世界にはいくつもの原子力発電所が存在する。
ウクライナにあるチェルノブイリ原発も、かつてはその一つだった。
だった、というのは今はこの場所はもう稼動していないからだ。
今から数年前の大きな事故により、この場所とその付近の村や町は放射能で覆いつくされ今は誰一人暮らしておらず、またここを訪れるものもいなくなったからだ。
…たった一人を除いてだが。
この場所に一台のバンが、雨の降りしきる中進んでいた。
バンの運転手であるニック・タトプロスは、カーラジオから流れる流行の歌をヘッドフォンを通じて聞きながら車を走らせていた。
彼は生物学者で、チェルノブイリ原発が放った放射能が生物に与える影響を調べるためにここに来たのだった。もう何日もここに滞在し、地底にいるミミズと戯れていた。
ニックはバンを停車させ、中から降りると後部座席とトランクから研究機材を引っ張り出して、機材の一つである二本のバーを地面に突き刺した。これは地面に軽い電流を流す機材で、地底にいる動物などを地上におびき出すためのものだった。ニックは機材を操作し通電を始めた。
やがて地面がモコモコと盛り上がり、中からたくさんのミミズが這い出てきた。只のミミズではなく、普通のものよりは一回りほど大きなミミズだった。
ニックはミミズを掴みとり、網籠の中に入れ始めた。こんな光景、かつての恋人であるオードリー・ティモンズが見たら失神しそうだ。しかし自分は好きで生物学者になったんだし、彼女も自分の気持ちを尊重してくれた。彼女も今、自分の夢をかなえるために頑張っている事だろう。
作業と考え事に夢中になっていたニックは、その場にやってきた大型ヘリコプターに気が付くのが遅れた。
ヘリの中からは軍服を着た数人の男が降りてきた。男たちはこちらに向かって近づいてきたのだった。
「え?…ちょ、ちょ、ちょっと何?僕が何かしたの?」
状況が呑み込めないニックは疑問を投げかける。自分は捕まるようなことはしていないし、第一ちゃんと許可をもらって調査しているのだ。
やがてスーツ姿の男がやってきてニックに尋ねた。
「ニック・タトトプス博士ですか?」
「タトプロスです」
ニックは訂正する。この間違われやすい名字のせいで学生時代は名前を忘れられることは無かったがその都度訂正しなければならなかった。
「失礼。私はアメリカ国防総省のカイル・テリントンです」
男は謝罪と自己紹介をしてきた。ニックは恐る恐る言った。
「一応言っておくけど、許可はちゃんともらったんだよ…」
「解っています」
すると軍服の男たちはバンから機材を勝手に持ち出し始めた。
「ちょ、ちょっと!何やってんのあの人たち」
「あなたに仕事の依頼が入りまして。至急来ていただきます」
「仕事?…この仕事まだ終わってないのに!」
「今、終わりました」
あまりに突然の出来事だったので、ニックはただ呆然とするしかなかった。
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お話変わって、タヒチ島・パペーラ
ここの病院に、数台の車が到着していた。
車の持ち主はフィリップ・ローシェという保険会社の調査員だと名乗る男だった。
車からは彼の部下であるリュック・アベカシス、クロード・ベーラー、ピエール・ジルー、フィリペ・ド・プロピアックといった4人の男だった。
フィリップは彼等を引き連れ、病院の中に入って行った。病院の職員は彼に気が付くと立ち上がった。
「アメリカがこちらに圧力をかけてくるんです」
「返答は?」
「まだ、何とも」
フィリップたちがここを訪れたのは、数日前ここタヒチの浜に流れ着いた漂流者の様子を見ることが目的だった。
「生き残りというのはここにいる一人だけか?」
「はい。まったく幸運な男ですよ」
職員に連れられ、フィリップたちは病室の扉を開いた。
病室の中には、ベッドの周りを数人の医師が取り囲んでいた。フィリップは彼らに席を外してもらうよう頼み、全員が出ていくのを確認するとベッドで寝ている男を覗き込んだ。
「何が起こった?」
ピエールが男に尋ねる。フィリップたちは知らないことだが、この男こそ今や海の藻屑と化した小林丸の乗組員、加藤雅也だったのだ。
加藤はまるで何かにおびえているかのようにしているばかりで、ピエールの問いに答えなかった。そこでフィリップはポケットからライターを取り出して火をつけ、加藤の目の前に近づけた。
「…何を見たんだ?じいさん」
フィリップはゆっくりと問いかける。すると加藤は何かを呟いた。
「… … …」
「どうした?何を見たんだ…」
加藤は何とか声を絞り出した。
「…ゴジラ…ゴジラ……ゴジラ…」
つづく