同じ穴の狸   作:九条空

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狸の面へ水

 チャーリーは天国で大事な大事な会議があるというので、俺たちはそれを見送った。

 代わりに初めてやってきたエンジェルのお友達、チェリー・ボムが俺たちを夜遊びに連れて行ってくれた。

 

「何を着ればいいんでしょうか!?」

「そのままの君がいちばんイカしてるよ、サー・ペンシャス」

「そうですか!」

 

 実際、サー・ペンシャスにはスーツみたいな着飾った服が一番似合うと思う。

 夜遊びに慣れていないのか、サー・ペンシャスは出かける前からずっとそわそわしっぱなしであった。

 そしてチャーリーから潤沢な資金を渡されたチェリー・ボムが俺たちを連れてきたのは、セックスバーである。

 ……セックスバー!? え、それはさすがに俺も初めて!

 俺も落ち着かなくなってしまった。しっぽをそわそわ揺らし、ついきょろきょろしてしまう。

 

「あんまり目線を泳がせんじゃねえよ。お相手探し中だと思われるぞ」

「思われるとどうなる?」

 

 ハスクが親指で指し示したのは、バー備え付けの個室であった。

 ここはセックスバー。つまりセックスをする部屋がついている……ってコト……? ワ、ワア……。

 一緒にいたニフティもきょろきょろしていたので、俺は慌ててニフティをひっ捕まえて抱え込んだ。

 

「あっちもこっちも汚れ放題よ、掃除しなきゃ!」

「ニフティ、今日は夜遊びなんだから別にいいんだぜ。ここホテルの敷地じゃないし」

「あらそうだったの? じゃあ遊ばなくっちゃ!」

 

 ニフティはセックスバーにまったくものおじしていないようで、俺の手を抜け出しとっとと駆け出して行ってしまった。

 強い……そもそもここがセックスバーだと認識しているのかは定かではないが、彼女なら問題なさそうだ。

 問題あるのは俺である。

 俺は怖くなって、ハスクにぴとっとくっついた。ウイスキーを呷っていたハスクが嫌そうな顔をする。

 

「不名誉だろうけど俺のお相手だと思われといて! 怖い!」

「そんなに怯えなくとも集団で飲んでりゃ誘われねえよ」

「ほんとか!? 俺飲めないけど平気!?」

「飲んでるフリしとけ」

 

 ハスクが滑らせてきたグラスをキャッチして、ちろりとなめる。

 安心安全・ノンアルコールカクテルである。

 やっぱりそわそわしてしまうので、あちこち見たくなってしまうが、あちこちでえっちな雰囲気が発生しているので目のやり場もない。この空間、俺と相性悪すぎる。

 

「知らねえ奴からもらった酒飲むなよ。薬いれられてるかもしれねえからな」

「こ、怖ァ……」

 

 ハスクの忠告に俺が震えていると、「ここにいる全員に酒をおごる」とサー・ペンシャスが叫んだ。

 

「サー・ペンシャスも誰かに薬盛ろうとしてんの?」

「あいつはそんなに器用じゃねえな」

 

 ハスクが珍しく愉快そうに笑った。

 ふと、ハスクが俺の後ろを驚いたような顔で見て、俺の腕を軽く引いた。

 

「おい――」

 

 ガシャン。

 

 ハスクの注意は間に合わず、俺は突然後頭部をぶん殴られた。正確には頭で瓶を割られた。

 俺はつい、自分の頭から滴り落ちる液体をぺろりと舐めた――やべっ、酒だ!

 そりゃこういうとこにある瓶のなかに酒が入ってないわけねえわ! ミスった!

 知らねえ奴から被せられた酒を舐めるのがセーフかどうかハスクに聞いてねえよ!

 

「これ、今流行りの酒の飲み方?」

「ギャハハハ!」

 

 俺を殴ってきたのは知らない悪魔だったが、別にいちゃもんつけてくるでもなくめっちゃウケている。

 俺そんな面白いこと言ったか? なんで俺頭で酒瓶割られたの? セックスバーってそういうもの?

 

「ゴースト! 大丈夫!?」

「エンジェル」

 

 慌てて駆け寄ってきたエンジェルが俺の頭からガラス片をはらって、ハンカチで顔を拭いてくれる。

 その間に、俺の頭で愉快な開栓をした悪魔をハスクがしっしと追い払った。

 

「こういう酒の飲み方が流行ってんじゃないの?」

「んなこたないよ! ラリったヤク中の危ない奇行だって!」

「そうなんだ、危なかった……俺もそうやって飲ませてあげなきゃいけないのかと思って、危うく彼の頭で酒瓶叩き割るところだったよ」

「もう少し様子見るべきだったんじゃないの、エンジェル? それ見たかった」

 

 チェリー・ボムが愉快そうに笑う。

 やった方がよかったんか……? と俺が不安になっていたところ、エンジェルが首を横に振った。

 

「そんなことしたらトラブルになるだろ。ゴーストは喧嘩が嫌いなんだ、だろ?」

「うん。ありがとエンジェル。せっかく楽しい場なのに、めちゃくちゃにしたくないし」

「頭割られてんのにのんきなヤツだね」

「俺の頭の方は割れてないよ。割れたのは酒瓶。それでちょっと問題なんだけど……」

 

 俺は手で口を押えた。そうしないとせりあがってくるものを留められない気がしたからだ。

 

「酒浴びたせいでぎもぢわう゛い……」

「飲んでもないのに!? 下戸すぎる!」

 

 酒の匂いこんな近くで浴びたら鼻からアルコール吸収しちゃうって……。

 俺はこの後なんとかたどり着いたトイレで吐いて、最後はハスクにおんぶされてハズビンホテルに帰った。

 全然楽しめなかった、セックスバーの才能ないのかもしれない。セックスバーの才能とは?

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