同じ穴の狸   作:九条空

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ハズビン・ホテルの知名度上げたいのでハーメルンにも投稿失礼します


シーズン1
問い声よければ笑い声よい


 俺が地獄に落ちた理由は非常に単純で、神を信じていなかったからだ。

 無神論者は地獄に落ちる。当然だね。

 

 だが、死んだら悪魔に成れるとは知らなかった。

 

 悪魔! 契約! よくわからん魔術や技術! 死んでも死なないクソ地獄! 最高にハッピー!

 現代よりよほどファンタジーで、よほど退屈しない。

 年に1度天使がやってきて、地獄の人口過剰を、全員ぶち殺しまくるという単純すぎる方法で解決しに来るというのだけが厄介だが、それ以外、今の生活に不満なところはあまりない。

 悪魔は死んでも死なないが、天使は悪魔を本当に殺すことができるので、殺されたら死ぬらしい。やだね〜。

 

 地獄もなかなかいいところだ。

 天国はもっといいところなのかもしれないが、知らないので比較できないね。

 

 今日は何食べようかな。人肉以外なら何でもいいな。

 嘘、日本食が良いな。

 この街には日本食レストランが存在しないので、食いたいなら自分で食材そろえてなんとかするしかない。

 面倒だな~。妥協して人肉でもいいかな~。やっぱやだな~。

 ぜんぜんうまくないんだよな~ラーメンの方がうまいんだよな~。

 

「御機嫌よう」

「えっ」

 

 何を食べるか頭を悩ませながら街を歩いていれば、すれ違った長身痩躯の悪魔に挨拶されたが、俺は挨拶を返しそびれた。

 驚きの声を上げ、すれ違った男を振り返る。向こうも不思議に思ったのか、立ち止まりこちらを見ていた。

 上から下まで、どこまでも赤い男だ。だがいい仕立ての服を着ている。

 右目には赤いレンズのモノクル、片手には特徴的なステッキ。

 センス抜群だな、こんなイカした悪魔を今まで知らなかったとは恥である。

 

「如何しました?」

「いやスマン、せっかく挨拶してくれたのにこいつはうっかり。ごきげんよう」

 

 俺は悪魔には珍しくしっかりと挨拶を返した――そうだな、そういえば挨拶をされるというのも地獄では非常に珍しいことだった。

 だが俺が驚いたのはそこではない。彼の声が、あまりに良すぎたからだ。

 加工されているかのようなラジオボイスは、にっこり笑っている彼にまさしくぴったりだ。

 ハイカットローカットして軽くドライブかけたみてェな――ともかく最高。

 ここまで姿と声が一致している存在はなかなかいないだろう。

 とりあえず、もうちょっと彼の声を聞きたいな。ただすれ違っただけで失礼かもしれないが、少し話してみる。

 

「なあ君、ラジオとかやってないの? 絶対向いてるじゃん」

「ハッハッ、非常に光栄なことを言いますね」

 

 真に愉快そうに笑った男は、気取ったように、しかし堂にいったようにお辞儀をした。

 

「不定期配信で申し訳ございません。あなたは私の放送を未だ聞いたことがなかったようだ」

「うっっっっそマジでやってんの! 聞いたことない、どっかでもっかい聞けないのか!? 絶対聞きたい、次いつやるか教えてくれよ!」

「ハァーッハッハッハ!」

 

 俺が興奮したように言い重ねれば、男は愉快そうに大声で笑った。

 どこかからSEじみたゲラ音声まで聞こえてくる。最高にクールであった。

 

「最高な音質の声はそのマジカルなマイクが? たとえ君のトーク力が最悪でもその声が聞けるなら絶対リスナーになるよ、そしてトーク力についてもここまでの会話で十分以上に保証されてるぜ、初対面の人間とこれだけ会話を弾ませられるならラジオだって完璧にこなせるだろうさ、ワオ、マジいいこと聞いたぜ、最近つまんなかったんだけど、アンタの次の放送を楽しみに過ごすよ!」

 

 俺はオタク特有の早口でまくし立てた。まくし立てすぎて相手のトーク力とか関係あるか? とか言っちゃいけない。

 彼の声の良さについてだけで俺がここまで喋れるんなら十分だという意味である。

 それから一番大事なことを聞いた。

 

「で、放送局はどこ? 俺はどうすればアンタのラジオを聞けるんだ?」

 

 このクソ地獄にラジオなんてあったかな。

 適当な家に強盗に入って探せばどっかにあっかな。

 

「あなたがこの街のどこにいても、必ずお耳にいれられるようにしましょう」

「サイッコー! 超ファンになった、聞く前なのにな! おっと、大事なこと聞き忘れてたぜ、アンタの名前は?」

「アラスターと申します。ファンになってくださったあなたのお名前をお聞きしても?」

「え〜、認知されたくないタイプだから名前は秘密」

 

 オタクは推しに認知されると死ぬ。そういう生き物だ。

 

「それはそれは、非常に残念です。どうしたら教えてもらえるのでしょうか」

「俺ミュージシャン志望だからさ、いつかアンタのラジオで音楽かけて貰えるようになるくらい頑張るよ。そしたら名前がわかるだろ」

「素晴らしい夢です。応援していますよ」

「まだ楽器やり始めたばっかだから遠い未来だけどなー。じゃなー、サイコーな声のイカしたアラスター、放送楽しみにしてるぜー」

 

 俺は大きく手を振って彼と別れた。

 しかしこのクソ地獄で、楽しみにできることがあるのは珍しいことだ。

 ラジオ、いつ放送すんのかな~。楽しみだな~。




ことごとく好きなアマゾンプライムオリジナルシリーズが打ち切られてるから今回も怖いんだよ!
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