ニックは目の前に出現したゴジラのあまりの大きさに声を失った。
何故なら彼はゴジラの大きさを巨大だとしても精々60mかそこらだと思っていたからだ。穴の中から現れたゴジラはどう見積もっても90mはあった。
これがもとはムルロア環礁に棲息していた爬虫類だったというのか!ニックは驚く。まさか核実験は生物にここまでの突然変異を促すとは…
ニックは改めてゴジラを見上げる。鋭い爪と牙は獲物を殺傷するのに効率的な武器となることだろう。中でもニックの目を引いたのは、ダークグレーの体に浮き上がっているケロイドのように焼けただれた後だった。至近距離から見なければわからず、見ても痛々しい傷跡だったが、ゴジラは全く気にしていないようだった。
と、ゴジラはニックのほうにゆっくりと顔を下した。近くにいた軍人たちはたまらず逃げだしたが、ニックはその場から一歩も動かなかった。
眼前にゴジラの巨大な顔が近づいてくる。ニックは防護服のマスク越しにゴジラと目を合わせた。ゴジラはニックの体のにおいをかぎ始める。しかしすぐに顔を離すと、足を踏み出し始めた。自身がゴジラの進路上にいることに気付いたニックは潰されないように道を避けた。すぐ横にいたオニールの顔を盗み見ると、彼も顔に恐怖の感情を浮かべていた。実際に間近で見ると迫力が違ったのだろう。
ゴジラは地響きを立て、魚が積んである場所に接近した。周辺に待機していた軍人たちも次々と道を開ける。ゴジラは魚の前に近づくと、再び臭いをかぐ。そしてその巨大な口を大きく開けた…
しかしゴジラが食べ始めたのは貝類や蟹、エビだった。周辺にゴジラが硬いものを噛み砕く嫌な音が響いた。
甲殻類や貝類が全て無くなると、ゴジラは改めて魚を口に入れ始めた。
そうこうしている間に軍人たちや軍用車両は次々と戦闘配置につき始める。皆ゴジラの大きさに圧倒されながらも着々と準備を進めていた。ニックは銅像の陰からゴジラの様子を見つめていた。このまま満足して帰ってくれればとてもありがたいことなのだが、その前にとニックはカメラを取り出し、ゴジラの写真を撮り始めた。
「……もっとでかい大砲が…必要だ」
オニールが震えながら喋る。するとゴジラは長い尻尾を左右に振り始めた。ぶつかった建物が次々と崩れていく。犬だったら満足している証拠だろうが、爬虫類にはどうなのだか解らない。
その時、通信機からヒックス大佐の大声が聞こえてきた。
「早く攻撃しろ!何をぐずぐずしている!!」
その声を聞いたオニールは、ゴジラに向かって攻撃命令を出してしまう。
「こ、攻撃!撃ちまくれえ!!」
オニールの声を合図に、あちらこちらでマシンガンやアサルトライフル、グレネードランチャーや戦車の大砲が火を噴いた。発射された弾丸は次々とゴジラに命中していく。
食事を邪魔されたゴジラは怒りの咆哮をあげたが、次にはミサイル戦車のミサイルが発射された。ゴジラは低くかがんでミサイルを回避する。放たれたミサイルはゴジラには当たらず、そのすぐ後ろにあったフラットアイアンビルに激突し、ビルを粉々に粉砕した。
何発かのミサイルはすぐ隣のビルを破壊し、すぐ下にいた兵士たちに瓦礫の雨を降らせた。ゴジラは姿勢を正すと、なんとニックがいる方向に走り始めた。蹴飛ばされた銅像がニックに襲い掛かる。かろうじて銅像の両手が地面を突いたため、下敷きになることだけは避けられた。
疾走を始めたゴジラにも果敢に軍人たちは銃火器を発射するが、ゴジラは痛くもかゆくもないとでもいうかのように走り始める。軍人たちは次々と逃げ出し、戦車が一台踏み潰された。
ゴジラはそのままアベニュー・オブ・ジ・アメリカズの方に逃走を始め、二台の軍用車がそのあとを追いかけた。
一方、空母ランブリンクではゴジラが暴れだしたという報告を受けたシルバーホーク隊の戦闘ヘリが次々と飛び立っていった。
決戦の時は近い。
つづく