藤原北家に転生した俺氏、ファムファタール羂索に脳が灼かれてしまう模様   作:砂漠谷

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 火の宮様、ご機嫌如何でしょうか。

 先日は万という術師に難癖をつけられたので、ちょうどいい機会だと思い、御前試合をしました。

 当然勝ちました、相手も死んではいないようです。しかし、貴重な札を二つも使ってしまいました。

 札を消費しない攻撃手段が欲しいですね。

 藤原面門

 

 

 やぁ、面門君、元気そうでなによりだ。

 私は今、領域対策について研究していてね。領域に対抗するためには様々な側面から探っていく必要があると思うんだ。

 一例として挙げられるのは、呪力の半自律行動。呪力を、例えば相手の必中効果の発動を条件に反撃する仕様にすれば?かなり有用だと思う。

 あと、これは私が研究している訳じゃないんだけど。蘆屋貞綱って知ってるかい?彼が創始した、最近流行りのシン・陰流だ。彼は宿儺に村を滅ぼされてね。呪術師全体の力量を底上げすることで宿儺に対抗しようということらしい。やってることは彌虚葛籠の簡易版だけど、極めれば必中効果の中和だけでなく術式そのものを希釈できる潜在的な可能性もあると睨んでいるよ。

 火の宮

(以降は塗り潰されて読めない)

(と言っても人口に膾炙しすぎても困るし、一子相伝の技術になるように誘導しようかな)

 

 

 

 火の宮様、元気そうで何よりです。

 さて、本日は贈り物を同封しています。菓子でも良いと思ったのですが、火の宮様にはこちらの方が喜ばれると思い、まつろわぬ民を征伐した先で手に入れた呪物の数々を贈りました。

 危険そうなものは封印はされているので安全かと思います。

 追伸、穢が移らないように、別の日に唐菓子は贈りますね

 面門

 

 

 やぁ、面門君、本日も呪術日和だね。

 君が贈ってくれた呪物のうち一つだが、どうやらこの呪物、『生きている』ようだ。

 生きてはいないが死んでもいない、が正確かな。

 封印の内容を解析したところ、この呪物は卑弥呼の時代に活躍した術師の成れの果てのようだ。

 封印を解いても、何も起こらなかった。おそらく、他に害を為さないという縛りで、自分の保存能力を高めているようだ。

 下級の賎民を何人か送ってくれないか?試したいことがあるんだ。

 火の宮

 

 

 火の宮様。楽しく研究しているところ申し訳ありません。

 寺で殺生をしないでくれと住職から泣きつかれため、残念ですが賎民は贈れません。

 代わりに、火の宮様の陰口を言っていた術師三名の遺体を送ります。これに関しては、葬儀のためと偽って寺に送り付けております。どうか、有用にお遣いなさりますよう。

 愛しております、火の宮様。

 面門

 

 

 面門君、残念がることはない。無理を言った私が悪いのさ。むしろ損傷が少ない術師の遺体はとてもありがたい。その術師の術式を研究したのさ。

 その術師のうちの一人。最近見つけた新しい種類の術式の話なんだが。概念が術式対象に絡む術式、というものを知っているかい?

 まず、『概念』の呪術的な定義からだ。

 概念とは、属性であり、条件である。これだけでは分かりにくいかな。

 つまり、概念というものは、現象を内包し、そして外延する、その{}なのさ。

 人という概念には当然、君や佐理も入っている。これが内包。そして、特筆して、私や宿儺も人の中に入れてあげる。これが外延。その{}の中全てを術式効果に収めることができるのが、『概念が対象に絡む術式』ということさ。

 え?それ、{}の中が狭ければ、普通の術式と変わりないって?確かにそうかもしれない。

 {}の定義を、『自分の血』にすれば、よくある赤血操術だ。でも、例えば自分の血に他人の血を混ぜて、これでも自分の血と言えるか?自分の血を水で薄めて、これでも自分の血と言えるか?多分それは否なんだ。でも、『概念が対象に絡む術式の場合』は、呪力出力次第で是に出来る隙間がある。これが、概念が対象に絡む術式と、絡まない術式の差だよ。

 ただね。これにもおそらく限界はある。どう考えても{}の中に入れる、解釈の余地のない場合。たとえば、岩を操る術式があったとする。岩の定義の中に入るなら、何でも操れる。でも、そんな術式でも、きっと月は操れない。呪力出力がいくらあっても、人間はそういう解釈は出来ないように、脳が設計されているからだ。もし月を岩の定義の中に入れようとしたら、人間の脳を一度壊さなきゃいけない。

 ああ、脳は人間の考える部位だよ。心臓じゃなくて脳だ。これは反転術式を回す時にも重要だから、覚えておくといい。

 火の宮

 

 愛しの火の宮様へ。いかがお過ごしでしょうか。

 あの日から一年が経ちます。もうそろそろ、貴女に逢いとうございます。

 私は齢十三になりました。火の宮様の助言のお陰で、反転術式も回せるようになりました。

 反転術式という名前は、正直一般の術式と区別がつきにくく、良い名前ではないと思っていましたが、体得してから意見が変わりました。これはまさに『反転』です。二つの呪力の流れを脳を通じて複雑に掛け合わせ、反転までもっていく作業。

 それにしても、最近は乳母でもある忌奇に逢えていません。なぜか避けられているように思うのですが。何か悪いことをしてしまったのでしょうか。

 追伸、ようやく完成した『石鹸』という体を洗うための薬を送らせて頂きます。製法を秘しているため、生産量はごく僅かです。是非大切にお遣い下さいませ。牛脂を使っていますが、臭みも呪力としての穢れも抜いていますので、穢れの心配は要りません。

