藤原北家に転生した俺氏、ファムファタール羂索に脳が灼かれてしまう模様   作:砂漠谷

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半年待たせました、ごめんちゃい♡(私は人間の屑です)


デュエル開始の宣言をしろ!

 空色の瞳を細め、宿儺を見つめる晴明。言葉を発さず、宿儺を見つめる。

 

 宿儺は、弟の魂が体内から消滅した新しい体を動かしながら、その調子を確認する。

 

 数刹那も後、両者は、同時に一歩を踏み出した。

「シッ!」

 短く呼気を吐きつつ、拳を握りしめ右上腕を全力で晴明に振るう。

 その拳は、空を切った。瞬間移動や超スピードなどではない。晴明は、その足で距離を取り、息を吸いながらステップを踏む。ただそれだけで、宿儺の拳はブれ、狂い、晴明には届かない。

「ん……歩法か」

「ご名答。兎歩だよ。掌印でも詠唱でもなく、歩き方で張る結界。彼岸と此岸を区切るだけで、物理的な障壁は一切ないが、それでも呪力感覚はズレるだろう?」

「お前はいつもお喋りだな『(カミノ)』」

 一節の詠唱で、宿儺は煉獄の竈を開く。最も対人威力の多い矢状に成型せず、打ち水を撒くように炎をばらまく。

 当然、打ち水とその効能は真逆。周囲の温度は急激に上昇していく。

「うん、もうそろそろ『解』が回復するころかな。長期戦をするつもりはない。『天の壱・貴人』。全式神を招来、結合させろ」

 太陽――正確にはその光と像――を触媒に、『式神創術』最高の式神を喚ぶ。漆黒の人型を象るその式神は、晴明が持つすべての式神を宣言・詠唱を省略して呼び寄せる。

 赤き蛇、赤き鳥、赤き巻物。

 白き虎、白き砂塵、白き杖。

 金の蛇、青き竜、青き海月。

 黒き御玉杓子、黒き亀、そして黒き人型。

 十二の天将が揃い、黒き人型の指揮に従い結合していく。

「『嵌合神 躯象(くかたち)』、全力を以て宿儺を殺せ」

 体長5m、植物と動物、無機物と有機物を結合させたかのような化生の神。瞳は金、それ以外の色は黒白赤青の原色四種で構成されている。大まかなシルエットは人型でありつつも、その細部は狂気的なまでに作りこまれている。

『ゴァアアアアア!』

 とん、と巻き込まれないように、一足で一町すなわち百メートルを歩く晴明、それに巻き込まれぬよう、全力で逃げる安門、裏梅、涅漆鎮撫隊の生き残り。

 

「『領域展開――伏魔御廚子』」

 

 宿儺の領域が復活し、再度印を組み、閉じぬ領域を展開する。

 その領域の半径は、およそ50メートル。呪術戦ではなく肉弾戦を前提にし、あくまで自分に有利になるようにフィールドを整えたに過ぎない。その狭さ故、巻き込まれる他の術師はいなかった。

 しかし、領域を縮める縛りによる威力の増強は通常を遥かに超えている。

 躯象は――それにも関わらず、一切の手傷を追っていなかった。

 5mの巨躯から放たれる大質量高速度超威力の拳が、宿儺を捉える。

 

「――ふむ、そういうことか。なるほど」

 

 宿儺は余った二腕に呪力を集中させ、頭上から来る拳を防御した。骨が大きくひび割れる音が、本人にのみ聞こえる。

 

 続けて、二撃目、三撃目。宿儺の腕を完全に粉砕せんと、全力を尽くす。

 ただ。三撃目は、宿儺の受け方が異なった。領域を解除し、拳を四つの掌で包むように受ける。

 宿儺の腕のうち、二本が完全に駄目になる。それと引き換えに、躯象の爪や体毛が粉微塵になっていた。

「『捌』、おそらくお前の術式は、極度の幸運と呼ぶべきものだろう。俺の領域は、数多の斬撃を領域内の万物に自動で必中させるが、その斬撃分配は偏ることがある。大方、その分配が自分以外に偏るように、何らかの干渉でもしたのか」

