万魔殿の情報局が通る!   作:はっひっふっへっほ~()

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先生がいない世界

『ゲヘナ第6校舎正門、突破できません!

なんだあいつは!あんな存在、マダムから聞かされていないぞ!』

「赤ん坊の様に喚くな、詳細な情報を司令部に伝えろ」

『きゅ、吸血鬼。あれは吸血鬼です!あんなのってアリn…ぐぅっ!?』

「おい、応答しろ。応答しろと言っているんだ、聞こえんのか?」

 

 

『報告します!風紀委員の統制が全く乱れていません!』

「最高戦力であり最高責任者の空崎ヒナは潰したはずだが?」

 

 

『ふざけるな!温泉開発部や美食研究会だって参戦してきやがった!』

「件の特殊装備の投入は許可されている。落ち着いて対処せよ」

 

 

──何故だ?万魔殿や風紀委員会はこれ程統制を維持している?

 

──そして誰だ?復讐の為に鍛錬に耐え続けてきた我々を相手取る猛者と言うのは?

 

──いったい誰が、温泉開発部や美食研究会すら動かしている!?

 

 

 

『──…や……────あ……ちら…──』

 

「良かった、吸血鬼だなんだと言っていたが撃退し…た……ん」

──誰だ?こんな声の奴は知らない、聞いた事も、見た事も、会った事も無い。

全隊員と顔を合わせ、話をし、少しでも不安を取り除けるよう努力したはずだ。だからこいつは、、、っ!?

 

『────…テス……アリウス………りま──…────』

「聞かない声だな?お前は──」

 

『あ、あーあー、マイクテストマイクテスト。アリウスの皆々様方、聞こえて居りますかなぁ?』

「…誰だ、お前は」

 

『知られていないとは悲しいものですねぇ。

では挨拶を、私の名前は赤宮タツコ。ただの一般人ですよ、情報局のね』

 

──情報局の赤宮…?あの局長か……?だが戦闘力はそれほどない筈では

「まさかだとは思うが、素性を隠していたのか……?貴様」

 

『当然だとも。いやはや…随分とお目出度いですねェ君たちは。

易々と報復が完成すると思い込むだなんて…

脳味噌までお目出度くなったんですかねぇ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリウス分校は、エデン条約を乗っ取り、無尽蔵の聖徒を生み出し、指導者を失ったゲヘナとトリニティに大規模な攻勢を仕掛けた。

──仕掛けた筈だった。

 

「ひっ、くっ、来るなァ!」

「何故あれだけ銃弾打ち込んでも倒れないんだ!?」

Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.(虚無の虚無、全ては虚しい)

諦めろ!もう空崎ヒナは討たれたんだ!お前らに勝ち目は無い!」

 

「ほォ?だから如何したと言うのかね?だからなんだと言うのかね?」

彼女はゆっくりと、ゆっくりと距離を詰めてくる。

痛がる素振りも無しに銃弾の暴風の中に佇んでいる。

 

 

「畜生畜生!これでも喰らえよ!」

誰かが対戦車ロケット弾を彼女に向けて発射する。

 

「っ!………なァるゥほォどォ?」

それに対して彼女は避ける事も身構える事も一切しない。

ただ黙って直撃して、その攻撃を甘んじて受け入れる。

 

「ははは!馬鹿め!きっと銃弾を浴び続けて判断が鈍ったに違いない!対戦車ミサイルを喰らって平気な者など…っ!」

爆風で姿が隠れて、影も見えなくなる。

そこで初めて射撃は止んだ、辞めてしまった。

 

「やったか!?」

「ざまあみろ!」

 

異常な耐久性で多くのゲヘナ生の盾となり、

多種多様な火器を使用した自由な戦術でアリウス生の意識を刈り取り、

それに尋常じゃない膂力で迫り来る少女たちを壁に叩きつけ、地面にめり込ませ、殴って蹴って吹き飛ばす。

それは鬼神の如き立ち回りであり、キヴォトスの一般的な生徒のそれを優に超える破壊力。

安堵するのも当然であろう。

 

「フフフ、あはははは…クックック」

砂埃が舞い、硝煙の香りが漂い、燃え盛る炎の熱気が充満する中で、笑い声が聞こえる。

その声は、だんだんと大きくなって、より一層狂気を増していく。

 

異変に気付いたアリウス生徒が身構え、

目標を補足した複製が引き金を引く。

 

「ふふっ、ふっふっふっふ!……はは、はっはっはっは!!!

