カイルたちに連れられ、ニックがやってきたのはパナマだった。
大型ヘリを降りると、強い日差しと南国特有の暑さが襲ってきた。大雨が降りしきり、冷え込んでいたチェルノブイリとは大ちがいだ。
「ちょっとちょっと、気を付けてよ。大事な機材が入ってるんだから。貸して」
ニックは前方を歩いていた職員に声をかけ、機材の入ったカバンを代わりに持った。
「ニック・タトロプス博士」
すると目の前にいた軍服を着た男が声をかけてきた。
「タトプロスです」
「どっちでもいい。それより、この連中をどかせ」
軍服の男。ヒックス大佐は近くの軍人に告げた。この連中というのは周囲を取り囲んでいるマスコミ各社だ。彼らは次々にいったい何があったのかコメントを求めたが、ヒックスはまるで相手にしなかった。
「僕に何をさせる気なんですか?」
「こいつらには何も話すな。どかせと言ってるだろう!!」
ヒックスはニックやマスコミの問いを無視してずんずん進んでいった。
「放射能漏れ事故でもあったんですか?」
「そんなところだと思ってくれて構わない」
「僕は原子力規制委員会には入っていますが、事故は専門外ですよ」
「百も承知だ。お前が3年かけてチェルノブイリのミミズを調査し、ミミズ男なるあだ名で呼ばれていることも知っている」
ニックと軍人はやがて荒野にやってきた。いたるところに大きな穴が開いており軍人が調査をしていた。ニックの眼に間違いがなければ、ガイガーカウンターを使っている。
「あそこで放射能を浴びたミミズのDNAが突然変異を起こしているんです」
「お前が3年かけてもつかめなかった答えがここにありそうだから連れてきたんだ」
ニックはヒックスに連れられ、一つの穴に近づいていった。
「過去の人間たちの過ちのせいで、チェルノブイリのミミズが突然変異を起こして巨大化しているんです。事故が起こる前と比べると17%もです」
「そうか。それは素晴らしい。さぞかし馬鹿でかいんだろうな」
「僕の仕事は放射能を浴びたサンプルを採取して分析する事なんです。なんといっても生物学者ですからね」
「結構。サンプルはこれだ」
ヒックスは穴の中に入ると、そこを指さした。
「…これってどれです?」
ニックも穴の中に入ると、ヒックスに尋ねた。しかしヒックスは答えなかった。
「一体どれなんです?教えてくださいよ」
「お前が今立っている場所だ」
それだけ言うと、ヒックスは穴の中から出て行ってしまった。ニックは馬鹿にしてるのかと少々腹が立った。そして周囲を見回してみて驚いた。
それはただの穴ではなかった。確かに巨大な穴なのだが、穴に3本の溝が付いている。それが一定間隔で延々と続いているのだ。
これに気が付いたとき、ニックの頭の中にある答えが浮かんだ。これは足跡だ。
ニックは穴から出ると、ヒックスを追いかけはじめた。
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ニックは何とかヒックスに追いつくと、一気に話し始めた。
「大佐!あれは巨大な足跡ですよ!僕は足跡の中に立ってたんだ。それが一定の距離で!!」
「その通り」
そう答えると、ヒックスはテントの中の機材に近づいていった。
「でも、あんな巨大な足を持つ生き物は地球上には存在するはずがありません!一体何なんです?」
「彼は駄目だと言ったのに誰も天才のいう事を聞こうとはしないんだから」
すると横から女性の声が聞こえた。みると、そこに赤髪でサングラスをかけた女性がいるのが解った。
「紹介する。国立古生物学会の学者エルシー・チャップマン教授だ。ここでのお前の上司だよ」
ニックはエルシーに挨拶すると、近くに寄った。
「あれは足跡でしょう?教授もそう考えてますよね?」
「ええ、そうね」
「主を見た人は?」
「目撃者はゼロ。突然やってきて、何もわからないまま去って行ったのよ」
すると背後からヒックスがあるものを置いた。それを見たニックは目玉が飛び出そうなほどの衝撃を受けた。
「そんな…そんな、嘘だ!これは三葉虫じゃないですか!!い、生きてる?」
「足跡の中に落ちていたそうだ。たしかとっくの昔に絶滅している、そうだったな?」
ヒックスがエルシーに問うと、エルシーはそうよと答えた。
「放射能を浴びて、眠りから目覚めたのでしょうね」
「さらに浜にはバカみたいな大きさのフナムシの死体が転がっていた。その死体からも放射能が感知された。お前はこれをどう考える」
「ええっと…」
頭が混乱し始めたニック。するとすぐ近くに軍用車が停車し、中から髭面の男が出てきた。
「エルシー!エルシー!情報だ。フランスがついに開示したぞ!」
男は興奮気味に言うと、テープを小型テレビのデッキにセットした。
映像が映し出される。一隻の船のようだった。
「フランス領・ポリネシア近海で原因不明の遭難を遂げた日本の漁船だそうだ」
「関係ありそうね。ああクレイブン博士、彼がミミズ男だそうよ」
クレイブンと呼ばれた髭の男はくしゃみをすると、ニックに握手を求めた。
手も拭かずに?ニックが驚いていると、クレイブンは慌てて手を拭いた。
「失礼。メンデル・クレイブンと言います。夏かぜをひいてしまって」
すると映像が切り替わった。それはベッドに横たわっている男と、その様子を見ているひとりの男の映像だった。
ニックたちは知らないことだが、これはタヒチの病院でのフィリップと加藤の会話だった。
『…ゴジラ…ゴジラ……ゴジラ』
聞きなれない単語にニックは呆然とするばかりだった。
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ニック、エルシー、クレイブン、ヒックスの4人はジープに乗って足跡をたどり、ジャマイカのグレートペトロブラフを進んでいた。
確かに足跡は海にまで延々と続いていた。足跡の持ち主にとってはほんの数分で走り抜けられる距離かもしれないが、人間にとっては車で結構かかる距離だ。
「それで?あんたチェルノブイリで3年もミミズを掘ってたのね」
助手席に座っているエルシーが、後部座席のニックを質問攻めにしていた。
「タロトプス夫人は黙ってたの?」
「タトプロスです。怒るどころか、僕は結婚すらしていませんよ」
「本当?ガールフレンドは?」
「いません。働きすぎて最近疲れてますよ」
「じゃあ心惹かれる相手は特にいないってことね?」
ニックは少し黙ってから答えを出した。
「いませんよ」
「この仕事はあんたには向いてないかもね。でもかわいいところあるわよボウヤ」
「そりゃどうも」
ニックが淡泊に答えると、エルシーは顔を戻した。
「カワイイってさ」
ニックが隣に座っているヒックスに話しかけた。当然だが、返答は無かった。
やがて彼らを乗せたジープは海岸のほうまで近づいていった。
その浜にフナムシの死体はもうなかった。代わりに座礁した巨大な漁船が転がっているだけだった。
つづく