同じ穴の狸   作:九条空

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鹿の尻笑い

 ルシファーはアダムをこぶしでボッコボコにし、地獄の君臨者であることを見せつけた。

 そのまま殴り殺しそうなところを、慈悲深いチャーリーが止めたのだが――アダムの罵詈雑言にみんなが辟易しているところ、背後からニフティがアダムを突き刺して殺した。

 

 天使を刺す、というチャーリーからの命令を忠実に実行した結果である。

 マジでナイス。こういうタイプを生かしといていいことないぜ。これにはヴァギーもにっこり。

 アダムを失ったエクソシストたちは、ルシファーに帰れとお願いされたこともあり、天国へと帰って行った。

 

 戦いは終わったのである。

 だが、俺たちは多くのものを失った。

 ハズビンホテル。それから、サー・ペンシャス。

 

 戦い自体を避けられたのではないか、私のためにサー・ペンシャスを犠牲にしてしまったと、嘆くチャーリーをルシファーが慰める。

 もちろん、ホテルの連中と、すっかりなじんできたチェリー・ボム、そして俺も一緒にチャーリーを励ました。

 

 悲しみに暮れるより先にやることがある。ホテルの再建だ。

 みんなでレンガや鉄を集め、ルシファーが魔法でサクサクと支柱を建てていく。

 もともとのハズビンホテルよりもデカいホテルを、みんなで協力してつくっていった。

 

 とんでもない速度で完成したホテルを見てみんなで喜んでいれば、行方不明になっていたアラスターが帰ってきた。

 みんな喜んだが、ルシファーは嫌そうな顔をした。あれ? 仲悪いんだ?

 アラスターって意外と嫌われてるんだな。俺は好きだけど。

 俺はにっこり笑って、チャーリーに聞いた。

 

「アラスターも戻ってきたし、ホテルも新しく完成した! ひと段落ってことでいいんだよな?」

「ええ、そうね……ゴースト!?」

 

 チャーリーの返事を聞く前に、俺は後ろにひっくり返った。

 別にえっちなものを見たからとかではない。単に、もう体力の限界だったからだ。

 

 みんなあんなに戦った後なのに元気すぎるだろ!? 俺だけ!? こんな疲れてんの俺だけ!?

 

 たぶんアラスターもめちゃくちゃ疲れてそうだけど、今は取り繕う余裕がありそうだ。

 ずるいぞ……俺だって一旦休憩すればそのくらいは誤魔化せたんだからな……。

 ただ、ホテル建築が俺に完全なるトドメを刺した。

 

 俺はあんまりにも疲れたので、変身が解けてしまった。

 すなわち、()()()()っていう変化が維持できなくなった。

 

 アダムとの戦闘でバキバキに折れた腕とか、いつの間にか天使の槍ぶっ刺さって開いていた腹のどでかい穴とか。

 そういうのがみんなに見られ放題。はずかちい。

 倒れこんだ俺からどんどん血が流れていく。出来立てほやほやのホテルの床を汚してすまない。

 倒れる場所を考えられるほどの余裕がなかった。

 

「キャア! 嘘でしょ、ゴースト! そんなに傷だらけだったの!?」

「イヤーッ、はずかしい、あんま見ないでェーッ」

 

 元気がないので大声も出せない。

 みんな無傷だったり、ほぼ返り血、ちょこちょこ自前の傷、くらいだったりで済んでるのに俺ボコボコなんですけど……。

 

「そんな傷だらけなゴーストにいいものがあるぞ!」

 

 ルシファーは自信満々に懐からあるものを取り出した。

 

「最新のアヒルだ!」

 

 ホテルのみんなはがっかりした顔をした。

 あれだけアダム相手に大立ち回りして強さを示した地獄の支配者に、すげえ態度だな。

 確かにこの流れで回復アイテム以外が出てくると思わなかったけどォ……。

 

「君からの要望に応えて……このアヒルはなんと! 1680万色に光るぞ!」

「ワオ……」

 

 俺、そんな要望出してたっけな。でも確かに、一番見たかったのはゲーミングアヒルちゃんだ。

 そして直近で作ると言っていた水陸両用歌うアヒルちゃんは俺に一番に見せると言ってくれており、そのアヒルに俺が見たかったゲーミングアヒル仕様が追加されたということは……すっげえいいのでは?

 なにより俺のことを考えて作ってくれたというのがめちゃくちゃ、良い。俺は全力で喜ばなきゃ。

 

 俺は手のひらで目元を覆って、ゆっくり深呼吸した。痛い、死にそう、そういう気持ちと一緒に息を吐きだす。

 パッと手を離した瞬間には、俺は再び元気な俺に化けて、ひょいと身軽に立ち上がった。

 

「そんなにサイコーなものがあるなら今すぐ見なきゃ! この辺に水辺あったっけ、水陸両用の特性を活かすなら絶対水が必要だよ! 光るってんなら暗闇のほうが良いのかゲッホゴッホ、あ、俺の血で水たまり作れるかも」

 

 咳込んだ拍子に変化が解けた。こんなに変身が維持できないのなんて初めて。ヤベェ。

 腹と口からぼたぼた流れる血を手のひらですくい上げながら俺がそう言うと、チャーリーが崩れ落ちそうな俺の肩を支えて叫んだ。

 

「パパ! ゴーストに無理させないでッ!」

「すまない、元気になるかと思って……」

「元気になったよルシファー!」

「ただし空元気ね。それ以上無理するとほんとに死ぬよゴースト。大人しく横になってな」

 

 ヴァギーに足払いをかけられ、俺はすっころんだ。

 背中から地面にたたきつけられる前にヴァギーが俺を支え、お姫様抱っこにまでもっていかれた。

 すげえ強引に俺のこと横にならせたな……。弱っているので抵抗もできねえや。

 大人しくぐでんと体から力を抜いて、俺は嘆いた。

 

「えーん。俺だけズタボロになってて超だせえ。みんな弱い俺を嫌いにならないでね……」

「わかってるよ、ゴースト。みんなのこと庇ってくれたんだろ」

 

 エンジェルが眉をさげてそう言うので、俺は口をへの字にして返事をしなかった。

 バレていないつもりだったが、どっかで見られたか。

 

 天使って自分の武器を割に使い捨てするというのは以前からわかっていたことだったのに、持ってる槍を投擲してくるという可能性について考えてなかった。

 飛び道具があると実に厄介で、みんなの方に飛んでいかないようにすべてを弾くにも限界があったのだ。

 弾ききれなかった一発が腹にズドンである。

 すぐに腹に穴の開いていない別の姿に変身して誤魔化したつもりだったんだが。さすがエンジェル、よく見てるぜ。

 チェリー・ボムは俺の肩をとんとついた。

 

「前会ったときはタマなし野郎だと思ったけど、撤回するよ。アンタやるじゃん」

「そう言ってもらえて光栄だぜ」

 

 サー・ペンシャスを守り抜くことはできなかったが、ホテルは新しくなり、これからのことを考えていかなきゃいけない。

 ルシファーのアヒルちゃんはまた今度見せてもらおう。

 エクスターミネーションを乗り越えたのだから、これからも時間はたっぷりある。

 今日のことや、サー・ペンシャスについての曲も作りたい。そのために、まずは傷を癒さなければ。

 

「珍しく空元気が下手ですね、ゴースト」

「その言葉まんま君に返すぜ、アラスター」

 

 アラスターは器用に、笑ったまま嫌そうな顔をしてみせた。うるせえお前も手負いのくせに。

 俺は両目を閉じた。少し休むくらい構わないだろう。

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