『オオオオオオ』

 手を再生させながら、蹴りを宿儺に叩きこみ、距離を取ろうとする躯象。

 自ら飛ぶことで威力を軽減させながら、その瞬間に躯象の脚に触れて『捌』を発動、さらに脚の表面も切り刻む。

 しかし、『捌』による斬撃も偏っており、爪の先や体毛、体表の皮膚などの、大局に影響のない部位に多くの斬撃が浴びせられている。

 

 躯象は後ろに跳躍し、口部を変形、馬のような、大砲のような前に伸びた形になり。

『コオォオオオオ!』

 呪力の砲撃を宿儺に叩きこんだ。

「良いだろう、『(カミノ)』『(フーガ)』」

 炎を矢の形に成型し、速射。

 しかし、『極度の幸運』によって、炎の矢の狙いがズレて地面に激突し、地面を深く融解させる。

 呪力の砲撃は、そのまま宿儺に直撃した。

 

 ――だが。

 

「ふむ――なるほど。呪力出力も、俺と同程度はありそうだ」

 

 たかが術式効果のない呪力の砲撃とでも言うかのように、土煙の中から無傷の宿儺が現れる。

 

 ここで、『俺』、つまり藤原安門が、なぜ呑気に観戦できているか疑問に思っている者もいるかもしれない。

 

 当然、呑気に観戦などしていない。戦いは、別の場所でも行われていた。

 

「貴様、面門ォ!宿儺様を裏切って、ただで死ねると思うなァ!」

 

 裏梅が叫び、俺に全力の霜凪を叩き込むのを、遠隔で観戦しながら術式で防ぐ。

 拡張術式『虹彩投射』。半式神化した『ブランクカード』に光の情報を記録し、ゼロコンマゼロゼロ数秒程度の時間差で、自分の付近の札に情報を転送、そのまま再生するものだ。

 つまり、俺はカメラ付きドローンで宿儺の戦闘を観察しながら、裏梅と戦っているような状況だ。

 それも、呪物であり俺の娘である『門子』の壺を抱えながら。

 

 凍気の嵐。もはや裏梅は、平安京郊外を襲う天災と化していた。

 

 だが、天災の中を生存するのは、平安の世を生きる一流の術師にとって、そう難しい話ではない。

 俺も一応、超の付かないにしろ、一流の術師であると自認している。反転術式の使える裏梅を完全に殺害するのはともかく、攻撃を凌ぐだけならなんとか叶う。それも、俺の『遊戯王』は防御に長けた術式だ。お互い手札が分かっているのだ、生き残るだけなら大して難しくはない。

 

「――ッチィ、こうなれば!『領域展開――」

 

 裏梅が、両手で満開の華を作るような印を結ぶ。以前と違い、脳に酸素が回っている状態での領域展開。

 

「領域には、領域を。『領域展開――」

 

 札を、人差し指と中指で挟み、相手に表を見せる。そのカードは、七色に光り輝く縁の内側に、ローマのコロッセウムのような絵図が描かれていた。

 

 

『臛臛對象』

『後苑闘戯場』

 

 裏梅の領域が展開されるも、その必中効果が発動される前に、俺の領域が空間を塗りつぶす。ドローン術式『虹彩投射』が、結界術の効果で外界と情報が切断されて解除される。

 天は満点の星空が輝く新月の夜、地は磨かれた大理石でできた、煌めく闘技城。

 俺の生得領域が、北極の如き氷の大地を塗りつぶし尽くしたのは、僅か数秒の出来事だった。

 

「んなッ……私の領域を、こうも容易く――タネがあるな!?」

 

 裏梅の問に、術式の開示も兼ねて答える。

 

「そう、俺の領域は、『対領域特化』の領域。一つ目の縛りとして、今みたいに他者が領域を展開した後じゃないと、俺の領域は展開できない。誘発型なんだよ。二つ目の縛りとして、この空間での必中効果は『お互い様』だ。お前、俺に術式を放ってみろ」

