同じ穴の狸   作:九条空

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狸の腹鼓

「今日はみんなの得意なことを聞きましょう!」

 

 天国に行くためのレッスンとして、チャーリーはいろんな授業を用意してくれる。

 俺はできるだけ真面目に受けるようにしているが、勉強は得意でないのでできているかちょっと不安。

 

「サー・ペンシャス、あなたの得意なことは何?」

「発明ですね!」

「おお~」

 

 俺は発明という内容よりも、即座に得意なことと言われて何かを言えるということに感心した。

 急いで自分の得意なことを考えるが――えーと、うーんと、あ~。

 

「エンジェルは?」

「そりゃもう、セックス♡」

「あ~……うふふ。ハスク?」

「ねえ」

 

 言い切った。いっそ潔い。

 

「はいはい! 私は掃除が得意!」

「そうねニフティ! ゴーストは?」

「はい! 俺は腹からいい音鳴るぜ!」

 

 ぽん! とおなかを叩いてみせる。めちゃくちゃ小気味いい音が鳴った。

 

「どうよ!」

「えーっと……すごいわ!」

 

 なんでも褒めてくれるチャーリーだ。そういうところが好き。

 

「お前、特技なら他にあるだろ」

 

 ハスクにそう言われたが――な~んも心当たりがない。

 はにゃ? という顔で首を傾げると、ハスクは呆れ果てた様子で言った。

 

「化けれんだろ、なんにでも」

「こんなの特技って言えねえだろ」

 

 返事代わりにハスクに変身して、無造作に瓶を呷ってみせる。中身は水だ。俺は下戸なので。

 ハスクになった俺を見て、エンジェルは愕然とした。

 

「うっそでしょ、ゴースト! そんなことできたの!?」

「気づいてなかったのかよ。こいつ、テメーらの自撮りによっぽど写りたくねえのか、カメラ向けられるたびにホテルの誰かになってるだろ」

 

 うーん、そういうハスクは俺のことをよく見ている。

 俺は写真に撮られると魂が抜かれる、とはまったく思っていないが、自分の姿をなにかに残すのは嫌いだ。

 それも自分の写真が他人のスマホに保存されてると思ったらぞっとするね。オタクってみんなそうでしょ。

 

「だって有名なエンジェルのSNSに写り込んだら目立つし、チャーリーとヴァギーはハズビンホテルの公式SNSやってるから写ったら目立つし」

「随分目立つのがお嫌いなんですね」

「うおびっくりしたアラスター、君とびきりいい声してるんだから後ろから急に話しかけないでくれよ、ドキドキするだろ」

 

 胸を押さえて深呼吸する。良い声過ぎる。

 

「日本人はみんな目立つの苦手~。社会の歯車大歓迎~没個性万歳~匿名大好き~なのだ。文化の違いだって」

「だからあなたほど力のある悪魔が全くの無名のままなんですかねえ」

「え? あはは、力なんかないって」

 

 とはいっても、俺は喧嘩が嫌いだから誰かと腕を比べたことなんかないな。

 実は俺が知らないだけで強かったりするのか?

 昔ヴォックスと腕相撲したときは俺が勝ったけど。腕細いし力も弱いわ。つかあいつはヴェルヴェットにも負けていた。

 あるいは勝たせてあげたのかな。たまに紳士のフリするし。

 

 エンジェルは俺の腕を掴んで、興奮したように聞いてくる。

 

「ねえゴースト。その変身ってどのくらい本物に近いの?」

「ごめん、見えないとこは想像だから内臓の類は再現できてねえっす」

「じゃあ穴は新品ってこと!? 超興奮するね!」

「まず俺が処女の前提で草、あってるけど」

 

 この変身能力に目を付けたヴァルにめちゃくちゃスカウトされたけど全部蹴った。

 彼がやりたいのってAVの撮影だから俺には向いていない。

 俺は貞操観念がしっかりしている方だ。ヴァルに比べたら全員が貞淑ってことになるけどな。

 

「役に立つことはたくさんあるね。エンジェルに化けたらモテモテだし、サー・ペンシャスに化けたらたまごにモテモテ」

 

 エンジェルに、のところでエンジェルに化けてウインクし、サー・ペンシャスに、のところで彼に化けて胸を張ってみせる。

 自分に化けられたエンジェルは面白そうにしてくれたが、サー・ペンシャスはオエという顔をしている。

 たぶんエンジェルがイレギュラーで、サー・ペンシャスのリアクションが普通のような気がするな。

 無許可で自分のコピーを作られて気分のいいやつはあんまりいない。

 

「地獄の権力者に化けて世の中攪乱するとかも余裕だろうね。ヴォックスくんに野心がなくてよかったぜ、友達だからやってって言われたらやっちゃうかもしれん、俺は」

「これはこれは」

 

 ゼスティアルに化けて一礼してみせる。ウケたのはアラスターだけだったので、選ぶ悪魔ミスったかも。

 ちなみに、エクスターミネーションが行われているとき、俺はもっぱら天使に化けている。

 よく見たらバレるんだろうが、これが意外にバレないのだ。

 適当に悪魔を虐殺するフリだけして、己が天使に殺されないように立ち回っている。

 

「ゴースト! それは胸を張って特技だと言っていいことだわ!」

「でも俺この能力あんま好かんのよね」

 

 俺が元の自分に戻ると、チャーリーが例によって褒めてくれるが、俺はため息をついた。

 使えるから使っているが、ここに俺のアイデンティティがあるかと言えばノーだ。

 

「何にでもなれるということは何にもなれないことだ。そうありたい自分を偽り続けてはいずれ自らを見失うだろう。俺は俺が一番好きだから、俺であり続けている」

 

 俺はそう言って――頭を掻きむしった。

 

「良い歌詞になりそうと思ったけど陳腐でカス! 俺ってホンマにセンスがない! ああ~無理~!!」

「ゴースト、すっごくいいこと言ってたわよ! どうして急に自信がなくなっちゃうの!?」

 

 自己肯定感の高い日本人なんて存在しねえんだよ~!!!!!




ここまでサブタイをない格言にしておきながら、急にある格言にすることでより混乱させていく
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