「よし、じゃあハスク。言い争いする?」
「忘れてなかったか……」
天使によってあけられた俺のどてっぱらの穴もおおよそふさがったので、俺はハスクに提案した。
エクスターミネーションの際、ちょっとした言い争いになったときのことである。そのときは天使を殺すのにお互い忙しかったので、言い争いを後回しにしたのだ。
その後俺がぶっ倒れたのでさらに後回しになったが、今がその時だ。
とはいっても、俺だってハスクと本気で喧嘩したいわけではない。
めちゃくちゃ険悪な雰囲気になって取り返しのつかないほど仲が険悪になったり、殺し合いになったりする前に誰かが止めてくれるだろうということで、ホテルのみんなのいる前で喧嘩をすることにした。
わだかまりは残しておくと後に響くからな! 早めにすっきりしておくべきだぜ!
ニフティが両手で口を覆いながら見ている中、俺はハスクに指を突き立てた。
「趣味悪い戦い方ってなにさ! 戦い自体したことないヤツに向かって失礼だぜ! そりゃハスクがトランプとかダイス投げるのはカッケーけど俺に真似できるかっつったら別の話だ! 動作の真似より難しいよ、同じ武器用意すんのは!」
「時間経ったことで随分論点がズレちゃいねえか」
そうだっただろうか。
だが俺が傷ついたのはハスクの「趣味悪い戦い方するな、お前」という発言である。
戦いすべてが素人のこの俺には、何が趣味の良い戦い方で、何が趣味の悪い戦い方なのかもわからないのである。てっきりハスクのような戦い方が趣味のいい戦い方で、それを真似てみやがれということかと思ったのだが。どうやら違ったらしい。
「でも趣味悪いって言ったじゃん!」
「カワイイ顔に似合わねえ戦法ってことだよ、俺が言いたかったのは」
「え~? 俺カワイイ~?」
「カワイイカワイイ」
俺はダブルピースをしてカワイイポーズをとってみせた。ハスクは非常におざなりにだが拍手をしてくれたので、俺の怒りゲージは一段階下がった。
「お前が思ってたよりずっとうまく戦えてたから驚いたんだよ」
「え~? 俺戦うのうまい~?」
「直前に阿呆みてえな本読んでたんだ。どんなとんでもないことしでかすかと思ったが、予想に反してお前自身も強かったし、攪乱はもっとうまかった。スパイとか向いてんじゃねえか」
「え~? えへへ、ええ~? そうかな~?」
スパイなんてかっこいい職業代表みたいなもんである。戦いを上手だと褒められたのは初めてだし、俺はすっかり上機嫌になって怒りゲージが三段階下がった。
だが俺の怒りはまだ完全に消火してないぜ!
俺がさらに言い連ねる前に、ハスクがなにか言いたげにした。
「お前は……いや、やっぱいい」
「言いかけてやめるのはなしだぜ。俺は君との間のしこりを取りに来たんだ。悪いことでもこの機会に言ってもらわにゃ困る」
「急に冷静じゃん」と呟いたエンジェルはポップコーンを食べている。
俺は怒るのが苦手なので、ここまでの喧嘩ではずっと怒る真似をしている。我慢するだけでなく、時には意見をぶつけあうことが円滑なコミュニケーションだって、チャーリーの授業で言ってたからだ。ハスクもそれを思い出したのか、ため息をついてから言った。
「お前はひとりじゃ生きていけねえって顔をしてやがる。だから俺もつい余計な口を出しちまうんだ」
「ひとりじゃ生きていけない顔を……?」
ぺたぺたと己の顔を触ってみるがなにもわからない。
文字が書いてあるわけではないはずなので比喩だろうが、その意味も理解できなかった。
「もっとはっきり言や、弱そう。騙しやすくて食い物にしやすそうな一番のカモって感じだ」
「そんなに褒めなくても」
「褒めてねえ」
おいしそうって褒め言葉じゃないのか……? ヴァルがそう言ってたような気が……ヴァルが言ってたなら意味違うか……そうだな……。
「実際がどうかは知らねえが、相手に自分がいなきゃダメだって思わせる魔性だよ、お前は。現に見てみろ」
ハスクが指を指した先にはチャーリーがいた。
「えっ、私?」
「だってさ、チャーリー。いつもゴーストのママみたいに心配してるもんね」
「お前もな、エンジェル」
「俺も⁉」
ハスクに言われたチャーリーとエンジェルは、それぞれ反論を始めた。
「確かに……? でもゴーストったら街の怪しい勧誘にすぐついていこうとするんだもの! 危なくて手を繋いでなきゃ一緒に街を歩けないわ!」
「誰がママだって⁉ ゴーストがやたらヤバいやつに絡まれるから間に入ってるだけで、面倒見てるわけじゃない!」
チャーリーとエンジェルはお互いの発言を聞いて、顔を見合わせた。
「それを面倒見てるっていうんじゃない?」
「手繋ぐのはやりすぎだろ、チャーリー。俺と違って二本しか腕がないってのに」
ハスクは酒を煽り、俺を指さして一言。
「魔性」
「……まあ俺悪魔だから……?」
魔性って悪魔の性質ってことよな……?
