ニック達が到着したのは、すでに怪物が何処かへ逃走した後だった。
街では突然の怪物の出現のために、避難しようとする人々でごった返していた。怪物が歩いた場所の付近の建物はほとんどが倒壊。特に突如怪物が走り出したメットライフビル前は目も当てられない状況だった。メットライフビルには大きな穴が開き、ビル前の惨状と合わせて被害の大きさを物語っていた。
軍用車の中にはヒックスとニックが乗っており、現在対策本部が置かれているニュージャージー州の軍移動指令センターの中に入って行った。
車から降りたヒックスに、黒い傘を持った一人の男が近づいてきて、傘を差しだした。
「オニール軍曹です。大佐、ようこそこちらへ」
軍服を着た比較的若い男は敬礼して言った。
「市長からの連絡はあったか」
「はい。避難計画に賛同し、同時に国防軍も招集しました」
そのすぐ後ろを歩いているニック、エルシー、クレイブンの三人は届けられた被害報告書に目を通しながら会話していた。
「300万人以上の人間が避難するなんて、過去にこんな事件があったかしら?」
「僕の知る限りはありません」
ヒックスはオニールに現在の怪物の居場所を尋ねたが、オニールは見失ったと答えた。
「何。見失っただと?」
「はい、最後に目撃されたのはメットライフビルを突き破った所です。それ以降の事は…」
「お前はそれで済むとでも思っているのか?」
「あの、第一回の奇襲をかけた後…消えたんですよ。忽然と」
オニールは国防長官から電話があるからと言ってテントに戻って行った。ヒックスは今度はニックに怪物がどこへ行って、何故消えたのかを尋ねた。
「あんな大きなものがどこかへ消えるわけがないでしょう。まったく」
「恐らく川の中に入ったんだわ」
エルシーが口をはさんだが、ニックは否定した。
「恐らく違いますね。マンハッタンは四方八方を水に囲まれた島です。奴にとっては格好のテリトリーですよ」
恐らく島のどこかにまだ隠れているとニックが言った時、後ろが突然騒がしくなった。如何やら怪物の映像をテレビ局のカメラマンが鮮明に撮影したというのだ。
ニックとエルシーがテレビ画面に近づくと、ニュース番組がやっていてオードリーの上司であるチャールズ・ケイマンが写っていた。
「…ニューヨーク市民はいまさら何を見ても驚かないでしょうが、この映像は想像を絶するものです。本日、ニューヨークのマンハッタンに突如巨大な恐竜が出現し、街を破壊して去って行きました」
映像はビクターが撮影した映像に切り替わり、怪物の後姿や顔、そしてメットライフビルを突き破るまでが映し出されていた。
「この映像を撮ったのは、わが社の勇敢なカメラマン、ビクター・アニマル・パロッティ氏です。彼は怪物が起こした突風に飛ばされましたが、奇跡的に軽傷で済みました。まったく幸運な男です」
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テレビ局のオフィスは沸き返っていた。なんといってもビクターが撮った映像のおかげで視聴率はうなぎのぼり、局の電話は映像に関する問い合わせで回線がパンク状態だ。
頭に包帯を巻いたビクターは同僚や上司から拍手で迎えられた。
「よく撮ったわね。怖かったでしょう?」
オードリーがビクターに尋ねる。
「ああ、飛ばされた時はもうだめだと思ったけどね。ルーシーはどこだい?」
「彼女もう半狂乱よ」
「彼女に殺されるかな…いてっ」
その時ビクターの背後にいたルーシーが書類で頭を叩いたのだった。
「この野郎、心配かけて」
「怒るな怒るな。俺の撮った映像のおかげで数字とれてんだからさ」
その時、上司の一人が部屋に入ってきて叫んだ。
「さあみんな、浮かれてる場合じゃないぞ。10時のニュースに間に合うように編成局をニュージャージーに移すんだ…おいアニマル!お前はケイマンとヘリで飛べ」