成程成程!これがアリウスの恨みの集大成か!この、これがか!

覚悟や信念の詰まっていない、下らん傀儡だったか!!!

はっはっは、ふはっ、くくくくくっ!」

 

そう言うなり、彼女は思い切り踏み込んで跳躍する。

懐からサブマシンガンを取り出して、無差別に銃を乱射する、過剰と言っても良い程の神秘を漲らせてばら撒く。

 

「撃てッ、撃ちまくグゥっ!?」

「いッイヤッ来ないで!来ないで!?」

 

短機関銃を撃ち切ったかと思えば即座に銃を捨て、更にアリウス生徒の意識を刈り、ユスティナ聖徒を消滅させる為にも再び前に向かって跳躍。

 

「全ては無意味だと宣う君達が!容易に諦める君達が!一体何を如何やって勝つのだね!?」

 

「ふざけるなよゲヘナの悪魔が!過去の屈辱は此処で晴らす!」

 

「その言葉に実が伴わん限りィっ!攻撃そのものがァ!無意味だと言っておるのだがねェ!?」

取り出したフルオートショットガンで眼前のアリウス生との鳩尾に散弾を3発、追撃と言わんばかりに腕で殴り飛ばす。

「ぎっ!?」

 

「うぁぁっ、あ゛ぁっ!!?」

逃げ出そうとするアリウス生徒に飛び掛かり、銃床で殴りつけた後に盾にする。

次の相手は意思無き聖徒共。彼女たちは怯える事無く、隙を見せる事も無く銃弾を浴びせてくる。

だからこそここで殲滅を狙う。

 

彼女は再び獰猛に飛び込んだ、アリウス生徒を盾にして。

其れでも聖徒は動じず、焦らない。

ただ只管に殴打し、射撃する。

 

「亡者の方が諦めが悪いようだ、っな!」

散弾を出鱈目に、フルオートで一気に叩き付けて、包囲網を崩す。

此処からが本番だ、そう言わんばかりにショットガンを捨てる。

 

『局長!援護は必要ですか!?』

「君たちは君たちの事をやり給えと言った筈だ!住民と生徒の避難を完遂を果たせ!」

部下の悲鳴にも近い進言を叩き切って進む。

 

「早く倒れろよっ!がっ!?」

 

現状一番近くに居る聖徒を目標に跳躍して、その首を容赦無く掴んで、投げ飛ばす。

すぐ左に居たアリウス生の顎を蹴り上げ、その更に左の聖徒の首筋に嚙み付いて空中に放り投げる。

 

「ひぃぃぃっ!?」

その気迫に怯えて、対戦車ミサイルを、そのアリウス生徒は至近距離から発射した。

持ち得る全ての神秘をその一発に賭けて、放った。

 

 

「なあァあァァァめェええェェえるゥゥゥウなあぁっ!!!!!!」

だが、その光芒は彼女に命中せず、神秘の加護を受けたトランプカードによって一撃で切り裂かれ、他のアリウス生徒が被害を被っただけだった。

 

フルオートショットガン、短機関銃、自動小銃、そしてトランプカードを存分に使った読めない戦術で彼女は抗う。

 

 

「………まさか、これ程神秘の制御に卓越した生徒がいるとは、驚きましたね。

是非、手に入れたい。間に合うと良いのですが、クックック……」

 

 

「…ねぇ、勝てるんじゃないのこれ?」

「そうかも………だったらわたし達もっ!行くよ!」

その戦いぶりは包囲下に置かれ、絶望していた筈のゲヘナ生徒を奮い立たせる。

 

「っ!?……第6校舎から一斉にゲヘナ生徒が突撃してきます!」

「ええい、撤退だ。撤退せよ!」

 

 

 

 

 

──

 

────

 

──────

 

 

 

 

 

「君は、如何して戦える?

