「ゴーストってドラッグをやらないって決めてるから苦手なの? それともやったことあるから苦手なの?」
「……」
俺はエンジェルからの質問の回答に窮した。
オタクらしく多弁な俺が即答しなかったのが珍しいため、他のメンツも驚いた顔をする。
「ドラッグをやらないと決意するような出来事を話したくないと思っているのか、自分がドラッグで失敗した経験を話したくないと思っているのか、どちらでしょうねえ」
アラスターが愉快そうに言う。この悪魔、的確過ぎる。
この質問に回答しにくいのなら、そのどちらかに決まっているからだ。
俺は眉間を指で押さえて、少し考えた。
「……これは誰にも話したことない恥ずかしい話なんだけど……笑わない?」
「笑わないよ、ゴースト。友達だろ?」
きゅーん。
俺はエンジェルの発言にメロメロになってしまったので、生涯一度も口にしたことのない話をすることにした。
「ドラッグはやろうと思ってやったわけじゃないんだけどやったことあってェ……」
「あー、知らなかったけど使っちゃった? それとも盛られた?」
「……どっちかわかんないんだけど?」
「じゃあ盛られてんじゃん」
そうか、自分で使った記憶がないということは盛られているということになるのか。ホヘェ……。
あの時の記憶はほとんどないのだ。
記憶を取り戻す頃にゲロ吐いてなかったってことは酒ではないなということくらいしかわからない。
「あれがなんのドラッグだったかはわかんないしどういう経緯だったかも全然わかんないんだけど、覚えてるのはラリった俺が無差別に街ぶち壊しちゃったってこと。ゴジラに変身してビル3つ踏みつぶして炎吐いたところはギリギリ覚えてる……もしかしたらモスラとキングギドラにもなったかもしんない……気がついたら俺がいた区画なくなっててェ……」
地獄じゃエクスターミネーションでなければ死亡者は滅多にでないが、死ななきゃいいというものでもない。
壊れた建物は直さなきゃ直らないし、直すには悪魔の力がいる。
だからやりたい放題するやつらをある程度牽制する上位悪魔とかがいて秩序保ってるわけだし……。
「俺が死んで超すぐだから3年くらい前。全力で逃げたから誰も俺の仕業だって知らないけど、最初の頃はいつバレるかめっちゃ不安でなかなか自分の顔になれなかったよ。でもこの地獄じゃ完全犯罪って意外に簡単だよな、ワハハ」
俺は無理矢理笑ってみせたが、ホテルのみんなは笑わなかった。いつも笑っているアラスターは除く。
しばらく驚愕の表情を張り付けていたエンジェルとヴァギーが一斉に口を開いた。
「あの怪獣騒ぎ、ゴーストがやったの!?」
「エクスターミネーションに次ぐ天国からの破滅の使者とか、地獄に生まれた新たな支配種族とかいろいろ憶測飛び交ってたアレが!? アンタなの、ゴースト!?」
「イヤーッ! 笑わないとは言ったけど責めないとは言ってないってことォ~!?」
自宅とか潰してたらごめんよ~!
俺だってやりたくてやったわけでは……いや、ぼんやりとすごく楽しかったという感情が残っているが、今は後悔しているのだ。
「そうだよ俺だよ、悪いかよ、悪いよ~! 死んだばっかりの頃は大変だったんだよ、右も左もわかんないし地獄の作法も知らんし友達もいないし! 日本人は適応能力に優れてるけど、流石に一瞬で殺し強盗エログロなんでもありの世界観に馴染めるかっつ~の! ちょっとミスるくらいだれにでもあるだろ~!」
ほとんどなんでもアリの世界でやっていいことと悪いことの区別なんかつくかよ〜!
殺してもそのうち悪魔がよみがえってくるんだから、建物も同じ理論で勝手に直ると思うじゃん~!
「ゴースト、喧嘩嫌いって言ってたけど、やっぱ弱いわけじゃないんだよね?」
「知らないよ、やったことないってば! 殴ったらみんな死んじゃうじゃんか!」
「ワオ……」
なんのワオだよ~!
「え〜ん! 俺は目立たず静かな暮らしがしたいだけなのにそれがムズいんだァ〜!」
「えーっと……今ゴーストの名前は有名になってないから、結構うまくやってたんじゃない? やらかしてきたことのデカさ的に言えばさ」
「そう思う?」
俺は涙目でエンジェルを見た。
エンジェルと、ヴァギーと、アラスターはうんうん頷いた。
俺は途端に気分が上昇して、にこにこになった。
「俺にしては頑張ったよな! えへへ、俺ホント目立つの嫌いだからさ! 贖罪して天国行きてえなとは思うけど、第一号ってなると目立ちそうだから一号は俺以外に譲るからね!」
誰かが抜け駆けして地獄から天国に行っていたらヤダなと思うが、俺の見ている前ならヨシ!