再会のキスを妻と交わしていたビクターは片手を上げて了承の合図を送った。
「俺これからまた仕事だけど、お前はどうするんだ?」
「家に一旦戻る。オードリーにも来てもらうわ」
「ヒューッ。じゃあ今夜は二人がお相手かあ…体持つかなあ」
「いいからとっとと行け!」
ルーシーに急き立てられ、ビクターは去って行った。
一方、オードリーの眼はオフィスのニュース映像にくぎ付けになっていた。何とニュース映像の中にニックが映っていたのだった。場所はニュージャージー州の軍移動指令センター。やってきたところを偶然カメラが捉えていたのだ。
「…い。おい!何やってる。バッグを用意しろ」
映像に夢中になっていたオードリーは、ケイマンの呼びかけに気付くのが遅れた。オードリーは慌てて荷物を運ぶと、ケイマンにあることを伝えた。
「私、コネを持ってるんです。軍から情報を仕入れられるかもしれませんよ!」
「君のほら話は後にしてくれ。今は忙しい」
「本当ですよ。有力な情報を手に入れられるコネが…」
「いいかね君。これは世紀の大事件なんだ。下っ端の出る幕じゃない。バッグをよこせ」
オードリーが投げてよこしたバッグを受け取ると、ケイマンはエレベーターで下へ降りて行ってしまった。
しかしその時、オードリーはバッグからあるものを失敬していたのだった。
ーーーーーーーーーーー
オードリーはルーシーに連れられ、局の外に出た。
外では避難しようとする人や車で満杯になっており、あちらこちらのカーラジオや街頭モニターがこのニュースを取り上げていた。
上空にはケイマンとビクターを乗せたヘリコプターが飛んでおり、ビクターがカメラを構え、ニュースを読んでいるケイマンを撮っていた。
「世界貿易センター爆破事件以来の未曾有の大惨事となり、ニューヨークはパニック状態に陥っております。通りという通りには人と車が溢れ、史上最大の大脱出作戦の幕が切って落とされました。しかしこの計画に難色を示す人も多く、五番街やマディソン街の店舗経営者もその一つで、多くの店舗は略奪されすでに廃屋と化しております。通りにごった返している人々や車両の影響で、緊急車両の通る道がありません。そんな中で、安全だと言われているニュージャージーやロングアイランドに向けて避難車両がゆっくりとですが、進んでいます」
今や人々の心を支配しているのは、怪物に対する畏怖とまだ怪物がどこかにいるかもしれないという恐怖だった。
そんな中、エバート市長は避難ヘリの中で外の様子を見ていた。
「こりゃあ大変だ。もしもこれが無駄な避難だったら私は自由の女神から首を吊る羽目になる」
エバートもまた、この避難計画に難色を示すものの一人だった。苛立ったエバートはビニール袋からチョコレート菓子を取り出し、食べ始めた。
「選挙が終わるまでは甘いものは控えるという約束でしょうに!」
ジーンがやめさせようとしたが、エバートはその手で妨害した。
「いらんお節介だ」
エバートはそういうと、また食べ始めた。やがて彼を乗せたヘリは不時着した。
そこにはすでに数人の人間が待機しており、エバートの到着を待っていた。
「あの連中は一体誰だ!」
「近辺ビルのオーナーと、実業家の代表団ですよ。後援会の面々です!」
彼等はエバートの周りに集まると、一体どうなっているのか、ここは安全なのかと口々に聞いた。エバートは必死で冷静に待つようにと言い聞かせ立ち去ろうとしたが、一人の男に止められた。
「…エバート市長ですね。私は保険会社のものですが、ニューヨーク全体13%のビルの代表としてきました。どうぞよろしく」
フィリップ・ローシェだ。フィリップはエバートの首に手を回し、彼のワイシャツに何かをこっそり取り付けた。幸い誰も気づくものはいなかった。
「市長を支持して資金面でも大幅のバックアップを約束いたします」
「ほほう。そりゃあ有難いなあ」
そう言うと、エバートはそそくさと立ち去って行った。
つづく