如何して久遠に集積された憎悪に向かって戦える?

こんな無意味で、虚しいだけの抵抗を続けられるんだ?」

その悪鬼羅刹のごとき戦いぶりを、生徒と聖徒に囲まれながら予知夢を司る少女は問うた。

 

その少女は、明らかにゲヘナでも、アリウスでも、ユスティナでも無い服装をしているのに、誰も気に留めない、まるで存在を認知していないかの様に。

その少女を生徒と聖徒達は見えていない筈なのに、聞こえていない筈なのに、感じていない筈なのに避けていく。恐るべき膂力とそれが操るトランプの斬撃を食い止める為に生徒と聖徒は少女を避けて進んでいく。

 

少女は一歩一歩、ゆっくり歩みを進める。

今にも溶けて消えてしまいそうな儚い少女は、己の立場が故に染み付いた堂々とした立ち振る舞いで、一歩一歩、鬼神の如く戦うゲヘナ生徒に近づいていく。

 

「君は、確か情報局の局長、赤宮タツコ、と名乗ったね。

あの時は、茶色のソフト帽とスーツを着こなしていた筈だ。如何して今は万魔殿のコートを?」

 

『おやおやぁ、これはこれはティーパーティの…質問については黙秘させて頂こう』

誰かの、いや、彼女の声が木霊する。

それと同時に、この激戦は時を止めて、色彩と覇気を薄める。

戦闘と熱狂の渦の中心の人物が、自然と歩き、自然と話をしている。あの吸血鬼の彼女だ。

 

「君はこの時、挽回の利かない、絶望的な状況下にいる事を知っている筈だ。

不快で、不愉快で、眉をしかめるような状況と結末を」

 

『でしょうねェ、で?それが如何したのです。

アリウスについては…ハハハ、彼女らの理論は空虚でしか無いんですよ』

帽子のつば人差し指で持ち上げて、軽く会釈をしてから彼女は恐れず、ハッキリとそう言う。

 

「でも、絶望と復讐の、こんな後味の悪い結末に直面する事になる、それは君も否定は出来まい」

 

『ックク、いけませんよォ?その発想は。

貴方も、私も、地位は違えど部下を持ち、部下を守るべき者のはずだ』

 

「しかし」

少女は何かを言おうと口を開くが、唇に人差し指を添えられて思わず口を噤んだ。

下手人はそれを良しとして畳み掛ける様に言葉を紡ぐ。

 

『百合園セイア殿。それでも、ほんの僅かにでも良い結果を招く為に抗い続ける事が、最も意味のある事でしょう?』

 

──例えば、第一回公会議の時

──例えば、ゲヘナとトリニティの長きにわたる争い

 

『この未来は不確定。

蝶の羽ばたきが破滅的な荒らしを呼び起こす様な事があるかもしれない。

──だがねェ』

 

「だが?」

 

『私は未来が苦かろうと、苦しかろうと、死が待ち受けようと、全力で受け止め、全力でやりたい様にやる。

死力を尽くして抗って、全力で楽しむ。自由に、秩序を忘れて、本能を剥き出しにして。

ゲヘナらしく、ゲヘナとして、生きて死ぬ。それだけですよ』

両の腕を広げ、まるで舞台役者のように靴底を鳴らして彼女は言う。

 

「──…眩しいな」

セイアはそう呟いていた。自然とそう思って、そう言えた。

 

