「…ゴジラ?」
フィリップは聞き返した。耳慣れない単語だったので一体それは何かと聞こうと思った時、加藤は突如頭を抱え、大声を上げ始めた。
「ああ!!ゴジラ様、何をそんなにお怒りなのですか!?どうか、どうかお怒りをお沈めください!お願いいたします!」
「!?おい、落ち着け!」
リュックとピエールが暴れる老人を押さえつける。騒ぎを聞きつけたのか、医師たちが駆け付け鎮静剤を注射した。
「落ち着きを取り戻すまで、すこし別室で待っていてくれませんか?」
医師の言葉に従い、フィリップたちは別室で待機することになった。
1時間ほど経過し、部屋に一人の医師が入ってきた。
「あの老人が少し落ち着きを取り戻しました。今なら面会できると思います」
フィリップは椅子から立ち上がると、加藤が待っている病室に向かった。
加藤はベッドに横たわったままだったが、先ほどよりは平静を保っていた。
「それと、先ほど日本大使館に連絡してこの男の身元が洗えました」
医師がフィリップに伝える。フィリップが教えるように言ったため、医師は身元が書かれた書類を読み上げ始めた。
「ええと、加藤雅也。68歳。日本の漁師ですね。生まれは東京都の大戸島。若いころに東京に出稼ぎに出ているようです」
「これで間違いないか?」
フィリップが尋ねると、加藤はそっと頷いた。
「はい。先ほどは取り乱してしまって、どうもすみませんでした」
「礼はいい。それより、先ほどお前さんが言っていた"ゴジラ"てのは何か教えてくれないか?」
「はい…」
加藤はゆっくりと語り始めた。
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「…ゴジラというのは、私の生まれ故郷である大戸島に古くから伝わる伝説の怪物の名です」
「怪物…」
フィリップはそんな怪物がいるというのは信じられない心境だったが、口には出さずに加藤の話を聞き続けた。
「はい、海の魚を食い荒らし、時には陸に上がって家畜や植物、そして人間までも食べてしまうというそれはそれは恐ろしい怪物だと言われています。私も子供の頃は親によく悪戯ばかりしているとゴジラ様に食べられてしまうぞと脅されたものです」
加藤はとぎれとぎれではあるが、語り続けた。
「昔は不漁が続くと、島の村にいる若い娘をいけにえとして遠い沖にまで流したようです。もちろん今ではそんなことはせず、島の神社に神楽だけが執り行われているのみです」
後ろでクロードが鼻を鳴らした。頭から信じていないといった感じだ。フィリップはあえて無視して加藤に尋ねた。
「それで、お前さんの船を襲ったのはそのゴジラだってのか?」
「暗くてはっきり解りませんでしたが、奴は船に穴をあけ、積み荷の魚を食い漁っていました。もしかしたら本当にゴジラ様なのかもしれません。という事は次には人間を…」
加藤の声には次第に恐怖の色が付き始めた。
「ああ、解った。問い詰めてしまってすまなかったな。安心しな、もう日本に帰れる手続きをしておいてあるからな」
フィリップは加藤を安心させるために沿い告げた。
しかし事態はフィリップが想像をはるかに上回るものだった。
数日後、ポリネシア近海を航行していた大型客船が消息を絶ったのだった。
つづく