アメリカの巨大都市・ニューヨーク。
発達した前線の影響で、この大都市は雨雲に包まれ雨が降っていた。
現在この都市には、来るべき市長選挙に向けてあちらこちらに有権者のポスターや看板が立ち並んでいるが、ひときわ目を引くのが続投を狙うエバート市長の派手なカラーの宣伝ポスターだった。
この都市のビルの一室に、ニック・タトプロスをよく知る人物がいた。彼の学生時代の恋人で現在は見習いレポーターとなったオードリー・ティモンズである。
彼女はうんざりした表情で、たくさんの荷物を抱え自身のデスクに座った。
「今週いっぱいはこの雨あがらないってさ」
オードリーは前の席に座っている同僚のルーシー・パロッティに話しかけた。
「そんなにたくさん買い込んで何に使うのよ?」
ルーシーは彼女が持ってきた荷物を見て言った。紙袋の先端からパンが突き出ており、角度の問題上見えないが袋の中にはたくさんの食料が詰め込まれているのだった。
「ケイマンの食料」
「あらあら大変…噂をすれば」
ルーシーが顎をしゃくる。見ると後ろに彼女の上司であるチャールズ・ケイマンと彼女の仕事仲間でルーシーの夫であるアニマルというニックネームを持つビクターが話し合いながらこちらにやってきたのだった。
「こっちじゃ格好がつかない。こっちをニュースで流せ」
「まったく世話が焼けるねえ」
何やらこれから放送する5時のニュースについて揉めているようだった。
「ねえねえ、例の事聞いてみたほうがいいかしら?」
「だめよ。絶対無理っていわれるにきまってるわ」
「聞いてみなきゃわかんないでしょ?物は試しよ」
オードリーはルーシーの静止を聞かず、ケイマンのほうに向かった。
「あの、ケイマンさん。ハンフリーに言ってくれましたか?」
「君か。その話は後にしてくれ。こっちは今の仕事で忙しいんだ」
「話してくれましたか?」
「勝手にしろと言っていたよ。だからあとは自分でやりたまえ」
「本当!!じゃあ彼仕事をくれるんですね!?他に何か言ってませんでした?」
話の内容は彼女の仕事についてだった。だがケイマンからはこんな返事が帰ってきた。
「さあね。でも君が食事してくれるんなら話してやってもいいがな」
「奥さんがいらっしゃるでしょう?」
「その通りさ。君がきれいだって前に言ってなかったか?」
「…私は3年もの間、貴方のために何もかも犠牲にしてまで尽くしてきたんですよ?確かにあなたのアシスタントを務められるような年じゃありませんが、やっと見つけた自分の理想の仕事なんです」
「だから食事しようと言ってるんだよ」
ケイマンの答えは変わらなかった。彼女は出来ないと答えると、彼は残念そうな顔をして仕方ないとだけ告げ、スタジオのほうに入って行った。
やがて軽快な音楽と共に5時のニュースの放送が始まった。
「皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。5時のニュースをお伝えします。ニューヨークは今日も雨、一体いつになったらやむのでしょうねえ。それでは…」
オードリーは仕方なく去って行った。ただ去り際に彼のポスターにこっそり噛んでいたガムを張り付けてやったが。
まったく、これじゃあ何のためにニックと別れたのか解ったもんじゃない。
ーーーーーーーーーーー
同じころ、ニューヨーク同様雨の降りしきる米国東海岸沖。
ここに今3隻のトロール漁船が漁のために海上を進んでいた。
船員たちは賭け事を楽しんだり、会話をしたりとそれぞれ思い思いの時間を過ごしていたのだが、突然の船の停止には皆が驚いた。
操縦席では船員が一体何事かと思っていたところ、突如船が後ろに進み始めたのだった。まるで何者かが後ろからすごい力で船を引っ張っているかのように…
「おいおいどうした?あいつ操縦ミスったのか?」
賭け事をしていた船員は精々そんなぐらいだと高をくくっていた。操縦席の船員は何とか船を前進させようとしていたが、何をどう操作しても船が後ろに行ってしまうのだ。
「おーい。何で後ろに進んでるんだー」
別の船員が操縦席の船員に話しかけた。船員はエンジンは全開で装置は故障していないと告げた。
「原因は解らねえよ。もしかしたら大物がかかったんじゃねえのか?」
「へっ。そいつはいいや」
一人の船員が網の様子を見るために船の後ろのほうにまで進んでいた。確かに大きな獲物が網を引っ張っているように思えるが…
「おーい。どうして後ろに行っちまうんだあ?」
隣の船の船員がこちらに大声で呼びかけた。
「解らない。クジラでも引っかかったんじゃないかと思うんだが…」
別の船員が網を上げるように指示し、船員たちは網の引き揚げ作業にかかった。
「おい、エンジンがオーバーヒートを起こしちまった!止めようか?」
男が何か言っているが、全く聞き取れない。その理由は何かが軋むような嫌な音と共に引っ張られる速度がどんどん上がってきているからだった。
船員は慌てて網を切り離すように指示した。しかし船員たちが行動する暇もなく船はどんどん加速し、最終的には海の中に沈み始めたのだった。
「もうだめだ!みんな船を捨てろ!飛び込め!!」
その言葉通り、船員たちは次々にと船から海へと飛び込んでいく。それは隣を航行している船も童謡だった。船体には海水が次から次へと流れ込み、とうとう船の舳先にまで到達しあっという間に沈んで行ってしまった。
あまりにもあっという間の出来事だったため、波間を漂っている船員たちは言葉を失うばかりだった。とりあえず一命はとりとめたと安心したいところだったが、次の脅威が迫ってきているのだった。
一人の船員の耳に何かの音が聞こえた。それは海の底から何かが上がってくるような音で、他の船員たちの耳にも聞こえていたのだった。
「下に何かいるぞ!」
やがて全員が気づいたときには、近くの海面が盛り上がり何かが浮き上がってきたのだった。
それは船だった。先ほどまで自分たちが乗っていた…嫌、違う。
船を口にくわえた、巨大な何かだった。
つづく