天国から帰ってきたチャーリーとヴァギーの様子はだいぶおかしかった。
チャーリーは沈んだ顔ですぐに自室にこもってしまった。
ヴァギーは難しい顔をしていたが、何があったかを聞けば俺たちに正しく教えてくれた。
チャーリーの天国への説得はいいとこまでいったけど失敗、アダムに目をつけられて次のエクスターミネーションでハズビンホテルが標的にされた、ヴァギーは元エクソシスト。うーん、怒涛の新情報。
「次のエクスターミネーションの時に集中砲火かァ。天使とまともに戦ったことないからどうなるかわかんないね」
「ゴースト、アンタ天使と戦う気なの?」
「うん。もちろんヴァギー以外の天使だぜ」
そういうことじゃない、という顔をされた。
俺がヴァギーに牙をむくような悪魔だと思われていないようでなによりだ。
「ヴァギーが天使ってのは意外だったな。わりかし馴染んでるよ、擬態上手いね、忍者向いてるんじゃない?」
「だからそういうことじゃなくて」
「襲ってくるなら戦うしかないだろ? 俺はみんなが死んだら嫌だし、ホテルがなくなるのも嫌だな。戦いは嫌いでやってこなかったからどれだけ役に立てるかわかんないけど、やれるだけのことはするつもり。もちろん、戦わずに済む方法があるってんならそっちのがいいけど」
話している最中、異様な気配が漂ってきたのでみんなが顔を上げた。
これは悪魔との契約か。上にいるのはチャーリー、この場にいないのはアラスターだ。
「うそでしょ、チャーリー!」と叫んでヴァギーが慌てて上階へと走る。
「あんまよくない流れだな。みんな最後の晩餐って何食べたい? 今から準備しとく?」
「死ぬんですか我々は!?」
「アハハハ! 死ぬにしても食事するにしても綺麗な場所じゃなくっちゃ!」
「縁起でもないこと言わないでよ」
「酒がありゃいいな」
「俺は米に合わせるおかずを考えておかなきゃな……」
まさか地獄に来てからも最後の晩餐何食べるか問題に悩まされるとは思ってもみなかったぜ。
チャーリーとアラスター、それからヴァギーは天使と戦うための準備をすると外に行ってしまった。
ヴァギーは俺たちにホテルから出て行っても良いと言ったが、出てっても別に行くとこないしな。
「籠城戦をするのならこの建物は窓が多すぎます!」
「板でも打ち付けるか」
「手伝うよ」
「アハハ! 私も!」
誰も出ていくつもりはないようだ。俺としてはみんなの命が助かる方が嬉しいので、安全圏に行ってくれるというのならそのほうが嬉しいような気もしなくはないんだけど……。
戦いもまともにやったことないのに誰かを守るとかできんのかな俺~。心配。
「じゃあ俺板いっぱいあつめてくるね~」
そのへんに木造の建物とかあったかな。
そもそもハズビンホテルは辺鄙なところに建っているので、なにかを運び込むとなれば結構大変だ。トラックから用意しないとだな。
そうして、チャーリーとヴァギーがすっかり仲直りしてハズビンホテルに帰ってくる頃。
俺は右手でホテルの窓に板を打ち付け、左手で「だれにでもできる! 喧嘩入門書」を読んでいた。
ちなみに右手はイカの触手になっている。今度はきちんと10本だ。
触手って器用に動かせるので、マルチタスクをするのに本当に便利なのだ。悪魔っぽいし。
エンジェルが後ろから俺の本をのぞき込んだ。
「何読んでるのゴースト?」
「喧嘩の方法」
「殺し合いの本はなかった?」
「それも後で読む」
エンジェルは肩をすくめた。
「そんなこと勉強しなくたって、前に街踏みつぶしたみたいにやればいいじゃん」
「エンジェル! 俺はそれを恥ずかしいことだと思ってんだぜ! かつて街破壊したことがバレて責任追及されたらどうすんのさ」
「殺し合いになったら責任なんて考えてる暇ねえぜ」
ハスクの言うことも一理ある。
俺の居場所がなくなることより、友達が死んじゃうことの方が嫌だな。
「必要そうならやるけどさァ……てかそうだ、天使の倒し方ってわかったの?」
「天使の鋼で作った武器なら殺せるって」
「それどこで手に入んの?」
ヴァギーが、帰ってくるときに運び込んできた大量の荷物を指さした。
「過去のエクスターミネーションの時に天使が置いて行ったものをカミラに手配してもらった。あとは次襲ってくるときにその場でぶんどるしかないね」
「ワオ。それならちょうどいい。俺も持ってるよ」
俺は謎空間から天使の武器を取り出してみせた。
主に槍、たまに剣や斧。オタクがたくさんのサイリウムを同時に持つがごとく、両手の指の間に8本挟んで構えてみせた。
日本にはこういう風に戦う武将もいるし……それは6本だっけ?
「……なんで持ってんの?」
「そりゃ日本には『もったいない』って言葉があるから。あいつら、武器使い捨てにするだろ。悪魔の死体に刺しっぱなしにして帰ってさ。もったいないからいくつか回収してた」
それをカミラ・カーマインもやっていたというのなら気が合うかもしれない。
ものは大事にしなきゃな! しょっちゅう楽器叩き割ってる俺が言う権利ねえな!
俺はエクスターミネーションの時、大体を天使に化けることでやり過ごしていたので、擬態のために同じ武器を持つことは大事だ。
天使の武器を謎空間にしまい、俺は気まずい顔して切り出した。
「あー、それでチャーリー。ものすごく言いにくいけど言っときたいことが……」
「なあに?」
「俺ってエクスターミネーションの時エクソシストに化けてんだけど」
電子的に表情が表示される仮面を被った天使の姿に化けてみせると、みんな嫌そうな顔をした。
今一番見たくない姿だろうし当然だ。
「最初の頃悪魔がこの武器で死ぬの知らなくてさ~。物まねしてる間に何人かマジで殺しちゃったんだよね。めちゃ反省してるけど、次は同じ要領で天使殺せばいいってことだよな。勝手はわかってるから任せてくれよ」
チャーリーがものすごく悲しそうな顔をしたので、俺はやっぱ言わなきゃよかったなと思った。
ヴァギーがエクソシストだったことを告白したどさくさに紛れて悪魔殺し許してもらおう作戦、失敗!