いた呪符の作成を朝廷から任されている。
「お前なぁ……術師だからと数え十一歳で元服も済ませてやったんだが……、今の新嘗祭は宿儺を満足させるための祭だ。あそこは地獄だぞ。猿脳、このわた、羊のはらわたの肉詰。稀に人の胎盤や水子も出てくる。はぁ……あ奴、飛騨で洞に籠ってれば良いものを。なぜ京に来たのだ」
両面宿儺。日本書紀から名を取った、四眼四腕二口の異形の術師。二年程前に五虚将を退け、名実ともに平安最強の術師と成った者。かつて彼に敗れた藤原北家は怯えながらも、その圧倒的な”暴“を政治的に利用しようと、少しずつ距離を測り、詰めている。藤原の術師も非術師も、距離を測り損ねた人間から死んでいる。
「胎盤や水子も兎も角、羊の腸の肉詰めは美味いと思うぞ、親父」
食人はドン引きだが、羊の腸の肉詰めは前世で言うウインナーである。味付けは違うだろうが、普通に楽しみだ。
「お前も大概下手物好きだなぁ。鶏の茹で卵を毎食何個も喰う悪癖、どうにかならんのか。二股に分かれた袴に、髷を結わず女子のような長髪もそうだ。佐理の瘋癲一粒種と京中にその悪名が知れ渡っているぞ」
「別に良いだろ、物忌みも方違えもきちんと守ってる。呪術的にも儀礼的にも問題はない」
「お前……庭で鍛錬していても家から出ていなければ物忌みだと思っているのか……。まあ、言わせたい奴に言わせておけばいいのかもしれんな。私もこうして家で筆を振るっていれば、出仕はしなくても良い閑職だし、町人や女房共の戯言を聞く必要はないか……」
「寛容な親父殿に感謝感激雨あられで御座い」
「うむ!気分が良くなった。新嘗祭に出られるよう根回しをしておく。宿儺とは場所を離すようにもだ。その代わり、新嘗祭の準備手伝えよ。京の呪霊祓除だけじゃなくて方々回って珍味集めてこい」
珍味……と言えば『アレ』が良いだろう。前世で一度作ったことがある。方々回る必要性はあまりないだろう。
「合点承知の助」
「お前……そんな言葉遣いだから気狂い呼ばわりされるんだぞ」
ということで、材料集めに我らが平安京をぶらつきましょうか。
お目付け役の女房、かつ術師でもある女、
「忌奇ー、散歩いくぞー」
彼女は仮面を腰に垂らし、藍色の質素な服を着た女だ。うっすら緑の入った黒色と、170ほどの長身が特徴的な美人である。
「はいなんでしょう、瘋癲一粒種殿。今度は何をやらかすのでしょうか」
やらかすとは失礼な。”浴”で作った低級呪具を高値で商人に売りつけたり、それで使った蠱毒の出涸らしである小動物の死骸を肥料にして呪樹や呪花を栽培してみたり、呪術以外だと親父の荘園の百姓に試作品の千歯扱きを使わせてみただけだぞ。
いやぁ、後家殺しってマジなんだな!自殺者は数人で済んだが、女の身売り・賎民落ちがかなり増えたぞ。身売りの仲介で親父の懐はほくほくらしい。殿上人(の息子)からの授かり物をラッダイト運動出来る筈もなく……ただ百姓どもが自発的に千歯扱きを複製する気配もないのが不愉快だが。便利だったらどんどん作っても良いのよ?
ん?吐き気を催す邪悪だって?いやいや!藤原にあらずんば人間にあらずですから!