『それに、まだ決まっていない。まだ異なる要素が介入する可能性だってある、故に諦めきれないのですよ。

……ふむ、どうやら、そろそろ時間なので失礼させて頂きますよ』

そう言って、軽く会釈をし、ズボンのポケットに手を突っ込んで、彼女は立ち去って行く。

 

彼女は暫くして、解ける様に消えていった。

跡にはただのトランプカードが落ちていたが、虚しく攫われ消えていく。

 

 

 

 

 

──────

 

────

 

──

 

 

 

 

 

「げふっ、こふっ、ゴホッゴホッ……ふふっ。そろそろ限界ですな」

彼女は良く戦った。

この3年間、己に与えられた責務を全うする為にも、神秘の制御や重火器の訓練で鍛え続けた。

ゲヘナの為に。

 

『先輩!?だから無理をしないでと!』

 

「困ったねぇ……周りの子には、黙っていてくれませんかねェ?」

 

だがそれでも、多勢に無勢であった。

聖園ミカや空崎ヒナに比べて劣る神秘で、彼女たちに渡り合う為に死に物狂いで会得した神秘の制御も──

軽機関銃、汎用自動小銃、フルオートショットガンを次々使って戦闘をするのだって、そう。そうであれと求められたから、そうであるべきと鍛えた。

しかし、しかしだ。

わずかに恵まれている己が、それ程努力しても、それを上回る戦力と練度を相手にして勝てる筈が無い、道理が無い。

 

せめてこの後輩や自治区の皆だけでも…

 

『黙っていられる訳が無いでしょう!?ふざけないで下さい!!!』

 

「…変わらんねェ君も。だが如何しようも無いぞ?

第6校舎に避難していたあらゆる人々を包囲下から脱出させるため、私は此処に残った、そうだろう?」

 

『できます!きっと…きっと……うぅっ、グスッ…』

自信を持って言い切る前に、後輩は泣き出してしまった。

きっと、常時送られてくる戦況データと私の身体状況を照らし合わせて、嘘を言い切る事など出来なかったのだろう。‘私を此処から救出して見せる’と言う希望を、言えなかったのだろう。

 

「馬鹿だね、まったくどうして君はいつもいつも……

嘘がこう、なんというか、ド下手なんだい?」

 

『すみっ…ません』

 

「こらこら泣かない。取り敢えず、今のゲヘナとトリニティの状況は掴めるかい?」

 

『うっ…うぅっ、ズビッ、ズビビッ……はい。

えっと…トリニティはパテル分派の暴走に対してですが。

突然、表舞台に復帰した百合園セイアが、シスターフッドや正義実現委員会などを率い、抑え込んだ模様で…じきに体勢を立て直すかと思われます。

げ、ゲヘナは…風紀委員長の殉職、行政官の失踪など相次ぎましたが、万魔殿首脳陣は無事だそうです。自治区内部の戦闘は、最も劣勢だった第6校舎以外は現在小康状態です。

依然として万魔殿や風紀委員会は万魔殿首脳陣復帰まで、我々の統制下に入り続ける事も決まりました』

 

「そ、ぉか…そうかそうか……マコト議長も、イブキちゃんも、元宮君も生きてるのか。よか、った…」

 

『でっ、ですので…第6校舎からの避難民受け入れが整い次第、先輩の救出作戦を!』

 

「こ、の…馬鹿者。情報部局長として、万魔殿関係者としてその作戦の中止を命じます。

資源は有効に使え、それが情報局の教えですよ。

……あぁ、そうそう。情報局は君に一任しましょう。能力も、人望も含めての判断です。」

 

『な、にを、言って……

先輩!貴方はこれ以上戦えば、ヘイローが持たないんですよ!?正気ですか!!?

