同じ穴の狸   作:九条空

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狸につままれる

 ホテルの自室から飛び出した俺は、バーに駆け込んだ。

 

「無理すぎる~! ハスク、超うっすい酒くれ~!!」

 

 俺は酒に非常に弱いので、基本的に飲まない。

 飲んだら速攻で顔が真っ赤になってすぐ吐く。酔っぱらう以前のお話である。

 

「ハァイ、ゴースト。良い夜だね」

「俺にとっては最悪の夜だけど君は今日も変わらず最高だよエンジェル」

 

 俺がえっちさに怯えず、普通にあいさつしたのでエンジェルは驚いたようだ。

 すまんが気分が落ち込みすぎて性的な興奮に余裕を割けない。

 俺の自慢のしっぽも垂れ下がっている。エンジェルの隣に座って、俺はため息をついた。

 

「アンタが飲みに来るなんて初めてじゃねえか」

 

 ハスクがグラスにカクテルをつくって出してくれる。

 なんだか緑色の液体で、酒に詳しくない俺はそれが何かわからない。

 一口ちみりとなめてみると、甘くてすっぱくて炭酸だった。

 俺はグラスをテーブルに置いて、頭をめちゃくちゃにかきむしった。

 

「いい曲が全く作れない、時間さえあれば作れると勝手に思ってたけど全然そんなことねえや、俺って才能がなさすぎる、うわぁ~!」

 

 顔を覆って天を仰いだ。

 あまりにのけぞったので、バーの椅子から転がり落ちたが、そんなことはどうでもよかった。

 右足だけを椅子にのっけて、床に転がったまま叫んだ。

 

「今になって超絶クソ曲でも褒めてくれるヴォックスが恋しいよ~! いやだ~!」

 

 ヴォックスを俺に依存させたかったのに、これでは俺がヴォックスに依存している。そんなのいやすぎる。

 エンジェルが長い足を組みなおして俺を見下ろす。

 

「今まではどういう風に曲作ってたの?」

「そりゃ適当。感覚。思いついたのそのまんま出力。しいて言うならヴォックスが気に入りそうな超絶センスのない曲を作ろうという気持ちはあった。あとは一般受けだな。このクソ地獄における一般人ってマジ最悪の趣味してるから一番センスのない曲を作ろうと思って書いてた。そのほうが売れるっぽい、まあどんだけ売れようが俺には関係ないんだけど」

 

 どれだけクソ曲を量産しようが、己の才能のなさを嘆かなかったのは、そうしてやろうと思って作っていたからだ。

 クソ曲が売れるからクソ曲を作っていたのだ、仕方なく。楽しくもなく。

 今はいい曲を、自分の気にいる曲を作ろうと努力しているにもかかわらず、今までの癖なのか、クソ曲しか作れない。もうだめぽ。

 

「そもそも自分のために曲作ってんのがダメなのかもしんねえ。そうだよな、今まではそうだ、ヴォックスのために書いてたんだ! それを別の人――俺に変えて書いてたけど、やっぱ俺ってクソだから俺のために書いてもクソ曲にしかなんねえ、もっと別のサイコーなやつをモチーフに曲作ればいいんだな!? えっと、今までといっちばん趣向を変えるなら――チャーリー! チャーリーのために書き下ろそう、地獄のプリンセス、場違いな性善説のかわいこちゃん、そうなったらめちゃくちゃアイディア沸いてきた、夢希望ふわふわなわんちゃん綿菓子素敵なものいっぱいのラブソングが書けるぜ! っしゃあ忙しくなってきた、じゃあなエンジェル、ハスク、相談相手になってくれてありがと!」

 

 俺は飛び起きて、ハスクが出してきたグラスの中身を一息で空にした。

 エンジェルとハスクにぶんぶん手としっぽを振って、バーから去った。

 ああ忙しい忙しい、次から次に音符が目に浮かぶ、それから歌詞、ひゅう! やること山積み! サイコー!

 

 残されたエンジェルは空のグラスを眺めて、ハスクに尋ねた。

 

「……どんな魔法のカクテル作ったの? ドラッグ入り?」

「ドラッグどころかアルコールさえ一滴も入れてねえ」

「ワーオ」

 

 つまりゴーストはずっと素面であった。

 ハスクは普段通りの不機嫌そうな顔で、安酒の瓶を煽った。

 

「あいつみてえな人生なら酒が必要ねえんだろうな」

「だね」

 

 2人は目線を合わせると、グラスと酒瓶を合わせて小さく乾杯した。




二日酔いでゲロ吐きそうになりながら書いた
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