 

「フン、言われなくとも!出力最大『霜凪』!」

 

 いきなりの出力最大にビビリつつも、まるで追尾効果があるように俺めがけて襲い来る凍気に『触れ』、札に封じ込める。

 

「……という感じだ。そして、見ての通り、術式および呪力を用いた攻撃は、原則として命中時、全て札に封じ込められる。お互い様にな」

 

「……ハァ?ならこの領域、なんの意味がある?単なる時間稼ぎなら、大した弱者の領域だな」

 

 裏梅は呪力を練り上げ警戒しつつ、俺に問う。

 

「いや、違うね。俺の領域は、宿儺のような強者の領域ではないが、簡易領域のような弱者の領域でもない。俺の領域は『挑戦者の領域』だよ。『原則』と言ったろ?なら例外がある。それは、あるタイミング以降で札の力を解放した攻撃だ。懐を探ると良い」

 

 怪訝な顔をしつつ、裏梅は懐を探る。すると、裏梅の懐から五つの札が出てきた。

 

「今は『準備期間』だ。術式や攻撃が封じられたそれらの札を、どう組み合わせて最大威力を叩き込むか、思索する段階。そして、領域の夜空が明け、日の出に達した瞬間から、札に呪力を込めて解放し、有効な攻撃が可能となる。もちろん、俺もこの通り、六十枚のうちから『五枚』だ」

 

 ちなみに、この六十枚は、俺は事前に『今まで使ったことのある札』からデッキを組んでいるが、相手は『今まで使ってきた術式/拡張術式/その他攻撃』のうち、ランダムに五枚が選出されている。

 

 日の出まではおよそ一分。これは領域展開時に調整可能であり、宿儺と晴明との戦闘も、流石に一分は持つだろうという寸法だ。

 

「さて、戦闘時限まであと七秒か?六、五」

 

「え、えっと、ま、待て!ちょっとまって!」

 

 裏梅は五つの札に記された内容を見て、呪力を込める。

 

「三、二、一」

 

「ああもう!『霜凪』『霜凪』『霜凪』、『直瀑』『直瀑』!」

 

「バカの二つ覚えだな!『騰蛇牙炎』『構築:無銘』『焦眉の糾』『贄刀』『龍鱗 反発 番いの流星 解』」

 

 相手の氷凝呪法五連撃の最初の三発を、最初の札『騰蛇牙炎』の炎であらかた溶かす。それで作られたコンマ数秒を、呪具の大刀の構築と刀への焔の付与。そして、その刀の耐久度を犠牲に、最後の術式の威力を底上げし、砕けた刀を振るい『解』の斬撃を放つ。それまでの術式によって『解』には炎が纏わりついており、対象を溶断する炎の一閃となっていた。

 

 『直瀑』の進路変更によって、裏梅は氷の壁を降らせるが、それも溶断され。

 裏梅は、咄嗟に身を前方に投げるも、両の肢を太ももからバッサリと切断された。

 炎で傷口は焼き潰され、出血は少ないのが救いか。しかし相手を無力化したことで、有力な相手がいることが前提の俺の領域は解除された。

 

 領域が解除されたことで、俺は再度戦場に戻る……と思っていた。

 

 しかし、それは平安京の郊外ではなく。巨大な樹木を中心に、人気のない神社仏閣が集まる、清浄な気が流れる空間だった。

 

「は、ハァ?ここは……」

 

「薨星宮だよ」

 

 その存在に、声が発せられるまで気が付かなかった。声の主の方向に振り向く。

 そこにいたのは、星漿体の少女、天部人御、の容姿をした何者か。

 明らかに、あの時であった天部本人ではない。それは挙動、身にまとう雰囲気、そして呪力量から察せられる。

 

「っ、天元か……!」

「その通り。私が、星漿体・天部人御を吸収した呪術界の礎、天元だ」

 

 日本を覆う浄界、平安京を覆う結界の礎、天元が目の前にはいた。




完結まで残り二話です、毎日更新します。
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