先輩!聞いていますか、先パ──』

 

これ以上は可愛い後輩の顔を見ていられそうに無くて、私は通信を切った。

 

何時か見た筈の夢で、私は百合園セイアと、この事態で猶抗う事、その共犯者になる事を求めて、正解でしたね。

だから、彼女がトリニティを纏めてくれるはず。

記憶と記録の限りでは、浦和ハナコだっている、きっと大丈夫だろう。

マコト議長にはどう説明しようかな、今回の事件。話す内容が多すぎる。

万魔殿直属である情報局は…功績をまだ貰ってない。

……どうしてこんな時まで、周りの事じゃ無くて仕事の事ばかり考えてるんろうなぁ、私は。

 

壁にもたれかかったまま、タブレット端末を起動する。

自動音声入力ソフトでメモを遺して、その間に今まで撮った写真の数々を眺める。

万魔殿、風紀委員会、美食研究会や便利屋、温泉開発部や救急医学部──

レッドウィンター、連邦生徒会、ミレニアム、トリニティ、百鬼夜行、アビドス、山海経──

楽しかった、とっても楽しかった。謀も、バカ騒ぎも、光輪大祭も──

もう充分だ、もう十二分にこのキヴォトスを楽しんだ。

 

──有難う皆。さようなら。

 

 

 

 

 

「第6校舎の制圧準備、整いました」

『御苦労。あの吸血鬼のヘイローを、ぶっ壊してやれ』

「了解しました」

 

アリウスはじりじりと包囲の輪を狭めていく。

あそこに居るたった一人の生徒、その生徒の存在は、窮地に陥っている筈のゲヘナに、新しい希望を与える可能性があると断じて、アリウス分校は突入を開始した。

戦闘技術や指揮能力、それにゲヘナの政治の数少ない指導者として、アリウスの作戦遂行への障害として。

何より諦めずに猶抗い続ける思想の違いが、彼女への敵対心として現れた。

 

「正門に敵影無し、突入。奴に気取られるな!行け!行け!行け!」

ガスマスクの兵士たちは、物陰から物陰へと小走りで移動する。

たった一人だけの居城に、彼女達は殺す為に歩を進める。

 

『──っ、こ……────やぁ、アリウス。

君達に一応、一応知らせておくよ。30人近い君らのお仲間を、特殊兵装とやらに括り付けておいた…

確か、ヘイローを破壊する爆弾だと記憶していたのだがどうなんだろうかね?試してみるかい?』

 

彼女らが表口から足を踏み入れた時、その放送は流れ出した。

そしてそして、同じタイミングで正門から玄関までの通路が一斉に起爆。

其処は一瞬で灼熱地獄の戦場となった。

 

待っていましたと言わんばかりに飛び交う万魔殿所有のドローンが襲い掛かり、魔王の如く嘲笑う“彼女”による爆撃と銃撃が降り注ぐ。

 

『ほらほらほらほらァ!如何したアリウス!?その程度かね!?憎悪はその程度なんですかねェ!!!???

フハハハ……ククククッ…ウフッ、フフフフフ………!!!』

 

「総員突入!突入だ!外に居れば忽ち捻じ伏せられるぞ!

あの悪魔をぶっ殺して、早く同胞を開放するんだ!」

 

アリウス生たちは耐えきれなくなり、聖徒を連れて後者に侵入した。

彼女たちは訓練には無い気迫に完全に乗せられていた。

それが故に、トラップハウスに突撃してしまった。

 

一歩進めば爆弾に引っかかり、“彼女”と良く似た傀儡が複数体も姿を現し、其処にトランプカードを叩きこむ。

“彼女”は、いや“彼女『達』”は不敵に笑って、一歩も動かずに過剰な神秘を込めたであろう斬撃を打ち込んでくる。

 

 

「なんだお前は!一体何だって言うんだ!」

「撃って、撃って、撃ちまくれ!残弾なんて確認しなくて良い!

『ヘイローを破壊する爆弾』だって投げ込め!」

アリウスとて黙ってやられる者達では無い。

持ちうる全火力を投じて、彼女たちに銃弾を浴びせ、爆炎に溺れさせる。

 

「っ!?……こいつら全部トランプカードの複製だ!」

 

砕け、解ける様に散る彼女たちはトランプカードの複製で、爆炎によって拡散されたトランプカードは、自我を持ったかのようにアリウスに襲い掛かる。

 

『君たちは其処に居て、私は此処だ、此処に居る。

御自慢の特殊兵装はあと一体幾つだね?