あ~、藤原北家に生まれて、良かった☆ズンデンズデンデン、三十五億(も今の地球人口はねぇよ)
とはいっても平安時代なので、不便なことはいくつもある。ネットテレビスマホが無いのは仕方ないとして、石鹸すらないのは苦痛だ。油と灰で作るというのをうっすら覚えているので、暇してる(実際は開墾などで忙しいが暇していることにする)百姓共を顎で使って色々実験している。
「今日はな、鶏を買いに行く」
と言いながら扉を開け、京の二大市場が一つ、東市を目指して歩く。
「鶏の卵は毎日食ってらっしゃるじゃないですか。まさか鶏本体を食べるんですか?流石にそれは如何に藤原北家と言っても子供がする贅沢ではないでしょう、祭でもないのに」
もう元服してるんだが、未だに子ども扱いである。ひでぇ。
「チッチッチ、違うぜ、鶏が産んだ卵を食べるのは変わらない。ただ、生まれてすぐには食べない」
「……なるほど。珍味とは、そういうことですか」
ベトナムの名産品、いわゆるバロットである。本場のバロットはアヒルを使うらしいが、鶏で代用可能なのは前世で経験済みだ。調理したことはないが、なんとかなるだろう。
「台盤所にまた入るんですか……雑仕女やそれを管理している女房に嫌われますよ」
「知ったことではない。俺も大内裏に入って公式に殿上人としての地位が欲しいのだ。新嘗祭への貢献という形があればイケるだろ。そして呪術のマジカルパゥワァで政治力を高めてだな……」
「佐理様は公卿まで行けるでしょうが、あなたは殿上人が限界、公卿は無理でしょう。詩歌管弦の才が全ッッッッく無い。特に和歌を詠めないのは致命的です。なんですか、『七月六日は魚記念日』って。季語が分からないからって具体的な日付を使わないで下さい、せめて文月って言いましょうよ」
「うぐぐぐぐ。和歌だもん!有名な歌人の本歌取りだもん!」
言うまでも無くサラダ記念日の
「っはぁ……呪術の才はあるのですから、朝廷の走狗として五虚将亡き後の藤原北家を支えていきましょうよ。ただでさえ『我最強を証明せん』みたいな阿呆が宿儺に挑んで死んでいって人手不足なんですから。はぁ~あの人が老衰死するのはいつ頃でしょうねぇ。安門様に孫が出来る頃かな」
『老衰死』という言葉を発した瞬間、市場の活気の中から、一個人の呪力が氷点下に達し、冷気が周囲に漂う。
「誰が、老衰死する、だと……?」
白髪おかっぱの童子が、憤怒に満ちた目でこちらを見つめていた。
「あ、やっべ。宿儺の付き人じゃん」
彼?彼女?は偶に市場で食材を大量に買いあさる姿が目撃されている、宿儺の付き人兼料理人である。普段は見かければ距離を置くのだが、彼は普段から呪力を抑えており、かつ今回は人込みに紛れており、発見が遅れた。
俺はとっとこと逃げようとするが、忌奇に首根っこを掴まれる。
「家人の私だけじゃ殺されるでしょーが!何とか言い訳しなさい殿上人の地位力で!」
「宿儺の付き人にそんなの効く訳ないでしょうが!」
「二人纏めて、殺す!」
『氷凝呪法 霜凪』
冷気を超えた凍気が、京の町民数人を巻き込んで俺たちにぶつけられる。範囲・威力は絞っているようだが、直撃すれば二人ともしばらく身動きできないのは間違いなしの威力だ。
だが、こっちにも対応策はある。
「バッチ来い!『
俺の生得術式、『
相手から放たれた攻撃を結界に吸収、カードとして封印する。元はある漫画の念能力が元ネタだ。きっとこれが転生特典なのだろうと思っているが、神には会っていない。
特徴は幾つかあるが……最も大きな特徴は、この黄金比率の長方形型の平面結界だ。面積は指数関数的に肥大化する呪力消費さえ度外視すれば基本的に無制限。ただし縦横の黄金比であることは変えられない。
「デカくするほど脆くなるんだけど、まあそれも”
「承知!こちらも行きます。『到来凶獣 第四・饕餮』『第一・渾沌』」
ム〇ュラの仮面のようなギョロ目のお面を被り、顔を隠す。そして、鈴や勾玉などの低級呪物を懐から取り出し、纏めて口に近づけると面の口部分が蠢いて呑み込む。その瞬間、呪力出力が宿儺の付き人と同格程度にまで膨れ上がる。
更に面を替え、のっぺらぼうの面をかぶる。これで彼女の準備は完了だ。俺も懐から札を出して、宿儺の付き人、裏梅に対峙する。
「女と餓鬼ィ!大人しく凍っておけ!」
激昂して唾を吐き怒りを露わにする裏梅。うーん、これは宿儺の盲信者。
「裏梅様ご乱心!裏梅様ご乱心!京の者どもは逃げるように!」
避難せよと叫ぶと同時に、裏梅が乱心したと周囲に刻みづける。俺は悪くねぇ!
「なッ、乱心などしていない!貴様の悪罵はしかと私の耳に……」
「ご乱心!ご乱心!」
叫びながら、俺は今の
勝てる。
定期試験一週間前に新作投稿するバカはどこのどいつだ?
俺だ!