「最近新しい曲が出ないってニュースでやってるけど、ゴーストも新しい曲つくってないの?」
「んあ?」
スマホを見ていたエンジェルが俺に尋ねた。
俺はホテルのロビーにあるソファに腰かけて、謎空間から取り出した三味線をべんべんと弾いた。
「俺は毎日曲作ってるぜ、それが生きがいだし。ただ売り出すって意味ならどこにも出してない。たまにホテルのみんなに聞かせたり、街の片隅で演奏したりすっけど、金が絡むとめんどくてさ〜。売れる=評価になっちゃって、いい曲が何かがどんどんわからなくなってくんだよね」
「それが嫌でV社辞めたの?」
「まァそれも理由の一つだな。なによりあそこで働いてると時間を作るのが難しくてね。忙しいのが好きな人にしか向かねえよ」
俺は忙しいのが……まあまあ好きなほうではあるんだけど……そもそもあそこに所属したのはヴォックスと仲良くなりたかったからだ。
喧嘩してるアラスターの方が仲良さそうだし、今はわざわざV社にいる必要もないと思っている。
エッギーズのひとりが俺に質問する。
「V社にいたってことは有名人の知り合いもいるんですか?」
「チームV以外にってこと? モデルのみんなとはよく喋ってたからそうだね。AV関係はあんま近寄ってないから知り合いそんなにいないかも」
俺はしょっちゅう変身する関係上、ひとの顔を覚えるのが得意だ。
一度見ただけで顔や体形くらい覚えられるようでなければ、化け狸は務まらないのである。
「わあすごい。さっきテレビに映ってた歌手のひとはどうですか?」
「見たことあるよ? あ、でも……俺が詳しく話すと幻滅するかもな」
「有名人の裏の顔ですか!? 知りたい知りたい!」
エッギーズがぴょこぴょこ興奮しだしたので、話してもいいか。
「V社所属の作曲家だの、自分で曲作ってるって言ってる歌手だのは、大体みんな顔がいいから選ばれてるだけのハリボテで、裏で別のやつが代わりに曲作ってんだよね。そんでその別の奴ってのはほぼ」
俺、と自分を指さしてみせる。
ほぼ、と言ったのは
音楽業界丸々手放すとの一緒だもんね。
俺がこんなに音楽をばらまいているのに、一向にこの業界が成長しないのはなぜなのか。
俺以外の作曲家が出てくるんじゃないかと期待して、しばらくこうして放置してみたのだが……駄目だったようである。
「じゃあ……最近曲が出ないのは、ゴーストが作ってないから、ってこと?」
「作ってねえっつうかヴォックスに渡してねえだけだな。さすがにうるさいからそろそろ適当な曲渡そうかな。そしたら世の中にもなんか出るでしょ、曲。他人を盾にして音楽世の中に出す方が目立ちすぎなくていい。称賛は聞こえないが批判も聞こえないからね。利害の一致、win-winってわけ」
「マジで? 自分が作った曲を他人のものだって言われて平気なの?」
俺は肩をすくめた。
「俺はゴースト・ライター。俺の作った音楽を聴いてもらえるのなら、俺が作ったことなど知られていなくて構わない」
そういう意味を込めて、俺はこの名前を名乗っている。
この地獄において、生前の名前を名乗っているやつは少ない。
俺もまだこの世界の勝手がわかっていないころから、一度たりとも本当の名前を言ったことはない。
真名が大事だってことは、日本人は必ず千と千尋の神隠しで勉強してるから……。
同じくヨモツヘグイを長いこと警戒していたが、そっちは空腹に耐えきれなくて割と早い段階で食べちゃった。
ち、ちひろも泣きながらおにぎり食ってたし……。
「ゴースト。あなたは他人の名前を借り、隠れ蓑にして生きている。その顔すらも他人の物なんでしょうか?」
アラスターが愉快そうに俺を煽ったので、俺もアラスターのように頬が裂けるような笑みを浮かべてやった。
「本当の顔を誰にも見せなかったら、本当の顔なんてないのと一緒だろ?」
息を飲んだみんなに対して、俺は先ほどのような獰猛な笑い顔ではなく、穏やかなにっこり笑顔をつくってみせた。
顔の横でダブルピースして、俺はかわいく言った。
「もちろん冗談で、この顔が俺の本当の顔だよ♡」
「そ、そうよね~?」
納得してくれたのはチャーリーだけだった。要らんこと言いやがってアラスターめ。