即興で実践してみた搦め手でも、僅かながら私の役には立った……クククッ。

おぉっと、そうだそうだ。捕虜の三十数名についてだが、起爆装置は私以外に解除できないぞ?…如何する?』

 

「正気では無いな、貴様」

 

『正気?君らが正気と言うのかね?どの立場で言うのですかねぇ?

……まぁ、お替りでも喰らって、考えを変えると良いですよ』

 

そう言うなり、トランプカードが玄関ホールに向かって、三方から舞い込んでくる。

幾つかの渦となって、また新しい囮が生れ落ちる。

固定砲台も床から姿を現せ、無慈悲な砲撃を叩きこんでいく。

 

それでも、次の瞬間には吸血鬼の余裕は崩れた。スクワッドが来た。

アリウス分校の最高戦力が来てしまった。

『………っ!?』

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「………っ!?」

 

──肺の空気を全て吐き出させる様な、鈍くて重い衝撃。

──胃の鏡が逆流して来る様な激痛が脇腹から広がって、意味の無い呻きを漏らす。

 

一体全体、どんな弾薬使っているんですかね…?

 

何処だ、何処にいる。

気配も、光の反射も一切無い、此方に一切気取られない立ち振る舞い。

これはこれは……スクワッドのお出ましかね。

 

ドローンや固定砲台の制御権をAIに移譲して、とっさに起爆装置を握り締め

──た筈だったのに。

腕が…弾かれて……起爆装置が破壊…された……?

隠れなければ!遮蔽物に隠れ、銃や弾薬を確保しないと!

まだ死ぬな、まだ死ねない、まだ抗うべきだ…!

 

「かはっ…けほっこほっ……クソッ!」

 

『スクワッドが来た、スクワッドが来たぞ!固定砲台もドローンも格段に弱くなった!

行け行け行け!あんな囮、スクワッド達なら造作もない!』

 

──如何する?後数分で突破されるだろうし、何よりあのスクワッドの練度は侮りがたいものがある。

これ以上神秘は使えない、あの搦手で乱用し過ぎた。

体力も乏しい、援軍も弾薬の補充も望めない。

 

「……ここは一度引くべき、か。今の状況下では戦いきれん」

 

そう考えを決めるなり、彼女からまるで水が溢れ出すかのような勢いでトランプカードを周囲にばら撒かれだす。

トランプカードが吹き上げられて、彼女の姿を、放送室全体を覆う。

 

次の瞬間には窓が開け放たれて、外に桜吹雪の様に放送室の資料やトランプカードが舞う。

 

まずはあの狙撃手へ反撃しよう。手痛い一撃を浴びせましょうか──!

 

空を無尽蔵のトランプカードが舞って、燃え堕ちる。

巨大な白い龍が空を翔けて、家と家の間に白い橋をかけて、路地をトランプカードで埋め尽くして、スクワッド狙撃手の永槌ヒヨリの下に到着する。

 

「うわぁぁぁっ!?ほ、本当に来ちゃったんですかぁ!?」

 

「逃がしはせんぞ。スクワッド、あの二発分のお返しといこうじゃァないか」

不敵に“彼女”は笑う、一向に快復しない鈍い痛みを堪えて。

不遜に“彼女”は笑う、自分が陥っている苦境を楽しむかのように。

 

「こうして理不尽に直面するというのは、やっぱり苦しい事ですね…」

 

ほとんど同じタイミングだった。

銃を構え、照準を合わせ、引き金を引く。

瞬間、“彼女”の表情が変わった、その破壊力に、その衝撃力によって。

 

「っ!?このォッ!!小ォ娘がァあァァァ!!!」

 

反射的に裾からトランプカードを取り出し、片手で銃撃を続行しながら次々と、ヒヨリの狙撃銃(アイデンティティ)から放たれる凶悪な弾丸を次々と一刀両断にする。

 

「そ、そのカードに当たったら…きっと痛いですよね。苦しいですよね!