 面門

 

 

 面門君、君の送ってくれた『石鹸』で、とても気持ちよく湯浴みが出来た。垢も随分取れてさっぱりした気分だ。しかし、牛脂を使っているということは随分高価だろうに、わざわざありがとう。少量でも良いので次も貰いたい。人の脂でも作れるのかな?作ったとしても使う人はいないだろうね。

 さて。半年と少し前に送ってくれた呪物の件だが、進展があった。封印を解いても害はないと判明して、その後しばらく放置していたのだが。奇妙な形の唐菓子と間違えて坊主がつまみ食いしてね。そうしたら、坊主の眼つき顔つき変わって、訳の分からない言葉で喚きながら山奥に逃げていったのさ。もちろん私も後を追ったが、空を飛ぶ式神に自分を運ばせて遠くに逃げたようだ。おそらく呪物が受肉したんだろう。

 それで相談なんだが。あの坊主を捕えてくれないかい?お礼は出来ることなら何でもする。例えば、一日程度なら私を奴婢のように扱ってくれても構わないさ。

 久々に逢えるね。手紙では言いにくい、伝えたいこともあるんだ。

 火の宮

 

 火の宮様とのでぇとメモ。

 もっていくもの

 『札』常用セット×2、決闘セット×3、秘蔵の呪札セット×1

 親父謹製の封印布×三枚。

 封印注連縄×5間(9m)。

 干飯×3日分。

 着替え×2日分。

 

 

 

 訃報

 

 我が妻、尊子内親王が永観一年、皐月の二日に逝去しました。

 生前への御厚意を感謝いたします。

 なお、通夜、葬儀はかつて妻が賀茂斎王であったことに因み、賀茂神社で行わせて頂きます。

 

 〇〇天皇

 

 

京の噂話

 

「ねぇ、知ってらした?安倍家と菅原家が手を組んで京の離れの寺で暮らしていた皇妃様を暗殺したらしいわよ」

「でっしちんぶたい?って言うらしいな、安倍家と菅原家の同盟」

「安倍晴明も動いたらしいぞ。皇妃とは言うが、寺の奥で怪しい儀式をしていたらしいぞ。寺に入った賎民で出てきた奴はいないとか……」

「火の宮様でしょ?私知ってるわよ。泊まった場所がよく燃えるっていう」

「やけに美しい女が、建物に火を付けているのを見たことがあるぞ俺は」

「やっぱり京に巣食う怪異の化身だったのかねぇ」

「皇妃様に滅多なことを言うもんじゃねぇぞ!」

 

 人混みに紛れて、三日三晩泣き腫らしたような眼をした少年は、路地裏に座り込む。

 そして、特別製の呪符で封がされている封筒に呪力を流し込み、開く。

 

 

 

 最初に書いておくが、これは遺書だ。

 面門君、君への遺書だよ。最近どうも周囲がきな臭くてね。一筆認めておくことにした。

 封は君の呪力で開くようにしていた。他人の呪力であれば封筒ごと焼失する筈だから、心配しなくていい。

 

 さて、君に伝えたい、そして託したいことが幾つかある。最も大きいことについてだが、一つは君の、娘についてだ。

 そう、私の胎は無能だと思っていたが、どうやら私と夫の相性が悪かっただけらしい。

 しかし、私の胎はやはり無能だった。流れたのさ。

 それだけの話……じゃない。私は術師だよ?諦めきれる訳がない。

 寺の土蔵に、胎児から呪物に転生させた彼女が眠っている。君に贈られた呪物を研究した成果さ。君が発明した婆露屠(ばろっと)?も参考にさせてもらった。

 でも、研究は完成していない。受肉させる機構を組み込めなくてね。このままだと彼女は永劫眠り続けることになる。

 

 そこでだ。君に託したいことその一、彼女の名前を決めてくれ。

 君に託したいことその二、呪物を受肉させる研究を完成させてくれ。

 託したいことその三、呪物に受肉機構を組み込み、彼女を受肉させてくれ。

 

 君しか信じられる術師がいなかった。頼む。君と私の愛の結晶をこの世に産み落としてくれ。母と父の役割が逆かもしれないが、こういうのも良いだろう。

 

 追記、私が殺される身に覚えのある理由を列挙しておく。上から、可能性が低い順だ。

 一つ、『火の宮』の綽名の元になった放火魔疑惑で検非違使に殺される。

 一つ、賎民でやった実験を、殿上人への呪いだと勘違いされて藤原家直属の術師に殺される。もちろん、私は誓って私は良民には手を出してない。

 一つ、宿儺の義理息子と仲良くしている私への嫉妬で藤原家直属の術師に以下略。

 そして最もあり得そうな一つ。君とは別の、とある女子を、実は寺に匿った。私と同い年くらいの子だ。天元の贄になる資格のある、星漿体さ。

 この場合、私を殺すのは今代の六眼たる安倍晴明だろう。奴の式神は万能で、奴自身は呪力出力を何らかの手段で補えば全知全能だ。寺には結界を張っているが、敵うとは思わない。この国の呪術的心臓に生贄を捧げることを、私は妨害しているんだ。殺されても仕方がない。

 けど、友達(・・)に運命から解き放たれて、自由になって欲しい。こればっかりは本音だよ。

 彼女が、星漿体が、もし私の死後も生き残っていたら、彼女も援けてやって欲しい。これは、出来ればで構わない。

 だから、これは託しじゃなく、願いだ。

 星漿体、天部人御。彼女が生きていたら、助けてくれ。

 




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