ニックたちのいる軍移動指令センター近くに、テレビ局の自動車が停車した。
中から出てきたケイマンは、人込みをかき分け先にいるガードマンに近づいた。
「どうも」
「ダメダメ、許可のないものを通すわけにはいかない。IDはあるか?」
「君、テレビを見てないのか?あの怪物の姿を報道したテレビ局だよ?」
「例えどこの局のものだろうと許可のないものは入れない。どうしても入りたいと言うならIDを見せろ」
「一々うるさいな…」
ケイマンはバッグについている報道IDを見せようとしたが…
何と、どこにもなかった。彼の記憶が確かなら、局を出る時にはちゃんとつけていたはずだ。どこかに落としたのか?
IDが無いのは当然である。すでに報道IDはある人物の手の中にあったのだから。
地下鉄の中に、そのIDを持った人物が乗っている。誰であろうオードリー・ティモンズである。ただIDを拝借したのは彼女だけではなく、隣に座っているビクター・パロッティも同様だった。彼女は持ってきた自分の写真をIDのケイマンの写真が貼ってある部分に重ね合わせようとした。ここに写真を貼れば出来上がりなのだが、何だか悪い気がして隣にいるルーシーに話しかけた。
「ねえ何だか気が引けちゃうわ。悪いことしてるわよ、もしケイマンにばれたら…」
「自分で盗んどいて何言ってんの!今更御託を並べ立てないで頂戴。あんたの昔の王子様が今とびきりイカした事態に飛び込んでるんだよ。こんなチャンス二度とないわ…接着剤持ってないかしら?」
「残念。偽造キットは会社の中よ」
もうここまで来てしまったんだ。割り切ろう。彼女はそう思い直すことにした。
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そのころ、雨の中合羽を着た男が一台の大型車の中に入って行った。
男はUPSと書かれた自動車の中に入ると、辺りを警戒するかのように見回した。そして誰にも見られていないことを確認すると、奥のほうに進んでいった。
その男は、フィリップ・ローシェの4人の部下の一人、ピエール・ジルーだった。ピエールは車のドアを閉めると、近くで通信を盗聴しているクロードに持っていた紙袋の中からコーヒーを取り出し、渡した。
横にいたフィリペとリュックにパン屋の紙袋を渡し、フィリップにもコーヒーとのセットで手渡した。フィリップは嬉しそうに袋の中のものを取り出したが、出てきたのは自分が頼んだものではなかった。
「おい。クロワッサンだと言っただろう」
「すいません。売り切れでして…」
フィリップは仕方なくドーナツをかじりコーヒーを飲んだが、一口飲んで顔をしかめた。本国のコーヒーと全然味が違う。
「これがコーヒーかあ?」
「アメリカでは、です」
フィリップは頷くと、盗聴器のボリュームを上げた。聞こえてきたのは会議の様子のようだった。
「…そういう事なんですよ市長!」
「じゃあ何か?この大事な選挙の時期に全市民に無駄な避難を強いるのか?」
・・・訂正。どうやら諍いのようだ。
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軍移動指令センターの中で、ヒックス大佐はエバート市長のクレームに頭を悩ませていた。まったくこの市長は現場の状況が果たして理解できているのか。ヒックスは思ったが口にはしなかった。エバートの言葉はまだ続く。
「この計画に市民が出した費用は莫大なものになるぞ!解っているのか!?」
「だから怪物が警戒網に引っかからないのはマンハッタンのどこかに隠れているからですよ。証拠はありませんが、怪物が立ち入り禁止区域内のビルの近くに潜んでいることは間違いないんですよ。市長さん、解ってるでしょうがすべての警戒エリアの安全が判明するまでは避難命令を解除するわけにはいかないんですよ!」
すると大佐の横にオニール軍曹がやってきて、敬礼した。
「何だ軍曹」
「失礼。どうやら作戦は困難を極めそうです」
「そらみろ。こりゃあ傑作だな」
エバートは嫌味ったらしく言うと去って行った。
「…あの、現場で問題が起こりました」
オニールが恐る恐る言った。まったくついていけんという市長の愚痴と一緒に。
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数分後、ヒックスは軍用車に乗り23丁目にある地下鉄の中に入って行った。
ここを如何やら怪物が通って行ったらしく、天井が崩落し落下した蛍光灯が火花を立てていた。安全のためメンバー全員が防護服に身を包んでいる。その中にニック・タトプロスもいた。
ここに来る前、ニックは数人の人の列を見かけた。一体何だと軍関係者に聞くと、怪物のすぐ近くを逃げたため放射能に汚染された可能性があるので除染作業を行うらしい。ここにいる者も、地上に上がったらすぐに除染作業だとも聞かされた。
「調査中の小隊が偶然発見したものです」
同行していたオニールは、ヒックスにそう告げた。やがて一同は懐中電灯を片手に奥へと入って行く。鬼が出るか蛇が出るか、調査隊たちは緊張の面持ちで進んでいった。
ヒックスは発見した小隊のメンバーから話を聞いていた。どうやらオフィスビルの床が抜け落ちていたため不審に思って辺りを調査したら、この現場を発見したらしい。
「もしも怪物が地下鉄のトンネルを通ったなら、封鎖地域の外に脱出できます」
とするともう怪物はいつでも脱出は可能だという事だ。
「…迂闊だったな。トンネルは封鎖地域の中にいくつ存在する」
「合計14。しかしここ以外は破壊されていませんでした」
ヒックスは部下にすべてのトンネルの封鎖を命令し、とにかくマンハッタンから一歩も外には出すなと告げた。
話を聞いていたニックは、ヒックスに自身の考えを打診してみることにした。
「大佐。怪物は包囲網を突破しようとする存在じゃありません。よくて動物並みの知能しか持っていないただの大人しい存在ですよ」
「だから何だというのだ」
「…ミミズを捕まえるのに一番いい方法は、誘い出すことです。アイツが今一番欲しいものを餌にすれば、自然と出てきます」
そのころ、調査隊はあるものを見つけた。それは一か所一纏めにされた魚だった。
かくして、魚を餌にしたおびき出し作戦が敢行される事となった。
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そのころ、移動指令センター内では通達されたおびき出し作戦の準備が行われて居た。
怪物が最初に上陸したフルトンフィッシュマーケット協力の元、大量の魚が用意されていく。後はこれをトラックに詰めて、運び出すだけだ。
一方、一人の将校が隣に座っている上司に話しかけた。
「あの、いつまでも怪物ではよそよそしいので何か名前を付けませんか?」
「お前、随分と楽しそうだな」
上司はじろりと睨みつけたが、名前の件はヒックス大佐も話していた。
「名前はもう決まっているぞ」
一人の軍人が彼らに告げる。軍人は例の小林丸事件生存者のテープを見せる。
「日本大使館に連絡を取った所、この老人の出身者が大戸島出身の男だという事が解った。そしてその大戸島にはある伝説があった」
軍人は例の大戸島呉爾羅記談と山根の研究資料を見せる。そして次の言葉を告げた。
「今後はこの島の伝説にちなみ、怪物はゴジラと呼称する。作戦実効班にもそう伝えろ!」
作戦開始まで、あと30分…
つづく