同じ穴の狸   作:九条空

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窮狸猫を噛む

『そんな場所に居たら絶対に死ぬ! いつもはうまく逃げているんだろう、なぜそうしないんだ!』

「え~? 別にヴォックスには関係ないじゃん……」

『君が死んだら困る!』

 

 はいはい、曲を作ってくれるやつがいなくなるから困るってことね。

 

『大体なんでアラスターになっているんだ君は!? 嫌がらせか!?』

「ヴォックスこそどうせこっちの様子見てんだからわかるでしょ。ニュースの映像に写ったら困るんだよ俺は」

 

 映像に俺の姿を残すつもりはない。

 最近は自分のスマホに自分の写真を残す、チャーリーに送る、までくらいなら許せるようになってきたが、映像は許容範囲外だ。

 だからアラスターの姿を借りている。

 姿だけを借り、声は俺のままだったのだが、通話中のヴォックスが気づいたのは案の定、監視カメラでこちらを確認しているからである。

 適当な場所に向けてニコニコしながら手を振ってみれば、電話の向こうのヴォックスが「ファック!」と地団太を踏む音が聞こえた。本当に嫌いなんだなアラスターのこと……。

 これが最期になるかもしれないのだったら、一瞬くらいはいいか。

 俺は元の姿に戻って、別れの言葉を告げる。

 

「ヴォックス。ハズビンホテルのみんなを皆殺しにした後、エクソシストは君のところに行くかもしれないんだぜ。俺は友達を守るためなら二度死んでも構わない。俺の友達なんだから俺が死なないように祈っててくれよ、じゃね!」

 

 ヴォックスとの通話を終えて、俺は深呼吸した。姿はもっかいアラスターに戻す。

 さて、気合を入れなきゃいけない。殺しのための気合を入れるなんて初めてだ。

 大体軽く殺してしまうか、うっかり殺してしまうかだから。

 

 空に穴が開いて、天国からエクソシストたちがハズビンホテルに向けて突っ込んでくる。

 向こうは雄たけびを上げながら襲い掛かってきたが、こっちも負けちゃいない。同じく景気のいい怒声を上げながら対峙した。

 あちこちで戦闘が始まったところで、ホテル周辺を影が球状に覆っていく。

 アラスターの力だ。シールドのように遮られるのか、なだれ込んでくる天使の流れが止まる。

 これ以上追加の軍勢が来ないというのならこっちのもんだ。

 

「こいつ、裏切り者だ! 裏切者が紛れているぞ!」

 

 エクソシストの姿に化けて、俺はそう叫んだ。

 俺とまったく同じ姿をしたエクソシストは、憎々しげに俺に槍を向けた。

 

「貴様が裏切者だろう!」

 

 俺は槍ではなく、そいつに指を向けた。

 

「見ろ、天使に槍を向けている! こいつが裏切者だ! 天使を殺す気だぞ!」

「なんだと!?」

 

 何人かの天使がこちらに注意を向けていたので、俺の演技はなかなかうまいようだ。

 俺は天使から、()()()()天使に化けなおすと、もう一度でかい声で叫んだ。

 

「刺してきたぞ! こいつだ! みんなこの裏切者を殺せ!」

 

 こちらに注目していたといっても、天使たちは悪魔と殺し合いのまっただなかだ。

 俺のことをずーっと見ていたわけじゃない。刺される瞬間を見逃すことくらいあると思ったのだろう。

 俺が指さした天使は他の天使に囲まれ、「私じゃない!」と叫びながら串刺しにされ、同じ天使に殺された。

 

「どうやら悪魔の中に変身する能力を持ったやつがいるようだ。みんな気をつけろ!」

「了解しました!」

「まあそれが俺なんだけど」

 

 俺に良い返事をしてくれた、観察眼のない天使の首を天使の剣で斬り落とした。

 天使って悪魔と同じくらいちょろいかもしれない。いや、やっぱり悪魔の方が簡単に殺せるか?

 そもそもこんな凝った殺し方、悪魔に対してやったことないから比較できねえや。

 そんなことを繰り返しつつ、ハスクの近くに降り立つと、当然天使の姿をしている俺にトランプが飛んできたのでニフティに化けて躱した。あぶねっ。

 

「おい。紛らわしいぞ、ゴースト」

「ごめんて。しかし自分でやっといてなんだけど正直ドン引きだぜ。あんな簡単に仲間殺す?」

 

 俺がいなくなったにもかかわらず、頭上で疑心暗鬼になった何人かの天使たちがお互いを裏切者と糾弾しながら殺し合いをしている。悪魔そっちのけである。彼らは悪魔のことを憎く思っているようだが、それ以上に裏切者を憎んでいるようだ。

 利用しやすくて、大変よろしいね。単純な思考に支配されている連中程操りやすいものもない。

 

「趣味悪い戦い方するな、お前」

 

 天使に向かってダイス爆弾を投げつつハスクに言われ、俺は涙目になった。

 

「ハスクが言ったんだろ、殺し合いになったら責任とか言ってられないって! 手段選ぶなってことじゃなかったんか!?」

「悪かった、その調子だ」

「この戦いの後俺のこと嫌いになるなよ、絶対だからな!」

「わかったわかった」

「酒飲めないから俺のことどうでもいいと思ってる!? 俺だけ飲み友達じゃないもんな! うわーん!」

「この言い争い、今やることか? 後で言い訳させろよ」

「わかった、後で聞くね」

 

 俺はアダムに化けて空高く飛んだ。

 説教するように近くの天使を指さして、ガミガミ怒鳴ってやる。

 

「おい、ちゃんと悪魔を殺してるんだろうな!?」

「ハッ、当然ですアダム様!」

「じゃあ許さん」

 

 俺はエクソシストの胸あたりを槍で一突きにした。綺麗に不意をつけたので、一撃必殺である。

 アダムがエクソシストを殺したので少しざわついた。天使たちに一斉に武器を向けられる。

 

「貴様……偽物だな!?」

「え~!? このTHE・ファーストヒューマン・アダムを攻撃するっていうのかァ~!? 不敬過ぎるだろ、オラァ!」

 

 回し蹴りを首の後ろに叩き込んで、天使を地上に叩き落した。

 地上に突き刺さったままになっていた天使の槍に向けて蹴り落したので、そのまま天使は槍で串刺しになる。

 そのあと駆けてきたニフティが執拗に天使のことを刺しまくったので、確実に死んでいることだろう。

 流石にアダムに化ければ目立つので、本物のアダムが俺のそばに飛んできた。

 

「オエーッ! 俺がもう一人いるじゃねえか、気色悪ィ!」

「何言ってんだ、ナイスガイがこの世に1人増えたんだからいいことだろ?」

「確かに。そうだな?」

 

 納得された。

 

 アダムが来る直前に、アラスターが張っていた影の結界は解けた。

 再び天使は数を増やし、こうしてアダムの手も空いている。

 

 参ったな。結構劣勢だぜ。

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