浜に転がっていた巨大な漁船は、無数の傷跡がついていた。
特に目を引くのは、船体に大きくついている三つの傷。それはまるで巨大な腕が船を引っ掻いたような傷だった。
浜には数人の野次馬が集まっていた。みんな巨大な船のこの有様に驚きを隠せない表情だった。近くにジープが止まると、ニックたちは次々に降りて漁船に近づいていった。
早速ニックは巨大な傷痕に近づいた。一体この船に何があって、どんな理由でこの傷がついたのだろうか?この船を襲ったものの正体は?ニックの頭の中に様々な疑問が浮かんだ。今のところ解っているのはここまで続いていた足跡の持ち主が関係しているという事だが。
ヒックスは浜で待機し、部下の調査活動を見守っていた。すると数人見慣れない男たちが勝手に調査を始めているのが見えた。
「おい、あいつらは誰だ」
ヒックスが隣にいる軍人に尋ねる。軍服を着ていない男が4人ほど、ガイガーカウンターを持って船の中に勝手に入っていた。おまけに船の備品を持ち出そうとしている。
「部外者は立ち入り禁止だ。とっとと追っぱらってしまえ!」
「失礼。私の部下なんです」
すると別の人間の声が左隣からした。みると水色のスーツにサングラスをかけた男が立っていた。
「あんた誰だ」
「災害保険会社から来たものです。この事件の調査をしております。どうぞよろしく」
男は名刺を差し出してきた。その名刺にはフィリップ・ローシェと書かれているのだが、生憎ヒックスにはフランス語は解らなかった。
「仕事速いねえ」
「社の方針ですので」
しかし許可のないものを勝手に調査させるわけにはいかない。ヒックスはフィリップに告げた。
「何とかさん。さっさと出ていかないと、叩き出しますぞ?こちらの許可なく調査をされると困るのでね」
確かにこちらは無断で調査を続けている。これが原因で問題にされたら困る。そう判断したフィリップは部下たちに調査の終了を伝えた。
「ほら、調査は終了だ。十分なサンプルはもうとれた。早くしろ」
そう告げるフィリップは、一人の男の存在に気付いた。
その男、ニックは砂浜に零れ落ちている物の砂を払っていた。それは缶詰で恐らくはこの船に積み込まれていたらしい。
ニックは立ち上がると、傷痕を眺めた。傷痕には複数の肉片のような物体がついていた。ニックは肉片を一つ剥がすとポケットからサンプル回収用の小ビンを取り出しその中に入れた。
そのころヒックスは部下の一人からとんでもない情報を聞いていた。
ポリネシア近海を航行していた大型客船が原因不明の沈没事故を起こしたことが公表されたというのだ。
生存者の証言には、驚くべき事が含まれていたのだった。
「どうしたもこうしたもないよ!海の中から突然馬鹿でかい腕が生えてきて、船のどてっ腹に風穴を開けたんだ!」
「それからはあっという間さ!その次はでっかい顔が出てきて船を沈めたんだよ!」
当然ながら、その情報を信じる者はほとんどいなかった。
しかし、破壊の足音は確かにすぐ近くにまで迫っていたのだった。
つづく