結局、俺のすぐ後にやってきたサー・ペンシャスという蛇の悪魔は、V社、ヴォックスのスパイだったというわけである。
ヴォックスのスペルはvoxだ。ラテン語にして音という意味であり、決して箱の方のboxではない。頭はテレビらしく箱状だけど。
このハズビンホテルに、ヴォックスが固執するほどのなにかがあるようには思えなかったが、まさか俺のせいではあるまいな。
V社所属、ヴァレンティノのお気に入り、という意味ではエンジェルの方がまだスパイされる可能性ありそう。
サー・ペンシャスはスパイであることがエンジェルにバレて、観念して楽に殺してくれと頼んだが、チャーリーは「謝ればいいのよ」と言って――正確には歌って――すべてを許した。
さて円満解決、みんなもう一度寝ましょう、と解散になった後、俺とアラスターだけがその場に残った。
というのも、サー・ペンシャスが使っていた通話機器が、まだ生きてこの場に残っているので。
アラスターと一緒になって、小さい画面の中にいるヴォックスを眺めた。
「どうしてそこにいるんだ、ゴーストッ!」
「な~に~、いつの間に俺の彼氏になったのヴォックス。俺がどこにいようが関係ないだろ?」
「最終的に私のところに戻ってくるのならどこにいようが関係ない。しかし、そのクソ・ラジオ・デーモンの隣だけは許さん!」
俺は隣のアラスターを見上げた。彼もにっこりと――彼はにっこりしていない時がないが――俺を見返してくる。
「ヴォックスの彼氏なのはアラスターの方だった?」
「ハァーッハッハッハ! 面白い冗談ですが、二度目は言えないようにしないといけませんね」
なんかアラスターがめっちゃ怖い。ごめんて。
二度目を言ったらきちんと葬られそうだったので、言わないことにする。俺も命は惜しい。
アラスターだったら悪魔を本当に殺す方法くらい知っていそうなんだもの。
「なんだよヴォックス、アラスターと知り合いだったの? 今までに一度も話題に出したことないじゃん、こんなイカす悪魔がいるなら教えてくれよ。てか俺よりよっぽど番組向きじゃん、俺の番組作りたがるよりアラスターをスカウトしなよ」
「こいつはオワコンだ! ラジオなんて世代遅れ!」
「ワーオ。ヴォックスがこんなに嫉妬を丸出しにしてるとこ初めて見た」
「嫉妬だと!? そんなわけがあるか!」
嫉妬というか、対抗意識というか。
なるほどね、俺も彼に協力するという方針じゃなくて、彼より面白い番組作って会社ぶっ壊してやる勢いでやってやったほうが仲良くなれたのかもしれない。
「とにかく戻ってこい、ゴースト。一度話そう」
「もう話したじゃん。大丈夫大丈夫、俺程度のクソ曲つくれる悪魔なんかコロコロ死んで地獄にやって来てるって、新しいの探しな~」
「君ほどの作曲家はいない、ゴースト・ライター!」
ここで俺の才能じゃなくて友情に訴えること言ってくれねえんだよな、これは俺が悪いのか?
俺はできる限り自分のことをヴォックスに伝えているつもりだが――ビジネスライクなのは嫌いだとか、俺と君は友達なんだよとか、そういうのでは全然足りなかったということだろうか。
俺はため息ついて、隣のアラスターに聞いた。
「でもテレビ見てていいなって思う曲流れたことないだろ?」
「ありませんね」
このラジオの悪魔、素直である。だから気に入った。
「じゃあ俺に才能なんかないぜ~。これから頑張って勉強して新しい曲作るんだ~。次の虐殺(エクスターミネーション)までもう半年もないんだから急がないとな」
でも俺歌えないからな、ボカロ開発でもしようかな。まあインスト曲でもいいや、なんでもいいから時間かけて納得いく曲が作りたい。今までヴォックスのために書いてきた、どっかのコピー曲みたいなのではなく。
「じゃなヴォックス、お前も頑張れ~」
俺はばいばいと手を振ってから、腕時計型の通話装置を踏みつぶして壊した。
「許さんぞ、アラスタァーッ!」
通信の途切れた先で、ヴォックスは頭を抱えて叫んだ。
ここまでで原作2話