こんな事になるなら…黙って雑誌集めをしていれば良かったですぅ!」

 

そう嘆きながら、ヒヨリの攻撃は益々激しくなっていく。

“彼女”もそれに呼応する形で、斬撃をより強力にする。

 

その斬撃と銃撃の応酬は、僅かに、しかし確実に、ヒヨリを圧倒していく。

双方の攻撃に籠められる神秘は、いっそ神々しい迄の光芒となって激突して、相殺する。

強力な爆発と閃光が周囲一帯を包み込む。

 

「ぅぅ…眩しい」

「ぐっ……グググ…これならどうですかねェッ!!!!」

 

“彼女”が先手を打つ形で、次の一手は繰り出された。

防御用を一切捨てて、残った神秘をたった1枚のトランプカードに籠めて、強力な一手を繰り出す。

そのトランプカードは吸い込まれるようにヒヨリに命中し、吹き飛ばした。

 

「はぁ……はぁ………いやはや、図太そうな眼をしている娘でしたなぁ」

 

──神秘は、残量が余りにも乏しい。搦め手もそうだし、防御や攻撃、移動もこれ以上は支障が出ますな。

それに彼女はしっかり襲撃を受けた事を連絡しているでしょうし……ここはすぐにでも撤退しましょうかねェ。

如何にも校舎側から集結する兆しを見せていますし、早い処移動を………

 

 

 

 

 

──

 

────

 

──────

 

 

 

 

 

『マコト議長…また何か謀でも?』

 

『キキキッ…タツコ、流石だな。アリウスと結託しようと思うんだが、お前はどう思う?』

 

『悪い事を考えますなァ…。結論から申し上げますと私としては賛成ですな。

ただ不安な部分としては、彼女らの現状、その一切が不透明な事です。

アリウスの歴史はゲヘナやトリニティで習わぬ者は居らんでしょう。

特にトリニティ、彼女らは長い事政争に明け暮れ、多くの分派の失墜と追放、弾圧をユスティナ聖徒会が主導してきた。そして多くの分派はカタコンベを通じ、必ず何処かに行方を眩ませる。

私の推測ですが、これら諸派を統合したのが現状のアリウス分校でしょう。

いわば、トリニティ非主流派の集合体、それ故にきっと各分派の伝統を強く受け継ぎ、それ故に内乱の危機に瀕することも多々あるかと』

 

『歴史的にトリニティとアリウスの対立は激しく、それでいて水面下で行われていると言いたいのか?』

 

『ええ、そうです。彼女たちの憎悪は恐らく、我々より彼方に向いているのでは無いでしょうか?

我々に向いていたとしても、この際、支援を行い、寛大な処遇にすれば憎悪はすぐにでも緩和するかと。』

 

『ただ、それにしても…詳細が不明では難しいと…

キキキッ、このマコト様が直々にアリウスに出向くのも悪くはない!何より部下の頼みだ!』

 

『分かりました、私も直属の部下から口が堅い物を選出して、議長と合流しますね。

あ、ライオンマル用の餌と万魔殿全員分のお菓子、買ってきましたよ?』

 

『それを先に言わないか!イブキィィィィ!!!お菓子だぞォォォ!!!』

 

──そう叫んで防音室から出て行ってしまった。

 

 

 

 

『あ、先輩!また万魔殿に行って…その封筒とお菓子は?』

 

『なんで中身が分かるんですかね…?これアタッシュケースだぞォ…』

 

『入局してからずっと振り回されて来てたから否が応でも解るんですよ。

封筒の方はきっと内部機密資料だとかそういうのだと思うんでお菓子だけ下さい。皆に配ります』

 

『あっはい、宜しくお願いします?』

あらヤダこの子図太くなってる。そう思ったけど黙っておこう。

 

『あとこの人のネット小説が大変面白かったんですよ!リンク送りますね!!!』

 

『ペロロの二次創作じゃ無いですかァ……あれキモいから好きじゃn』

 

『先輩…死にたいようですね?』

 

『待て、今度ブラックマーケット潜入任務の時に好きなだけ金は渡すから待て、ステイ』

 

 

 

 

 

──────

 

────

 

──

 

 

 

 

 

「慣れない事は、っするもんじゃあ…ないねぇ?

