同じ穴の狸   作:九条空

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象牙の塔

 明日は期間が一年から半年に短縮されたエクスターミネーションの日だ。

 アダムからの宣言が正しければ、このハズビンホテルが一番に狙われることになる。

 ヴァギーは天使の鋼で出来た武器の調達を、チャーリーはカニバリストたちの協力を得て、このホテルに戦いへの参加者を大勢連れてきた。

 明日に備えて今日は好きに過ごせと言われているため、ハズビンホテルも普段より賑わいをみせている。

 

「そんなことないって。うんうん。ええ? それめっちゃ面白いじゃん! すごい発想だな、俺にはできないよ、絶対作ったほうが良いって。俺もできることがあるなら協力するし。うん、完成するのが楽しみだね! まずは設計から? そんなのいらない!? ワオ、天才じゃん!」

 

 俺は通話しながら、自室からハズビンホテルのロビーに向かって歩いていた。

 今日が最後の一日になるかもしれないのだったら、友達と一緒に過ごしたい。

 あとはここにいない友達ともお話ししておこうと思って電話をかけたのだが、思いのほか話が盛り上がってしまい、ロビーに出てくるのが遅くなってしまった。

 ハスクのバーに向かえば、すでにエンジェルが酒を飲んでいる。

 俺は通話したまま2人に軽く手を振って、バーの一席に座った。

 

「うん。ふふ、君の話はいつ聞いても面白いね。話してると俺もハッピーな気持ちになるよ。でも俺、明日は早起きしなきゃいけないんだ。だから今日はこのへんでごめんね。そう、君も今日くらい早く寝て早く起きたら? 俺も起きるのすんごい苦手なんだけどさ~、たまに早く起きられると超気持ちいいよ! あ、俺がモーニングコールしてあげようか? そう言っときながら俺が起きられないかもしんないけど! あはは、そうなったらかけてきてくれるって? ありがと! じゃあまた明日ね。おやすみ、ルシファー」

 

 ブフーッとハスクとエンジェルが同時に酒を吹きだした。

 通話を切った俺は、ハスクに「炭酸水ちょうだい!」と声をかけたが、ハスクは目を真ん丸にして俺を見てくるだけで動かない。

 

「え!?」

「え?」

 

 エンジェルがでっかい声で驚いたので、俺も驚いて首を傾げる。

 ハスクが口元を手でぬぐって、やや顔をひきつらせながら俺に聞いた。

 

「おい、俺の聞き間違いか? お前今、ルシファーって言ったか」

「言ったけど?」

「ちょっと、地獄の最高権力者とどんだけ気軽に電話してんの!? チャーリーでも電話かけるのにあんなに気合入れてたのに!?」

「親子の間にはいろいろあるんじゃない? でも俺はルシファーの子供じゃないし」

「じゃあ何!?」

「友達」

「友達!? 友達になったの!? いつの間に!?」

 

 えーと、エンジェルがものすごく驚いている理由が俺にはわからないのだが……もしかして俺が他の友達にとられるかもっていう嫉妬か!?

 そうだったら嬉しいな。俺はにやにやしそうになるのを我慢して、説明した。

 

「そりゃ、こないだルシファーがホテルに遊びに来た時に決まってるだろ? 楽器教えてくれるって言ってくれたから、じゃあ連絡先教えてって電話番号交換した」

「ゴースト……俺よりずっと手が早いね。やるじゃん」

 

 相変わらずよくわからないが、エンジェルに褒められたので胸を張っておいた。

 ハスクが俺に尋ねる。

 

「何の話をしてたんだ?」

「ルシファーが作ってるアヒルちゃんの話。次のはすごいよ、自走式で水陸両用、なんと歌も歌えるって! できたら一番に俺に見せてくれるってさ! たのしみだな~」

「……そんな話をちゃんと聞いてやれるのはお前だけかもな、ゴースト」

 

 え? みんなアヒルに興味ないの?

 ルシファーがめちゃくちゃな種類と量作ってるから、てっきり地獄のトレンドなのかと思ってたんだけど。

 ルシファーだけのマイブームってこと? 自分しかアヒルが好きじゃないのにあそこまで作れるならやっぱ天才だ。

 好きなことに一途なやつってやっぱかっこいいよな~。俺も音楽に対してそうあれるようにしなきゃな。

 

「ルシファーがまたここに来るってこと?」

「そうなるかもしんないし、俺がルシファーのとこに行くかも。他のアヒルちゃんも見たいからな~。いっぱいあるらしいよ! 火を噴くアヒルちゃんとか、1680万色に光るアヒルちゃんとか! エンジェルも一緒に見に行く!?」

「遠慮しとく」

 

 やっぱりアヒルちゃんが流行っているのはルシファーと俺の間だけなのか。

 絶対見たいじゃん……ゲーミングアヒル……。

 

「残念。明日死ぬかもしれないって時だ。次の予定を入れておくのは大事だよ。死に際にやり残したことが一つも思い出せないようじゃ、本当に死んじゃうからね」

「……それは、本当にそうですね!」

 

 なんだかちょっとへこんだ様子だったサー・ペンシャスが、俺の言葉に元気を取り戻したようだった。

 予想外のところで励ましの言葉になったらしい。

 

「やり残したことあるの、ペンシャス?」

「ええ。ですがこの戦いを生き残ってからこの思いを伝えることにします!」

 

 死亡フラグすぎるだろ!

 俺は仰天してエンジェルとハスクを仰いだが、2人とも首を横に振った。

 

「もうやって失敗してるから。今日は無理そうだよ」

「オワ……ペンシャス、明日はあんま……無理しないようにね! 俺の後ろにいてもいいよ!」

「私がそんな臆病者だとでも? しっかり戦ってみせますとも!」

 

 死にそうすぎるって!

 俺は再びエンジェルとハスクを見たが、2人はやっぱり首を横に振った。

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