俺が悪魔だからハスクやみんなは俺にいろいろ言いたくなってしまう……? どゆこと?
よくわからなかったのでこれは宿題にしよう。
他の悪魔にも聞いてみようかな。俺の顔を見て、ハスクはもう一度ため息をついた。
「これも結局はお節介だ。お前はそのまんまでもうまくやるだろうよ」
「そんなに褒めなくてもォ……」
「ああ、褒めてるぜ」
俺はにっこり笑って、褒め言葉を受け取った。
最初から怒ったフリなので、怒りゲージなどなかったようなものだが、ギリギリまだ怒るフリができるくらいにはゲージが残っている。
まだ俺にはハスクに言い切っていないことがあるのだ。もう一度怒った表情を顔に張り付けて、俺は両手を腰につけてでっかい声を出した。
「でもハスクは俺のことだけ飲み友達って思ってないんだ! 俺は酒飲めないから友達の中でも一段階低いんだ~! うえ~ん!」
俺が顔を覆って泣くと、チャーリーの息をのむ声が聞こえる。
ついでにヴァギーに「あれ大丈夫かしら!? 仲裁に入ったほうがいい⁉」と聞いているのも聞こえる。
ヴァギーの代わりに、ハスクが手をしっしと振ることで答えた。
「ゴースト、酒の飲めない飲み友達っつーのは貴重だぜ」
ヴァギーが「飲んでないのに飲み友達なの……?」と呟いた。ハスクが肩をすくめて「その場にいて水でも飲んでりゃ飲み友達だろ」と言い返す。
そうなのぉ? じゃあ俺も飲み友達ってことでいいのか?
「酒を飲まねえなら酔いつぶれた時介抱する面倒はない。逆に自分がつぶれたときにゃ介抱してもらえる。素面のヤツと飲むとき問題になるのは、酒飲んでない方が飲んでるやつのテンションについてこれるかっつーことだが、その点ゴースト、お前はいつだってハイテンションだ」
「そうだな。俺は落ち込んだ時でも多弁だぜ!」
「だからお前は理想の飲み友達だ」
きゅーん。
俺はハスクの言葉にメロメロになってしまった。怒りゲージは爆散し、代わりにハスクへのメロメロゲージができた。
「愛してるぜ、ハスカー!」
思わず抱きつきそうになってしまったが、ハスクは飲みかけの酒瓶を持っていたので、抱き着いた勢いでこぼれてしまうとまずい。
ひとまず謎空間から酒瓶を三本取り出してカウンターにトントントンッとリズムよく置いた。
これはハスクとマジ喧嘩になってしまった場合の仲直り用に用意しておいた安酒だ。あと九十七本ある。
「君のために酒蔵を建てたい気分だ!」
「そんな時間があるなら俺と飲んでくれ」
ハスクは俺が置いた酒瓶を開けながら、しれっとそう言った。メロメロゲージが十段階上がった。俺はときめきのあまり胸を押さえた。
「……もちろん! 君のためなら、苦手な酒だって飲めそうだ」
「どうせ吐くからやめとけ」
「吐いても友達やめないでね」
「ンなことでやめるなら、エンジェルとはもう友達じゃねえな」
「ちょっとハスク⁉ 内緒だって言ったじゃん!」
エンジェルがハスクにつかみかかり、ハスクは笑いながら酒を飲み、ヴァギーが胸をなでおろし、チャーリーがキラキラなお目目で微笑み、ニフティはゴキブリを殺し、サー・ペンシャスの遺影は偉大に佇んでいた。
同じ穴の狸 | 九条空のBOOTH #booth_pm
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追加1万字ほど書き下ろした同人誌なので良かったらドゾ
2期たのしみ〜