同じ穴の狸   作:九条空

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当て鹿

 ロビーのソファでごろごろしていると、影からにゅっと現れたアラスターが俺の顔を覗き込んだ。

 ただでさえ背が高いのに、こうして寝転がってる状態から見下ろされると圧が強いな。

 

「私と出かけませんか、ゴースト?」

 

 俺はソファから跳ね起きた。

 

「うっそだろオイ! アラスターからのお誘い!? 珍しすぎるというか初めてじゃん、えっ俺でいいのか、ハスクでもニフティでもなく? チャーリーでもエンジェルでもサー・ペンシャスでもヴァギーでもなく!? この俺にだけ聞いてる!? そんなの応えないわけないだろ、行く行く!」

「ゴースト、どこに行くか聞いてから返事しろよ」

 

 ハスクの忠言にハッとして、俺はちょっと頭を冷やした。

 危ない危ない、誘われたら間髪入れずにイエスと言ってしまう俺の悪癖が飛び出していた。

 

「すまんハスク、ありがとう。確かにそうだ。どこ行くんだ? えっちな場所とグロすぎる場所だったら遠慮するぜ」

「ナハッ! いえいえ、単にお茶に誘っているだけですよ。西の方に良いカフェがあるので、あなたにも紹介したいと思ったんです」

「行く行く~!」

 

 今度こそ、俺は心置きなくガッツポーズをしてオッケーを出した。

 ハスクは呆れた顔でため息をついた。どして? いや、もしかすると罠なのか……?

 俺はこの誘いがトラップである可能性について真剣に考えて、質問する。

 

「お茶ってのが隠語で、実はドラッグだったり血だったり尿だったりする?」

「普段どんな下衆とつるんでいるかお察しですね。お茶と言えばティー以外にありませェん。コーヒーでも構いませんがね」

 

 ヴァレンティノに握手会って言われて行ってみたら性器を手で握る会だったことあるからな。

 

「ごめんごめん、最近よく騙されてるから疑心暗鬼になっちゃった! アラスターは俺と同じで下ネタ苦手だもんね!」

「面白いと思わないだけで苦手ではありませんよ」

 

 それを苦手というのでは?

 でもアラスターは生肉が好きだから、お茶が血の隠語の可能性はギリギリあった。セーフだった。

 

 アラスターに案内されるまま、目的地まで歩く。

 背の高いアラスターについていくには、元々の足の長さじゃ足りないかもな、ととことこ歩いているうちに感じたので、ヴァレンティノに化けて足の長さを合わせる――ヴァレンティノの方がでけえわ。

 

「私はあなたとお出かけしたいのであって、あなたの化ける別の誰かではありませんよ」

「……そうか!」

 

 確かに下ネタ苦手なやつの隣をヴァレンティノの姿で歩くのは嫌がらせに近いわ。歩く下ネタだし。

 俺は大人しく自分の姿に戻って、せかせかと足を動かした。

 たどり着いたカフェは確かにお洒落で、出てくる紅茶も美味しい。ミルクを先に入れるMIF式が俺の好みだ。

 

 突如、アラスターがいつもより8割増しで悪そうな笑顔になったので、俺はアラスターの見ている方を振り向こうとした。

 だがそれより先に、後ろからテーブルに荒々しく手を叩きつけられたので、驚いてその腕を見る。

 非常に見覚えのある尖った指、ヴォックスだ。

 

「おやァ? 奇遇ですねェ、ヴォックス」

 

 アラスターがそう言うまでは俺も奇遇だと思っていたのだが、言い方がものすご~く煽っていたので、これ奇遇じゃねえかもな。

 ヴォックスがテーブルに爪を突き立て、ガリガリとひっかき傷を作った。ちゃんと弁償すんのかなこれ。

 

「こんなところで何してるんだ!」

「何ってお茶ですよもちろん。ねえゴースト?」

 

 向かい合う形で椅子に座っていたアラスターが、いつの間にか俺の隣に椅子ごと移動してきていた。

 接触を嫌うアラスターが珍しく俺の頭に手を伸ばし、ぽんぽんと撫でる。

 彼は触られるのが嫌いだが、自分から触る分には意外に平気らしい。

 俺は撫でられるのが好きなので、嬉しくてしっぽを振った。

 

「うんそうだよ。ヴォックスも飲む?」

「そんなことするわけないだろう!」

 

 ヴォックスに怒鳴られ、俺はよよよと崩れ落ちた。

 

「えーん。ヴォックスは俺とお茶なんか飲むわけないってェ……」

「おお可哀想に。私で良ければいつでも一緒にお茶を飲みますとも」

 

 今日のアラスターは普段よりとびきり優しかった。

 俺の肩を抱いて、アラスターは俺に微笑みかけた。微笑んでいるのはいつもだったか。

 俺もちょっと調子に乗って、アラスターの胸に軽く頭を預ける。

 

「ホントに? アラスターは優しいね、ありがと!」

「あなたの友人ですから当然でしょう! いいえ、こう言ったほうが良いですね――親友、と」

 

 きゅーん。

 俺はその一言にメロメロになってしまった。

 

「大好きだぜ、アラスター。君のためならなんでもしてあげたい気分だ」

「ゴォーッストォ!」

 

 俺はヴォックスに引っ張られたことで立たされ、社交ダンスのようにくるくる二回転しながら彼の腕の中に抱き留められた。

 驚いて俺は目をぱちくりさせるしかない。なん……何? 俺じゃなかったら目が回ってるところだ。

 

「こんな野郎に誑かされているんじゃあないッ!」

「誑かされてなんかないって~。俺も本気だしアラスターもだろ?」

 

 親友イエイ! とダブルピースすると、アラスターが影を使ってヴォックスの足を引っかけてすっころばせた。

 俺の腰を抱いて引き寄せると、アラスターはヴォックスを見下して「可哀想に」と笑った。

 

「もう3年の付き合いなのに、私より疎遠な()()()は引っ込んでてもらえます?」

「ファーッック!」

 

 電気を腕にまとわせたヴォックスがアラスターをひっかこうとすると、アラスターはくるりと身軽に避けた。

 そばにいた俺の毛並みが静電気でもこもこしてしまう。

 ヴォックスが俺の両肩を掴みながら、噛みつくようにアラスターに叫んだ。

 

「我々はお前より深い仲だ!」

「えっ……ヴォックス、つまり……俺たちって、親友!?」

「大親友さ!」

 

 きゅーん。

 俺はその言葉にもうメロメロだ。

 こないだようやく友達になれたかと思えば、親友すっ飛ばして大親友になってたのか俺たち~!?

 これには俺もにっこにこ。たとえヴォックスがアラスターへの対抗心だけでそう言っていたとしても構わない。

 

「大丈夫だよヴォックス。俺は誰とも契約しない。もし誰かと契約するならまずヴォックスとするよ。俺に初めて契約を持ち掛けてきた悪魔は君なんだし」

 

 誰とも契約をするつもりはないが、するのだったら一番初めに声をかけてきたやつとするのが誠実さというものだろう。

 ヴォックスを見上げてにっこり笑えば、アラスターは残念そうな笑顔でため息をついた。

 

「残念です、ゴースト。あなたの初めてを頂けるかと思ったのですが」

「珍しいこと言うね、アラスター」

「……下品な意味じゃありませんよ」

「……俺マジで毒されてるかも」

 

 ヴァレンティノの下ネタを正常な単語に変換することに慣れてしまった結果、普通の単語を下ネタに変換してしまう能力まで育ってしまったというのか。誠に遺憾だぜ。

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