ニックが、ヒックス大佐たちが作戦会議を開いているテントにたどり着いたときにはもうすでに夜になっていた。
「…それで何だ、その抗核何とかっていうのは」
「抗核エネルギーバクテリア弾です。我が軍が対核兵器、及び原発事故用に作成した兵器で、核物質を食べる特殊なバクテリアを使って核を無効化させるものです。これを使用すれば、核燃料で動いているゴジラの息の根を止めることも夢ではありません」
「ほう、そりゃすごいな。ならば何故最初から投入しなかったんだ?」
「この兵器は本数が少なく無駄撃ちが出来ません。おまけにまだ実験段階なためそう簡単には持ち出せなかったんです」
どうやらヒックスがエバート市長たちに新兵器の説明をしているようだ。ニックがテントの中に入ったが、誰も彼がやってきたことに気が付いていないようだった。
「兎に角今はいかなる可能性にもすがる以外方法がないんです。現時点でゴジラを倒せる兵器はおそらくこれ以外に無いでしょう」
「ことはそう簡単には終わらないようですよ」
ニックが声をかけると、全員の視線が彼のほうに向いた。
「君、それは一体どういう事なんだね」
「そう簡単に終わりそうにないという事ですよ。現場で採取したゴジラの肉片を調査し、妊娠検査薬をかけてみました。…奴は妊娠しています」
ニックの言葉に、本部は水を打ったように静まり返った。
「おいちょっと待て、それじゃあ何か?あの怪物は二頭いるという事かね?」
「いいえ、奴は一頭だけです」
「それじゃあ処女で妊娠したという事かね?」
エバート市長のジョークには隣に座っているジーン以外は笑わなかった。ニックは構わず続けた。
「奴は無性生殖の生物なんです。生まれながらにして卵を持っている。このニューヨークにやって来たのは巣を作るためです。ポリネシアの近海で客船が襲われた事件を覚えているでしょうか?客船には宝石展に展示する予定だったダイヤモンドが積み込まれていた、鳥などの動物は卵の殻を作るために貝殻などをついばむことがあります。奴も同じ特性を持っているんです」
ニックは一気に言った。そして彼は周囲を驚かせる結果を報告した。
「更に奴の細胞を検査してみた結果も出ました。僕は長い間こいつはイグアナのような爬虫類種だと思っていました。しかし奴の細胞から検出されたのはイグアナの細胞だけではありませんでした。二つの動物の細胞が検出されたんです。…その動物とは、ワニと鳥です」
「何故奴の体からそんなものが検出された?」
「…水爆の炎を浴びても死ななかった個体は、空腹のあまり周辺の生き物を食べていたのでしょう。奴は生物の死体を食い、その細胞から特質を受け継いでいるんです。おそらくはカメレオンの細胞も検出される事でしょう」
「じゃあ君は、ゴジラは最終的に翼が生えて空を飛び始めるとでも言いたいのかね?」
「そこまでは解りませんが、可能性は…とにかく今は奴の巣を見つけ出すことが先決だと思います」
その時、一人の将校がテントの中に入ってきて言った。
「おい、テレビを見てみろ!変なことを言い出したぞ」
ヒックスはテーブルからチャンネルを取り、テレビをつけた。そこには…
ーーーーーーー
ニックがテントに向かう数分前、オードリーはテントからこっそり失敬したテープと資料をビクターに見せていた。
「これ凄いなあ。何処で手に入れたんだ?」
「ちょっとしたコネよ。あなた前に言ったでしょ?人を踏みつけて始めて成り上がれるんだって」
内心悪い気がしたが、これは仕事のためなのだ。そう思い直したオードリーは、ディレクターのハンフリーの元へテープを持って行っった。
ハンフリーはケイマンと話をしていた。オードリーは会話を中断させてテープと資料を手渡し、テープを夕方7時のニュースで流すように伝えた。
「いいけど、これは一体何のテープだい?」
「この事件に関する最高にイカしたものよ」
それだけ言うとオードリーは去って行った。取り残されたハンフリーにケイマンは声をかけた。
「そのテープ、ちょっと見せてくれるかい?」
オードリーは喫茶店に仲間たちを集め、放送を今か今かと待ち構えていた。
「本当に流れるのか?」
「本当よ。高視聴率間違いなしだわ…始まった!」
オードリーは喜び勇んでテレビを見た。しかしそこには…
ーーーーーーー
「ニューヨーク市民を恐怖のどん底に叩き込んだこの怪物事件ですが、ここで新たな情報が入りました。7時のニュースをチャールズ・ケイマンがお送りいたします」
ニュースを読み上げているのはオードリーではなくケイマンだった。
「まずは皆さんに、この映像を見て頂きたいのです」
ケイマンが告げると、場面が変わる。それは軍のトップシークレットのはずのパナマの映像と加藤雅也の映像だった。
「一体なんだこれは」
ヒックスは怒り心頭の面持ちで言った。何故軍の最高機密がテレビで平然と報道されているのか。ニックは驚きながらもあることに気がついていた。
「…まさか、オードリーか?」
ニュースはさらにあることを伝えた。
「この映像と同時に、えー…ニック・パパドプロスの報告書によりますと、この怪物、ゴッドジラは…」
視線が一斉にニックの方向に向いた。
「まさか、マスコミの情報を売り渡したのか?」
「そんな!そんな事はしていませんよ」
「しかしこれはどう考えてもお前の事じゃないのか?そうだろう」
「それは…」
ニックは返す言葉がなかった。
つづく