そうは思わないかね?お嬢さん」

万魔殿に入った時から与えられた帽子を大切そうに撫でて、“彼女”は言う。

 

あの後、神秘も弾薬もトランプカードも、全てが乏しくなって尚抵抗を続けた。

ブービートラップを配置したり、逃走経路を誤魔化したり、ゴミ箱や下水に身を隠したり………

かれこれ2日は抗った。

 

己が抗えば抗う程に、ゲヘナは体勢を立て直し、トリニティは膿を吐き出し、劣勢を挽回するであろうと信じて。

連邦生徒会長がいない今、新たなエデン条約を作る資格を持つものは、セイアとマコト。

その二人の為にも時間を稼ぎ、今この裏路地にもたれかかっている。

 

「全ては虚しい。それが真理だと私は習った。

お前は、そしてその言葉を真っ向から逆らい、抗い続けるのは、何故だ?」

 

「瀕死の相手には…例の爆弾も不要、か……

フフッ、良いでしょう。どうせ長くないんだ、それに哲学的で難解そうに思える問答は好きでね」

 

ふぅ、そう小さく一呼吸を置いてから“彼女”は、スクワッドの隊長格に言葉を重ねる事にした。

 

「答えは単純でありますとも、人だから、人間だから。」

 

「人だから…?」

 

「人だから、互いを恨み、憎しみ、そして互いを許して、理解し合う。

人だから、譲れ無い信念があって、是が非でも守りたい愛がある。

ぅ……だから、辛くとも、苦しくとも、前を向くんじゃないのかね」

 

「私には…分からない」

サオリの呟いたその言葉が“彼女”にはきっと認め難くて、許し難いものだったのだろう。

被せる様に、断固として、気力を全て振り絞る様な声色で、“彼女”は言った。

 

「貴方にだって、喪いたくない人はきっと居る筈。

スクワッドの面々は其れに値すると思わんのですかね。

スパイを全うしたアズサと言う子だって、きっと大切なはずだ。

試しに今持ち得るものを振り返ってみたらどうですかねぇ…お嬢さん」

 

話は終わった、そう言わんばかりに“彼女”は瞠目する。

 

「そうか、話に乗ってくれて感謝する。最後に、名前を聞こうか」

 

そう言って、スクワッドは銃口を“彼女”に一斉に向ける。

名前を聞いたのはせめてもの手向けなのであろう。

 

 

 

 

 

──耳が遠い…。やけに眠いし……いつも以上に両手足は冷たい。

嗚呼、そうだった。私は負けたんだ、たった二日しか稼げず、先輩として、指導者として、責任を背負う者として、全く後輩たちに報いる事も出来なかったんだ。

いや……まだ、まだあるじゃないか…体中に括りつけた『ヘイローを破壊する爆弾』が。

 

「何…まだまだ……君たちは私の懐を調べていないだろう?

アリウスの捕虜から奪った例の爆弾、あの捕虜たち一人一人に括りつけるには惜しくってねェ──」

 

周囲の動きが固まる、アリウスに恐怖と畏敬の念が湧き出す。

全身を負傷し、回復の限界を迎えた“彼女”の、母校への執着を知って、彼女たちは怯え、動きを止める。

 

「赤宮。私は赤宮タツコだ。覚えて、おきたまえ」

“彼女”はピンを抜き放った。




アビドス第三章来ちゃ!
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