南太平洋。
現在、嵐の吹き荒れているこの海域を漁船「小林丸」は進んでいた。
この漁船は比較的大型のもので、内部には捕らえた魚を加工する工場も存在する。ここで加工された魚は刺身になったり缶詰となったりするのだ。
この漁船の操縦席には今、一人の男がテレビで相撲を見ながら食事をとっていた。正直この男は相撲はよくわからないので応援している力士は特におらず、ただ単に暇つぶしとして見ているだけなのだ。
速く日本に帰って休日をゆったりと過ごしたい。それが男の願望だった。でもあと数日は帰ることが出来ない。とっとと仕事を終わらせたいものだ…
食事に夢中になっていた男は、鳴っているアラームに気がつくまで数分の時間を必要とした。やっとアラームの音に気が付くと、男は食器をその場に置き操舵機のレーダー部分に近づいた。
レーダーに見慣れない影が映っていた。
「…岩礁かな?にしてもこの場所なら問題ないな……!!」
男は顔色を変えた。普通の岩礁ならばありえない事態が男の眼に映ったのだ。
「岩礁が…動いてやがる!」
男は慌てて警報機のボタンを押した。岩礁と思われている影がこの船にどんどん近づいてきているのだ。
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鳴らされた警報機は船中に鳴り響いた。
警報音を聞いた乗組員は作業を辞め、次々と部屋から飛び出してきた。
一体何事なのか、乗組員全員が共通の疑問を持っていた。最高齢乗組員である加藤雅也が疑問を持つのには数分の時間を要したが。
加藤は仮眠ベッドから起き上がると、すぐ近くを走っていた乗組員に尋ねた。
「な、何じゃ。どうかしたのか?」
「何だかわからないけど、とにかく大変なことになったらしい」
乗組員が全て言い終わったか解らない間に、船をものすごい揺れが襲ったのだった。
その場にいた乗組員が次々と転倒し、加藤もベッドから落下した。
同じころ、操縦席には2人の乗組員が入ってきた。
「どうした!」
「う、動く岩礁だ!こっちに向かってくる!」
乗組員がレーダーを見ると、確かに岩礁を思わせる影がこちらに近づいてくるのが見えた。
「こちら小林丸!救援を要請します!繰り返す、救援を要請します!」
一人の男が通信機で海上保安庁に救援要請をしていた。すると船をものすごい衝撃が襲った。
この衝撃の原因は、船に巨大な爪が生えた腕が穴をあけたことが原因だった。
これにより、壁の近くに立っていた乗組員は悲鳴を上げる暇もなく暗い海に放り出されていった。同時に船内に海水がどっと流れてきて、無事だった乗組員たちを押し流していった。
小林丸はどんどん傾いていく。一体この船に何が起こったのかさっぱり解らずにいた操縦席の一同。すると目の前のガラスを巨大な鞭のようなものが粉砕したのだった。
すぐ近くにいた3人は衝撃で吹き飛ばされていった。
加藤は何とか起き上がり、外に出てみると目の前には闇が広がっていた。
それは夜の闇ではない。闇の中に浮かぶ異形の姿の影だった。
その姿を見た加藤は、自分の生まれ故郷に伝わる怪物の姿を思い浮かべた。しかしその名前が浮かんでくる前に、加藤も海へと投げ出された。
こうして小林丸は、わずか数分で海の藻屑となったのだった。
つづく