同じ穴の狸   作:九条空

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百合の間に挟まる狸

 俺は作った曲をみんなの前で、チャーリーに聴かせた。

 ギターよりはピアノの方がまだできるので、電子ピアノで伴奏しながら高らかにチャーリーのための夢と希望と愛が詰まった曲を歌い上げた。

 

「どう!?」

 

 チャーリーはお目目にキラキラとしたお星さまをたくさん浮かべ、口の前で両手をグーにしている。

 ぷるぷる震えたかと思うと、感極まったように俺に抱き着いてきた。

 

「最高よ! ゴースト、あなたって天才! 今まで聞いてきたどんな曲よりもいいわ!」

「やったぜ! っしゃあ! 自信取り戻すわァ! オラァーッ!」

 

 俺は嬉しさのあまりチャーリーを持ち上げてぐるんと一周回してみせた。

 俺よりチャーリーの方が圧倒的に高身長だが、チャーリーはプリンセスでりんご1つ分の体重しかないので余裕だ。

 実際どのくらいの重さかよくわからん。悪魔になって力持ちになったから大体のもの持てるし。

 

「……あー、ちょっといい?」

 

 俺とチャーリーがさっきの曲の細かいポイントについて話し合っていると、エンジェルがちょっと引いた感じの顔で挙手した。

 

「今のラブソング?」

「そうだが?」

「つまり、ゴーストはチャーリーが好き?」

 

 俺はとんでもないことを聞かれたと思って、ぽかんとした。

 チャーリーもぽかんとして、俺を見た。俺たちは目線を合わせた後、同時に頷いた。

 

「大好きだぜ! 超仲良しだと思ってる、会ったばっかとか野暮なこと言うなよ。波長が合うし話してて楽しいんだ」

「ゴースト、私もあなたのこと大好きよ!」

「そうじゃなくて」

 

 むすっとした顔で腕を組んだヴァギーが遮る。

 

「愛してるのかって聞いてるのよ」

「友達として愛してるぜ。夢も応援してる」

「じゃあさっきの曲は何!?」

 

 俺は再びぽかんとして、ヴァギーを見た。

 

「気に入らんかった?」

「気に入るとかじゃなくて、チャーリーのために作った愛の歌でしょ!? つまり愛の告白ってこと!」

「ヴァギー、君曲作ったことないのか?」

「ないわよ!」

「おおん、もったいない。好きな子のために曲をつくるのはいい文化だぜ、やってやれよヴァギー、きっとチャーリーも喜ぶし。俺はこの曲をチャーリーのために書き下ろしたし、チャーリーという素晴らしい女性を曲で表現するために歌詞に夢や希望、ビッグ・ラブのすべてを詰め込んだ。結果的に俺がチャーリーに愛の告白をしているか? それはノー。小説やコミックくらい読んだことあるだろ、それと同じで書いてあることがすべて真実とは限らない。しいて言うならチャーリーと付き合ったときのことは考えたけど。そういう意味だったらこれはヴァギーも想像して書いた曲だな。だってチャーリーがヴァギー以外と付き合ってるところなんか想像できないし」

 

 最後まで言ったらヴァギーが頭抱えた。

 チャーリーはちょっと照れているのか、ほっぺに手を当てて上品に微笑んでいる。かわいい。

 

「もういいわ、わかったわよ」

「……これもしかして嫉妬、いや俺がお邪魔虫、当て馬ポジションになってた!? やば、マジ無自覚だったぜ、俺失礼なことしてた!? デリカシーのねえクソ野郎だった!? 死んだほうが良い!?」

「そんなことないから落ち着きな」

 

 チャーリーとヴァギーの仲良し2人が好きなので、俺が百合の間に挟まる男になっていたら死ぬしかないんだが……?

 俺がつい反射でハラキリしようと取り出したナイフをヴァギーが叩き落した。

 

「なんですぐ腹切ろうとするのよ」

「いやごめん、日本人って責任取ってすぐ腹切って死ぬ癖があって。この地獄じゃ本当には死ねないから腹切っても意味ねえんだよな、別の方法考えるわ」

「日本ってそんな地獄みたいな感じなんだ」

 

 エンジェルは日本をあまり知らないのだろう。マジでそうだと思われそうなので訂正しておく。

 

「地獄よりいいとこだって。どっちかっつったら天国寄りじゃね? ルールは多いし秩序はしっかりしてるぜ。腹切って死ぬときも一回横に切れ、いや十字に切れ、いや三回横だ、とか流行りあるし」

「そのあと死ぬのに?」

「そのあと死ぬのに。死より大事なもんが多い国だからね」

 

 いかん、切腹の文化について説明したら余計に誤解を招くかもしれん。

 俺は十文字に切った後内臓を投げ捨てるのが好き。もうすぐ死ぬのに元気すぎるだろ感がある。まあだから、この地獄じゃ本当には死ねないんだけど。

 別に文化について間違った話しててもいいか。死んでるからもう日本には行けないし。この地獄からどこかにいけるとしても天国だ。天国か地獄に切腹で死んだやつがいるかもしれんけど、いたらそいつに文化の説明してもらえばいいな。

 

「地獄のやつらのために書き下ろしたいくつもの曲よりずっといいもんできた。ってことは俺地獄向いてねえのかな。天国の方がいい曲ありそう、だってチャーリーって天国向きの性格してるもんな? あー、そう考えると天国行きたくなってきた! いい子になるか! ちょっと重そうな荷物持ってるおばあちゃんでも助けてこようかな」

 

 善行、善行って難しいんだよな。

 良いことを誰かにしてあげようと思っても、この地獄じゃ悪行でカウンターアタックされる場合が多い。

 財布拾ってあげたら、財布を囮にした肘鉄が襲ってくるとか当たり前である。

 相手も落とした財布を返してもらえると思っていないから、財布を拾われてしまったら奪われる前に相手を叩きのめして取り返す、という思考になるのであった。むずいよ、地獄での善行は。

 

「提案なんだけど、ゴースト。ここにいるみんなの曲をつくったらどうかしら? 私がこんなに嬉しいんだから、みんなだって嬉しいはずよ!」

「悪くない考えだな、さすがチャーリーだぜ。ん~、じゃあヴァギーの曲つくろうか? そんでヴァギーが歌ったら完璧じゃね?」

「私を巻き込まないでくれる?」

「ヴァギー……それって最高のアイディアじゃない!?」

「あ~~~もう……」

 

 ヴァギーは苦々しい顔をした。

 チャーリーのキラキラした顔見たら断りにくいもんな。俺はヴァギーのそういうとこが好き。

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